~第4幕~
明日香が目を覚ましたのは自分が殺害されたどこかの廃墟だ。着てない筈の服を着ている。死んだ時の痛みはどこかに消えた。ゆっくりと立ち上がり、周囲をキョロキョロと見渡す。するとそのうちに誰かの足音が聴こえた。
咄嗟に構える明日香、しかしやってきたのは白人の青年だ。
「やぁ、交渉しようじゃないか、お嬢さん」
「誰だよ、アンタは? 日本語が喋れるってことはハーフか何か? あ、いや、待てよ。私はそもそも死んだ筈なのでは……」
「そうだ。君は死んだ。殺されたのだ」
「やっぱり……じゃあ、ここは天国か地獄?」
「どっちでもないね。でも此処から先はどっちかだろうな」
「何だよ? ちゃんと話せよ?」
「君、叶えたい願いはないか? 君が生き返るのはナシで」
「何だよ? 遺言を残せるとでも言うのか?」
「お~そういう願いでも叶えることは出来る」
「………………」
「願いは何でも叶えられるよ。君が蘇生すること以外ならばね」
「今ここで言えば、叶えてくれるのか?」
「ノー、ノー、これから戦う敵を全て殺すことができたらね!」
「人殺し!?」
「大丈夫。僕の話を聴いてくれるなら、理解はしてくれると思う。そのまえに、君、真実を知りたいと思わないか?」
「真実だと?」
「君とミスター橋下を殺した大元さ」
「誰だよ? 誰だっていうのさ!?」
「これを見て欲しい」
白人の青年が手をあげると、電子粒子が集まって大きなモニターが浮かんだ。そこに映し出されたのは明日香が働いていた店の店長にして、彼女の横浜行きを命令した男だった。画面には彼女を暴行し、殺害した男達も映っていた。また彼らは談笑し合っていた。「あの赤髪の女は軽い女だったな」と。
「これは本物なのか?」
「偽物をみせる必要があるかい?」
明日香は俯きながらも憤怒した。それは青年にも伝わった。
「いい顔をしている。コレを使うといい」
青年は明日香に手りゅう弾を手渡した。
「お兄さん、名前は?」
「テッド・ライアンだ」
「私に復讐をさせてくれるのだな? それならのってやるよ!」
「ふふ、君なら勝てる。ぜひ戦ってくれ」
そこに粒子が集まって碧いドアが出現した。明日香はドアの向こうへ向かう。それは彼女の戦いの始まりであった――
白龍会系暴力団、吾味組幹部の牧島は組事務所のソファーで寛いでいた。このソファーで寛ぐまで彼は数々の辛酸を舐めてきたものだった。ときに死を覚悟することもあった。そんな彼が好物の缶コーヒーをゆっくり味わっていた時のこと、彼は腹部に激痛を感じた。その次の刹那、彼の口内には手りゅう弾が押し込まれた。
「よぉ、私のことを覚えているか?」
もうこの世にいない筈の女が彼の目前に居た。
「私を殺してイイところに座ったモンだなぁ? ええ? おっさん?」
牧島はもう死を覚悟した。深く抉られるような刺し傷が3つ。
「人生で1番気持ちいいモンあげるよ! 喰らいやがれ!」
死神、西園寺明日香の最初の自爆攻撃だった――
メアリーの水晶玉からその光景をみるメアリーとテッド。
「また凄いコを呼んだわね」
「ええ、でも彼女がどんな願いを叶えるか見ものですね」
「彼女が誰を雇用主にするかで分るでしょう」
「ミスター橋下絡みの人間か……それとも……」
死神となった明日香が復讐を終えて向かったその先は、彼女が17歳までを過ごした居酒屋の玄関前だった――




