~第11幕~
大丸山の中腹、野神修也が「一人にさせて欲しいな」と離れたことを受けて、翔は彼を待つことにした。勿論この場で逃げられても困るので小さな蛍を彼の背後につけたわけだが。彼は山の中腹から見える景色をぼんやりと眺めているだけだった。感傷に浸っているのか? らしくもない行動だ。
数時間ぐらいは経っただろうか? 落ち着いた面立ちで修也は翔のもとへとやってきた。彼自身にメンタルをケアする手法でもあるのか? 疑問は色々と尽きないが、黙ってそれを見守るのも退屈だと思ってやまない。
「ちょっとは落ち着いたか。そろそろ陽も沈むぞ?」
「まあ、ボクは頭が良くはないからね。でも考える必要はあると思った。さっきの時間は脳味噌をフルにまわす為の時間さ」
「ほう? 何を考えていた?」
「オタクもそうだと思うけど、ボクが戦闘態勢に入れるまで残り2日は欲しい。そしてその態勢になった時にボクは何を為すと思う?」
「ここにきてクイズか? 質の悪い死神だな」
「死神に質の良し悪しなんてないだろうよ? それで何だと思う?」
「まあ、2つあるな。1つは敵を倒すこと。もう1つは姉の救出だ」
「へぇ~明神さんは勘がいいね。そういう仕事をしていたのだね?」
「図星なのかよ。それで2つのうちどちらかを選ぶのに何時間も悩み続けて、答えがでないようなら君はただのお子チャマだな。俺の分析もロクに出来まい」
「ふふっ、ボクの中では答えがでている。ただしそれはあなたがどう動くかによって変わりえるものだ」
「ほう、ただのお子チャマではなかったということか?」
「まず、ボクは姉を留置所から連れだすことにするよ。その理由はわかる筈だ。ボクが大人しくしているうちに西園寺さんかエレナさんが彼女を狙う事なんて想定の範囲内だという事。そうなればボクはどちらかと闘わなくてはいけない。そうなるよね?」
「まぁ、推測に容易くはあるが、それはごもっともだ」
「そこで気になるのはその場合、オタクはどう動くかということだよ」
「俺が?」
その一瞬で翔の頬に切り傷が入る。痛みが滲みて毒だとすぐにわかったが、彼はこれを瞬時に光で治した。
「貴様!! 何をした!!」
そして光線を修也に目がけて放つ。
修也はダメージをくらい吐血したが、ニンマリとした顔をあげて話を続ける。
「このようにボクとオタクが戦えばオタクが勝ってはしまうだろう。それでもボクはアンタに重傷を負わせることができる……」
「何が言いたい?」
「オタクがここでボクとやりあうのも1つの選択肢であるということさ。でも、それではあまりにもお互いに得るものがない」
翔は人差し指に光を集めて構えた。
「まわりくどい言い方をしやがって。要するに何がしたい! 俺をまた手駒にしたいと言うのか!?」
修也は首を横にふって余裕をみせる。
「ボクとオタクは対等なのだろう? ボクがその気になれば。もうボクに余裕なんてモノはない。つまり死すらも覚悟のうえでアンタにお願いをしようっていう寸法さ。さっきの攻撃はそのデモンストレーションみたいなものさ」
「用件を言え。場合によってはただで済むと思うな……」
修也も構えに入った。それは覚悟の表れだ。
「ボクの留置所襲撃に協力しろ。西園寺か黒崎が現れたら共に戦って倒す事にしよう。これを飲まないのなら、ボクはこの命をもってアンタを死の境界線にまで追い込む……その交渉だ……!」
修也には禍々しいほどのオーラがかかっていた。彼は本気だ。それを感じるには充分すぎる殺気。しかしそれは敵にして天晴れとも感じられるものだ。
「さっきの数時間で遺書でも書いたのか?」
「何だって?」
「いいや。何でもないさ」
翔は蓄電を抑えて手を下げた。
「その覚悟、同盟を結んだ者としては受けるに他ない。いいだろう。晴れて敵となるまでに君の姉との誤解を解きたいのもある。君と行動を共にしよう。敵を共に倒せるのであれば、同盟を結んだ価値も生まれる。具体的に作戦を企てていこうじゃないか……!」
翔は遂に手を差しだした。修也はおどけながらも、それに合わせる。
「君が覚悟を決めている間、モニターを確認したよ。作戦成就の為に今できるありそうだ。今晩やってみようじゃないか」
「へぇ~ただ退屈な夜を過ごすワケじゃあないって事? そりゃあ楽しみだ!」
陽が沈んで辺りが暗くなったその時、明神翔と野神修也は握手と新たな協定を交わした。修也の決死の覚悟、それはこれからのゲームをより動かしていくものとなっていく――
∀・)翔と修也の結束固まるの巻でした!っていうか留置所襲撃の約束を交わしている(笑)さてさてこうなると西園寺明日香や零たちがどう動くかが注目になってきますよね。ただ次話は彼らの夜が続きます。どんな展開が待っているのかは次号で!
∀・)えっと、発表遅れましたが『SHINKIROU THE SHINIGAMI』が連載2周年を迎えました!これほど凄惨でキツめのチャンバラアクションにも関わらず今でもボクが想っている以上の読者さんがいられることに喜びと驚きを持っています!最後の最後を飾るそのシーンに向かって走ってますが、現時点は折り返し地点を曲がってちょっといったところ。最後のゴールテープを切るまで走ります!そして皆様にちょっとでも楽しんで貰える作品になるよう頑張って楽しみます!イデッチでした!