~第14幕~
零は30分ほど歩いて、大きなマンションのまえに立った。
「ここか。応じてくれるのかな」
零はインターホンに「1306」と番号を打ち、呼び出しボタンを押した。
間もなく応答があった。
『はい。権藤です』
「権藤さんですか? いま電話を受けた黒崎です」
『え!? 黒崎!?』
「すいません。突然に。でも、実は僕も権藤さんの住所を探偵に伺ってはいたのです。電話では話しませんでしたが、貴方が僕と会う気ならば、その勇気がでたのです」
『いま大変な状況にあると伺っていましたが……』
「大変な状況に変わりはありませんよ。もう、僕は横浜をでなくちゃいけないかもしれませんから」
『横浜をでると!?』
「はい、何か驚くような話をしましたか?」
『………………』
「権藤さん??」
3分ちかく静寂が続き、無線が切れた。それから5分が経ち、エントランスのドアが解放された。零がその場を立ち去ろうとしたその時だった。
すかさずマンション内に入る。
ドアを解放したのは権藤元太なのか? 妙な緊張感が漂いはじめた。
エレベーターに乗って13階に向かった。
1306号室、そのチャイムを鳴らすと「どうぞ」と返事があった。
権藤家に入って零が見たモノ。それはあたり一面に散らかされたゴミの数々、そして奥のデスクトップパソコンと共に玉座に腰掛ける巨漢の男だった。
「権藤元太さんですか?」
「はい。そうです。私が権藤元太です」
男の体はその大きな椅子でなければ支えきれないだろう。身動き1つもとれそうにないほどだった。
「電話ありがとうございます。驚きましたが嬉しかったです」
「………………」
「すいません。突然お邪魔する形になって。姉のことでお詫びいただけるってことでしたけど、それはいまもその想いでいるということですか?」
「………………」
「何だよ。何の返答もなしかよ。帰りましょうか?」
「………………」
零が溜息をついて元太に背を向けた時だった。
零はただならぬ気配を感じて振り返った。
その目に映ったのは刃物を持って零を襲おうとした元太の姿だった。
「な!?」
瞬間的な出来事であった。零は奇跡的にも元太の攻撃を回避できた。攻撃をかわされた元太はうつ伏せるようにしてゴミで溢れた床に倒れた。
「何しようとした!? 俺を殺すつもりだったのか!?」
「ぐふっ……ぐほっ……ぐそう」
元太はその巨体であるが故にすぐに起き上がれそうにはなかった。しかし何とか仰向きにその体勢を変えた。
はぁ……はぁ……ふぅ……ふぅ……と息を切らしながらも元太はその重たい口を開けた。
「知っているぞ。お前は死神の雇用主なのだろう? お爺ちゃんからそんな話をさっき聞いた。間一髪で避けたみたいだが、今度はそうはいかないぞ……!」
ゆっくりとだが、元太は体を起こそうとしていた。
「何だと!? じゃあ、あの電話は……」
「お前を逃がさない為さ。あの口実さえあれば、お前は私と向き合うしかないからな。もっとも本当はお前たちを殺す手筈をしっかり整えるつもりだったが」
「口実だと!? 姉ちゃんを利用しようとしたのか!?」
「黒崎絵里奈の事件で被害を被ったのはお前だけじゃない。全く関係ない私も学校にいけなくなり、外に出られなくなったのだ! 謝る道理がどこにある!」
「そんな……じゃあ……」
「ふふ、私が醜いのだろう? 兄が犯した罪で一家は離散。私は学校に行けなくなって、母は私のまえで首を吊って死んだ。全てお前の姉が……お前ら黒崎の人間が私たちを不幸にしたのだ!!!」
元太は刃物を持って勢いよく再度攻撃を仕掛けたが、勢いよく再度転倒してしまった。それは零にとって不幸中の幸いであった。
零は哀しみと怒りがこみあげて混じりあうのを感じた。気持ちが悪い。八つ当たりをされるべきは自分なのだろうか? 権藤元太は怒り狂っているが、よくみるとムシャムシャとポテトチップスを口のなかで動かしていた。まるで誠実さのひとかけらもなかった。
思うように体が動かなくて悶える元太を零はいつの間にか見下ろしていた。
「姉ちゃんが殺されたから姉ちゃんが悪い?」
零は手元の近くにあった灰皿を手に持った。
「はは、何言っている? お前よ?」
零のなかで怒りが哀しみを凌駕した。
「お前の兄貴が姉ちゃんを殺したのが悪いのだろうが!!!」
零は灰皿を元太の頭部に叩きつけた――
∀・;)零くん、とうとう手をだしてしまったの巻。どうだろう?ちょっと反響が怖い気も(笑)また来週!!




