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第161話 悪魔神官はバラされます

 ゴートランド教の神官に化けた魔族は歯ぎしりしながらココを睨みつけた。

「なんで俺があの変態(ダマラム)と間違われるんだ!?」

「え? 違った?」

 ココは真面目な表情で首を傾げた。本気で分からないらしい。

「でも確かおまえ、スカーレット派の幹部だったろ?」

「確かにそうだが!」

「あの変態集団をけしかけたのはおまえだろ?」

「それは……間違ってはいないが……!」

「で、先頭切ってもっこりパンツを見せつけに来た」

「そこの認識が間違ってるっ!」




「あっれーぇ?」

 考え込んでしまったココ。自分の事が記憶の片隅にも残っていない様子に、魔族がキレる。

「あれだけ色々あったのに!? マジメに考えてそれか!?」

「仕方ないじゃないか。スカーレット派は陰険ジジイ(ヴァルケン)ばかり目立って、他の連中だと僧兵団とエセ聖女(フローラ)ぐらいしか……」

「ええい、貴様の残念な記憶力には期待しておれぬ……!」

 呆れ果てた様子で吐き捨てる男に、ムカッと来たココが柳眉を逆立てた。

「おいおい、なんか私ディスられたぞ? パンツマンの親玉が御大層な口を利くじゃないか」

「だったらちゃんと記憶しておけ、この底抜け聖女が!」

「人間の記憶容量には限界がある。古かったりどうでもいいことから消えていくんだ」

「たった三か月前、おまえもクビになりかかったのに何故忘れられるんだ……!?」


 こいつ、マジか!?


 また首を捻っている聖女を置いておいて、魔族は半ばやけくそ気味に保護者(セシル)に向かって叫んだ。

「おい王子、おまえ本当にこんなのと結婚する気なのか!? 宮廷に慣れるどころか社会常識さえ怪しいぞ!?」

「ココにはココの良さがあるんだ。おまえごときが口を挟むな、パンツマスター!」

「非常識なのはコイツもだった!」




 進行が全然思い通りに行かなくて頭を掻きむしる魔族に、もう思い出すのを放棄したココが催促した。

「とりあえずさぁ。パンツメンから脱出したければ、もうサッサと自分で名乗れよ」

「ああそうだな! おまえの頭の残念ぶりは良く分かったよ!」

「なんでコイツキレてんの?」

「お・ま・え・の・せ・い・だっ!」

 両手で印を切って術を解き、元の魔族の姿に戻った男は“おバカな少年少女”に向かって胸を張った。

「先日の教皇選では、俺はスカーレット大聖堂宣教部長、ネブガルドを名乗っていた。どうだ? 思い出したか?」


「ネブガルド宣教部長!?」

 先日の教会からの手紙にあった名に、やっとセシルは思い出して身構えた。


「宣教部長? ネブガルド……」

 まだ全然思い出せず、ココは余計に首を傾げた。


「プッ!」

 聞いたゴブリンは抑えきれず、うっかり噴き出した。


「……」

 付近の注目がゴブリンに集まる。

「……ゴブさん、何か失笑しちゃう要素があったの?」

 ココに訊かれて、口を押えているゴブリンがコクコク頷く。

「ギャ、ギャギャ! (『ネィ・ブロウ・ガァル・ドゥ』って古代魔族語を繋げると、『冥府の闇を切り裂く隼』って意味になる)」

「……それって、つまり……」

「ギャッ! ギャッギャッ、ギャッ! (まあ、いわゆる……思春期の子が良く言い出す、『ぼくのかんがえた、かっこいい二ツ名』ってやつだな!)


 ……。


「プッ、ククッ、なっ、なるほ……ブフッ! おまえがアレか、ネ、ネブガ……アッハ! ……ルドという“偽名”で潜入していたわけか! うん、思い出してきた!」

「そっかー、その年で……ウププ……いや、まあ、偽名なんて個人の趣味だし? うん、私はいいと思うな! バレなきゃいいん……ブッフォ!」

 セシルとココは必死に笑いたいのを堪えてフォローしてやったのに、魔族はなぜか傷ついたようだった。青い肌をたぶん真っ赤にして(青が濃くなったが)怒鳴ってくる。

「うっ、うるさい! 人間の分際で笑うな! 今、おまえらの命がかかっているんだぞ!? マジメにやれ!」

「だ、だからコラえてやっ……アッハハ、やってるんじゃないか!」

「そうだそうだ! 私たちに言う前に、後ろで肩を震わせてる部下に言えよ」

 後ろの部下たちを物凄い形相で睨んでおいて、元ネブガルド宣教部長はもう一度ココたちに振り向いた。

「フンッ、せいぜい今のうちに笑っておくことだな! スカーレット派宣教部長とは仮の姿! 魔王四将が一、この悪魔神官ブラパがおまえたちをことごとく煉獄へ送ってくれるわ!」


