耕作放棄地のfantasy
「いまは荒れているが、この畑も明日には黄金の麦が生い茂る豊穣の地になる。」
ホラ吹きは言った。
見渡す限りの畑の真ん中に小屋がある。それが我が家だ。私はその時、父と2人で暮らしていた。母は何年も前に死に、兄弟も幼くして死んでいき、残っていたのは私だけだった。父はその日も荒れ果てた畑を見つめていた。ただひたすら、痩せこけた体で何時間も立ち続けながら。
「ねえ、なにしてるの。」
思わず私は尋ねた。
「見てるいるのさ。」
父は言った。擦り切れそうな声で。
「この畑の行く末だよ。」
父はそう言うと、再び畑をじっと見つめた。家の周りの畑は耕されずに放置され痩せ衰え、手入れがされていないので雑草が生い茂り、大自然の一部に戻ろうとしていた。
私は不安になった。このままではこの畑が、未来が、大切な何かが、大いなる源に還ってしまう。 ……そう感じたからだ。
不安な気持ちに襲われた自分に、父は耳元でそっと「瞼を閉じて、畑を見つめてごらん。」と囁いた。
目を閉じると、そこには見渡す限りの黄金の麦が風と共に波となって揺れていた。
日が暮れる頃、風来の旅人が草原の中を二輪車で駆け抜けていた。ふと辺りをみると、崩れた小屋の近くで立ち、独り遠くを見つめている老人を見つけた。その老人の目線の先には何かあるわけでもない。不思議に思った旅人は二輪車を近くに留め、ボンヤリとしながら立ち続ける老人に尋ねた。
「そこのお爺さん、なにを見つめているのですか?」
老人は答えた。
「……畑の未来だよ。」