14:救いの鉄鎖
バガイ山の西近辺に鉱業を生業とする街「ハルタイト」街の人々は突然バガイ山を埋め尽くした化物、白流魂奴の出現のせいでここ3日、生業である鉱業の休業を余儀なくされていた。このハルタイト周辺はもともと災害が多く、そのため鉱業によって膨大な利益を得ているが建築物は質素であり、いつでも家屋を放棄できるようになっている。
そしてその災害の多くはバガイ山が原因である。バガイ山には地獄の高密度の精神エネルギー結晶や精神感応物質があり。それらは文字通り人間の、地獄に住む生物全体の感情の影響を受ける。例えば戦争や不況で人々のフラストレーションが溜まればそれに追い打ちをかけるようにバガイ山は災害を起こす。それは動植物の攻撃性、毒性を高めたり、単純な水害や地盤の脆弱化など。このように様々な災害に悩まされてきたハルタイトの人々はこの状況でも落ち着いており、冷静かつ楽観的だった。
「あの白い流魂奴こっちを見てるよ。攻めてくるんじゃないの!?」
金髪の幼い少年が町長の邸宅で会議中の大人たちに言葉を投げかける。
対面する大人たちは楽観的で、まるで緊張感がない。いつものことといった表情だ。
「町長、いくら町長の息子さんでも子供を会議に連れてこられちゃ困るよ~」
いかつい髭面の男が町長と呼ばれた金髪のモリモリマッチョマンに苦言を呈す。
「いやぁ~そう言われてもねぇ。来るなって言っても勝手についてきちゃってさぁ。こいつは頑固でさ、全く母親に似たのかな? はは、そう考えると良いことじゃないか。僕の最高の嫁さんに似た、だから息子も最高なんだ。当たり前だよねぇ?」
会議室の町長以外の大人たち全員が呆れたため息をつく。その親ばかと惚気を同時に聞かされた。金髪の少年は気恥ずかしそうにしている。しかし、この会議室に乗り込んだ目的を思い出しハッとする。
「ねぇ、みんな本当にこれはいつものことなの? 白い流魂奴があんなに大量発生したなんてボク聞いたことないよ。それにあいつらアルターエゴみたいに変身して強いんでしょ?」
「そうだなぁ。白い流魂奴が大量発生なんてのは今まで一度もなかったと思う。僕も過去の災害の資料を漁ってみたけど記述はなかったよ。けど、ナニカが大量発生すること自体はあんまり珍しくなくてね、今までも毒アリやイナゴ、毒草からアンデッドが大量発生したことがある。そもそもバガイ山は不思議なことが起こりやすいところだし、なによりあの白流魂奴はこちらから攻撃しなければ何もしてこない。無害だ。問題はないだろう」
町長はしっかりと過去の災害について調べていたようでその判断も妥当といえば妥当である。しかし、問題があるとすれば、白流魂奴に近づくことができないため、ロクな調査をできていないことだった。
「けど、あの白流魂奴が攻めて来なかったとしてもあのまま居座られたら仕事ができなくて困るんじゃないの?」
金髪の少年のその一言に対しては大人たちもそうだなと同調せずにはいられなかった。いかつい髭面の男は少し少年を見直したようで、少しの期待を込めて少年に問う。
「坊主、じゃあどうすればいいと思う? 俺たちはここのところ会議ばっかりしてるが解決策は未だに出ない。坊主はこの状況はどうすれば変わると思う? ただ危険だと大人に頼っても、その俺たち大人ですら今頼れる大人じゃないんだ。どうすればいいと思う?」
「えっと……じゃあ、もっと、もっとたくさんの人で考えようよ。こんな狭いところで少人数で考えるより、街全体で考えるほうがきっといいと思うんだ。まぁその、だから僕もあいつらをどうすればいいのかは分からないんだけどね……」
その答えに髭面の男と町長は顔を見合わせ頷いた。
「ウェイン、お前の言う通りだな。街のみんなを集めて、みんなで考えよう。そもそも、俺たちは別に賢いわけでもない、考えるのはそれが得意なやつも巻き込まないとな。ハッハッハッハ!」
ウェイン少年は町長、大人たちと共に街へと繰り出すのだった。
────────
「動きは? まだ白流魂奴とエイルは行動を起こしてないのか?」
イリーの応接室で俺はイリーに問う。まぁ呼び出されて来た訳じゃないからそう期待しているわけじゃないが。些細な情報でも欲しかった。ここ連日、こうしてイリーに情報を聞きに来て、考え、という感じだ。応接室はもう完全に会議室と化していた。
「そうだね。そりゃ目立った行動はないよ。だから些細なことまで注視するように頼んであるが、動くものを目で追う、といっても奴らの目は皮膚の奥にあるけどね。そういうのとか近づくと追い返すように威嚇してくるとか。雨が降ると雨宿りしたりとかね。まぁ普通のことだよ。雨宿りするから水に弱いのかなって思って放水しても特に意味はなかったらしい。エゴフィールドで減衰させることすらしなかったそうだ」
「そっか……ん~~~!! もどかしいな。何か企んでるのは間違いないってのに。先手を打てなきゃ被害が出ちまう」
「あ、ちょっと待ってください。それ、放水の勢いはどれぐらいでしたか?」
俺に付いてきていたイグルがイリーに質問する。放水の勢い? 何が知りたいんだ?
