~第3幕~
どれくらいの時間が経ったのだろうか。あれから一睡もできずに朝を迎えたようである。窓から差し込む光と鳥の鳴き声がそれを知らせてくれた――
零はドアを開けて部屋からでた。
「どこへいく?」
「!」
すぐ後ろに真人が立っていた。
「顔でも洗おうと思って……」
「おう、そうか。じゃあ洗え」
「いいのかよ」
「あたぼう。顔洗ったらパンだけでも食べろよ?」
「わかった」
顔を洗った零は真人の用意した朝食を食べた。パンだけでなくて、味噌汁もついている。家族の優しさに彼は自然と涙した。
朝食を食べ終えた折、零はとうとう眠気に襲われた。そしてその場で眠りに沈んでしまうのだった――
小林佳奈美はいつもどおり学校に通学していた。生徒会や弓道部の朝活にも積極的に参加している彼女が青葉台駅の電車に乗るのはいつも始発の時間だ。この時間に青葉台駅の電車に乗るのもごく限られた人物だ。そのなかの一人である彼女だが、今日は彼女一人で始発の電車を待っているようだ。
零が話していたことが気になってはいた。信憑性が全くないとも言いきれる話でもない。しかし言っていることは現実離れした危機意識としか言いようがなく、非科学的な話をどうしても信じられないのが彼女の性格だった。だからあの話を思いだすたびに溜息をつくしかなかった。
電車がくる。アナウンスがそれを知らせる。
全くの無意識だった。彼女の体はいつの間にか浮遊して電車の前にでた。
「え?」
17歳の若い命はその場で飛び散った――
零は目を覚ました。どうやら朝食をとった後、机に伏せたまま寝てしまったようだ。再び顔を洗いに行き、自分の部屋へ戻る。特にすることも思いつかないので、テレビをつけてみた。そして彼は愕然とした。彼が目にしたのは余りにも信じられない現実の報道だった。
「嘘だろ……うわあああああああああああああ!!」
小林佳奈美は青葉台駅に到着する電車に轢かれて死亡したとTV越しにアナウンサーが話していた。飛び降り自殺を図ったと思われるが、そのときの飛び込みかたが不自然極まりないものだとワイドショーで話題の種になっている。
テレビのリモコンを持ち、テレビを消そうと思うが、手が震えてすぐにリモコンは床に落ちた。同時に身体の全てが震撼しているのがわかった。
このタイミングで自宅のドアが開いた。真人が帰ってきたのだ。真人はついているテレビを観るやいなや、リモコンを拾って消した。
「みるな! 忘れろ! 探偵に携帯は渡した! あのメールを送ったヤロウは必ず特定してやる! お前は忘れるんだ! いいな!」
「佳奈美が、佳奈美が死んだ……死んでしまった……」
涙をとめどなく流す零を真人は必死で抱きしめた。
零が落ち着くまで、かなりの時間がかかってしまった。親しい者の死、それも奇妙な前兆があってのことだ。ショックに打ちひしがれてもおかしくはない。
「しばらく学校は休め。俺がそう学校に連絡してやるからよ。メールを送った犯人の特定が先決だ。わかっているさ、彼女は自殺するようなコじゃないって」
「で、でも……電車に飛び込んだって……ニュースで……」
「何かに“飛ばされた”可能性があるって話もでている。自殺と決めつけるな」
「でも……でも……」
「もしかしたら、お前のことを得体の知れない奴が狙っているのかもしれない。話の内容が内容だ。誰も信じちゃくれないのかもしれねぇ、だけど俺はお前を護るぞ、零。いいな! 俺が――」
真人が何かを話しかけた時、真人の携帯電話が震えた。真人は携帯電話を広げてメールを確認したのちに「クソッタレ!」と言い放って、それを壁へと投げつけた。しかし咄嗟に零が動いて真人の携帯電話を拾った。
『どう頑張っちゃっても、黒崎零くんは死んじゃいますよ☆』
零は絶叫をあげ、制止に入ろうとする真人を振りほどき外に出ていった――
「待て!! おい!! 迂闊に外にでるな!! レエエエエエイ!!」
その声が遠くに聞こえるぐらい零はマンションの階段を急いで走って降りていった。やがてその声は聞こえなくなった――
真人はしばらく大声をだし続けたが、零を追うことはなかった。
真人はすぐに電話をかけた。
「よう、逃げてしまったよ。どこに行くのか知らねぇが“遭遇”するまえに始末しておきたいぞ。まったくよ、やりすぎじゃないのか? お前がアイツを憎むのはわからないでもないが――」
死神は彼のすぐそばにいた――
∀・)真人、お前が黒幕だったんかい!!ってところで次回です。お楽しみに!!




