~第14幕~
零たちが旭川に来て半年経った頃だ。絵里奈の紹介をキッカケにして、零は百岳と喜里川という男子と交流するようになった。彼らは旭川で育った男子であったが、二人ともが絵里奈の働く児童養護施設で育った男子でもある。百岳という男子は現役高校生であるが、喜里川は中卒にして大工の見習いで働いている。そして彼らの交流の場はバンド活動をする事でもあった。
ドラムの百岳もベースの喜里川も歌う事が苦手だった。零が加入をするまでギターボーカルがいたが、元々していたサッカーが忙しくなったということでバンドを脱退した。そこでその事を絵里奈に百岳が相談して、零の加入の話が進むこととなった。
「バンドのボーカル? うん、いいんじゃない? よく鼻唄歌っているし」
絵里奈の適当な返事が後々のバンド結成に繋がったのだ。
バンド名は「零の指弾」とした。これを提案したのはリーダーの百岳だったが、なぜかこの時に零は渋っていた。それでも喜里川も零の指弾を強く推して決定は免れなかった。そしてこの経緯を鬼道院へ相談していた。このときにはすっかり零も鬼道院に慣れ親しむようになっていた。
「ははは、面白いな! 自分の名前がバンド名に冠されるなんて最高じゃないかよ!」
「面白くないですよ~。それにこのバンド名には何か嫌な響きを感じちゃって」
「そうか? 俺はイイと思うけどなぁ。でも、何故だろうな? 俺も懐かしい響きを感じるなぁ。何故かな」
「慰めているつもりですか?」
「いや、励ましているつもり」
ケラケラと笑う鬼道院をよそに零は溜息をつく。そして気が進まないながら、もう1つの相談をした。
「俺、ギターを弾きながら歌うのが苦手で」
「そうなのか? 器用そうだけどな?」
「もっと言えばギターを弾くのが好きじゃないというかなぁ」
「バンドやっているのに?」
「今すぐじゃないですけど、そう遠くない未来には辞めようかなって」
「じゃあ、俺がそのギターをやるっていうのはどうだよ?」
「え?」
「ん?」
思わぬところから話は発展していく。鬼道院はまさかのバンド経験のある男であった。翌週には百岳も喜里川も予想外の「大歓迎する」という反応をみせ、バンド「零の指弾」にだいぶ年齢が上の鬼道院魔裟斗が加入する事となる。
零は妙な怖さを感じていた。まるで神様から何かをすごく強引に手渡されている感触。そしてそれは地元クラブハウスでやった3度目のライブ直後に実感する事となる――
その日、これまでになく零の指弾のライブには客が数多くきていた。前回の10倍……それぐらいは数えていいだろう。零は戸惑いながらも歌を歌いきる。楽屋に戻るとその男はいた。大手事務所の職員だと言う。そして彼らに話した内容とは、なんとメジャーデビューを据えた契約のことだった。
「誠に勝手で申し訳ないけどね、私のブログの方で紹介をさせて貰った。今日来たお客さんの多くが私のブログをみて来た人達だ。おそらく私達でないトコからもオファーは届き続けるだろう。じっくり考えて貰うだけでもどうだ?」
「………………」
「………………」
「えっ!? これって喜ぶ話じゃないの!?」
零と鬼道院は暫く俯いたまま無言で居続けた。
「えっと、返事は次のライブでいいですか?」
5分ほどしてようやく零が返事を返した。野茂という男は「勿論さ! 君の歌声の為ならいくらでも待つよ!」と零の肩を軽く叩き、颯爽とその場を去る。零達は会場の後片づけなどを終えて、鬼道院の車のなかで話をする事にした。そしてそれは零の告白する場にもなった――
「百岳と喜多川は姉ちゃんから聞いているのか知らないけどさ、俺は……俺は人を殺してしまった人間だ。それから1年、少年院にいたよ。ついこないだまで俺を追う闇記者みたいな奴もいた。俺が世間の目立つ処で派手なことをしたら、それで不快に思う人は遺族でなくてもいる。ごめん……今まで黙っていてさ」
「…………そうだったのか」
「…………初めて知ったよ」
「俺もそうだ。人は殺した事はないけど……一時期暴力団に所属していた事がある。黒崎じゃないが、もしバンドが目立つ事になればさ、俺もお前らに迷惑をかけてしまう事にはなるだろうな」
「鬼道院さんまで……」
百岳と喜多川は言葉を失った。そして彼らはその場で“解散”をすることとなった――
その夜、零は絵里奈が寝ている中で一人鏡の前に立った。涙が少しずつ零れ、やがてそのまま彼は泣き崩れた――
次の日の夜、零は美奈に電話をかけていた。「ごめん、バンド解散することになったよ」と息を詰まらせながらも、彼女へそう伝えていた。
「いいよ。それでも私は零君に会いに行くよ。楽しみにしている」
「ごめん……ごめん……」
「ううん、私は希望を貰った。今度は私が零君に希望を与えられたらと思うよ」
美奈の言葉は何ひとつ淀んでなく、ぶれてなかった。
彼がここから立ち上がれたのは、彼女の言葉があったからかもしれない――
∀・)零君、バンドを始めてバンドを辞めるの巻でした。ポイントとしては白崎創の「零の指弾」がこの世界線ではなくなっているんですね。ええ、細かい話なんですけども。さぁ!!次回いよいよ最終回です!!3年半に及ぶイデッチの大作アクションの最後……とくとみとどけてください☆彡




