第二部 その9
この作品は、黒森 冬炎様主催の『ソフトクリーム&ロボ~螺旋企画~』への参加作品です。
第二部が10話あり、4/11中に10話すべて投稿する予定です。
第三部は4/15以降に投稿する予定です。
「はぁっ? お前もメンバーに入ってるだと!」
いつの間に用意していたのか、6番の背番号がついたユニフォームを着て、にやにやしている逸希を、風太がカンカンになってどなりつけた。
「なにやってんだよお前! お前が出たら、江上の森球場の……」
他のメンバーもいることを思い出して、すんでのところで風太は口をふさぐ。代わりに逸希をねめつけるが、逸希はどこ吹く風だ。
「だって風太先輩、いったじゃんか。メンバー表はぼくが全部書いて出していいって。人選もポジションも全部任せるって」
「それは、お前が一番部員のことをわかってるからで……」
風太は口ごもってしまった。そうだ、逸希ほどこの部活のメンバーたちのことをわかっている人間はいなかった。そして、その人望も……。
「だいたいさ、ぼくはこれまでみんなのためにマネージャーの仕事も、打撃投手の仕事も、それに練習メニューの調整も、全部やってきたでしょ。少しぐらいごほうびがあってもいいじゃないの」
「だが、それは、真琴との約束が……」
「みんなもぼくといっしょに試合したいよね?」
他の部員たちに、逸希が笑顔を振りまき聞く。「うぉぉっ!」と歓声が上がるのを聞き、風太はぎゅっとくちびるをかみしめた。
「そうか、お前、このためにみんなに取り入って」
「取り入るなんて、そんなひどいいいかたしないでよ。本当はね、無理やりにでも部活を乗っ取って、ぼくの都合のいいチームにしたってよかったんだよ。だけどそれじゃあ、匠キャプテンが悲しむと思ったから、これまでおとなしくしてたんだ。でも、最後ぐらいはぼくも試合したいよ!」
「お前……」
真琴がいっていたことを、唐突に風太は思い出した。
――逸希の願いは、与えられたいつわりの性別を覆すことだ。だが、もしそれを認めて、試合に出してしまえば――
悩む風太に業を煮やしたのか、逸希は匠のほうをふりかえった。
「匠キャプテン、お願いだよ! ぼく、キャプテンたちの迷惑になるようなことはしないよ。足も引っ張らないから、だから、お願いだよ、ぼくも試合に出させてよ」
熱を入れて頼みこむ逸希だったが、風太はその下の心が透けて見えた。
――こいつ、タクさんと仲良くしてたのも、それが狙いだったんだな――
それこそ匠にさえ取り入れば、風太がいくら反対しても、どうしようもないだろう。逸希はそれがわかっているのだ。だが、匠の反応は意外なものだった。
「ダメだ。逸希はメンバーに加えることはできない」
「そんなっ!」
当てが外れたのか、ぱっちりした目を大きく見開き、愕然とした表情になる逸希。しかし、匠は静かにつけくわえた。
「……今のままじゃ、ダメだ。メンバー表は訂正しないが、君を試合に出すことも、ベンチ入りさせることもできない」
「どうして、キャプテン? ……やっぱり、ぼくのこと怒ってるの?」
恐る恐る匠の顔をのぞきこむ。逸希の表情は、もはやかけひきなどのようなたくらみは消えて、本心から匠に嫌われたくないと思っているように見えた。匠もそれをわかっているからだろう、しっかりと逸希を見すえて首を横に振った。
「怒ってるからじゃない。逸希を信じているからだ」
「ぼくを、信じてる?」
「そうだ。君は弟君から、絶対に試合に出ないようにいわれていただろう? 弟君とは、おれたちも君を試合に出さないという条件で、マネージャーにしたんだ」
「それを破ったから、匠キャプテンはぼくを試合に出してくれないっていうの?」
「違う。おれは逸希が、そんなわだかまりを持ったまま、試合に出てほしくないんだ。……君を試合に出す条件は、弟君と君がしっかり話をして、そして説得することだ」
これには逸希はめんくらってしまったようで、ぷるんとしたくちびるをぎゅっとかみしめ、キッと匠をにらみあげる。
「……そんなこと、もしできてるならこんなまどろっこしいことしないよ! あいつは、真琴ちゃんはぼくのわがままなんて絶対きいてくれないよ!」
「そうだな、逸希が『わがまま』だなんて思っているなら、きっと弟君も納得はしてくれないと思うよ」
「だけど!」
「いいかい? 逸希はおれたちといっしょに戦いたいんだろう? 試合をしたいんだろう? なのにどうして、それを『わがまま』だなんて思うんだ? その思いが本当なら、それをしっかりぶつけてこいよ! 弟君に勝てないような、その程度の熱意だったら、おれたちはいらない。それこそ、そんな逸希は足手まといにしかならない。……試合に勝つ前に、まずは弟君に、そして自分に勝ってこいよ」
匠は口を真一文字に結んで、腕を組んだまままっすぐに逸希を見つめた。逸希はしばらく固まっていたが、耐え切れなくなったのだろう、「うわぁぁぁっ!」と叫んでグラウンドから逃げていった
「おい、逸希!」
「風太、追うな! ……逸希には酷かもしれないが、弟君とのわだかまりは、あいつにしか乗り越えられないんだ。おれたちにはどうすることもできない」
「でもよ……」
「お前は信じられないのか? チームメイトが、仲間が、試練に打ち勝って戻ってくるって」
風太は匠の目をしっかり見つめた。わずかにうるんでいるように見えたが、それは光のいたずらだったのかもしれない。匠は毅然とした態度で部員たちに告げた。
「逸希ちゃんのことについては、今いった通りだ。みんなには黙っていたけど、おれたちは逸希ちゃんの弟君に、部員として試合には出さないようにいわれていたんだ。……だから、逸希ちゃんは試合には出さない。しっかり弟君と話して、納得できる答えを持ってこないかぎりな」
顔を見合わせる部員たちだったが、すぐにあちこちから拍手がわき起こった。拍手はグラウンド中にひびき、匠は引き締まった顔つきで部員たちを見まわすのだった。
逸希が部活に来なくなったとはいえ、風太たちの江上西高校は、順調にこまを進めていった。部員たちは、最初こそ一抹のさびしさを覚えていたが、それも勝ちあがるにつれてどんどん興奮に押し流されていった。それもそのはず、風太のスパイラルボールがすごすぎるのだ。市内大会のバッターは、ほとんどバットにかすらせることすらできずに三振になる。そして市内大会決勝を、ノーヒットノーランで終えると、江上西高校の名は一気に県内全域に知れ渡っていた。
「県大会になれば、さらに厳しい戦いが待っているだろう。相手ピッチャーの球速も上がってくるだろうし、変化球もいい球を投げてくると思う。それに風太のスパイラルボールだって、打つ打者も出てくるだろう。ここからが正念場だ!」
匠がげきを飛ばしたからだろうか、みんなの目の色が変わっていた。打者はなんとかしてボールに食らいつこうとし、そして匠の前にランナーを貯められるようにねばりにねばる。匠は紫色の光を宿す目で、ボールを完ぺきにとらえ、時にはスタンドまで運ぶようになっていた。しかし、なにより大きかったのは、匠の一言だろう。
「……逸希ちゃんが試練に打ち勝って帰ってきたとき、おれたちが負けていたらなんていうと思う? どんな顔をすると思う?」
すでにチームは、完全に一つになっていた。逸希のために勝ち続ける。そして江上西高校は、下馬評を覆し、県大会決勝までこまを進めた。そして――
その10は本日4/11の20:40ごろに投稿予定です。