「悪魔神官、ブラパ……」

 笑い収めたセシルが顔を引き締める。


「魔王軍でも神官なの? おまえ」

 できる職種の幅が無いと転職で潰しが利かなそうだな、とココは思った。


「ギャッ! ギャギャギャギャッ! (もうやめてくれよ!? おまえ、俺を笑わせ殺す気か!?)」

 ゴブリンがもう堪えるどころではなくて、地面を転がりまわって大爆笑している。


「……」

 付近の注目がまたもゴブリンに集まる。

「……ゴブさん、今度は何?」

 ココに訊かれて、呼吸困難になっているゴブリンがコクコク頷く。

「ギャッ! (えーとね?)」

「待て、そこのゴブリン! おまえは余計な事を言うな!?」

 慌てて元ネブガルド・現ブラパが止めようとするが……。

「ギャギャッ! ギャッギャギャ! (『ブラパ』ってね、魔族社会東部の方言で『いくつになってもオムツの取れない子』って意味なんだよ)」


 ……。


 一瞬ののち。


 地面が揺れた。




 誰もが笑っている。

 ココの通訳が聞こえる範囲の将兵が、腹を抱えて大爆笑している。

 皆がゴブリンに注目して静かにしていたおかげで、意外と遠距離まで聞こえていたらしく……聞こえなかった連中も又聞きしているようで、笑いの輪がどんどん拡大して行っている。


 セシルが止まらない笑いの中、目尻の涙をぬぐいながらフォローを入れた。

「そ、それ、それは、カッコイイ二つ名に憧れるよな!?」

 ゴブリンと一緒に転がっていたココが、地面を叩きながら自分を納得させるように何度も頷く。

「わ、わっかるわぁ……それは、そおれはおまえのせいじゃな……でもすまん、笑いが止まらん!」


 セシルもココも笑いの発作が収まらなくて脇腹が痛い中、息も絶え絶えながら必死にフォローしてやっているのに……なぜか悪魔神官ブラパ(笑)君はマジギレで半狂乱になっていた。

「お、おまえらっ!? 言っておくが俺の地方じゃ珍しい名前じゃないんだからな!? そもそもこの名は『いくつになっても手元から放したくないほどかわいい子』って意味の愛情ある名前で……というかそこのゴブリン! おまえ何なの!? なんでどれもこれも分かるんだ!?」

「いやーあ、そんな愛情たっぷりに育てられた子が、なんで魔王軍の幹部なんかになっちゃったんだろうな。お母さん、悲しんでるぞ」

「王子おまえ、俺を幾つだと思ってる!?」

「いやいやセシル、魔族じゃ私たちと感性が違うかもよ? 魔王軍に入って人間界を征服する方が『いい子』なのかも」

「だからこんな時に家族ネタを持ち出すな!」

「ギャッ! ギャッ! (次は何? 心構えしておくために先に聞いておきたいんだけど?)」

「おまえは永久に黙っていろ! いやそもそもおまえ、なんでゴブリンが人間軍に紛れているんだ!?」




 悪魔神官ブラパは見るからに怒髪天を突く様子で叫ぶ。

「オォマァエェラァアアアア!? 地獄の底へ引きずり込まれて後悔するがいい!」

 どうやら名前の件は、相当に気にしていたらしい。


(だったら初めに、粗探しが始まるような二つ名を名乗らなければよかったのに)


 そうココなんかは思うのだけど。


 ブラパは両手を掲げ、何か大技を繰り出す準備を始めた……と、その前に。

 後ろで部下がまだ笑い転げているのに気がついてブラパが指を鳴らし、全員を一瞬で消し炭に変えた。

 

 狂気を孕んだブラパの振る舞いに、さすがにココはちょっと引いた。

「おいおい、そりゃあ部下に笑われるのは腹立たしいだろうけどな? 『地獄の底へ引きずり込む』とか、ちょっと上司の説教にしては大人げないんじゃないの?」

 ココがたしなめたら、ブラパがものすごい目つきで睨んで来た。

「それはおまえに言ったんだ!」

「ありゃ」




 しかし、ブラパは部下を全員始末してしまってどうするのか?

 やっと鎮まったココとセシルが注目していると。


 何やら呪文を唱えたブラパは、掌の先に浮かんできた黒い稲妻の塊を頭上から……足元の地面へと投げつけた。

「なんだ、あれ?」

「地下? いや、神官だと言っていたな……」

 囁き合う王子と聖女に向け、悪魔神官が頬をゆがめ、ニィィィ……と嘲笑を見せ。


「さあ、クズ王子と底抜け聖女よ……()()()()()()の恐ろしさを知るが良い!」


 そう叫ぶと、渾身の秘術を発動させた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴブさんが要所要所でおいしいのクッソ笑う
[一言] 確かに某ブタゴリラさんを思い出す
[一言] こんな締まりの無い人類vs魔王軍の戦いは見た事ない!(笑) この作品コミカライズ向きだと思いますww
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