6話 異世界の錬金術師(美少女)
「じゃあ何かい?嬢ちゃんは、今回のトレント騒ぎは毒持ちの新種の仕業だって言いたいのかい?」
「断言は出来ない。でも、状況から見て、まず間違いないと思う」
「……先程ナナサキ様と本体を確認した際、通常のトレントとは明らかに異なる点をいくつか確認しました、私はモンスターの生態には詳しくはないので確証はありませんが、やはり新種の可能性が高いと思われます」
「おいおいマジかよ!そりゃ厄介だぞ」
辺りに暗い雰囲気が立ち込める。なんで新種だと『厄介』なんだ?どうやら分かってないのは自分だけらしい。
「ナナサキ様、モンスター討伐には『セオリー』というものがあるのですよ」
「もっと具体的に言えば『行動パターン』って奴だな。例えばジャイアント・ボアなら首を1メートル以上持ち上げると、必ず毒液を吐いてくるとか、アダマンタイト・ロックタートルは噛みつきの前に首を引っ込めるとかな。
そういう種族毎にある決まった癖みたいなものを利用して、戦いを有利に進めるんだ」
「新種だとそれが使えない?」
「ま、そういう事だな。実際には殆ど変わらないらしいが、何が違うか判らない以上、戦いの間ずっと意識を割かれる事になる」
なるほど、要するに新規モーションの相手は戦い辛いという事か。多分ルミナス様の采配なんだろうけど、流石ゲーマーだな。
それよりも……
「どうしたんですか?そんなにニヤニヤして、締まりのない顔がさらに緩んでますよ?」
ほっとけ!
「いや、何も言わなくてもミラさんがフォローして下さったので、嬉しかっただけですよ。
最初はもっとギスギスしていたので、少しは心を開いてくれたのかなぁ、と」
「んなっ!」
ミラさんがわかりやすく顔を真っ赤ににして、硬直してしまった。ふふふ、勝ったな。
まぁ、嬉しかったのは本当だけどね。
「……貴方は?」
いつの間にか錬金術師のセレナさんがこちらを見つめていた。クリクリとしたライムグリーンの目が本当に可愛いな!
「ぼぼぼ僕はははは」
「いや、落ち着けよ少年」
「彼はナナサキ様といって、旅の錬金術師ですよ。私も危ない所を救って頂きました」
「ッ‼︎、それ本当!」
さっきまで空気だったヨルンさん!ナイスフォロー!
そして詰め寄ってきたセレナさん!ちちち近いです!めっちゃ顔が近いです!
ほわぁぁ、何だか良い匂いがするよぉ
セレナたんハアハア
「ど、どうも。ナナサキ・イチロと言います。錬金術を修めているといっても独学なので無垢ポーションを作るのが精一杯ですけどね。申し訳無いですが」
「そう……」
ああ、セレナさん、露骨にがっかりしてしまった。
「でも、無垢ポーションだけでも有難い。あの、こんな事を言うべきじゃないかもしれないけど……」
ん?この子は何を迷っているんだ?
「無垢ポーションを少し分けて頂けますか?」
「? ええ、いいですよ?」
なんだよ、そんな事かよ。
もっと大胆な告白(例えば、結婚して下さい!とか)言われると思って身構えちゃったよ。
「本当!!いいの⁉︎」
だから近いって!
でもセレナさんの喜び方が尋常じゃないんだが。
何故に?無垢ポって、ただのヨモギ草の煮汁だよな?
教えてミラえもーん。
「……ナナサキ様、無垢のポーションは錬金術師なら誰でも作れるので価値は低いですが、それでも貴重な試薬を使う上に、調合には数週間はかかります。
簡単に他人にあげるようなものでは無いのですよ?」
「それと錬金術師には等価交換の原則があるから、対価を求めるのが普通だな。価値を決めるのは売る側だから、こういう非常時はどこまでも対価を吊り上げられるぜ」
なるほど、無垢ポーションは物としては貴重だけど錬金術師なら誰でも作れるから、需要が少ないのね。
調合に数週間はかかるから、怠惰な錬金術師が在庫不足になりそうだけどな。
まあ、怠惰な人はそもそも錬金術師にはなれないのか。昔化学の先生が『ビーカーをよく洗わない奴は化学者にはなれない!』って言ってたもんな。
しかし錬金術師とは、アコギな商売だなぁ。
「錬金術の試薬は、とても高価なもの。だから貴方には対価を要求する権利がある」
そうは言ってもなぁ、自分は厳密には錬金術師では無いからなぁ。それならば。
「それでは、セレナさんが僕に錬金術について教えるというのでどうでしょう?」
「ナナサキさんが私の弟子になるという事?そんな事で良いの?」
「ええ、僕の錬金術は我流ですからね。ちゃんとした技術を身に付けたいのですよ」
「うん!頑張る!ありがとう!!」
この理由に、もちろん偽りはない。ないけど!
ふひひ。セレナたんの個人レッスン券ゲットだぜ!
「少年、めちゃくちゃ嬉しそうだな」
「……男って最低ですね」