ファンレター御礼SS 聖女様は新たなビジネスチャンスを掴みます
KADOKAWA様経由でファンレターをいただきました!
ありがたくも投稿サイトでのご感想は良くいただくのですが、郵送でのファンレターはやはり敷居が高い。なので滅多にいただけるモノではなく、商業歴5年目になりますがこれで3通目です。ありがとうございます! お礼にご希望のネタで1本書きました!
ちなみにバレンタインネタなのにこの時期になったのは、転送されてきたのがGWだからです(;´・ω・)
「聖ヴァレンティヌスの日? なんだそりゃ?」
首を傾げるココに、鼻息の荒いナタリアが手に持った本を突き出した。以前ココがクリスマスを知ったあの本だ。
「先日お借りした、この本に載っていたんです! 愛し合う恋人たちの日なんですって!」
「あー、世界の習俗の。そう言えば、そんな事も書いてあったような……」
ココたちの住むビネージュ王国には無いけれど、外国にはそんな記念日もあるらしい。世界は広い。
「恋人たちの日、ねえ……」
ナタリアがやたらと興奮している理由はココにも分かった。だけどその辺りに興味がなかったココは、いまいちイベントの内容を覚えていない。
「それで、どんなことをするんだっけ?」
「もー、ココ様が貸してくれた本じゃないですかぁ……この日は女の子のほうから男性にプレゼントを渡し、告白してもいいって日なんですよ!」
「あー、それでか。理解した」
「何がです?」
「いや……なんで私、最近読んだばかりなのに覚えてないのかと思ったんだけど」
「はあ」
ココが何を言いたいのか分からず首をかしげて答えを待つナタリアに、聖女様はいたって真面目な顔で。
「なんで愛の告白ごときで自分が身銭を切らにゃならないんだ……と思ったので、いらない豆知識だからサッサと記憶から削除してた」
「ココ様が歳のわりに成長してないのも、そういう気持ちの持ち方に問題があるんじゃないですか?」
ナタリアの顔面にアイアンクローを決めながら、ココは不満げに鼻を鳴らした。
「だいたい、なんで女子だけがプレゼントを用意しなければならないんだ。そういうのはお互い様だろう。片方だけが貢ぐなんて不健全極まる」
「痛い、痛いですっ! もう、そういう損得勘定で考える記念日では……そうだ、この日には対になる記念日もあるみたいですよ? “純白の日”といって、男性から女性にプレゼントを贈り返す日もあるみたいなんです」
「……ほう?」
ココちゃん他人に無意味に物をあげるのは死んでも嫌だが、収穫を見込んで種まきするのは嫌じゃない。
「当然、それ相応に色を付けて返ってくるんだろうな?」
「なんでも、三倍返しが基本だとか……」
「ほほう?」
聖女様は“恋人の日”とやらに、だいぶ興味が出て来た。
「なるほど。我がゴートランド教も、良い文化はどしどし取り入れていくべきかもしれない」
「ココ様が興味を持つようでは、ロクな話じゃないですね」
「おまえが持ち込んだ話題だろうが!?」
関節技をかけられたナタリアの悲鳴が、ココの部屋に響き渡った。
◆
聖ヴァレンティヌスの日に男へ渡すプレゼントには、どうも定型があるらしい。
「具体的にどんなものを贈るんだ?」
「ええっとですねえ」
ココに聞かれたナタリアが、本の記述をもう一度読み返す。
「ショコラを渡すのが一般的なようです」
「あー、前にセシルがみやげにくれたアレか」
アレは確かに美味しい。珍しいお菓子だし、あとで三倍返しのお礼をもらうのにも最適な値の張る逸品で……。
「ちょっと待て。ショコラなんて、そこらで買えるものなのか?」
王子が珍品だと言ってココにくれたショコラ。
ナタリアやアデリア、ドロテアも、初めて見ると言っていたお菓子。
「そんな幻のおやつをどこで調達するんだよ」
「この習慣がある国では、ありふれたお菓子なんでしょうか……」
「そもそも王国の男どもが、ショコラの価値を知っているかも分からないぞ」
「甘味に興味が無い方もいますしねえ……」
検討の結果、ココたちは独自路線で行くことに決めた。
「無駄に元手をかけても意味がない。要するにお菓子をあげればいいんだろ?」
「そうするとクッキーとかですかねえ」