「勢い? いやそれは聞いてないな。けどイグル、どうして?」
「雨宿りをしたんですよね? 白流魂奴は、これって生物的、というか人間的には普通のことというか精神エネルギーが人間由来と考えれば流魂奴はかなり人間に近いってことじゃないですか? 感情や行動原理もある程度は似通ってる。そう考えられると思うんです」
「ふむ、確かにそう見ることもできるね。それで水の勢いっていうのはどう関係する?」
「白流魂奴は放水の水を減衰させずにそのままかぶった。これ、俺思うんです。これは合理性だと、そう人がリスクとリターンを考えて行動するように、白流魂奴は常に得するように動いている……と思うんです。つまり、白流魂奴にとってその放水を止めるのは損だったって考えられるんです」
リスクとリターン、合理性を持っている。これは人間だけがもつものじゃないが、合理性を「詰める」これができる生物は少ないと思う。白流魂奴が人間に近い存在ならまたそれも可能かもしれない。けど、未だ俺はいまいちイグルの言わんとしていることが分からなかった。
「放水を減衰させるのが損? 待てよ……水の勢い……もしかして! エネルギーロス!! 放水に減衰させるエネルギーを欠きたくなかった! そう言いたいんだな? そして放水の勢いっていうのは、その勢い、その驚異レベルがどれぐらいからやつらがエゴフィールドを使うか、それが分かるってことじゃないか!」
「そうです!! それで、雨宿りをしてたってことは本来は濡れるのは嫌なはずなんです。けどそれをしなかったっていうのは。エゴフィールドによる減衰はかなりのエネルギーを使うってことなんですよ! 白流魂奴にとってそのときの放水に対して減衰能力を使うのは損だったんです!」
なるほど、そういうことか。考えてみればそうだ。やつらも常にエゴフィールドを展開しているわけじゃないし、周辺のもの全てを静止させているわけじゃない。減衰させるのを選んでいる。そして、そのエネルギー管理が結構シビアだって期待が持てる。
「よし、じゃあ現地の者に放水の勢いを変えてやらせてみる。実験だ、これはもしかしたら使えるかもしれないぞ」
「やるじゃん、イグル。お前は考えるの得意だったんだな」
「まぁ世話のかかる兄だったんでね。マスター……アウルのことありがとうございました。俺ずっと悔しかったんです。一番近くにいながら苦しんでるアウルに気づきながら何もできないのを……何かできることがないってことが分かっていたから。まだアウルがどうなるか分かんないですが……希望を、ちょっとだけでも前を向いてくれたこと、俺すごく嬉しかったんです……ありがとうございました。マスター」
イグルは少し涙ぐんでいた。
「苦しんでたのはお前も同じだろ。涙が出るっていうのはそういうことだ。それに、きっとアウルはイグルがいてきっと、きっと救われてた。何もできてないわけないだろ? 同じ経験をして、アウルを気にかけていた。俺とお前たちが出会って、アウルが前を向くチャンスが来たのも、お前のおかげっていってもきっと怒られないよ。もっと、自分を褒めてやれよ。立派だよお前は」
「あふっ……そういうこと、言うのずるいですよ……涙が止まらな……うっうっ。俺がんばれてた。そう思ってよかったんですね……ああ、うあああああああ!!」
なんだか小動物のようなイグルに俺は気づけばイグルの頭をなでていた。長めの髪をとかすように。そうすると俺の心も少し暖かくなった。俺は今、必要とされていると感じた。俺は今、この世界に必要とされていて、そんな事実に俺は居場所を見た。
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