~第1幕~
西園寺明日香は横浜市栄区で生まれた。彼女の家族は彼女が生まれる前から個人居酒屋をやっていた。自営業の両親に育てられた彼女だが、物心ついた時から店の手伝いをするようになった。
親に頼まれたから手伝ったのか、彼女が自ら手伝い始めていたのか。それは分からない。しかしそれが幼き明日香の日常になっていた。
家族の仲は決して悪くはない。時に家族で連れ立って東京へ遊びに行く事もあった。しかし、それはいつしか歪んだ。
明日香は中学生を卒業して高校生になった。中学時代から彼女は部活をすることもなく、勉強に励めるワケでもなかった。数少ない友達のように遊んだり恋愛したりする余裕なんてものもなかった。
いつしか親への恩は憎悪へと変わっていった――
「おい、お前! 何やっている!?」
「別にいいでしょ? 普段から何も好きなことできないのだし」
明日香は仕事終わりに店の席に座って煙草を吹かしていた。
すぐに父親は彼女の頬をぶった。
「痛い!! 何すんの!!」
「煙草は成人になってからだ! せめて高校を卒業してからにしろ!」
「どうせ高校卒業したって、ここで働かされるのでしょ? みんなが勉強して遊んで恋して楽しんでいる間に私の額と手は汗まみれになって! 成績も悪くなって友達も減って! 私が私の時間を自由にして何が悪い!!」
「だからって……店の看板に泥を塗るような真似が許せるか!!」
「私は望んで此処の看板を背負っているわけじゃない!!」
「やめなさい!! 2人とも!!」
明日香が父親の正人に掴みかかろうとした時、母親の由真子が間に入った。
「こんなところ出てってやる……」
「え?」
「もう二度と戻るものか。私を探すなよ」
「何言っているの、明日香……」
言葉を失った正人だったが、身体を震わしながらも決定的な一言を遂に吐く。
「お前のような娘がいるか! どこにでも勝手に出ていけ!」
明日香は父を睨み、ドアを強く開け飛び出した。
そして彼女はもう2度と帰ってこなかった。
西園寺明日香、17歳の家出だった――
∀・)西園寺明日香の過去話きました!また次号!




