~第6幕~
零が自宅のマンションに到着する頃、あたりはいやに静かになっていた。
エプロン姿の真人が「おかえり!」といつもと変わらないようにして迎えてくれた。
台所、机の上には真人の作った夕食が並べて置かれている。
「ほら、食べろ。お腹空いているだろ?」
「うん……あの……」
「なんだ?」
「ごめん……」
「いい、気にするな」
零は椅子に座り、ご飯を食べようとした。
しかし箸を止めた。
「あのさ、実は今日気になっていることがあって……」
「なんだ? メールの件か?」
「いや、違う。今朝の朝ご飯食べた後に俺、一気に眠気がきたのだけど……」
「そりゃあ、お前が一晩寝てないからだろ?」
「真人ニィさ、何を焦っているの?」
「焦る? お前が食べなきゃ、お前の健康が崩れるのが心配なのだろうが」
「あのさ、肝心なことを忘れているよ」
「は?」
「俺、寝る前は必ず睡眠薬飲むんだよね。飲まなきゃ寝られない筈なんだよね」
「何が言いたいんだ……」
「今朝のパンもコーヒーも普通じゃないぐらいに苦かったぞ」
零は真人を睨んだ。
「ふふ、ふふふ……」
「何がおかしいの?」
「はーはっはっ!!」
「何が可笑しい!! この下衆野郎!!」
零は大声で怒鳴って、おかずのスープを真人に吹っ掛けた。
零は驚いた。真人の体は漆黒の鋼鉄へとみるみる変わっていった。
零が呆然としている間にも、真人は体を変形させて片腕を大きな剣にした。「おとなしくろ」と小声で言うやいなや零へ突き刺した――
咄嗟の出来事だったが、零はなんとか避けた。頬には切り傷ができ、血が滴りだした。
「う、うわあああああああああああああ!」
必死に逃げるしかなかった。だが、気づいたことが1つあった。
自身の身体を変形させること、また歩く速度はかなり遅い。
駆け足で13階から1階へ。
安全な場所と言っても見当つかないが、ここにいては狙われる。それだけはわかった。
「デパート、そうか、あそこに行けばアイツが……!」
エレナと名乗った女は近所のデパートにいた。そして真人が悪魔であることを指図してくれていた。もし、合流できれば真人に一矢報いることができるのかもしれない……!
「れえええぇええぇぇええぇぇえええぇぇぇええい!!」
上空から響くおぞましいその声はすぐ近くにやってきた。
ドーン!! という大きな音とともに鋼鉄の真人は目前に現れた。
「あつっ!!」
飛び散った液体が零の足元の一部にかかった。すぐにそこは火傷した。
「ふふふ、逃げられると思ったのか? 馬鹿が!!」
零はカッターを真人に投げつけ、彼の横を走ってくぐり抜けようとしたが、叶わなかった。彼の片手に触れられてしまった瞬間、体が鋼鉄の輪に縛りつけられたのだ。投げつけたカッターも彼の鋼体に弾かれただけだった。
「クソッ!! 化物が!!」
「おいおい、家族相手にそんな言葉はないだろう? 弟よ?」
「弟じゃねぇ! 従弟だろうが! ばーか!」
「口利き悪いヤツだな。おとなしく死ねば楽になるのに」
「そうか、思いだしたぞ、アンタは交通事故で死んでいた。仕事なんかしている筈なんかない……俺が憎くて怨霊にでもなったのか!?」
「生憎、怨霊なんてカッコ悪いものじゃないさ。お前は遭遇したのに話を聞かなくて、千載一遇のチャンスを逃してしまったみたいだな。どっちが馬鹿だか」
「ああ、この状況だぜ。とても冷静にいられないよ……でもな」
零は大きく息を吸いこんだ。
「おい! エレナ!! お前は俺に雇われてきたのだろ!? このままじゃあ、雇用主は死んでしまうぞ!! てめぇ、俺の前に現れたのなら、ちゃんと仕事しやがれ!! この糞野郎!!」
零は大きな声で吐いてみせた。しかしどこにも届いてないようだった。
「負け犬の遠吠えというヤツか。みっともないな。俺も俺の造りだした鉄も部外者には見えない。飛び降り自殺でもして死んでしまったかのように、頭を粉々に砕いてやろう。許せ。どうせ夢のなかの話なのだから――」
真人は片腕を大きなハンマーへ変形させて振り上げた。
凶器を見上げる零にはもう、絶望しかなかった――
;゜Д゜)零君、絶体絶命!?どうなるんや!!ってところで次回です。お楽しみに!!