「クッキーかぁ。一口サイズだから、ある程度数を用意しないと見栄えがしないな」
「大きくするのはどうですか? こう、すごく大きく作れば特別感ありません?」
「ふむ。それいいな」
ナタリアの提案にココも頷いた。
「二人で分けて食べられるように切れ目を入れておこうか」
「プレゼントと言いながら、自分も分け前もらう気満々ですね……」
「他人にあげる物にも、隙あらば取り分を主張していく心意気で進めていきたい」
クッキーなら活動費の足しに焼いて売っている修道院もあるので、マルグレードにだって材料も作り方もあるはずだ。
さっそく厨房に聞いてきますとナタリアが腰を浮かしかけたところで、ココが待ったをかけた。
「でもクッキーだと逆にありふれ過ぎていて、サイズを大きくしたぐらいじゃ特別なものと思ってもらえないかも知れない」
「しかしココ様。他に我々が作れそうなものって言っても……」
そもそも二人とも、料理自体をほとんどやったことがない。作り方が分かったところで、難しいものは作れるとも思えない。
「うーん……」
「どうしましょう……」
「……いい解決策は思いつかないんだが、一つどうでもいい言葉は思いついた」
「なんです?」
「“バカの考え 休むに似たり”」
「それ、私も含めてですか……?」
◆
「はぁ~、それで~私に~?」
ココに助け舟を求められたドロテアが頬に手を当て、思案顔になった。
「うん。ドロシーなら商人の娘だから、なにかアイデアがないかと思って」
「そう~ですね~」
と言われても、ドロテアだってそんな記念日は初耳だ。お菓子作りの知識もそんなにあるわけではない。
「……お菓子~自体じゃ~なくて~、それを~用意~するところに~価値を~付けたら~どうでしょ~」
「用意するところ?」
「つまり~、よくある~お菓子でも~」
ドロテアがココをピッと指さす。
「ココ様が~作ったと~言われれば~」
「なるほど!」
ココとナタリアも理解して頷いた。
「気になる子の手作りと言われれば、ありふれたお菓子でもオンリーワンですよね!」
「聖女お手製を前面に押し出せば、なんか有難味が出て高くても買い手が付くってわけだな!」
「ココ様、年頃の娘としてどこか理解がおかしいです」
くれる本人の手作りというところに価値が出るらしい。
その考えはココには斬新だった。
「市場でパンや肉を焼いてるのは職人のおっちゃんたちだったからな。素人の手作りが良いなんて理由、仕入れ値を下げられる以外に思いもしなかった」
「普段やらない娘が恋する彼の為に、自分の手で気持ちを込めて作ろうとするのが尊いんじゃないですか」
「そういうものか……まあでも確かに、ナッツに自分で作ったと言われれば男どもが群がる気はする……」
なるほど、と呟くココの目が光った。
「こいつは……カネの匂いがする!」
◆
マルグレード女子修道院の広い食堂に修道女たちが集められ、料理人の指導の下にクッキーづくりが行われていた。
「納得のいく物ができるまで、どんどん試作をしてみてくれ」
ココに言われて、修道女たちが懸命に粉をこねて成形をする。
マルグレードの若い修道女たちは、ほとんどが貴族か上流階級の令嬢だ。花嫁修業で数年ここにいるだけの“なんちゃって出家者”が多い。家事の経験も少ないため、本職の料理人に監督されながらでもなかなか完璧にはいかない。
それでも許婚や恋人に“愛のプレゼント”を渡そうと、皆キャイキャイ騒ぎながら慣れないお菓子作りを頑張っている。
その様子を見ながら、なんか釈然としないアデリアが首をひねった。
「みんな外に彼氏を待たせているから、こういうイベントに乗っかるのは分かるんだけど……なんでココ様がそんな行事を企画するんだろ?」
「仲間がいたほうが自分もやりやすいから……とかじゃないのかしら」
渡す相手もいないのに一心不乱に作っていたナタリアがそう指摘しても、アデリアは納得いかなそうだ。
「でもいつものココ様なら、これだけの人数でクッキー作る材料費がもったいないとか言わないかな?」
「はっはっは、アデルはもっと広い視点を持たないとダメだなあ」
「ココ様……と言うと?」
