~第5幕~
零は自宅に帰る前に真人の彼女である真央のいる病院へ寄った。絶えず周囲を見渡しながら。あの不気味な女がついてきているかもしれない。もしもの為、それを思って彼は文房具屋でカッターを2つ購入した。
病室で真央はTVを眺めていた。右手には携帯電話を持っている。零に気がつくと「あら?」と穏やかな微笑みを浮かべた。
「零君、今日は一人でお見舞い?」
「ああ、真央さん、今朝のニュースみたかよ……?」
「ええ、みたわ。こんな日に私に会いに来なくても……」
「それがさ、今日変な奴と出会った」
「変な奴?」
「みためは姉さんだったけど、変な日本語喋ってきて、人を殺せとか指図してきてさ……」
「何それ?」
「それで、巷では佳奈美の自殺が殺人なんじゃないかって噂もでてきている。にわかに信じ難いけど、もしかしたら今日現れた奴が何かやっている気がして」
零は購入したばかりのカッターをこっそり真央へ手渡した。ひっそりとした声で「護身用に」と言って。
「そうなの……ありがとう。真人さんは無事なの?」
真央の表情は妙に神妙なものに変わった。
「真人ニィは自宅にいるよ。俺のことを案じてくれているよ。このあと自宅に戻って話そうと思う」
「それがいいわ。わざわざ、ごめんなさい。実は私もよく怖い夢を最近になってみているの……」
「えっ?」
「何だか恐ろしい鎌を持った化物に襲われる夢。看護婦さんに話しても馬鹿にされるばっかりで、でも今朝のニュースみて、なんだかそれが急に凄く……」
「真央さん、携帯電話は真人ニィが持っている。何かあったら連絡してくれ」
「うん……うん……!」
零と真央は抱き合った。
零は病院をでて、自宅へ急いだ。陽は沈み、街の明かりが夜の街を照らす。
メールの件は真央には話さなかった。彼女も彼女で何か妙な現象に巻き込まれているらしい。不安を煽らない為に零ができる彼なりの配慮のひとつだった。
真央は零が病院を発って、さっそく真人に電話をかけていた。
「きたわ。ありがたいことに武器まで預けてくれて。ふふっ、でも、どうやら“遭遇”はしてしまったようね……」
『なんだって!? くっ、あの女は現れてないか!?』
「ええ、一応警戒はしているけど、ここは一人の個室よ? それに遭遇はできても意気投合は出来なかったみたいだし、早めに始末する事じゃないかしら?」
『早めの始末……』
「私の言っている意味わかるでしょ?」
『ああ、もうその気でいる……でも本当にアイツが“雇用主”だったとは……』
「躊躇はしないこと。その為に今朝、あのコの彼女を殺したのでしょ?」
『わかっているって! 今すぐにでもやってやる!』
「健闘を祈るわ。願い成就の為に」
『ああ、真央、愛している』
「私も愛しているわ」
『また明日話そう!』
真央は電話を終えると、病室の電気を消した。そして手を組み、背筋をぐっと伸ばすと、いつもより早い眠りの中へと入ることにした――
∀・;)真央、アンタも黒幕だったんかい!ってところで次回です。




