~第3幕~
明神力也が遅れて現場にやってきた。彼をみた者は誰しもが驚きを隠さずにいられなかった。特に柏木は顕著だった。
「警部! どうしているのかと思えば! その片腕は!?」
「あ、ああ。突然外れてしまって……だが、今は大丈夫だ」
「どうみても大丈夫じゃないでしょ!?」
誰にも見えない翔はやれやれといった顔をしてみせる。
「綾間はどこだ」
周囲の心配を他所に力也はどんどん進んだ。そして綾間紳一郎の亡骸を確認する。彼は目を硬く瞑って天井を仰ぎみた。こんなところで泣いてしまっては甲斐性もない。彼はいたって固い矜持を持つ男であった。
小声で声を詰まらせながらも、翔へ問う。
「これは鬼道院の仕業か? 死神の仕業か?」
「………………」
翔は顎に親指を当てて考える。廃工場で決闘があって、それから僅かの時間しか経っていない。西園寺には余裕があるのだろうが、逃避行を早々に図った黒崎零と鬼道院、そして重傷を負った野神には余裕なんてなかった筈だ。だが、そもそも彼が何かに振りまわされていたとしたら……
力也が置かれている状況も状況だ。すぐに整理する必要はあった。
「可能性としては彼が黒崎零を鬼道院絡みでマークしていたのなら、黒崎零、あるいは鬼道院が何らかの目的で処分した可能性がある。父さんは久しく彼と関わってないから覚えてないのだろうけど、この首を狙った手法・毒の盛り方は彼のやり方そのもの」
「じゃあ、アイツが?」
「さっきまで決闘に臨んだ中でわかったことだけどさ、鬼道院は死神ゲームに何かしら関わっている。あくまで仮説に過ぎないけど、黒崎零と鬼道院が手を組んでいるとしたら、全て筋が通る。例えば『証人』に鬼道院を嵌めたのなら」
「なんだと!! じゃあこれは鬼道院の仕業! いや黒崎達の仕業なのか!」
力也の大声に柏木警部補が即座に反応した。
「こんなところで突然一人芝居はやめてくださいよ」
「む、すまん……」
「警部は仕事に入る前に病院へ行って、その片腕を亡くした原因をつきとめて下さい。それだけ動ければ救急車も必要ないでしょうし、タクシーぐらいなら私が呼びますよ?」
「だから大丈夫だと言っている……」
「そういう問題じゃないでしょうが!! あなたがここに来てしている事は何ですか? ただ、現場を混乱させているだけでしょうが!!」
これはまずい。咄嗟に判断した翔は力也へ提案した。
「父さん、俺が3・2・1・と数えるから、0で逃げてくれる?」
「え?」
「俺がこの場でフラッシュを焚く! このままだと父さんが捕まるよ! すぐそこで合流できればいい! 話は後でするから!」
「わ、わ、わ、わかったぞ?」
「3・2・1…………0!!」
翔は全身を最高値で発光させて辺りを照らした。約40秒、力也がこの現場から抜けだすには充分な秒数だったようだ――
∀・)明神親子の話でした。力也さんってごっついオッサンなイメージなんですけど、なんか可愛いですよね(笑)暫くこの親子の話になります。ちょっと時系列があれこれと動きますが(ほんのちょっとね)、宜しくです。また次号。




