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5話 ファーストコンタクト

 ヨランさんに案内されるまでもなく、襲撃の現場は直ぐに分かった。村の周りを囲むように建てられた木塁の一部が吹き飛ばされたようにバラバラに倒されていて、壁に面した家々には大きな穴が開いていた。

 完全に崩れてしまってる家もある。まるで大砲でも撃ち込まれたかのような有様だった。


 そして、崩れた木塁の向こうにソイツはいた。

 灯は篝火だけのため辺りはうす暗く、初めはソイツの輪郭も朧気だったが、近くにつれて徐々に全体像が見えてきた。


 第一印象は枯れ木のお化けだった。

 背丈は5~10メートルほどだろうか?電信柱と同じぐらいデカイように感じる。

 太いツタが複雑に絡まりあって1本の木のようになったソイツは、邪悪な魂に乗っ取られたようにウロの部分が顔になっていた。

 爬虫類を思わせる顔つきは、ゴツゴツした外被の印象と重なって、まるで巨大な蛇のように見えた。


「あれがモンスター……」


「なるほど、確かにトレントですね。少しばかり大きいようにもみえますが……ナナサキ様はトレントを見るのは初めてなのですか?」


 トレントどころか魔物を見るのが初めてです。


 休眠状態のトレントは、まるでゼンマイの切れたオモチャのように、鞭のような枝を振り上げたまま不気味に静止している。


 なるほど、確かにまともな生き物じゃない。

 魔物と言われるに相応しい、原始的な恐ろしさを感じた。



――――――――――――――――――――

【名前】トレント ・マーダー


【脅威度】圧倒的

【耐性】水

【弱点】火 毒


長期間マナに晒された樹木が変性した怪物。

マナの強く栄養豊富な土地を求めて移動し、そこに根を張る。

木材の中では圧倒的に硬く、その硬度は金属に匹敵するため、武具等にも利用される


通称、異世界のアオダモ

――――――――――――――――――――



「あの、ナナサキ様は錬金術師様なのですよね?私の事も癒して下さったと聞きました」


 ぼけっとトレントを眺めていると、後ろからヨランさんに声をかけられた。

 おっさんを癒すとか、背中がぞわぞわするからやめてよね。


「厳密に言えば錬金術師ではありませんが、訳あって初級の錬金術は修めています」


 具体的にどこまでが初級かは知らないけどね?

 ミラさんが「あれが初級...」とか呟いているけど、とりあえず無視で。


「よかった!実は最初の攻撃で多数の負傷者が出てしまいまして…」それはヨイツさんから聞いた。

「どうか!錬金術師様のお力を貸して頂きたく、どうか!」


 だから錬金術師じゃないといっとろうに。

 というか往来で土下座はやめてください!城壁を直している人たちが何事かという目で見てるよ!


「よ、ヨランさん!か、顔を上げて下さい。僕でよかったらいくらでもお力を貸しますから」


「ほ、本当ですか!ありがとうございます!ありがとうございます!」


 ああっ、だから土下座はやめろっちゅうに。

 というかミラさんはなんで驚いているんですか?


 ヨイツさんに案内された村長の邸宅は、一言でいえば凄惨な光景だった。


 応接間に所狭しと並べられた麻のシーツの上には、血まみれ包帯で全身をぐるぐる巻きにされた男たちが力無く横たわっていて、苦痛の呻き声を上げている。


 その間を縫うように女の人が、必死に声をかけながら看病していた。


 腕や足が黒く変色してしまっている人、どういう理由かわからないが、顔が2倍近くに膨れ上がってしまっている人、怪我人は10人ぐらいだったが、まともに動けそうな人は一人もいなかった。


