~第9幕~
女は目覚めた。一児の母として凶弾に命を落とし、死神として息子へ託した銃弾にその道を閉ざされた。この感覚、一度死んだときとよく似ているようだ。また死神として願いをかけた闘いに挑めるというのか――
「ん……」
林原晴美は倒れた状態からゆっくりと起き上がった……
彼女の身体は薄く光り輝く光体になっている。どうやら死神として蘇った訳ではなさそうだ。目の前には自身と交戦した死神と雇用主がいた。
そうか。そういうことか。晴美はやはり死神としての自覚をしだした。
「オハヨウ。ヒサシブリダナ」
「こんにちは。やっぱり、面倒くさいことになったのね……」
「ソノ台詞、自分ガドウイウ立場ニ立タサレテイルノカ、ワカッテイルノダナ」
「なんとなく……ね。だけど意外。私が選ばれるなんてね」
「私ジャナイ。彼ガ選ンダ」
「彼?」
「私ノ雇用主、黒崎零ダヨ」
エレナは片手を零にむけて広げ、零を紹介した。
零はただまっすぐ晴美と向き合っていた。その眼差しは真剣だった。
「へぇ……私のことが怖くなかったのかな?」
「今は俺達に攻撃できないと聞いているから。それにアンタと話がしたかった」
「私と話がしたかった?」
「拓海について」
「!?」
晴美は驚いた。いや、おかしくもないか。晴美の戦いはこの少年と拓海が親睦を深めていたからこそ難航を極めた。しかしその関係が知りたかったのは晴美も同じであり、拓海の母として満更嫌な気がしなくもなかった。
「ふ、ふうん……それで拓海の何が知りたいの?」
「アイツが叶えようとしていた願いって何だったのか?」
「それは……」
晴美は困惑した。晴美が死神ゲームに参戦したのは誰でもない、晴美自身の晴美による蘇生が目的だったからだ。これについては拓海と話を進めることもできなかった自分自身を悔やむに他ならなかった。だが敵だった人間にそれを悟られてしまうのも癪に障るようだ。
「私の蘇生よ。文句ある?」
嘘をついてでも晴美は晴美の筋を通すしかなかった。
「そうか、実はさ、俺の横にいるこの死神はポンコツだからさ、俺はよくわからないままに『死神ゲーム』なんていうものに巻き込まれている。だから、もしも俺達がこのゲームに勝ったとき、俺に何か願いを叶える権利があるのなら約束をしたい」
「約束?」
「ああ、もしもお互い生きていれば、拓海の為に蘇ってくれ。それを俺の願いにしてくれる」
「!?」
「……」
青天の霹靂。そう言っても良かった。
「あなた、正気なの!? 私はあなたを殺そうとした人間よ!?」
「ああ、でも、拓海の母親でもあるのだろ? 俺は何も疑わない」
「………………」
エレナは腕を組んでただ状況を見守った。特に何も不服はないようだった。
「だけど、俺達の戦いには加担してくれ。そして最後まで死なずに戦ってくれ。飲みこめないなら契約破棄してくれてもいい。どうする?」
「私は……」
迷わない筈がなかった。しかしこの少年、とても嘘をつく人間にもみえない。
そして気がつけば手を差し伸べていた。
「わかった。私と拓海の死が報われるのなら、その契約を呑むわ」
「頼りにしている。もし良かったら、拓海の話を聞かせて欲しい」
黒崎零と林原晴美は握手を交わした。その瞬間に晴美は明瞭に実体化した。
こうして黒崎零の戦いは本当の意味ではじまった――
∀・)晴美ママ復活!!晴美ママ召喚を予想した人はいますでしょうか?個人的にはなかなか熱い展開でした!戦闘にむけていざ準備!次号!




