PROLOGUE:THE DAY I KNOW THE REAPER
俺は横浜青葉区にいる普通の高校生だ。
そう思っていた。そう思いたかった。
幼い時に両親は離婚して、母は13の時に病で逝き、姉は15の時に元交際相手の男に絞殺された。
俺は13の時から親戚である従兄の真人ニィの家で生活している。真人ニィはIT関連の会社で重役を務めるビジネスマンだ。それなりの経済力を持っており、急性の難病にかかった恋人の田中真央さんの入院費、そしてお見舞いに行きながらも俺のことを養ってくれている。
俺と言えば、こんな波乱に満ち溢れた人生でありながらも、市内屈指の公立高校に入学して今に至っている。周囲は意外と俺のことを気配ってくれていて、同じ学年に何でも言い合える親友がいて、近所には何でも話せる彼女がいる。生活の為にバイトしていたりで部活をしていたりなんかしてないが、それでも今の俺は充分に幸せだ。俺が人から疎んじられてないのも、理解をしてくれる存在が身近にいて支えてくれているからだ。
「零君、逞しくなったのね」
真央さんはベッド上で穏やかな瞳を潤ませて俺にそう言った。
「逞しくなんてないよ。みんなからガリガリ君って言われているよ」
「馬鹿野郎、外見のことなんかじゃねぇよ」
そう言った真人ニィは頭をポンと軽くたたいて微笑んだ。
何でもない光景、当たり前のようで当たり前じゃない幸せ。母のお見舞いに姉と足繁く通っていたあの頃はそんなこと思ってもなかったな。ただ漠然と、絶望しているだけのケツの青い子供だった。
人間は辛いことに遭遇すればするほど強くなる生き物なのかもしれない。
真央さんが「逞しくなったのね」と言った意味はきっとそういう意味を含むのだろう。だけど、こんな俺でもこの翌日から想像もできない恐怖と遭遇する事になるのだった――