 野戦病院とか、映画で見るようなものと同じだろうと甘く考えていた自分は、あまりの光景に言葉を失ってしまった。


「少年は、こういう光景をみるのは初めてか?」


 固まっていた自分の頭上から、声が聞こえた。

 頭の上に乱暴に手を置かれて、ハッと我に返った。

 包み込むようなデカい手ごしに上を向くと、幌馬車の中で相席だったおっさんが、完全武装で立っていた。


「ジェイドさん……」


 おっさんについては、馬車の中でルーデンスさんに教えてもらっていた。

 道中ずっと寝てばかりだったので、自分と同じ相乗りのお客さんかな?と思っていたんだが、どうやらルーデンスさんが道中の安全の為に雇っていた護衛らしい。


 ミラさんは「護衛として自覚が足りない」とか「不真面目で怠惰でスケベな最低男!」とか散々な評価を付けていたが、

 ルーデンスさんが遠征する際は毎回ジェイドさんを護衛に推薦しているそうなので、腕は確かなんだろうね。


 ミラさんが何も言わないところを見ると、彼女もジェイドさんの実力は認めているのだと思う。


「こういう光景を見たことが無いんなら、少年は相当恵まれた環境にいたんだな」


 まるで、『おまえは甘ったれだ』と言われてる気がして、少し腹が立った。


「いや、悪い。皮肉で言った訳じゃないんだ。ミラちゃんからモンスターも初めて見るようだったと聞いたし、少年の住んでいた場所は、平和な場所だったんだなと、単純にそう思っただけだよ」


「ジェイドは脳味噌まで筋肉で出来ていて皮肉を言う知能も無いので、安心して良いですよ」


「ちょっ!ミラちゃん酷いなぁ」


 出会ってまだ半日ほどしか経っていないけど、二人が良い人だっていうことは何となく理解出来た。

 いまのやり取りも、完全に気圧されてしまった自分を気遣ってくれているのだということぐらいは、コミュ力ゼロの自分にだって分かる。


 ただ、今まで暮らして来た地球は、確かに随分と平和だったんだと改めて自覚した。

 少なくともこの世界のように、自分の生活を守る為に、命がけでモンスターと戦うような事は無かった。


 甘ったれと言われたように感じたのは、自分自身がそう考えているからだと、そう思った。


 なんか、めちゃくちゃ恥ずかしい。


 ミラさんは、テキパキと怪我人の包帯を変えながら、ゴム毬のように膨れ上がってしまった男の腕を取って触診したり、何か呪文の様なものを唱えて調べていった。


「毒、でしょうか?でもジェイド、トレントは一般的には毒に弱い魔物ですよね?」


「そうだぜミラちゃん。毒持ちの魔物は沢山いるが、トレントに限って言えば水の綺麗な土地を好む、無毒の魔物の筈だ。毒持ちがいるなんて情報はギルドでも聞いた事ねえぞ」


「でも、今回現れた個体に関して言えば、有毒種で間違無いと思う」


 後ろから聞こえた声に振り返ると、自分と同じ年くらいの若い女の子が立っていた。

 銀色のショートヘアをヘアピンで留めたデコ出しスタイルだ。正直言ってめちゃくちゃ可愛い。

 というか、この世界って美形多いよね。


「貴女は?」


 まずい!ミラさんがハイパー警戒モードだ。

 猫耳隠しのフードの上からでも、耳か硬く尖っているのが分かる。


「私はこの村で錬金術師をしてる。名前はセレナ」


 この人がヨイツさんが話していた、錬金術師の人か。錬金術師のイメージ的にもっと年配を予想していたわ。


 セレナさんは紺色のシャツにズボンといったラフな出で立ちだったが、白い丈の長いローブを羽織っていて、科学者が着る白衣のようだった。

 まあ錬金術って危険な薬品を使う事も多いからな。白衣も保護具の一つだって聞いた事があるし。


「この人の腕を見て。肥大化した患部に黒い斑点、これはディッキーチェリー等に見られる有毒植物の中毒症状と同じ。幸い毒を飲み込んだ訳では無いから致命傷じゃないけど」


「じゃあ何かい?嬢ちゃんは、今回のトレント騒ぎは毒持ちの新種の仕業だって言いたいのかい?」

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