自分も作っていたココがアデリアの疑問を聞きつけ、得意げに粉だらけの麺棒を振り回した。
「皆がクッキーを男にやるのは、このさいどうでもいい」
「ココ様、そこがメインでしょ……」
「大事なのはそこに至るまでに作りまくった出来損ないのほうだ」
「こっちです? まあ、自分の彼氏にあげるのには一枚あればいいわけですけど……」
言われてみれば、大人数で盛大に作りまくっているので大量に余りそうではある。
「習作がなにか?」
「考えても見ろ、ナッツ、アデル」
ココがロクなことを考えていない時の笑顔で……つまりいつもの笑顔で、ニタリと笑いかけた。
「マルグレード修道院のシスター、つまり良いところのお嬢様が一生懸命作ったクッキーだぞ? 売り出せばとんでもない値が付くだろうが」
「失敗して割れちゃったのもけっこうあるよ? 形もいまいちだし」
「それでいいんだ。むしろ出来が悪い方が、“慣れていない感”があっていかにも良いところの嬢ちゃんが気まぐれで作ったっぽいだろ? B級品だって、職人のおっちゃんが作った物より高く売れるぞ。なにしろ“貴族令嬢の手作り”だからな。」
愛の記念日の為のお菓子作り教室、じつは奴隷労働者に転売用プレゼントを作らせる密造工場だった……。
「修道院で作った物を高値で売るなんて!?」
「そんなことを言ったら、田舎の修道院が作ったクッキーだって問題になるだろ」
「とんでもない値段はつけてませんよ!?」
「もちろん、それは分かってる。私だって売る……じゃなくて、頒布するのにべらぼうな値段をつけたり……じゃなくて、過剰な喜捨を要求したりしないぞ?」
「ココ様の考える適正ラインってどれぐらいなんだろう……」
「絶対女神様に顔向けできないお値段よね……」
「貴族でなくても買えるぐらいで設定するって。ただ……」
「ただ?」
ジト目で見つめて来るナタリアとアデリアに、笑みを深めたココは微笑み返した。
「マルグレードのお嬢様たちが一生懸命作ったという製作過程を鑑みて……クッキーにお布施を出して下さる紳士諸君も、先に取り置きしておく手間賃にその辺りを忖度していただけたらと……」
「ココ様……聖女の発想があまりにこすっから過ぎるよ! 素人のヘタな手作りでボッタクるだけじゃなくて、優先販売を持ち掛けて、さらに手数料巻き上げるの⁉」
「おいおいアデル、あんまり持ち上げるなよ。そんなにベタ褒めされると、さすがの私もなんか照れちゃうじゃないか」
「一っ言も褒めてないんだけど……」
◆
「なるほど。それで真偽不明の噂がついたクッキーが、やたらと社交界に高値で出回っているわけか……」
王宮を訪ねて来たココに経緯を聞いて、さすがのセシルも呆れた感じでため息をついた。
「マルグレード謹製なんてうたっているから、詐欺か神への不敬罪で調査をしようかと思っていたら……正真正銘、聖女自身が出所とはな」
「売ってるのはちゃんと修道女が作った本物だぞ? 私としては普通に聖具を売るのと変わらないと思っているのだが、なんでそんな偽物の密売取り締まりみたいな話になっているんだ」
「密売じゃないと思っているなら、堂々と大聖堂の売店で売ったらどうだ」
「そんなことをしたら私の懐に入らないじゃないか」
そんな話をしながらココが手荷物をあさり、取り出した包みをこれ見よがしに振って見せた。
「ちなみにセシル。ムッツリなおまえも実は欲しいんじゃないかと、友達想いな私は一つ取り置きしといてやったんだが……さてさて、王子様は純白の日とやらに、どれほどのお返しを下さるのかな?」
「ほう、それが噂の実物か……それはもちろん、ココが作ったものなんだろうな?」
「ん? うむ、そうだ。他人を働かせるからには、ちゃんと自分も働かないとな。わずか十枚ほどしかない聖女様お手製だぞ? 光栄に思って謝礼をはずむが良い」
「ふむ、なるほど。それは俺も最大限に応えねばならんな」
セシルは立ち上がると、書斎の隣の書庫に入って何か小さい物を出してきた。
「では、せっかくのココのご厚意だ。そんな先の記念日まで待てなんて言わず、手作りクッキーのお礼に今これをやろう」
