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第130話 聖女様はいいかげん付き合いきれません

 想定外に行われた教皇選は、迷走の末にケイオス七世の続投と相成った。


 ココに言わせれば教皇(ジジイ)が勝ったというより、陰険ジジイ(ヴァルケン)がかってに負けたという感じだけど……。

「ま、これで一件落着か」

 大陸会議で「他派からのツッコミが~」とか言う話から、わずか二週間でずいぶん遠くに来ちゃった感じがする。

 でもこれでやっと日常生活に……


「ちょっと待ちなさいよ!? 冗談じゃないわ!」


 ……とは、行かなかった。




 選挙戦の結果に物言いをつけたのは、スカーレット派が擁立した“聖女”だった。

「こんな結果を認められる訳ないじゃない! ありえないわ!」

「いや、しかしじゃな」

 詰め寄られたモンターノ大司教も、いまさら「認められない」などと言われても困る。

「投票の結果も正確であるし、ヴァルケンの何が敗因になったのかも理解できた。これは納得するしかないであろうが」

 立会人(モンターノ)が困惑して諭すが、向こうの聖女は納得しない。

「ゴートランド教のトップを決めるのよ!? なぜ信仰で計らずに人気取りや身分の話ばかりになるのよ!? 教皇様って言うのは世俗の事ではなく、女神様へのひたむきさで選ぶべきでなくて!? この選挙、そういう視点が何にもないじゃない!」

 ある種、真っ当な意見ではある。


「あー……!」

 役人や下級の神官たちのいくらかは、言われてみれば……という顔をしている。確かに宗教団体ならそうあるべきかもしれない。


「あー……」

 ゴートランド派やブレマートン派の上層部は、いまさら何を……という顔をしている。そんな話は最初にするべきで、形勢が悪くなってから言い出す話じゃない。


「あぁぁ……」

 大半の下っ端は疲れ切った顔で声も出ない。二週間散々引っ掻き回されて、この上さらに教皇選(バカみたいなの)が延長になるとか、悪夢でしかない。




 周囲の人々の様々な反応を背に、スカーレットの聖女様は無効を訴える。いまいち賛同は集まらないが……。

「なあ……さすがに往生際、悪くない?」

 その見苦しい態度に、見かねたココが口を挟んだ。

 だが。

「当たり前じゃない!」

 フローラがキッと睨み返してくる。

「この教皇選でゴートランドが勝ったら、あなたみたいな人をこの先も聖女扱いしなくちゃならないのよ! そんなことは許されないわ!」

「争点、私かよ……」

 しかし、許されないも何も。

「私、今まで八年聖女だったんだけど」

 ココは昨日今日任命されたわけじゃないのだが。


 だけど、その反論はフローラには逆効果だったらしい。

「それがおかしいのよ! 女神様への冒涜が八年も続いているのよ!」

「言ってくれるなぁ……」

 ココも散々偉そうなヤツにバカにされて来たけど、ここまで真正面から罵倒してくるヤツも珍しい。

「わたしの何がダメだというんだ」

「全部よ!」

 全否定。


 こういう打てば響く反応、ココも嫌いじゃない。

 ……自分への批判でなければ。

 

 眼を三角にしたフローラが、ココの胸に人差し指を突きつけてくる。

「晩さん会での一件は聞いたわよ!? 礼儀もマナーも無いどころか、高位の神官たちに敬意も払わず暴力をふるったんですって!?」

「まあ、たしかに」

 それはまあ……認めざるを得ない。

 フローラはココの肋骨を連打しながら、ダメ出しを次々に叫び始めた。地味に痛いのでやめて欲しい。

「いつでもどこでも好き勝手やって、後先考えずにメチャクチャばかり! 気に喰わないと腕力に訴えて、追及されるとすぐに子供を言い訳に逃げて! 聖務もお金をもらわないとやらない、寄付金も拾ったお金も着服する! こんなに好き放題やらかしてばかりで態度も悪くてイカレててやる事に知性もない暴力バカの守銭奴のクズが……他の肩書ならともかく、“聖女”を名乗るのよ!? 信徒として、絶対認められる訳ないじゃない! 皆さん、どう思われます!?」

「……おまえ、よく今のを一息で言えたな……」




 さあ困った。

 納得しないフローラはココに指先を突き刺したまま、オロオロしているモンターノ大司教に詰め寄った。

「この女を見ればわかるでしょう!? 教皇を選ぶにしろ聖女を選ぶにしろ、まず信仰心正しき者かどうかを問うべきです!」

「うーむ……確かに現聖女は我が派(ブレマートン)以上の超世俗派で、正直コレを聖女と呼ぶことにワシも抵抗があるにはあるが」

「おいっ!?」


「だが、それらも含めてのトニオの再選であろう?」

 モンターノは選挙の無効を認めなかった。

「選挙運動にも投票にもイカサマは無かった。ならば最初に設定した条件で出てきた結果に、無条件に従うのが道理じゃろう。どんな意外な結果が出ても、それが神の思し召し。それがギャンブルというものじゃ」

