~第3幕~
雑居ビルの階段口で零は座り込み、肩を落としていた。青風園には自分達を殺そうとしている九龍の死神がいる。もっとも、雇用主と思われる美奈が零を庇ったワケだが、だからといって命の保証が為されるワケではない。
エレナとは違う場所で合流するしかないのか。ただでさえ人を殺した罪悪感に苛まれる零は、どこからともなく湧く疲労感にも悩まされていた。休む場所がない。八方塞がりで絶望するしか彼にはなかった。背中も焼けるように痛い。
追い打ちをかけるように大雨が降ってきた。
このままここで寝てしまおうか? そう思った時に電話が鳴った。
河村の電話番号だ。即ちエレナからの着信。会話をする体力すらもない状況だが、でるに他ならなかった。
『モシモシ、零、ドコニイル?』
「さあな、ここがどこだか俺が聞きたいぐらいだ。お前が知っているのかわからないが、そこには死神がいる。青風園のまえで襲われた。今帰るのは危険だ」
『ラシイナ。話ハ聞イタヨ』
「は? 話を聞いただと?」
『詳シイ話ハココデスル。青風園ニカエッテコイ』
「はぁ!?」
またも一方的に電話が切れた。
殺されそうになった場所へ自ら帰ると言うのか?
「まったく、信じられるかよ……」
零は遠い目で降りしきる雨を眺めた。しばらくするとここの住居人だろうか、髭面の青年が「おい、邪魔だぞ? お家帰れよ」と言ってきた。零は仕方なしに重い腰をあげて雨が降りしきる夜道を歩きだした。普通なら走っていくところだが、そんな気力はとうになくなっていた。
雷が鳴り響きだした。仮に落雷に撃たれて死んだとしても、もういいかもしれない。
暗澹たる気持ちで青風園に到着した。久しぶりに顔を合わせた尾崎兄妹から「大丈夫? シャワー浴びないと!」と心配の声をかけられたか。相槌を打つだけで精一杯だった。背中の火傷に気づかれなかったのは幸いだったかもしれない。とにかく急いで部屋に帰った。
部屋で零を待っていたのはエレナ、そして九龍姉妹だった。
「九龍!?」
「オカエリナサイ。御主人サマ」
「ほら、奈美! 謝りなさい!」
「あ、あの……さっきはひどい事して、すいませんでした!!」
何が何だかわからない状況だ。そんな状況だが、零の背中の傷にいち早く気づいた美奈が「大変! すぐに治さないと!」と背中に手をかざしてきた。
温かい感触が背中に伝う。九龍達の話によると、彼女たちは「光」を取り扱うことができる死神らしい。もっともその力は元々彼女達が持っていた力ではないようだが。雇用主である美奈が能力を使っている点で、その力の不可解さは零にも納得できた。しかしここで最も不可解なのはそこじゃなかった。
「で、なんでエレナとお前達が一緒にいることができる?」
そこだった。零の傷は美奈の治療によってあっという間に治った。
「オ互イニ条件ヲダシテ、納得デキタカラダ。言ワバ同盟ヲ結ンダ事ニナルナ」
「同盟? 何だ? それ?」
「確かにアンタの言う通り、本来私達は命を奪い合う間柄。結託する事なんてありえない。ただ……アンタと“ある願い”を叶えたいと美奈が望んだ。それを承知のうえでね、エレナさんと話し合った。もっとも、私はアンタとエレナさんが雇用関係にあると睨んでいたし、そのうえで対峙しそうにもなったけど」
「2人シテ光ダスモンナ。満身創痍ノコッチカラシテミレバ助カッタナァ」
「待て、ある願いって何だ?」
振り返るとそこに頬を赤らめた美奈がいた。
「あの、私とちょっとの間、恋人でいてくれますか?」
言葉を失った。何という展開だ。
「え、いや、何て言うか……俺達それどころじゃなくない?」
「ほら、こんなこと言われると思った! 美奈の馬鹿タレ!」
「素直ニナレ零、ソレダケデ命ハ助カルシ、一緒ニ戦エル仲間ガデキルノダゾ!」
「いや……あの……何というか……」
「男ナラハッキリシロ!」
美奈は目を閉じて恥じらっているばかりだった。
「あの、とりあえずシャワー浴びてきていいですか?」
零の一言にワイワイしていた女子一同の空気が良くも悪くも固まった――
∀・)はい、衝撃の展開が待っていたの巻でした(笑)正直話しますね、この展開にしようかどうしようか実は凄く悩みました。ゆうのも作品のテンションだったり雰囲気だったりがブチ壊される可能性を持つからです。ただボクとしては後悔してません。この展開を踏まえたうえでこの先の話も既に考えております。是非楽しみにして貰えたらと思います。次号もよろしくです。




