~第4幕~
この翌日から修也は近所のスーパーで働くようになった。彼も最初は渋々であった。しかし彼の働く職場は訳アリの新人にも優しく、想定外にもテキパキと動ける彼の働きぶりによって彼は自他共に認められる存在となった。そして気がつけば彼も自然と笑顔をみせるようになっていた。陽気で飄々とした野神修也の復活だった――
そんな彼の働くスーパーに思いもよらない客がやってきた。それは彼が入職して7年経ってのことだ――
「修也?」
「エッ?」
「こんな金髪にしているなんて……あの、私、わかる?」
唐突な尋ね者に修也は混乱するばかりだ。
「晶子だよ。修也、大きくなったのね。まだ私よりも小さいけど」
晶子、その懐かしい響きを耳にして彼はようやく思いだした。
「お姉ちゃん!?」
晶子の後ろに並ぶお客がイライラしているのを確認した修也はワイン2瓶のレジをサッと済ませた。
晶子は外で待っていた。修也が退勤する時間まで外で待っていたようだ。
「待ってくれていたの?」
「当たり前じゃない。生き別れた弟と再会できたのよ?」
「そっか……でも、ボクはボクでまぁ幸せにやっているよ」
「そう、お母さんは元気?」
「ママは……げ、元気にはしているよ。貧しいけど、それなりに……ね」
「そう、あ、そうだ電話番号交換しない?」
「お姉ちゃん……ボクは携帯電話なんて持ってないよ。そんなお金ないし」
「そんなに!? でもせっかくこうして再会できたのになぁ……」
修也は少し考えて晶子の肩をポンと叩いた。
「またここのお店に来てくれたらいいよ。これからもずっとここで働いていくだろうし」
「そっか、わかった! 必ずまた来るね!」
修也は十年以上ぶりの再会に心を躍らせた。それは晶子も同じことだった。
それからも晶子は修也の働くスーパーに買い物をしに来た。この近辺に付き合っている彼氏がいるとか。両親には内緒にしているみたいだ。ちょっと嫉妬してしまう気もあるが、身内のめでたい話だ。素直に応援したい話でもある。
「恋愛かぁ……考えたこともないなぁ」
修也は公園で虫を見つけては餌をあげていた。それは彼の日課になっていた。
そして晶子と再会を果たしたタイミングで思いもよらない話が修也のもとにとびこんできた。
「正規採用?」
店長の大深山は穏やかに満面の笑みを浮かべている。
「そんな……ボクなんて高校中退のパートですよ?」
「だからこそ、なって欲しいのさ。君にとっては不本意であっても、不遇な環境から正社員が生まれることで勇気を貰える人は沢山いる。現場のみんなも納得の昇格だ。それに君が現場でやっている事はまさに正規雇用のそれじゃないか」
「そこまで言われたら……」
「ただし面接は入るよ? でも面接に向けて俺がみっちり特訓はするからさ」
「何それ? 怖いなぁ(笑)」
「考えてくれるだけでもやってくれないか?」
「…………わかりました。考えるだけならね。また返事します」
「楽しみに待っているよ!」
千載一遇のチャンスだろう。現場での問題は特にない。むしろ問題があった時はその対処を任されるほどに周囲からの信頼は厚い。収入が増えることで、彼の生活も大きく変わることだろう。しかし彼には大きな重荷があった。
「ただいま」
「…………」
「ここ、置いておくね」
母の亜矢子は養ってくれる男に恵まれることなく、気がつけば息子に養って貰う引き籠りとなっていた。もうかれこれ1年は外出もほとんどしていない。ずっとテレビを無感情のまま観続けている。
「まるで動く銅像だね。たまには『ありがとう』って言ったらどうだよ?」
社会人として大きく飛躍できる可能性が芽生えた修也は弁当を置いた途端に思っていたことを口にした。学校を退学したあの日は勿論、彼女から彼へ愛のこもった言葉は何もでてこない。彼もそんな彼女へ愛想をつかし始めていた。
修也は一人で買った弁当を食べていた。母親が召し上がる物よりも安くて内容の少ない物だ。それは彼から彼女に対してせめてもの親孝行ではあった。
しかしそんな小さな愛情の形も彼の何気ない一言は壊してしまった。
修也は母に背中からめった刺しにされた。何が起きたのかわからないまま、彼は激痛と混乱に喘ぐ。
「がっ!? ママ!? やめっ!? や!? ガアアアアッ!?」
修也の鮮血に部屋が染まる。そして亜矢子もその後を追った――
∀・)こうして現実にいた野神修也は命を失いました。黙祷。で過去話はまだ終わりません(笑)実は続きがあるんですね。どういうことか?次号を楽しみに待っててください☆




