8ヤヤヤ
「あなた持ってるんでしょ」
いつの間にか上り込んだ彼女に
スポーツドリンクを、汚くないような
コンビニで、スポーツドリンクを十本買うともらえるコップに注いだものを
彼女の前に、置いていた
彼女は、この部屋に唯一ある丸い机の下に置かれたいつ紛れ込んだのか思い出せない座布団に
正座をして座っている
先ほどから動いておらず
相変わらず怖いお面を顔に付けて座っている
何だろうかもののけ姫のコスプレを失敗した感じなのだろうか
「どうしたいんだ」
僕は、彼女の座る机の前に座ろうか
パソコンの前の椅子に座ろうかと
一瞬思案したのちにパソコンの前に座る
奴の方が、下に居るはずが
その威圧感は、部屋の空気を凍らせ続け
スポーツドリンクの温度まで冷やしているのではないだろうかと思ってしまう
果たして、僕の改造した日本人形を
押入れから出した方が良いのだろうか
それとも、隣町の社に野ざらしにされている人形を持ってこようか
いや、違う彼女にとって、その人形が、一体何者なのかが重要なのだろう
僕は、彼女に出したスポーツドリンクを眺めながら
自分の分も持ってこようと立ち上がった
「あなたが持っているんでしょ」
お面の内側から漏れるその声はくぐもって聞こえ
高いのか低いのか分けにくい声だ
「実は、持っているには、持ってるんだけど、今、君に見せるわけにはいかなくなっいているんだ」
くぐもる声が聞こえる
「何でよ」
僕は思案した
「実は、僕好みの人形にしてしまったから君に逢いたくないかもしれない」
少女が、揺らぐように立ち上がった
音が聞こえない
「返して」
果たして彼女が、いつ僕が人形を持っていることに気が付いたのだろうか
僕の部屋に飾られたアニメキャラのロボットのポスターだろうか
それともドラえもんのしずかちゃんの精巧な1/80ガチャポンサイズフィギュアシリーズだろうか
いや、僕が、僕が、彼女の問いに答えてしまったからだ
「か、返します」
僕は、久しく開いていない押入れを開けると
中から元日本人形を取り出して彼女に差し出す
「すいません」
僕は、腹に衝撃を受けた
小さいながらに鋭いその足が
僕の鳩尾を縦蹴りに蹴り上げた
「あう」
空気が口から漏れ出し僕は、うつむく
「あ」
背中に衝撃が、加わる
徐々に見上げた僕の顔に横蹴りに
彼女の白い靴下がその小柄さからは想像できない
生意気な速さで横線に見える足先がクリティカルヒットした
なんか、血の味がする
うつむく僕の向こう側で、乱暴に扉が開く音がした
「さてどうする」
僕は、倒れたスポーツドリンクに濡れながら雑巾の場所を思案している