~第2幕~
零が部屋をでると、そこに小学生の男子がいた。待っているようだった。
「よぉ。新入りか。林原拓海っていうよ。隣同士仲良くしようぜ」
拓海は手を差しだした。零は挨拶だと思ってさっと握手を交わすことにした。
「黒崎零だ。お前、歳上には敬語使えよ」
「こないだ大人に毒吐いていた人間の言えることか?」
「あのな、俺は俺でワケがあるの。話なら余裕ができた時に話す」
零は手を振ってその場を去った――
彼は街まででて電気屋に向かった。携帯電話を購入する為だ。もともと使用していた携帯電話は真人によってどこかに棄てられた。
もう完全に身内がいない零である。購入にあたっては長い手続きを要した。
待機時間、零は色んなことを考えていた。学校を休んで1週間にもなる。これまでは生活面での経済支援を従兄の恋人である真央がしてくれていたようだ。その彼女も“飛び降り自殺”をして命を絶ってしまっている。彼女の保険は彼女の家族に入る。もちろん零の手元には何も残らない。
あの施設が彼にとって最後の砦なのだ。これを彼の担任教師にも説明をしなければならない。
彼は彼で悩むしかなかった。TVのワイドショーはもう佳奈美の話をしなくなっている。零の動向をまだ追っている者がいるとしたら、週刊誌の記者にでもなるのだろうか。何にしても今生きていると実感する空間が「仮想世界」だなんて微塵にも思っていなかった。
やがて「最新機種です!」という謳い文句とともに、彼の手元へと携帯電話が戻ってきた。彼はすぐさまに親友である新城と河村に連絡を入れた。
連絡が返ってきたのはその晩のことだ。案の定「大丈夫なのか?」「心配しているぞ」と言った言葉が返ってきたが、通学の早期復帰も何とか果たせそうだ。施設で生活をする為、アルバイトをすることなどが望めそうにもないが。零は一連の騒動のなかでバイトを辞めることにもなっていた。
夕食は食堂でとるらしい。時間は決まっており、許可がないと外出も基本は禁じられているようだ。何とも息苦しい環境だが慣れるしかない。
ふと気づくと隣に自分よりも幼い少年が隣に座って、うどんを食べ始めた。
すぐに気がついた。林原拓海、拓海だ。
「よぉ。ここのうどんは美味しいだろ」
「ああ。美味しいな」
そういえば零が食べているのも拓海が食べているのと同じ食堂のうどんだ。わざとこのタイミングで隣に座ってきたのだろうか。零は彼に話しかけてみた。
「ここに来て長いのか?」
「3年ぐらいになるかな」
「そうか。逞しい奴だな」
「親は? 事故か何かで死んだのかよ?」
「話せば長くなる」
「聞きたくなるな」
「お前から話せよ」
「俺は一人親の母親が銃殺されて死んだ。銀行強盗だったらしい。ヤクザ絡みの強盗団で、俺が奇跡的に残ったらしい」
零はうどんを啜りながら思いだした。大手の銀行で市民含む十四人の人間が殺害された事件を――
「あの事件か。あれは銀行の襲撃が目的で強盗が目的でなかった筈」
「強盗でなくても何でもいいだろ? もう母さんは戻ってこないのだから」
「悪い。思いださせてしまったか」
「ほら、アンタも話せよ。俺は話したぞ?」
いつの間にか拓海はうどんを食べ終えていた。そして零をじっと見つめている。その瞳は静かな好奇心に覆われていた。零は溜息をついて答えた。
「俺も一人親の母を病で亡くした。そのあと姉が元恋人に殺害された。そして一緒に生活を共にした従兄が交通事故で亡くなった。気づけばここにいたのさ。どうだよ? 満足してくれたか?」
「へぇ~お兄さんも波乱万丈だな」
零もやっとうどんを食べ終えた。そして立ち上がった。
「黒崎零だ。何かできることあったら、何でもしよう」
零は拓海に手を差しだした。拓海はニッコリと八重歯をみせて零と握手を交わした。二人の同盟が結ばれた瞬間だった。
二人ともわからなかった。わかる筈もなかった。
何故こうも自然と互いを意識しているのかなど――
∀・;)お久しぶりです。お待たせしました。ほんっとにお待たせしました。プロット修正などで遅れてしまいました。しかしこの作品の全容はボクの手中にあります。なんとか週1更新とか目指したく思いますので、ご愛顧宜しくお願いします!!明日も更新あるよっ☆




