~第11幕~
零が河村探偵事務所を訪ねた日の夕方、街の路地裏で一人の少年が暴行を受けていた。最初は抵抗した彼だったが、数に勝る相手に対して無力だった。
「やめろ! ぐっ!」
胸座を掴まれては頬に殴打、続けざまに背中や腹部を複数人の少年たちから蹴り込まれた。虐めを受けていたのは林原拓海だった。
「こいつ、学校じゃ偉そうなのに、こうやってみるとただの軟弱者だなぁ」
「おい、磯野、力が入ってないぞ? キックっていうのはなぁ、こうやってやるもんなんだよぉ!!」
太った少年がダイナミックなキックをかました。
「がはぁぁっ!!」
拓海はこの暴力に耐えるしかなかった。保護者のいない彼は学校の教師へと虐めを訴えても余り相手にして貰えなかった。また暴力を振るう少年3人組は、親がPTAの役員などで知られているクラスの有力者でもあった。
「そろそろ帰ろうか? 手も足も疲れてきたぜ」
ボス格である太った少年がそう言って振り向いたところ、何かを感じた。感じたのは3人組の3人ともである。
目の前には誰もいない。それなのに、誰かがいる雰囲気が。
「母さん……」
拓海には見えた。拳銃を構えて微笑む彼の母親の姿が。
ドン! という音とともに太った少年の脳味噌が飛び散った。
ドン! 続いて赤シャツを着た背の高い少年の脳味噌が飛び散る。
「な、何だよ!? これえぇえぇぇええ!?」
眼鏡をかけた磯野という少年は叫んで逃げだした。しかし、彼の足に弾丸が命中して彼の退路は断たれた――
「はぁ、はぁ、はぁ……い、痛い……痛いよう……うう……え?」
磯野が上を見上げるとそこに30代ぐらいの女性が拳銃を彼に向けて立っていた。彼は彼女と目を合わせた。
「あら? 私が見えるのね?」
「え? ひっ……ひぃぃ……」
「おかしいな? 拓海以外は見えない筈なのに? あなた雇用主?」
「し、知らない! ゆ、許してく、くださいぃいぃい!」
「うふふ~。堪らないわね~。その顔~。すごく快感♡」
女性は磯野の額に銃口を当てると、口元を歪めて釣り上げた。死ぬ。そう彼が覚悟した次の瞬間に、彼の頭蓋骨は弾丸によって砕かれた――
拓海はゆっくり立ち上がって叫んだ。
「何やった! 糞ババァ!! 何も命まで奪わなくていいじゃねぇか!!」
「あなたを護ったのよ! 何であなたに怒られなきゃならないの!?」
「俺は……ただ……普通に生きたいと望んだ。ただそれだけだ……!」
「虐められることが普通に生きることだと言うの!?」
「それは違う……でもこれじゃあ……」
拓海の母、晴海はゆっくりと彼に近寄った。そして拳銃を手渡した。
「私がそんなに気にくわないなら、それで私を撃ち殺しなさい」
「え!?」
「幸い、2丁の拳銃があってね。1つは拓海にあげようと思ったのよ。あげる。ほら、どうぞ」
拓海は亡霊となった晴海から拳銃を譲り受けた。
「あら? 殺さないのね? 私が目障りなんじゃなかったの?」
「それは……」
「それを使った時点であなたは私たちのゲームの仲間入りよ? わかっているわね? 明日にでも私をあなたの部屋に入れなさい。きちんと話をするから。いいわね?」
「わかった……」
拓海はあまりにも突然の出来事に茫然とするしかなかった。
母の亡霊が現れたのはここ数日の間に起きた出来事だった。最初は泣いたりもして喜んだものだったが、亡霊となった母親は学校でも施設でも現れては、拓海の傍に憑いた。そして1日も経たないうちに彼は「目障りだ」と晴海を追い払った。暫く目の前に現れないなと思ったところで、この事態である。どんなに離れていても、拓海を監視していたのは違いなさそうだ。ただでさえその姿が人に見えないのだから――
鮮血に濡れた晴海はどこかへ去っていった。この後もちょっと離れた位置で拓海のことを見つめているのだろう。
拓海は溜息をついて、陽の沈む街並みをあとにした。
そして後ろから聴こえるパトカーの音を耳にした。
警察が変に勘づくことがなければいいが……
∀・)どうも!なんと拓海君も死神の雇用主でした(笑)気づいていた人は気づいていたかもしれませんね(笑)だけど彼は零君と同様に死神の存在を忌み嫌っているんですね。ここがミソだったりします。また次週!!




