~第6幕~
明日香はテッドから死神ゲームの詳細を聞いてはいた。そしてそれを雇用主とする正人へ説明する気概もあった。しかし高ぶる感情を抑えることができず、また年齢相応の正人の困惑を解消できる話力もないと痛感するばかりであった。ただ謝ること、それしかできない自分に腹を立てるばかりでもあった。
彼女は河川敷の影に隠れ、ただ地面を叩き続けていた――
死神となった明日香は自身を殺害した者たちへ復讐を果たすべく次々と私刑なる襲撃を重ねた。彼女を死神にしたテッドはメアリーの扱う水晶玉から彼女が暗躍する模様を眺め続けていた。ときにマルゲが覗くこともあった。
「随分と乱暴なコなのね。運命が運命だったなら、彼女はきっと相当な極悪人になれたのでしょうね」
「マダムはそうみているのですか?」
「貴方にはそう見えないのかしら?」
「彼女は怒っている……そしてその矛先がどこを向いていいのかがわからなくなっている。元々は悪人になるべき人間でなかったのでしょう。それが歯止め効かず暴走しちゃうという形で今の彼女の行動原理に繋がっている」
「つまり何が言いたいの?」
「やはり彼女は強いと。そして僕もそんな彼女が、このゲームを介してどんな結末を迎えるか、気になるのですよ」
「そう、あら? どこに行くのよ?」
「ふふふ、散歩ですよ」
「ただの散歩かしら?」
テッドが向かったのは河川敷の物陰に隠れて座り込む明日香の所だった――
「復讐、お疲れ様」
「外人のお兄さん」
「おい、名前を聞いておいて忘れたのかよ? 悲しいなぁ」
「うん、あれから色々考えて……考えすぎちゃったからね」
「そう、どんなことを考えていたのか?」
「その……確かに私は復讐を果たしたけど、これで私が家出をしたって事実が変わるワケじゃないでしょ?」
「そうだね」
「だったら、いいかなって。これ以上無実の人を殺すことなんて」
「確かに……君が彼らに殺された事実は変えられない。だが君が後悔している過去の改ざんは可能だ」
「え? それって……」
「勿論、君が家出して親不孝した事実を変えることは出来るよ。その場合、多分ミスターハシモトとの出会いはなかった事になるだろうが。おそらく君は暴漢たちに襲われて殺された……という話にすり替わるだろうな」
「そっか、余計酷い死に方になっちゃうな」
「ゲームには参加しないのかい?」
「ううん、アンタの話が本当ならばやっぱりやろうと思う」
「そうかい。君に人殺しは似合わないかと思ったが、違うようだな」
「生きる為なら誰だって必死になるだろ? それと同じことだろ?」
「では、改めて訊こう。死神となって敵と戦うのか?」
「私の邪魔する奴は全員ぶっ殺す」
「はっはっは! いいだろう。ここに死神がいる。さっそく戦うといい」
テッドはどこからともなくメモの切れ端を取り出して明日香に渡した。
「僕は日本語がわからないから、僕が書いたワケじゃないけどね。でも念じることで未知の言語も操れるようになる。これも我々の持つ力の可能性だ」
明日香は微笑む。
「お兄さん、名前は?」
「忘れたりしないか?」
「今度は忘れねぇよ!」
「テッド・ライアンだ。テッドで覚えてくれたらいい」
「ありがとう! テッド! じゃあ行ってくるから!」
「ご武運を」
彼女は初陣となる真中豪が拠点を構える廃工場へと向かった。
真中はその戦いの直前にテッドから明日香が向かってくることを聞かされて、入念に戦闘準備を進めた。彼女の能力の事ですらも把握した。
しかし結果は明日香の圧勝だった。
これを機に彼女は死神としての本能に目覚めていく事となる――
∀・)ちなみにですが、真中豪を死神にさせたのもテッドという設定です。また次号。
 




