2話 なんつー傍迷惑な神様だよ!
「あの!ちなみに元の世界に返してもらう事って出来ます?クーリングオフしたいです」
「残念ながら無理ですね。まあ召喚された人は大抵2〜3日で死んでしまうので、その場合は魂だけ第7世界に戻って来ますけどね。肉体は消滅しているので普通に死亡扱いです」
こいつ本当にロクでも無い女神だよな。
というか、第18世界とやらを管理している神様がいるのなら、地球(第7世界というらしい)にも管理者の神様がいるって事だよな?地球の神様は、この誘拐紛いの異世界転生の事を、どこまで知っているのだろうか?
「というか本当に驚かないんですね?」
「このくらいで驚いていたらマス☆クエは攻略出来ませんからね。それはそうと、地球もとい第7世界もルミナス様が管理をされているのですか?」
「違いますよー。第7世界の責任者はガイゼン様なので、ガイゼン様が管理されているんじゃないですかね?」
なるほど、地球の神様はガイゼンって言うのか。
「そうなんですね。……ところで私が18世界に転生する事って、ガイゼン様はご存知なんですか?」
女神さんの口から「えっ?」という小さな呟きが聞こえた。ああ、コイツやっぱり地球の神様に話通してねーな。
「いや、随分と無理矢理な転生だと感じたもので、ガイゼン様は許可されているのかな?と。まさかとは思いますが、黙って異世界に送っている訳じゃないですよね?」
「え、ええ。ルミナス様も確かそう言ってましたし」
「でも、ミルズ様が直接確認したわけじゃないんですよね?」
「それは、確かそうですけど。あ、ミルズとか下等生物が勝手に名前を呼ばないで下さいね?」
「……ま、まあそれは置いておいて。それよりも変だとは思いませんか? わざわざ生きている人間の肉体を消滅させてから魂だけを転生させるとか、ぶっちゃけて滅茶苦茶効率が悪いですよね?」
「はあ。まあ後処理とかが大変ではありますね」
「ですよね。魂が欲しいのなら死んだ人間の魂を分けて貰う方が、遥かに簡単だと思いませんか?」
「なにが言いたいんですか?」
ミルズ様は意図するところが分からない様子で、探るような目を向けてきた。
「いや、この異世界転生のやり方って神様達のルールでは問題にならないのかな?と。経験ですがそういう非効率で面倒くさい事してる人って、大抵は良からぬ事をしているんですよね」
「んなっ!ルミナス様が悪い事をしているとでも言うんですか!」
「まあまあ、落ち着いて下さいよ。あくまで僕の世界の一般論ってだけです。不快にさせてしまったらすみません」
「まったく!近頃の人間はなんてバチ当たりなんでしょうか」
ぶつぶつと文句を言うミルズ様。ここが勝負どころか?
「……でも、心当たりとかあるんじゃ無いですか?もしかしてルミナス様に口止めとかされてません?」
「そんな!口止めなんて……」
よし!何か心あたりでもあったみたいだ。すがるような目で弱々しく話しはじめた。
「……確かにルミナス様からは、『他の子が嫉妬しちゃうから、この事は誰にも言わないようにね?』って言われているのです。でもルミナス様は『あなた優秀だから、私の言う通りにしていれば出世間違いなし』とも言ってくれたし……」
なんていうか、ルミナス様ってば酷い奴だよな。ちょっとメガネに同情してしまったわ。
「と、とにかくもう一度ルミナス様に確認を…」
「ちょっと待って下さい!!」
「ひっ!な、何ですか?」
もはやミルズ様には最初のクールビューティな面影はないな。
「落ち着いてください。もしもルミナス様のしている事が不正だったとて、バレたら貴女の立場も悪くなってしまうのでは?」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、残念ながら。それに僕のいた第7世界では、上司が部下に不正をするように命令した癖に、いざバレそうになったら責任を全て部下に押し付けて自分は逃げてしまう、なんて事がよくあるんですよ。いわゆる『トカゲの尻尾切り』というやつです」
「じゃ、じゃあどうすれば良いんですか!!」
「そうですね……」
ワザとらしく顎に手を宛てて『考えるフリ』をする。こういうのは、さも今思い付いたかのように話すのが重要だ。
「そうですね。ここはいっそ、ガイゼン様に状況を説明するのは如何ですか?」
「が、ガイゼン様にですか?でもガイゼン様にバレたらマズイんじゃ」
「だからこそですよ。ミルズ様は上司であるルミナス様の命令の命令に従っただけで、それが悪いことだって知らなかったんですよね?」
「そ、そうです!し、知らなかったんです!!それなのにあのちんちくりんのクソ女神が!!!」
……おまえだって女神だろ。
「お、落ち着いて下さい。それなら、自分は知らなかったんだと、全ては上司の命令だったんだと、ガイゼン様に訴えるのです。きっとガイゼン様も理解して下さりますよ」
「ほ、本当ですか?」
ふ、チョロいな。
「ええ。それどころかガイゼン様は、ミルズ様は正直者だと逆に評価して下さるかもしれません」
「そ、そうですよね!わかりました、ガイゼン様に話てみます!ありがとうございます!あなたの事もガイゼン様に伝えておきますね!」
めんどうくさいので地球に返してくれればそれでよいです、とは口に出さない。たとえ心の中では如何様に考えてはいても、それを決して表に出さないのが第7世界の処世術なのであって。
そんな事を考えていると、ミルズ様が懐から黒い板を取り出した。それはまるでスマートフォンのような大きさで……ってスマホじゃん!