セシルの開いたビロード張りの小箱には、美しい宝石をふんだんにちりばめたネックレスが入っていた。かなり精緻な仕事がされた、繊細な仕上げの一品だ。
「……いや、セシルちょっと待て」
宝飾品に興味のないココでも分かる。
コレ、明らかにお屋敷一つとかと等価のお値段だ。
「どうした? 謝礼をはずめと言ったのはココだろう?」
「確かに私は高く買えとせびったが、これはいくら何でも上物過ぎるだろう。これ一つで小さな城が一つ作れるぐらい、金がかかっている代物じゃないのか?」
「あー、まあそうかもな。ビネージュ王家に代々伝わる宝飾品の一つだ」
「そんな高価でヤバい来歴の物を、おやつの謝礼ごときで出して来るな!」
「そうはいっても、別に国宝扱いされているほどの物じゃない。それにこれはあくまで、ついででもらえるオマケの品でな」
「オマケ!? これが!?」
「うむ」
セシルはジュエリーボックスを机に置くと、驚愕しているココの腰にさりげなく腕を回して抱きかかえた。
「ビネージュ王妃の地位に付いて来る、オマケのネックレスだ」
「…………つまり、クッキーの謝礼のメインは」
「将来の王妃の肩書だな」
「そんなものをクッキー一枚で差し出すな!」
「ココ、おまえこそ何を言っている」
「何がだよ!?」
セシルが暴れるココの鼻先に指を突きつけた。
「そもそも聖ヴァレンティヌスの日の目的は何だ? 菓子のプレゼントを口実に恋を実らす日だと、おまえが自分で説明してたよな?」
「うっ!」
金儲けのネタにするのに目がくらみ、記念日の意義をよく考えていなかったココは言葉に詰まった。
言われてみれば、クッキーの売買がメインじゃない。
「…………まあ待て。私はそもそも王子と結婚なんかしないと前から何度も……」
「そんなココのほうから申し入れて来たんだ。この俺も奇跡のような出来事に、夢のようだと感涙にむせんでいるぞ」
「……私のほうから?」
「おまえが、手作り菓子を、今日という日に、自分から、俺のためにと言って持って来たんだ。普段は来ない王宮まで、わざわざ出向いてな。これが熱烈な愛の告白でなければ、なんだというんだ」
「いやそれはただ単に日が決められてるから、おまえが大聖堂に訪ねてくるのを待ってられないと思っただけで!?」
「それほどこの日に告白したかったと。心配するな、その気持ちはちゃんと俺も受け止めた」
「皆で粗製乱造した中の一枚だぞ!? そんなどうでもいい量産品で、そこまで考えるんじゃない!」
「俺が『お手製か?』と確認したら、おまえ『自分が作った』と断言しただろう」
「そうだけど! それはそうなんだけど! 機械的に手を動かしていただけで、別に愛も何も込めてないから!」
「ココはまったく照れ屋さんだなあ」
「畜生、聞く耳持ちやがれ!?」
「おまえの言いたいことは理解はしているが、俺に都合が悪いので敢えて無視している。目に見えて残っているのはおまえが記念日にかこつけて俺に愛の告白をしたという事実だけだ。さあ、相思相愛になったところでさっそく結婚しよう」
「こーのーやーろーおー!?」
セシルのからかいは飽きるまで続いた。
◆
「はっ、そうだ! そのクッキー、ナッツの作ったの三枚と交換しないか!?」
「交換したところで相手は変わらないぞ? ナッツが作ろうが市場で買ってこようが、俺に告白したのはおまえだろう」
「くそうっ、こんなことなら(どうせモテない)ナバロにナッツのクッキー売りつけるぐらいで満足しとけばよかった!」
「おいおいココ。こういう時に他の男の名前を出して嫉妬をあおるとか、おまえもなかなか恋の駆け引きが上手になってきたじゃないか。絶対手を放すなって事だな? わかっているとも」
「なんでそういうどうでもいいところばかり拾うんだよ!?」
「それはもう、ココをやり込める機会なんかめったにないからな。全力で反応を楽しませてもらおうと」
「本当に根性腐っているな、おまえ!」
「その道の第一人者に褒められるとは光栄だ」
「性格が悪い者同士、いっそウォーレスと結婚しろよ!」
「ココ、自分を卑下するんじゃない。俺やウォーレスがおまえの悪辣さに太刀打ちできるものか」
「いや、それは認めたほうが卑屈だろ……とにかくもう手を放せっ!?」




