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SHINKIROU THE SHINIGAMI  作者: いでっち51号
第10巻~TO THE MORNING WHEN THERE IS NOTHING~
152/163

~第4幕~

 その日、彼は寝坊した。寝坊したのは初めての事だ。「まだここに居たいのか? 起きろ!!」と教官の声が耳に刺さる。それでも彼はあくびをしてみせた。



 まだここに居たいのか? 勿論出たいに決まっている。しかし何か不安なるものが零の心の中で蠢いていた。



 それがパッと開放されたのは塀の外に出てからだ。



 笑顔で手を大きく振る絵里奈、そして腕を組んで微笑む真人。牢の中にいる時はずっとその空間が絶え間なく続いてゆくものかと錯覚していたものだが、やっと生きた心地を取り戻せた気がした。



「娑婆に戻るって、こういう感じなのか。不思議だな」

「変な事を言うなよ? 詳しい話は車に入ってからだ」



 振り向くと、門の前でじっと零達の事を見つめている木原が目に入った。



 絵里奈が深く礼をする。零は軽く会釈して真人の車の中に入った。




 車内で零はこれからの事を絵里奈から聞いた。追加入試という形で何校かの高校受験に臨めるらしいが、容易くもないらしい。



「つまり高校受験の浪人もあるってことか?」

「その線も覚悟しなきゃあいけないよ? 特に新城君と河村君のいる学校とか、そもそも倍率の高い難関校なのだから」

「零、お前がしなきゃいけないのは勉強だけじゃあないぞ? 遺族へお詫びをしに行くこともある。それから少年院絡みの案件もまだまだ続くのだぞ?」

「真人さん、出所したばかりの零にそういうイジワルを言わないでよ……」

「いいよ、姉ちゃん。これも真人ニィの優しさだから」

「零……」

「お前、なんか大人になったか?」

「え?」

「いや、俺が厳しいことを言うとすぐムッとするイメージだったのにさ」

「少年院の中で色々考えていたからかな。ずっと瞑想していたし。そりゃ変に歳をとったかもしれないね」

「アンタ、まだ10代でしょ。何言っているの? お坊さんになるつもり?」

「姉ちゃん」

「なによ?」

「姉ちゃんの方が俺にきつい事を言っていたような記憶が蘇ったよ」

「ははは! よくぞ言ったな! 零!」

「何よ! 人が心配しているのに!!」



 車は絵里奈が新しく構えた新居のアパート前に着く。絵里奈は零が少年院に入っている間、職場も住所もありとあらゆる生活環境を変えていた。進路すら全く違う方向性に変えて彼女は歩み出していた。



「養護施設?」

「うん、時間はかかるかもしれないけど、そこで働く人を目指すの」

「学校の先生はもう目指さないのか……」

「うん……少なくともそっちの方は……」

「悪い事を聞いたね。ごめん」

「ううん、でも私達みたいなさ、親がいない、親がまともな親じゃあない子供達って世の中に沢山いると思うの。私達だって、そんな身分だから苦労を重ねてきたワケだしね。きっとそんな子達に少しでも寄り添えるかなって」

「いいじゃないの? 俺は頑張る姉ちゃんに何も文句は言えないよ」

「ふふふ、零ったら優しいのだから。でも、零も一緒に目指してみない?」

「今は何も考えられないよ。それより高校受験があるのだろ?」

「あっ、そっか。そうだね。えっと、何か飲む? コーヒー入れようか?」



 普通の日常に戻ったのか……零にはよく分からなかった。でも、何かが違う気がしていた。何かが自分は普通じゃないと。それが零をそれからも苦しめていく事となる。




 特別に受験した高校は全てが不合格だった。現実は甘くなかった。そもそも受験するまでの期間が短く、充分な試験勉強は出来る筈もなかった。浪人するのかどうか、零は丸1日考えた末に通信制の高校に通う事を決断した――



∀・)やっぱり波乱万丈な人生を歩む零くん。次号。

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