『もしもし、ガイゼン様ですか?私、第18世界で下級監察官を務めていますミルズと言います。ええ、はい、そうです。ルミナス様は私の上司です。……ええ、はい。じつはご相談したい事が……』
なんていうか、こういうやり取りは神様の世界でも変わらないんだな。
『ええ、はい!ありがとうございます!!、はい!こちらこそよろしくお願いします!!!』
おお!ミルズ様笑顔じゃ無いか。これは上手く伝えてくれたのかな?
「どうでした?」
「やりましたよイチローさん!」
「イチロです。それで、どうなりました?」
「はい!ガイゼン様が私が見込みがある奴だって、今度の幹部会でも報告して下さるそうです!」
そっちじゃねーよ
「……いえ、それはぶっちゃけどうでもいいんですが、異世界転生の件はどうなりました?」
「ああ、それはガイゼン様も了解済みでした」
なん…だと…
「なんでもルミナス様の借金の棒引きをかけて雀卓囲んだら、逆にルミナス様が準備した代打ちにトバされてしまったそうで、ガイゼン様が魂20人分を支払う事になってしまったみたいです」
ヤクザかな?ていうか神様が賭け麻雀するなよ!
「ガイゼン様はイチロー様の事もとても褒めていましたよ?元の世界に戻すのは無理だけど、褒美として召喚の際にガイゼン様が直々に権能を与えて下さるそうです」
「はあ、権能ですか」
「あ、分かっていませんね?権能というのは我々管理者が下等生物に授ける祝福で、言ってしまえば超能力とか特殊能力とかそんな感じのものです。上級管理者クラスの方が授けて下さる権能なんて、まさにチートですよチート」
チートねぇ。むしろ神様ってそういうのを取り締まるイメージなんだが……
「これは凄い事なんですよ?我々下級管理者が与えられるしょぼい力でも申請して承認されるまでには数ヶ月は必要なのに、それを物の数分で授けて下さるなんて流石ガイゼン様ですよね!」
それは絶対に正式な手続きを踏んで無いのでは?
要するに『チート(口止め料)を与えるからこの件は黙っていろ』という、そういう事ですね。ガイゼン様まじヤクザ。
だが、これは悪い提案では無いと思う。生身で異世界なんかに放り込まれた日にはまず生きていけない自信があるが、神様が与えるチートがあれば異世界でも何とか生き延びられるかもしれない。
ま、まあ博打だけど、分の悪い賭けでもないだろ。というか他に選択肢も無いし。
「わかりました、それで良いですよ。それで異世界転生って具体的には何をすれば良いんですか?」
「そういえば!それを伝えていませんでした!『時は今から1000年以上前、魔王デストロイアの侵攻により世界は滅亡の縁にあった……』
あ、世界観の説明入るのね。……長くなりそうなので、カット‼︎
要約すると魔王が復活しそうだけど、昔魔王を倒した武器をしまった場所が分からなくなってしまったので人類総出で探してる、という事らしい。
まあ主催者次第でどうとでもなるストーリーだよな。多分詳しい所は作り込んでいないんだろう。
『あなたが生き残ると私にボーナスが出るそうなので、頑張ってくださいねー!^_^』
ミルズ様の声援?を聞きながら、自分の意識は暗転した。