5話『気づいてぇー自分の色気に気づいてぇー』
私が使った鍵は特殊な鍵で魔法の鍵だ。
行きたい場所を思い浮かべて鍵を回せば、行きたい場所の近くの扉に通じる。
魔法の鍵は魔法をかけた者と持ち主以外には使えないようになっていて、魔法を使えない者でも持ち主であれば扱うことが可能である。
鍵を挿すことが出来、人が通れるくらいの大きさの扉であればどんな扉でも入口にも出口にもなる。
「早く来てください」
そう言って先に扉をくぐるとイケメンも恐る恐る扉をくぐった。
「これは…、いったい…」
今まで森の奥にある泉の上にあった家に居たのに突然路地裏に出たらそりゃあ驚くよな
「ここは竜の谷の1番近くの街です」
「何がどうなっているのやら…」
ぽかーんと口を開けてそう呟くイケメン。
「その鍵…」
「魔法の鍵です」
魔法の鍵を首にかけ服の下に入れる。
「魔法の…鍵?」
なんだそれ?と聞こえてきそうな声で呟くイケメン。
「急ぎましょう。時間が惜しいので」
「わかった」
路地裏から大通りに出て、よく行く宿屋に向かう。
カランとこもったような音を鳴らし私は宿屋の扉を開けた。
「女将さんいますか?」
中に入り、受付でそう問うと奥から女将さんが出てきた。
「おや?久しぶりだねぇ」
「お久しぶりです」
女将さんはニコニコと笑いながら私の頭をわしゃわしゃと撫で、元気かどうかを確かめるように頬をむにむにと触る。
女将さんと師匠とは昔馴染みで私にもよくしてくれてる、師匠が亡くなってからはなおのこと。
女将さんは私の頬を触りながらふと視線を私の後ろにいたイケメンに移した。
「あら?なぁ〜に〜イケメン連れてるじゃない。彼氏かい?」
女将さんは満足したようで私の頬から手を離すとニヤリと笑いながらこちらに視線を戻した。
「違いますよ。お客さんです」
「客?」
女将さんはまるで品定めするようにイケメンを上から下まで舐めるように見る。
「はじめまして」
イケメンは少し気まずそうにはにかんで挨拶をする。
女将さんはいつもの笑顔に戻る。
「いい男じゃない!ちゃんと捕まえておきなよ!」
「捕まえておきませんよ」
「あはははー」
気まずそうに乾いた笑い声をあげるイケメン。
すまないイケメン。女将さんはなぜか私の子供を見るまで死ねないと言うんだ…それ故すぐ年頃の男を宛てがおうとする
「そんなことより女将さん、お願いが」
「なんだい?」
「竜の谷に行きたいので馬車の手配をしてほしくて」
そう言うと少しだけ女将さんは顔を強ばらせた。
「竜の谷…わかったよ、任せときな」
「ありがとうございます。それとこの人に服を」
「俺に服?なぜ?」
キョトンとした顔でイケメンが聞いてきた。
「なぜってその服だといかにもお金持ちって匂いがプンプンするんですよ」
ジト目でイケメンを見る。
「確かに良い服着てるものね〜」
「そうなのか!?これでも1番安いものを選ばせたのだが…」
その言動が既に金持ち臭プンプンだ
「竜の谷の一族は王族と仲が悪いというか…あまりよく思っていない方が多いんです。だから王都からやってきた貴族かなんかだと思われたら欲しいものが手に入らない可能性が高いので、一応変装した方がいいと思います」
そう告げると苦虫を噛み潰したような表情でイケメンは声のトーンを落とした。
「…なるほど、わかった着替えよう」
「服は息子のを貸してあげるよ」
「ありがとうございます。私は他に必要な物があるので買ってきますからお兄さんは着替えて待っていてください」
「わかった」
イケメンを女将さんに託し、必要な物を買いに街に行く。
まずは普通の薬草、次に魔法をかけた薬草。
そして、魔力を宿している薬草。
薬草以外にも希少な蜂蜜や鉱石も手に入れた。
あとは竜の谷に行き、竜の鱗を手に入れれば解毒に必要な物は揃う。
さてと宿屋に戻るか
宿屋の前まで戻るとお願いしていた馬車が宿屋前に止まっていた。
カランと音を鳴らし、扉を開け中に入ると服を着替えたイケメンがちょこんと座っていた。
おいおい、着替えても顔が良すぎて金持ち臭がするじゃないか…
これは困ったぞ…
「お待たせしました」
声をかけるとイケメンは物憂げに顔を上げた。
おっと、その表情はヤバいぞイケメン!
周りのお客さんが目を奪われているぞ!
気づいてぇー自分の色気に気づいてぇー
コホンとひとつ咳払いをしてイケメンに近づく。
「必要な物は買えましたのでそろそろ竜の谷に行きましょう」
「あぁ」
なんで元気がないんだ?
お母さんのための解毒剤がもうすぐ手に入るかもしれないというのに
不思議に思いながら外に出ると女将さんが御者と話していた。
「女将さん」
女将さんはこちらに気づき近づいてきた。
「話はつけておいたから」
「ありがとうございます」
「うん、気をつけて行っておいで」
私の頭を優しく撫でる女将さん。
「はい」
そう言って馬車に乗り込む。
馬車と言っても物資を運ぶための荷馬車だ。
まぁ乗せて行ってもらえるだけ有難い。
私に続いてイケメンも女将さんに礼を言って乗り込んでくる。
物珍しげに中を見回しているイケメン。
「危ないので座ってください」
「!あぁ、わかった」
中はイケメンが立っていても天井に頭がつかないくらいには上にも横にも広い。
進行方向とは逆向きに座り外を眺めていた私の隣にイケメンも腰を下ろす。
「すごく大きな荷馬車だな」
「そうですね。これに竜の谷の一族の約1ヶ月分の生活物資が載せられていますからね」
「なるほど…」
イケメンは後ろを振り返り荷物を見ながら静かにそう呟いた。そして、今度は私に視線を移した。
「竜の谷には魔法の鍵で行かないんだな」
いい質問だイケメン。
ここに来る時は魔法の鍵を使ったのだから竜の谷にも魔法の鍵を使えばいいじゃんって思うよね。
私だって使えるものなら使いたい。
だが、残念なことに竜の谷は…
「…あそこは魔法が使えないんです」