~第11幕~
羽田空港。春の盛りも過ぎた4月の下旬、零は生まれて初めてそこに立った。決して裕福な家庭でなかった彼にとって、これはある意味で贅沢な経験。
「あ、送りだしに来ているみたいよ?」
絵里奈が指さした方向に河村と小林、新城の3人がいた。零は思わず笑みをこぼす。そして親友の立つ近くまで駆け寄った。
「お前ら、いいな。新しい学校の制服かよ?」
「ああ、新城は似合ってないよなぁ」
「うっせぇ! そんな事を言うのはお前らだけだぞ!」
「卓士くん、新城君に対してキツ過ぎよ?」
「大丈夫だよ。小林さん、新城は真に受けないからさ」
「黒崎~お前まで~優しさを捨てるつもりか~」
「まぁ、新城を慰めるつもりはないけどさ、俺は制服を着ることもない人生になりそうだから……」
零の一言に一同が固まった。零は「あ、ごめん!」と咄嗟に謝ったが、小林が口を開くまで少し時間がかかった。
「あの……黒崎君でちょっと気になった事があるのだけど……」
「何?」
「黒崎君って今、彼女がいるの?」
「え?」
「お?」
「ん?」
「あ~それは後日メールか何かで話せないかな?」
零は目を丸くした絵里奈に気遣って、はぐらかしてはみせたものの、小林の追撃は収まることを知らなかった。
「へっくしょい!!」
羽田空港からだいぶ離れた墓地で九龍美奈と林原拓海が墓参りをしていた。
「墓の前でくしゃみをするなよ? 不謹慎だな」
「五月蠅い。場所を選んで出来ないものなの~」
「誰かに噂されているのじゃね?」
「どうかな? 私、モテるし」
「うっざ」
美奈と拓海の2人は目を閉じて手を合わせる。
美奈はよくうなされていた。目の前で木片が胸部に串刺しとなって絶命した双子の姉のことを思いだして。そのとき、彼女は嘔吐して失神した。ただずっと「美奈……美奈……」と吐血しながらも自分の名を呼び続けた姉の声が鼓膜に響き続けている気がする。
一生のトラウマだ。でも彼女が幽霊になって自分のまえに出て来てくれたら、自分は姉を自分の姉として、ちゃんと愛してあげられるのだろうか? 色々な想いがこみあげてくる。気がつけば頬を涙が伝っていた。
目を開ける。ずっと拝みながらも涙を溢している少年が隣にいた。
「何泣いているの?」
なんてことは言わない方がいいか。美奈はそう思うとそっと微笑んで拓海の涙を見て見ぬフリをした。
『良かったね。彼女、彼氏もできて孤独じゃないみたいね』
『私は違う形でそう願ったけど……』
『あら? 不本意だったのかしら?』
『いや、これはこれでありなのかもって悔しいけど思えちゃうな……』
『そろそろ行きますか? それともまだ彼女に纏わりつく?』
『晴美さんは覚悟しているの?』
『勿論。私は負けた。負けたけども、私を倒した彼と彼女が息子の親友であってくれるなら、それを信じたいって思えちゃうの』
『…………そう、なんか私もエレナと戦って負けたかったなぁ』
『私はもういくよ? こないなら、ここでさよならしなきゃ?』
『待って』
『んっ?』
『もう、美奈に未練はないけどさ、最後に彼女の願いが叶うところを見届けにいかない?』
『彼女って』
『私の妹の彼氏にして貴女の息子の兄がこのゲームで手にするものを。貴女も気になっている筈よ?』
『ああ、そういう事か。奈美ちゃんが言うなら喜んで』
『馬鹿にしないでよぉ』
『馬鹿にしてないわ♪』
2人の亡霊が美奈と拓海のずっと後ろで談笑しだした。
もう闘いは終わった。あとは勝者の願いが叶うのを見届けるだけ――
零は飛行機の窓から雲を眺める。残りの一生であとどれくらいこんな景色が眺められるのだろうか? そんなことを思いながら、隣でいびきをかいている姉に「姉ちゃん、うっせぇわ……」と苦笑いしつつも呟いてみせた。
黒崎零と黒崎絵里奈はこうして故郷横浜を離れたのだった――
∀・)零くん姉弟、横浜を発つの巻でした。零くんの彼女と美奈ちゃんの彼氏は皆さんの想像するとおりでございます(笑)でも奈美ちゃんも受け入れてましたね(笑)次号☆彡




