~第5幕~
居酒屋「さいおんじ」にて店主の西園寺正人は机を念入りに拭いていた。開店前の準備を念入りにするのは彼が店を始めてからずっと続けてきたルーティンワークだった。そしてそれは娘が家出をして……殺害されたと知ってより力を入れるようになった。
その真剣な作業に取り組む中で店の玄関ドアが開いた。
「もうちょっと待ってくれる? あと10分で開くから……え」
正人は言葉を失った。玄関に立っているのは無惨な遺体となって、この世にいなくなった筈の娘だったのだ。
「お父さん……ごめんなさい……」
胸元に泣きつく娘を彼は拒むことなど出来なかった。彼もまた涙を流した。これが一時的な幻であっても、彼はいいとさえ思えた。
何十年ぶりにも及ぶ親子の再会にして抱擁。それは妻の由真子が来ても続く。しかしここで正人は違和感に気づいた。
由真子に「明日香が帰ってきたぞ」と呼び掛けるも彼女は首を傾げるばかり、それどころか「変なことは止めなさい」と言われる始末だった。明日香は俯き、やがて天井を見上げながらも正人へ話しだした。
「今、私は幽霊みたいなモノだよ。多分お父さんにしか見えない」
「そ、そうなのか……!?」
「私は謝りに来たかった。ただそれだけだった。だけどさ、今はまた1つ願いができたよ。でもその為に私は戦わないといけない」
「ど、どういうことだ?」
「うまく言えないよ。でもこれだけは約束させて欲しい。私はまたここに来る。その時にまた色々話すだろうけどさ、私の懺悔をお父さんとお母さんには受けとめて欲しい」
そう言って明日香は走り去った。正人は「明日香! 明日香!」と大声で呼び止めようとしたが、叶わなかった――
明日香はテッドから死神ゲームの詳細を聞いてはいた。そしてそれを雇用主とする正人へ説明する気概もあった。しかし高ぶる感情を抑えることができず、また年齢相応の正人の困惑を解消できる話力もないと痛感するばかりであった。ただ謝ること、それしかできない自分に腹を立てるばかりでもあった。
彼女は河川敷の影に隠れ、ただ地面を叩き続けていた――
∀・)死神になりきれない西園寺明日香さん、彼女の話はまだ続きます。次号。