「ジジイ、おまえの専門分野と話が混ざってるぞ」


 横で腕組みして成り行きを見守っていたセシルも頷いた。

「そもそも教皇選を言い出したのも、市民選挙にしたいと言ったのもスカーレット大聖堂の主張だと聞いているぞ? 選挙も方法も希望通りになったのに、戦略ミスで敗退となったのは自業自得ではないか」

 立会人の意見は一致した。

「結果が意外であることと選挙が無効であることはイコールではない」

「お互い手を尽くしての、この結果じゃ。これは女神様のお言葉と心得よ」

 セシルとモンターノが再び断言した。

 “ケイオス七世の当選は覆らない”と。




 でも、それで収まってくれるぐらいならフローラも最初から言い出さないわけで。


 黒髪の少女はヒステリックに叫ぶ……いや、もうヒステリーそのものだ。自分の信じる世界以外は受け入れられない。

「なんと言われようと、こんな悪徳の塊が聖女を名乗るようなゴートランド派が勝つなんてことはあってはならないのです! 正義がないがしろにされるような結果が出るのを受け入れるのは、女神の御意志に反するわ!」

「シスター・フローラ……()()()()に負けた気持ちは分かるが……」

「分かるな!」


 説得に頭を悩ますモンターノを押しのけて、さすがに腹が立ってきたココが自称“聖女”と対峙した。

「おまえな、いいかげんにしろよ? 自分に都合がいい結果じゃないとダメなんて、それじゃ初めから選挙の意味がないだろう」

「何を言うの! 教団はこの選挙で、教理に基づく清廉な組織に立ち戻る筈だったのよ!? そのチャンスを潰してしまったら選挙に意味なんかないじゃない!」

 フローラの主張になんとも言えない複雑な顔をしている、ブレマートン(世俗)派のモンターノ師。

「せっかくの機会に間違った選択をして、選挙の意味を無くしてしまうなんて……有権者の愚かさにはあきれ果てたわ!」


 あちこち八つ当たりを始めたフローラに、眉をしかめてこめかみのあたりを掻いていたココがツッコんだ。

「さっき、このジジイも言ってたじゃないか。おまえのところのジジイは言いたいだけ言って、それで負けたんだぞ? ならばそれが、女神の御意思ってもんだろ?」

「そんなの認めない! 正しいことが通らないなんてことが許されるわけがないわ。もしこれが神の意思なのなら、それは神が間違っているの!」

 フローラは血走った目でココを睨みながら断言した。

「ゴートランド教団で唯一正しい信仰をしているのはスカーレット大聖堂よ! この正しさが分からないのは誰であろうと許されない!」

「おまえのその考えが一番間違いだと思うけどなあ……」

 ここまで相手が頭に血が上っていると、ココも何と言っていいか分からない。


 困ったことに、一度は心が折れたスカーレット派がフローラの健闘(に見えているらしい)で尻馬に載って騒ぎ始めてしまった。

「そうだ、真に大事なことが分からないのがおかしい!」

「惰性でただ拝んでいる連中に、信仰の何たるかはわからぬ!」

 口々にスカーレット派の心正しき意志を訴え、道理の分からぬ“バカども”をなじるけど……こういう独善的な所が受け入れられなかったというのは、彼らには理解できないのだろうか。

(こいつら、何を言ったって聞いてはくれないだろうなあ……)


 口で説得はココには荷が重い。

 一番やりたくなかった手だけど……簡単には収まりそうもなかったので、ココは最終手段を取ることにした。

「しかたないな……よし、フローラ。ちんけな炎を出して聖女だなんてドヤ顔しているおまえさんに、本物の聖女がどんなものか、見せてやるよ」

「……は?」

 初めからココが偽聖女と決めつけてかかっているフローラは怪訝な顔をしているけど、ココはそんなの相手にしない。

「さあ、おまえらもな。たぶん、こんな機会は一生に一度だ。良く見とけよ?」

 騒めく周りの群衆に一声かけると……ココは半眼になって両手を前にかざし、軽く息を吸い込んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 天罰食らっても文句言えないと思うがこの発言
[一言] あの聖水をぶっかけて目を覚まさせるといいんじゃね?
[一言] 神の否定までし始める似非聖女さん、もはや自分が何を言ってるかも理解できてないんだろうなぁ… 正直言って僧兵団含めてどこかズレた人ばかりのスカーレット派を綺麗さっぱり叩き潰した方がこの世界の…
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