~第1幕~
黒崎零、彼は彼が言うように神奈川県横浜市に住むごく普通の高校生だった。もっとも、彼が背負っている凄惨な過去を除いた彼の印象を言うなればだ。
この日の朝も零はいつもどおり携帯電話のアラームで目を覚ました筈だった。違っていたのだ。朝早くから鳴り響いたのはメールの通知音だった。
見覚えのないアドレス、迷惑メールとかいうヤツか。
そう思った零はすぐにメールを削除しようとしたが、手が滑ってしまって、誤って開いてしまった。メールにはこう記してあった。
『今日、バスに乗るな。事故が起こるから』
目を擦って再び見てみる。間違いない。そう記してある。
「なんだ、これ?」
零はそう言い、やはりメールを削除することにした。
「おい、えらく早いな? 何かあるのか?」
「早くねぇよ。いつもどおりだよ」
「いつもどおり? 朝の5時だぞ?」
「真人ニィだって早いじゃないか?」
「俺はいつでもこの時間に起きているぞ?」
そう言った真人はケラケラしながらも、ジャムを塗ったトーストを頬張っている。トーストはもう2枚あった。よく食べる従兄だが、ここのところはいくら食べても太らない体質になっているようだ。
「欲しけりゃなぁ、お前もデカいのブン取りな」
「なんだよ、全然面白くないっていうの」
いつもより早い朝ご飯を食べた零はバスに乗らず、タクシーに乗って青葉台駅に向かった。あのメールを鵜呑みにするワケじゃなかった。ただ、嫌な予感が彼にはあったのだ。
いつもどおりの学校だった。親友の新城と河村には休憩時間に今朝あったことを素直に話した。
「なんだ? それ? ただの嫌がらせじゃないか?」
「でも可笑しいよな? 大体そういうのって出会い系に登録させようとする文句で送ってくるのが大半の筈だけどな」
「だよな? だけど何か嫌な予感がして、今朝バスには乗らなかったんだよな」
「何だよ? ビビっているのかよ?」
「び、ビビッてねぇって!」
「まぁ、でもアドレスは変えた方がいいだろうな。注意は払っておいた方がいいと思うぞ」
学校の屋上では零達と同じく昼ご飯を食べる生徒とソフトバレー等で勤しむ生徒にあふれていた。
驚いたのは帰りのことだ。帰り方面のバスが運行休止となっていたのだ。家に帰り、ニュースをみてからはもっと驚きが隠せなかった。
『今朝7時48分、青葉区にて、青葉台駅に向かうバスが信号無視した車両と衝突して横転。搭乗していた乗客3名が死亡して、運転手は一命をとりとめました。ぶつかったのは同区に住まわれていた梅川富男氏87歳――』
零は言葉を失った。アナウンサーの言葉がスローに聴こえてくる……
「え!?」
零が唖然とするのも束の間、零の携帯電話にメールが届いた。
『小林佳奈美は明日、駅で飛び降り自殺をする』
今朝の記憶が蘇る。今朝送られたメールの送り主と同じメールアドレスだ。
今朝、送られたメールにあったようにいつも乗車しているバスは事故を起こした。乗車していれば自分も死んでいた可能性は高い。
色んな妄想が交錯する中で、とても冷静になることはできなかったが、それでもこれから飲食店のアルバイトをする気持ちにはなれなかった。
『休む? 体調不良?』
「はい、今日すごく高熱で学校休んで病院にいって……」
『嘘つけ! 今日はお前しかいないのだぞ! 這ってでも来い!』
店長はそう言って一方的に電話を切った。もう行くしか道はない。
しかし今すぐにでも自分にできることはある筈だ。零はすぐに自分の彼女へメールをいれた。
バイトの飲食店へは多少遅れて着いた。零の顔色の悪さをみた店長はさすがに納得がいったようで、暫くは休ませてくれそうだ。しかし人不足なのは事実らしい。
気持ちに気が入らない飲食店のウェイター、オーダーの間違いも度々重ね、見兼ねた店長は途中で仕事を降りるように命じた。
「黒崎君、大丈夫!?」
『は、はい……明日から暫くは無理だと思いますが……』
「うん、いいよ。私とかが頑張るから! 君はうんと休んで!」
「すいません……」
「気にしないの! すぐに治して帰ってきなさい」
笑顔で呼びかけてくれたのはアルバイトのチーフを務める野神晶子だった。
移動時に電話があった。電話主は彼女の佳奈美だ。
「おつ~! どうしたの? メールして?」
「あ、ああ、佳奈美、今晩、会えないか?」
「うん、いいけど。夜遅くまでは無理だよ~?」
「いいんだ。ちょっと話せるだけでいいから。マンション近くの公園でいいから。たのむ……」
「うん。わかったよ。何か困ったことあったら話してよね。じゃあ後で」
声の調子は悪くなかった。悩みごとがあるようにも思えなかった――
∀・)遂にはじまりました!ボクの大長編作品になります!零君とともに、この長い物語とお付き合いいただけたら嬉しく思います。ん~1年から2年ぐらいの連載期間になると思いますが(多分)、最後まで計画どおりに走り抜こうと思います。ボク自身もうんと楽しみながら。宜しくです☆