2話『ご挨拶が遅れました、私が魔女です』
少し緑がかった美しい灰色の髪からはポタポタと水が滴り落ち、まるで空そのもののように煌めくスカイブルーの瞳があちらこちらを物珍しそうに見回している。
いいさ、いいさ、思う存分見るがいい。珍しいものが多いだろうからね
「お風呂を沸かしたので温まってください」
そうイケメンの背中に告げるとイケメンは振り返った。
「いや、それはさすがに申し訳なさすぎる」
「そのままで居られても困ります。服を乾かすついでに温まってください。バスローブを用意してありますので」
安心してくれイケメン。
昔、誰かからプレゼントされたが身長が150ほどしかない私には大きすぎて仕舞いこんでいたものなので新品だ。
「っ…すまない」
あるはずの無い犬耳としっぽがしょんぼりしているように見えるくらい申し訳なさそうに浴室に向かい、カラスの行水かというくらいの早さでイケメンが出てきた。
大きめのバスローブを用意したのだがそれでも丈が短く感じるくらい大きな体をしている。
羨ましい…その身長を分けろ!
「濡れた服を乾かすのでかしてください」
「あぁ、すまない」
イケメンから服を受け取り、裏庭に続く扉を開け外に出る。
出来る限り水を絞り、物干し用のロープに服を干していると後ろからイケメンが声をかけてきた。
「すごいな…そちらに行っても構わないか?」
「どうぞ」
目を輝かせながらイケメンは裏庭にやってくる。
自慢の薬草畑だ心ゆくまで目に焼き付けるといい!
「素晴らしい…」
イケメンは柔らかな笑みを浮かべながら小さくそう呟いた。
「ありがとうございます」
褒められるのは嫌じゃないぞ、どちらかと言えば私は褒められて伸びるタイプだ。
顔には出てないと思うが今ものすごく私は嬉しいぞイケメン
さて、服も干し終わったし本題に入るか
「お茶を入れるので中に戻りましょう」
色とりどりの草花がよく似合う。
まるで1枚の絵のように見えるイケメンに声をかけると名残惜しそうにイケメンは家の中に戻ってきた。
「そちらに座ってください」
そう言って玄関のそばにあるソファーを指さすとイケメンはそこにゆったりと腰掛けた。
温かいお茶を入れイケメンに出すが口をつけようとはしない。
心配するなイケメン毒は入っていない
私はイケメンの向かいに座り、イケメンに出したお茶と同じものを自分にも入れ飲んだ。
するとようやくイケメンもカップに手を伸ばした。
「美味しい…」
ひとくち飲んだイケメンは驚いたように目を見開いた。
「それはよかったです。庭で取れたハーブで作った自家製のハーブティーです」
「自家製!?凄いな…」
そう言うとイケメンは今度は香りを楽しむかのようにカップに顔を近づけた。
私はカップをゆっくりおろしイケメンの顔を見、静かに口を開いた。
「それで今日はどのようなご要件でいらしたんですか?」
そう問うとイケメンは少し体を硬くした。
カップをおろし、自身を落ち着かせるようにゆっくり息を吐くイケメン。
そして、私の目をしっかり見据えた。
私が面食いじゃなくて助かったなイケメン。面食いだったらその真剣な目に確実に惚れてたぞ
「魔女に…魔女殿に会いに来た」
イケメンは家の中を探るように視線を移していく。そしてまた、私に視線を戻した。
ですよね〜。それ以外でここにやってくる人は居ませんよね〜
「魔女殿はご在宅だろうか」
私の顔色を伺うようにイケメンは聞いてきた。
「いますよ」
言い切るのとほとんど同時にガタッと大きな音を立てイケメンはソファーから立ち上がった。
そして、テーブル越しにこちらに体を乗り出し、
「本当かっ!!」
弾んだ声でそう聞いてきた。
「お会いしたいっ!!」
会いたいねぇ…
「どこにいらっしゃるんだ?」
矢継ぎ早にそう言ってくるイケメン。
イケメンよ。キョロキョロと周りを見回しているが残念ながら魔女は君のすぐそばにいる
「ご挨拶が遅れました」
イケメンの視線が私に戻る。
「私が魔女です」