~第10幕~
その夜、ひとまず零達は心身療養できる場所を探した――
エレナと手を繋ぐことで誰からも気づかれることがない。
「つくづく便利な力だよな」
鬼道院との別れから口数が少なくなった零がぼやく。ほんの少しでも何か話したい。エレナがそう想えば想うほどに彼女の口も重くなっていた。
「よぉ、ちょっと思いついたことがあるけどいいか?」
「ナ、ナンダ?」
「横浜駅までヒトッ飛びできないか?」
「ヒトットビ?」
「ああ、街中でもいいよ」
「ソンナ人ガ沢山イルトコロニイッテドウスル気ナンダ?」
「でも、お前に捕まっていれば誰にも見えないのだろう?」
「マァ、ソウダケド?」
「せっかくだ。思いっきり贅沢しようぜ?」
「贅沢?」
零達一行はエレナの飛行で横浜駅近くにある高級ホテル付近まで移動した。そしてそのままホテルへと潜入した。今は横浜市が物騒なこともあってなのか、客数は少なく最上階付近の部屋にも空きがあった。
「零、頭ガイイナ」
高級感に包まれた一室に入るなり、エレナは素直に言ってみた。
「何故だろうな。お前は人のナリをしているけど、余計な感情が湧かないから不思議だよ。姉ちゃんに瓜二つなのにさ……」
「余計ナ感情テナンダヨ?」
「生理的な話さ。でもお前が一体何者なのか、ようやくわかった気がしてさ」
「…………」
エレナはじっと零を見つめる。そして彼女の愛情表現をしてみせた。
「馬鹿! そういうことをするものじゃねぇ!」
零が手を振り払うことで、零の手とエレナの手が離れる。すぐさまエレナの手をとったのは零だった。案の定ホテルマンらしき者が自衛官らを引き連れて部屋にやってきた。零達は息を殺して身を潜めた――
幸いホテルマン達は首を傾げながらも去った。
「全くヒヤヒヤするよ」
「スリル満点ダッタナ」
「誰のせいだよ?」
「私ノセイカヨ?」
「当たり前だろう。でもお前が何かハッキリとわかったような気が……ああ、まあ、もういいや。ほら、ふかふかのベッドだぜ? 堪能しようぜ?」
零たちはホテルのベッドで休むことにした。だがここでも零の念押しは続く。
「言っておくが、俺は寝が浅い。今のようなことをしたらスグにわかるからな。そしてやってみろ? タダのお仕置きじゃ済ませないからな……」
零の眼差しは至って真剣そのものだ。エレナは息を飲んだ。
結果的にエレナはよく寝たが、零はその神経をとがらせたままだったので、彼が寝つくことはほとんどなかった――
そして朝、彼はなんとなくテレビをつけた。
見覚えのある人物が警察車両の中で連行されている。燃え盛る豪邸、これは零にとって何とも衝撃的な出来事である筈だった。しかし彼はあくびをした。そしてぼんやりとそれを眺めるだけだった――
エレナは鬼道院の事を零が引きづってないか気になっていたが、その心配はなさそうだ。ここに客がくるまで零にうんと休んで貰おう。彼女はそう想って彼の背中を支え続けた。細心の注意を払いながらも。
『本日8時30分、横浜市にて、河越市長より緊急事態宣言が発令させました! 繰り返します――』
もっとも、今日新しい客がここに来るとは考えにくいことだが。
∀・)零&エレナ、高級ホテルに泊まるの巻でした!エレナの能力あってこその贅沢でしたね(笑)実は書いてみたいエピソードだったり。で、見方にはよるんですが、この話って実は重要なポイントが隠されていたりもします。勘のいい人にはわかる。重要なポイントです。まぁ、わからなければそれはそれで楽しめるかな。また来週!




