~第16幕~
エレナは林原拓海を追いかけていた。
気がつけば河川敷にでていた。
辺りを見渡す。確かにここへ逃げていった筈だが――
「動くな」
背後から拓海が現れた。肩を負傷して流血しているが、拳銃を構えている。
この場で発砲されれば、一撃確殺だろう。自身の能力を使う間もなくやられてしまう。そう思った彼女は両手をあげてみせた。
「零君の亡霊か何かだと言うのか?」
「ソウダ。黒崎零ノ家族ダ」
「お前も施設内ウロウロしていたな。怪しいと思ってはいたけどな、やはりと言うか何と言うか。めんどうくさいことに巻き込まれたモンだぜ」
「私ヲ殺スノカ?」
「ああ、当たり前だろ? 俺を殺そうとしたくせに」
「私ヲ殺セバ、零ガ死ヌ」
「だから何だって言う?」
どうやらここまでのようだ。エレナは覚悟を決めて目を閉じた。
その時だった――
「ガッ!?」
エレナは口角より激しい痛みを感じた。それは口腔内に広がる。
狼狽えるエレナに拓海は唖然とした。
「ウ、ウガアアアアアアアアアアア!」
零が攻撃を受けている。エレナにはまさに地獄の状況となった。
「零君が攻撃を受けていると言うのか……?」
拓海は急に寂しい表情を見せた。それは殺意のなくなったことを現わしてもいるようだ。だが、それで状況が好転するワケでもない。
やはりエレナは覚悟を決めるしかなかった。自分たちはここまでのようだ。早く楽になりたい。彼女は激しい口の痛みを耐えて、可能な限り叫んだ。
「グ、ウ、撃テ! バ、早グ! 撃デ! ゴ、ゴノ糞ガビ!」
拓海は銃口を向けたまま表情を変えない。
やがて彼は重たい口を開けた。
「おい、お前、死ぬのが怖いと思わないのか?」
こんな状況で答えられる筈もない。エレナはただのたうち回るだけだった。
「悪いなぁ。変なこと聞いたりしてさ。俺はさ、死ぬのが怖いのよ。いつもそればっかり考えているよ。特にあのババァが俺の目の前に現れてからな。これがずっと続いちゃうとさ、お前、どうなると思う?」
何をこの少年は言っている? エレナの苦しさは増すばかりだった。
「死にたくなっちゃうのよ」
拓海は悲しい表情のまま微笑み、こめかみに銃口を当てた。
そして躊躇なくそのトリガーを引いた――
悲しい少年と母親の物語はここで幕を閉じたのであった――
´Д`)南無……林原親子……次週につづく。




