~第10幕~
白崎創、彼と直接会ったことはない。しかし零の父が死んだと訃報が入って間もない時、父の組が義理の息子に継がれたと耳にしていた。父親との関係は母の佑実子や絵里奈から固く断絶されており、零自身も関わりたいと思っていなかった。もし関わる必要があるならば、それは自分がいよいよ最悪の状況まで追い詰められた時だ。そういう認識であった。
「知らないと言っても、嘘だって言うのでしょ?」
「それもこれも君次第かな」
力也は水を飲みながら優しく微笑んでみせたが、じっと零を眺めているのは違いない。その感じは零のことを追いかけている雑誌の記者と変わらないと思った。しかし水を飲み終えた力也は思ってもみない言葉をきりだした。
「私と君が関わるのはこれが最初で最後。君に弟の事を告げればそれで終わり。それだけのことだ。何も警戒しなくていい」
「どういうつもりですか?」
「言っただろう? 事実を話して終わり。それだけのことだと」
零は残り少なくなったラーメンの麺を食べつくす。少し嫌な予感があった。相手は警察だが逃げられるなら最も妥当なことを言って逃げてしまおう。そう構えてみせるつもりで返事を返す。
「じゃあ。さっさと教えて下さい。それで終わりにしましょう」
力也はフフッと苦笑いのような笑みを浮かべると「いい子だなぁ」と呟いた。そして事実を告げた。
「白崎創は死んだよ。私の息子と相打ちになってね。互いの銃弾が互いの頭に命中した。私も君も彼らの遺族だ」
零は迷うことなく「そうですか」と返した。しかし何か変な気持ちが湧いた。会った事もない弟、しかも義理の弟だ。いざとなった時の拠り所がなくなったワケでもない。むしろ縁をしたくないとすら思える存在だ。それなのに何だか空虚な感覚がじわりと彼のなかで広がっていく……。
「息子さんのこと、残念に思います。僕は弟に対しては何もないですよ。本当に何も……会ったこともないし。姉は関わるなと僕にずっと言っていますし」
自然と口からでた言葉に嘘はなかった。
しかし何だろうか。どこかで会って何かを話し合ったような記憶がうっすら浮かんでくる。少年院にいた時に彼は夢をみていた。まさかその夢の中で創と出会っていたというのだろうか?
馬鹿馬鹿しいな。
そう零が心の中で唱えたときに「お代は私が持つ。もう私のことは忘れてもいい。君も色々あるのだろうが、真っ当な人生を歩んでくれ。私はそう願う」と告げて勘定したのち、颯爽と店を去っていた。
「お兄ちゃん、大変だね」
「はぁ」
「でも、真面目に頑張っているなら、いつか報われるよ。大事な命、大事にね」
「ありがとうございます……」
零は店主と少しだけ会話を交わすと、暖簾をくぐって外に出た。
外を見渡すが、もうどこにも明神力也の姿はない。小走りで去っていたのか、車に乗ってどこかにいったのか。ただ彼の言った「これが最初で最後だ」というのは、本当のことのような気がした。一言に過ぎないが、彼の息子を弔った事。それが出来ただけでも良かったのかな。そう言い聞かせて軽く息を吐いた――
∀・)零、創の死を知るの巻でした。クライマックスが近づいています。次号。
 




