~第18幕~
黒崎絵里奈と権藤紋太が交際を始めて半年経ってのことだ。彼らの間で暗雲なるものが拡がり始めていた――
「ねぇ、今度の日曜日だけどさ、例の今話題になっている映画観にいかない?」
「ああ、でもその日は後輩と遊びにでる予定があってさ……」
「また?」
「最近、仲良くしている友人だから。悩み事もいっぱいあるヤツだしさ、だけど俺が面倒みなきゃどうにもならない奴なのよ」
「まさか女の子じゃないでしょうね?」
「まさか! 俺には絵里奈しかないよ!」
紋太はそう言ってそっと絵里奈の手と手を重ねる。この頃から妙な予感なるものが絵里奈にはあった。喫茶店を出ると、彼に誘われるまま彼の家に行った。彼とデートした時はそれがお決まりの流れで、朝まで彼と過ごす。零にはそういうことを話しているが、彼が嫉妬して、嫌な気持ちになるのも無理ない話だ。そんなことを想って弟の存在を打ち明けた。その頃から、彼が急に挙動不審な行動をとるようになってきたのだ――
「ねぇ? 誰とメールしているの?」
「え? ああ、ウチの親と」
「こんな夜遅くに?」
「はは、気にするなよ。今晩もよかったよ!」
「もう、この助ベノ助!」
彼の挙動不審な動きは彼と一緒にいる時はほぼどういう時間でもみられた。デートもだんだんと減っていき、絵里奈には嫌な予感しか湧かなかった。
ある日、絵里奈は親族で気さくに話せる真人と電話した。
『そうか、それは確かに妙な行動だな……』
「でしょ! 真夜中に親とメールする!? 仕事の後輩なんかと毎週遊んだりする!?」
『まぁ、もしかしたら事実かもしれないし、ところどころ嘘ついて休んでいるだけなのかも。零のことを打ち明けて、そういう風になったのだろ?』
「でも……信じようにも信じられなくて。零の事を打ち明けたからだし……」
『彼の写真か何かあるか?』
「あるにはあるけど……」
『得意先の探偵事務所があってね。お金の工面はこっちで何とかするからさ、一度頼ってみたらどうだ?』
「そんなぁ、真人さんにはただでさえお世話になっているのに、わるいよ……」
『一度きりならいいよ。ただし一度きりだぞ?』
「うん……とりあえず考えさせて」
絵里奈は結局真人と「河村探偵事務所」に行き、浮気調査をお願いすることにした。結果は案の定、絵里奈よりも若い女を何人も手にかけていた事実が判明する事となった――
「信じられない!! この写真、全て叩きつけてやる!!」
「落ち着けよ! 確かにあんな奴とは別れるべきだ! でも、今でも彼からは誘われ続けているのだろ? 素直に別れ話に応じてくれると思うか?」
「応じなくても!! 私から叩きつけてやる!!」
「待て!!」
「離してよ!! 私がどうしようと私の勝手でしょ!!」
「浮気調査の費用を出したのは俺だ! 俺の言い分も聞いてくれよ!」
「ええ、貴方のお蔭ですごく胸グソ悪くなった!! ありがとう!!」
絵里奈は真人の頬を強く叩き、走り去った――
真人は溜息をついて「やってられるか」とその足を真央のいる病院へ向けた。
絵里奈はすぐに浮気証拠の写真を携帯電話で撮って写メールで紋太へ送った。中には未成年の女子も混じっており、そのデータを彼の務める学校にも送るとの文面も入れた。メール送信後、間もなく彼から返信の電話があった。
『おい、いくらでも謝るから! 職場に送るのは止してくれ! 止めてくれ!』
「いくらでも謝る? 人の体を弄んで、挙句の果てに手をだしちゃあいけない女の子にまで手をだして! これが黙っていられるか!」
『何でも言う事は聞く! 何でも言う事は聞くからさ!』
「何でも? じゃあ私とは別れて! でも、別れても私たち家族には慰謝料を毎月振り込みなさい! それとアンタとデートした時に孤独になった私の弟に土下座して謝りなさい!」
『ぜ、全部は無理だ……ど、どれかにしてくれ』
「アンタに選択する権限なんかあるものか!!」
そう言って、絵里奈は電話を切った。そして彼との通信を一切遮断した。そのままに彼女は物的証拠を彼の職場へ送った――
こうして彼らの運命は最悪の結末を迎えることとなる――
∀・)絵里奈姉ちゃん、とんでもない失恋を経験するの巻でした。真人が結構頑張っていたんですね。来週かなりどぎつい展開です。やばい予感する人はスキップして再来週の話から読むことをすすめます(笑)また次号!!




