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8話『宝の持ち腐れだろ?』



オブシディアンは天才だった。

私がどれだけかけても出来なかった魔法を彼はいとも簡単に出来るようになってしまう。

私は彼に初めて挫折というものを教えてもらった。

それでも諦めなかったのは母を失い行き場を無くした私を引き取ってくれた師匠に失望されたくないという思いからだった。

そんな思いを知ってか知らずかオブシディアンはからかいつつも私に魔法を教えてくれた。

わかりやすく、私はオブシディアンを好きになった。

初恋だった。

穏やかな日々は師匠の一言で変わった。

師匠がオブシディアンではなく、私を後継者にすると決めたのだ。

そして、オブシディアンは私たちの目の前から姿を消した。

そんな彼が、師匠が亡くなっても音沙汰がなかった彼が、2年ぶりに私の目の前にやって来た。


「嬉しいな〜。まだ、兄弟子だと思ってくれてるなんて」


オブシディアンは黒みがかった紫の髪をかきあげて、スカイブルーの瞳を柔らかく細める。


「事実でしょ」


昔と変わらない、少し人を馬鹿にしたような話し方にちょっとイラッとしながらも嬉しいと思ってしまう自分が嫌になる。


「僕はてっきり怒っていると思っていたんだけどな〜」

「なぜ、怒らなきゃならないの?」


そう言うとオブシディアンはびっくりしたように目を大きく開いた。


「…突然、君の前から姿を消してしまったから」

「そのことについては怒ってはいない。悲しくはあったけど」

「ごめんね、ヴェル」


本当に悪いと思っているのか表情からは読み取れない。

しばらく沈黙が続いた。


「…どういうことなんですか?兄上」


そう言って沈黙を破ったのは状況が飲み込めないといった様子のダイさんだった。


「あぁ、すまない、ディアマンテ。彼女が言った通り私は彼女の兄弟子なんだ」

「それはわかりました。そうじゃなくて…」


彼が聞きたいのはなぜここにオブシディアンが居るかだろう。

私もそこが知りたい。


「オブシディアン、用もないのに来た訳じゃないでしょ」

「あぁ!そういうことか。すまないね、ディアマンテ」


わざとらしくダイさんに声をかける。


「いえ」


ダイさんは気まずそうに目を伏せた。


「いやね、ヴェルの持ってる魔法書が欲しくてね」


オブシディアンはダイさんから私に視線を移した。


「あれはヴェルが持っていても宝の持ち腐れだろ?だから僕にくれないかな?」


ニッコリと笑い、まるでちょーだいとでも言うかのように片手を私に向けてきた。


「わかって言っているの?あれは私が師匠から受け継いだものなのよ」

「わかっているさ。だから、こうして頼んでいるんだろう?」

「…わかって、ないじゃない…」


私が絞り出すようにそう答え目を伏せるとオブシディアンはふぅとため息をついた。


「本当はね。ヴェルが帰ってくる前に見つける手筈だったんだけど見つからなくてね。だから仕方なくヴェルの帰りを待ってたんだよ」

「!」


その言葉を聞いて全てが繋がった。


「そういう…、そういうことだったのね」

「ん?なんのこと」


オブシディアンは白々しく微笑んだ。


「あなた…そんなことのために…、なんてことをしたの」


チラリとダイさんを見ると訳が分からないといった表情で私たちを見ていた。


 どう伝えたらいいのだろう


彼を傷つけず伝える術がない。

私が話すのを躊躇っていると、


「はっきり言ってくれないとわからないよ、ヴェル」


 この男は…


オブシディアンはニヤニヤしながらこちらを見ている。


「…ダイさん。私の兄弟子は天才なんです。魔法はもちろん、薬学についても私と同じかそれ以上の知識を持っています」

「?」


ダイさんはだからなんだと言った顔をしている。


「…私に頼る必要はないはずなんです。私が薬を作らなくても彼なら魔法でなんとか出来る…はず…、なんです」

「!」


そう伝えるとやっと彼も気づいたようだ。


「…兄上?」


ダイさんはオブシディアンにおどおどと視線を移す。


「そうだね。私なら出来ないこともなかった。でもね、ディアマンテよく考えてごらん?私がお前の母にお会いすることが出来るだろうか」

「…それは……」

「難しいだろう?」


オブシディアンはダイさんを諭すように優しい声色で話す。


 イライラする


「じゃあこれは何!」


私はオブシディアンに小瓶を投げつける。

オブシディアンは表情を崩さず、小瓶をキャッチした。


「この瓶でわかったのかい?」

「あなたが愛用してるものだったからね」


オブシディアンを睨みつける。


「…どういう…こと…、ですか…兄上?」


後ろでダイさんが戸惑いを隠せないように声を震わせながらオブシディアンに問う。

オブシディアンは依然として表情を崩さない。


「兄上が母上に毒を盛ったのですか!?」

「とんでもない。私がそんなことをするとでも?」


芝居がかったように両手を広げるオブシディアン。


「しかし、その小瓶は兄上の物なのでしょう!?」


ダイさんオブシディアンの手元にある小瓶を指さす。


「そうだねぇ。私の物だ」

「では、やはり!?」


オブシディアンはニヤリと笑った。


「盛ってないよ。作っただけ」

「作った…、…なぜ?」

「んー、たまたまなんだよ?」


白々しくオブシディアンは考えをめぐらすように目線を斜め上に動かす。


「たまたま研究中に毒が出来て、その性能を試したかったところに協力してくれるって言う人がいたから渡したんだ」

「…だ、…誰に?」

「ん?侍女だけど?」


悪びれるつもりは微塵もないようだ。


「!?服毒死した彼女ですかっ!?」

「んー…どうだったかなぁ?顔も名前もうろ覚えなんだよね〜」


困り笑顔でそう言うオブシディアンだが本当に困っている訳ではない。

ダイさんの顔色がどんどん悪くなる。


「毒を盛って、私の噂を教えて、私がこの家を空けるように仕向けた訳ね」



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