~第1幕~
野神修也が生まれたのは今から20年前のことになる。
投資家の成功者にして大富豪野神一家の次男として世に生を授かる。しかし周囲の期待とは裏腹に彼の学習能力は低くて、様々な英才教育を施されたにも関わらず優秀な成績を収めることは出来なかった。
彼の取り柄といえば母親譲りの陽気さだった。腹違いの姉である晶子へ自ら積極的に懐いていた。成績優秀でない少年ではありながらも学校では人気者で、彼を慕うのはクラスメイトのほとんどがそうだった。
さて彼の運命が変わったのはいつからだろうか。少なくとも多少の能力不足だった彼だが、それが彼の運命を変えたとはし難い。
彼らの父親は2度目の再婚をした。即ち修也と彼の母は捨てられたのである。彼の母はいつしか精神病に悩まされていた。それは成績不憫な修也への教育の在り方について日々夫から叱咤を受け続けていたからだ。夫は何もしなかった。仕事があるからと愛人と密会を重ねているのは知っていた。
彼の母はわかっていた。いずれは野神家を離れなければならないと。しかし自身が産んだ我が子を見捨てることができるか? それだけは……それだけはできない気がしてならなかった。
「ママ、これからどこへ行くの?」
「さぁ、でも逞しく生きなきゃね」
「あの……どこにいくの?」
「心配しないで。私たちでなきゃ得られない幸せを手にしましょう」
「そっか」
「寂しいの?」
「うん、沢山持っていきたかったけど、これだけだし……」
修也は虚ろな瞳で右手に持った虫籠を眺めた。そこには何匹かのクワガタとカブトムシが動き回っていた。彼の趣味は物心ついた時から昆虫採集と昆虫の飼育だった。与えられる物は何でも好きなだけ与えられる彼だったが為にその趣味へ没頭する機会は幼少期ながら充分にあった。
しかし3畳半の狭い部屋の中で彼の虫たちは呆気なくも亡くなっていった――
∀・)野神修也の過去話のはじまりましまり~。次号!!




