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SHINKIROU THE SHINIGAMI  作者: いでっち51号
第10巻~TO THE MORNING WHEN THERE IS NOTHING~
162/163

~第14幕~

 零たちが旭川に来て半年経った頃だ。絵里奈の紹介をキッカケにして、零は百岳と喜里川という男子と交流するようになった。彼らは旭川で育った男子であったが、二人ともが絵里奈の働く児童養護施設で育った男子でもある。百岳という男子は現役高校生であるが、喜里川は中卒にして大工の見習いで働いている。そして彼らの交流の場はバンド活動をする事でもあった。



 ドラムの百岳もベースの喜里川も歌う事が苦手だった。零が加入をするまでギターボーカルがいたが、元々していたサッカーが忙しくなったということでバンドを脱退した。そこでその事を絵里奈に百岳が相談して、零の加入の話が進むこととなった。



「バンドのボーカル? うん、いいんじゃない? よく鼻唄歌っているし」



 絵里奈の適当な返事が後々のバンド結成に繋がったのだ。




 バンド名は「零の指弾」とした。これを提案したのはリーダーの百岳だったが、なぜかこの時に零は渋っていた。それでも喜里川も零の指弾を強く推して決定は免れなかった。そしてこの経緯を鬼道院へ相談していた。このときにはすっかり零も鬼道院に慣れ親しむようになっていた。



「ははは、面白いな! 自分の名前がバンド名に冠されるなんて最高じゃないかよ!」

「面白くないですよ~。それにこのバンド名には何か嫌な響きを感じちゃって」

「そうか? 俺はイイと思うけどなぁ。でも、何故だろうな? 俺も懐かしい響きを感じるなぁ。何故かな」

「慰めているつもりですか?」

「いや、励ましているつもり」



 ケラケラと笑う鬼道院をよそに零は溜息をつく。そして気が進まないながら、もう1つの相談をした。



「俺、ギターを弾きながら歌うのが苦手で」

「そうなのか? 器用そうだけどな?」

「もっと言えばギターを弾くのが好きじゃないというかなぁ」

「バンドやっているのに?」

「今すぐじゃないですけど、そう遠くない未来には辞めようかなって」

「じゃあ、俺がそのギターをやるっていうのはどうだよ?」

「え?」

「ん?」



 思わぬところから話は発展していく。鬼道院はまさかのバンド経験のある男であった。翌週には百岳も喜里川も予想外の「大歓迎する」という反応をみせ、バンド「零の指弾」にだいぶ年齢が上の鬼道院魔裟斗が加入する事となる。




 零は妙な怖さを感じていた。まるで神様から何かをすごく強引に手渡されている感触。そしてそれは地元クラブハウスでやった3度目のライブ直後に実感する事となる――




 その日、これまでになく零の指弾のライブには客が数多くきていた。前回の10倍……それぐらいは数えていいだろう。零は戸惑いながらも歌を歌いきる。楽屋に戻るとその男はいた。大手事務所の職員だと言う。そして彼らに話した内容とは、なんとメジャーデビューを据えた契約のことだった。



「誠に勝手で申し訳ないけどね、私のブログの方で紹介をさせて貰った。今日来たお客さんの多くが私のブログをみて来た人達だ。おそらく私達でないトコからもオファーは届き続けるだろう。じっくり考えて貰うだけでもどうだ?」

「………………」

「………………」

「えっ!? これって喜ぶ話じゃないの!?」



 零と鬼道院は暫く俯いたまま無言で居続けた。



「えっと、返事は次のライブでいいですか?」



 5分ほどしてようやく零が返事を返した。野茂という男は「勿論さ! 君の歌声の為ならいくらでも待つよ!」と零の肩を軽く叩き、颯爽とその場を去る。零達は会場の後片づけなどを終えて、鬼道院の車のなかで話をする事にした。そしてそれは零の告白する場にもなった――



「百岳と喜多川は姉ちゃんから聞いているのか知らないけどさ、俺は……俺は人を殺してしまった人間だ。それから1年、少年院にいたよ。ついこないだまで俺を追う闇記者みたいな奴もいた。俺が世間の目立つ処で派手なことをしたら、それで不快に思う人は遺族でなくてもいる。ごめん……今まで黙っていてさ」

「…………そうだったのか」

「…………初めて知ったよ」

「俺もそうだ。人は殺した事はないけど……一時期暴力団に所属していた事がある。黒崎じゃないが、もしバンドが目立つ事になればさ、俺もお前らに迷惑をかけてしまう事にはなるだろうな」

「鬼道院さんまで……」



 百岳と喜多川は言葉を失った。そして彼らはその場で“解散”をすることとなった――




 その夜、零は絵里奈が寝ている中で一人鏡の前に立った。涙が少しずつ零れ、やがてそのまま彼は泣き崩れた――




 次の日の夜、零は美奈に電話をかけていた。「ごめん、バンド解散することになったよ」と息を詰まらせながらも、彼女へそう伝えていた。



「いいよ。それでも私は零君に会いに行くよ。楽しみにしている」

「ごめん……ごめん……」

「ううん、私は希望を貰った。今度は私が零君に希望を与えられたらと思うよ」



 美奈の言葉は何ひとつ淀んでなく、ぶれてなかった。



 彼がここから立ち上がれたのは、彼女の言葉があったからかもしれない――



∀・)零君、バンドを始めてバンドを辞めるの巻でした。ポイントとしては白崎創の「零の指弾」がこの世界線ではなくなっているんですね。ええ、細かい話なんですけども。さぁ!!次回いよいよ最終回です!!3年半に及ぶイデッチの大作アクションの最後……とくとみとどけてください☆彡

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― 新着の感想 ―
[一言] バンドが有名になっても、零の犯した罪は消えません。法律はともかく、社会が厳しい。  果たして最終回がどうなるか楽しみです。ではまた。
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