~第16幕~
野神修也はしりもちをついて迫りくるエレナを仰ぎ見た。
彼女は持っているメスで修也を指した。
「オマエノ血流ワ全テワタシノ手ノ内ニアル。私ノ一振リデオマエノ命ワ散リ、ソレデ全テガ終ワルダロウ。ドウダ? 最後ニイイ残ス事ワアルカ?」
「別に。お前に何言ってもわかるワケないだろうしなぁ」
「ソウカ。覚悟シロ。一瞬ノ痛ミデ終ワラシテヤルカラ」
「一瞬の痛み? そう、じゃあボクがそうしてあげよう」
「何ダト?」
周囲を見渡すと何十体もの野神修也が羽根を羽ばたかせて浮遊していた。
「今ここにいるボクは兆分あるうちのほんの一部だよ。お前にグチャグチャにされた時にボクは分身させたのさ。この包囲網、お前にボクの血全てが握られたって、お前は不利に他ならない。もっとじっくりと煮込むようにして殺してやりたかったが、ここまでボクを責めあげた褒美だ。一瞬で終わらせてやるよ。だけどそもそも分かってなかったなぁ? お前はボクのランク下だ。どんなにあがいてもボクに勝てる筈などなかった。死に晒せ! 短パン糞ババァ!!」
何十体もの修也が鱗粉をエレナ目がけて放出した。
同時に何十体もの修也は一斉に爆散した。
「はぁ……はぁ……ここまでやられるなんて……」
一人の野神修也がヨタヨタ歩きながら壁にもたれた。
自身の半分を使っての作戦だった。ランク下とはいえ、ここまで敵にやられてしまうとは不覚だった。修也は苦笑いをしてみせた。
そういえばエレナの死骸が見えない。あの鱗粉に溶かされたのだろう。そう思った彼はようやく立ち上がった。そしてやっと気が付いた。彼がもたれた壁、その建造物は巨大な漆黒の棺であったことに。
棺はゆっくりと溶けていき、やがてその中に居たエレナが姿を現した。彼は構えてみせたが遅かった。
「虫ケラガ!! 月ニ変ワッテオ仕置キヨ!!」
エレナの一振りで修也の下半身は全て爆散して彼は弾き飛ばされた。
「があああっ!? そんな!?」
ゆっくりとエレナが歩み寄る。
上半身だけになった修也はただ壮絶な痛みに喘ぎ苦しむばかり。しかし彼の意地が彼の背後に何億もの蟲となってエレナを強襲した。
「ボクが、このボクがお前如きの為に死ぬワケナド、ナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアイッ!!」
彼の断末魔も虚しく彼の本体は爆散し、その血の雨を辺りに降らせた。
「憐レ、蟲ノ悲鳴カ」
漆黒の傘を持ったエレナは消えゆく敵の命を嘲笑ってみせた――
∀・)野神修也、遂に散る。いやぁ、本当に書き応えのあるキャラクターでした。そしてバトルって意味でもしっかりと書かせて貰えたなと思います。もう彼がラスボスでもいいんじゃない?ぐらいに凄くしぶとかったと思うし、強く感じたりもしました。はい、彼が逝ったということはもう一人もそういうことです。いよいよ次号で本章も終わります。お楽しみに☆
 




