~最終幕~
零が旭川に来てもう3年の年月が過ぎた。
零は今も仕事と学業で四苦八苦しながら生きている。
彼はそんな中で車の免許を所得した。3年前から交際をし続けている美奈はようやく再来月になって、旭川にやってくるようだ。待ち遠しいと言えば待ち遠しいが、心の準備をするにもまだまだ時間が欲しいと思ってしまう。
そんな零は姉と共用の車を手に入れて、すっかりドライブに興じるように。美奈が喜んでくれるような景色の良いスポットを探して訪ねる事をしていた。ドライブのBGMで掛けているのは、1日限りの期間限定で再結成を約束している零の指弾の歌だ。美奈が旭川にやってきた時にサプライズでライブをやるという零の願いを鬼道院も百岳たちも快く承諾してくれた。
いつからだろうか? 少年院を出てからだろうか?
零は鼻歌を歌うようになった。横浜にいたときはそんなことは全くなかった。むしろ馴れ馴れしく愛や正論を歌う音楽を嫌っていたところがあった。そんな彼が鼻歌を歌うようになったのだ。絵里奈もこれを不思議に思っていた。
現実は厳しい事ばかりだ。涙を流してしまうことも多々ある。それでも何故だか彼には余裕があった。いま体験している現実以上に厳しい現実を体験しているからだろうか?
答えはわからない。それでもそんな余裕があったからかもしれない。
零は目的地になる四季彩の丘に到着したところで妙なものを見つけた。
段ボールに犬が入っている。
ゴールデンレトリバーのようだ。零は彼女を見て、直感でメスだと分かった。
彼女も零に気がついたのか、目を合わせてきた。
「まさか……そうなのか……」
零は可笑しくなりそうな自分を冷静にさせようと努めながらも、彼女の方へゆっくりと歩みを進める。そんな事がある筈ない。ある筈ないとわかっている筈なのに「これはそうだ」と感じて止まない自分がいる。でも、きっと彼女には名前なんてない。だったら自分が名づけ親になって何が悪いのだ。
「エレナ…………エレナッ!!」
ゆっくりとした足取りがいつしか走りだしていた。
『ねぇ、これでいいの? アレは貴女じゃないわよ?』
『コレデイイヨ。ソレデモ私ハコノ名ヲ呼バレタカラ』
『うん、まぁ、そうだけど……』
『私ハ彼ト愛シ合イタカッタ。ヨウヤクソノ願イガ叶ウ』
死神だった亡霊はじっと彼らを見つめる。
『暫クコウシテ眺メテタイナ……』
零は捨てられた犬と抱き合った――
そしてようやく彼は心の底から笑顔になることができた――
この物語を闇に包まれた全ての命へ贈る――
∀・)完結しました!!3年半に及ぶ長期連載でした!!最後までお付き合い頂けた皆様に感謝を申し上げます!!語りだしたら、あれやこれやと長くなると思います(笑)最後の文言は意味深かもしれませんが、意味がないと言えば意味がない言葉です。零とエレナと駆け抜けた3年半、この物語を書いた自分と登場してくれたキャラクターたち&表紙絵を描き続けてくれたダガシヤ様&素敵なレビューや素敵な感想を残してくれた読者さま&そっと本作を読み続けてくれた読者様にも感謝を。本当にありがとうございました!!!いでっちの次回作にご期待を(笑)




