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12/15

12:出会い


 朝、日差しが照りだしてしばらく。この日本において言うならどちらかと言えば裕福な家が立ち並ぶ住宅街。その一つ、小奇麗に手入れされた広い庭のある邸宅がある。芝生は綺麗に刈られ、木々は風にその豊かな葉を揺らす。葉が擦れざぁざぁと音を立てる。陽の光とその音は調和を感じさせる。そんな平穏と温かみのある空間の中央に洋風で車庫付きの邸宅があった。洋風ながら木材をふんだんに使用した造りで大きなウッドデッキがある。


 鴻上家。鴻上蓮が生まれ育った家。これから育っていく時代の話。鴻上家の庭先に白い乗用車が止まる。車の中から運転手の女性が出てくる。女性は車のトランクをあけると車椅子とそれに座る少女を車に備え付けられた電動スロープで地上へ移動させた。少女は車を降りた瞬間、その一瞬、表情を変えた。


「しずか……音が綺麗……」


 小さな声でぼそっと少女は呟いた。木々の優しい音は彼女には体験したことのなかった音だった。彼女には分からなかった。余裕のない、目の前だけを見る人生で、彼女は些細で繊細な小さな感動を知らなかった。女性は少女の車椅子を押して歩く。庭を通り、鴻上家の玄関へ。女性が玄関のインターホンを鳴らす。


「ああ! すまない! ちょっと準備に手間取ってしまって! あ! いらっしゃい!! 紫音ちゃん。さぁ、入って」


 騒がしいボサボサ髪の男性が玄関のドアを慌ただしく開いた。男性が屋内を案内するように歩き。それに女性が続く、少女の乗った車椅子を押して。少女、紫音はこの騒がしい男性に少し驚き、不安そうにしている。廊下を抜け、応接室に出る。そこには少年と女性がいた。騒がしい男性とその妻と、その息子。鴻上家の人間だ。


「いらっしゃい。これからよろしくね? 紫音ちゃん」


 鴻上母、蓮の母の陽子が優しい口調で紫音を歓迎する。息子の蓮も続いて紫音に駆け寄った。


「俺は蓮て言うんだ。紫音ちゃんでいいんだよね? よろしく!」


 そう言って蓮は紫音の手に触れる。握手をしようとした──


 ──バシッ。


「──っ!?」


 紫音が蓮の手を叩いた。強く、痛みを与えるように、蓮の握手を拒んだ。紫音を運んできた女性と蓮の両親は驚き、不安そうにしている。父は手で顔を隠し、母は口に手を当てている。蓮の手の甲は赤く、真っ赤に腫れている。大きな痛みが与えられた。しかし、蓮は大声をあげなかった。痛いとも言わなかった。痛みを堪えていた。紫音はうろたえていた。自分のしてしまったことを、反射的にやってしまったことに驚き、蓮に対して罪悪感を抱いた。紫音の顔が歪む、不安に押しつぶされる。


「ごめん、びっくりさせちゃったね。でも大丈夫だよ。僕は紫音ちゃんを怖がらせるつもりはなかったんだ。僕は大丈夫、怖くないよ。だからその、もう一回よろしく。紫音ちゃん。あ! もう一回叩けって意味じゃないよ?」


 蓮は笑いながら優しく、真剣な顔つきで紫音を見つめる。そして、もう一度手を伸ばした。紫音の手に。蓮の手と紫音の手が触れる。そして、握手をした。ゆっくりと、急がずに呼吸を合わせるように蓮は紫音の手を握った。


「温かい……そのごめんなさい。私、怖くて、それでだから……ごめんな──」


 紫音の瞳に涙がにじむ。


「大丈夫だって! 気にしないでよ。最初に、紫音ちゃんが不安だったこと、怖かったことが分からなかったのは俺だし。これから仲良くしてけばいいんだよ」


 蓮はそう言って、手を離した。


「流石僕たちの息子だね? そう思わない?」


「そうね~? 私に似たのかしら?」


「いや僕でしょ!?」


 蓮の両親が謎の張り合いをしている。そんな中、紫音は蓮のおかげで落ち着いたようで。口を開き始めた。


「私、よく分からなくて、怖かった。あの日、お父さんすごく怒ってて、いつもよりひどく私を叩いたの。すごく痛かった。だからやめてって言ったの。そうしたらもっと怒ってた。そこまでは憶えてる。それで目が醒めたの。でも……そうしたら目が見えなくなって、足も動かなくなってた。お医者さんが言うにはすごく強く殴られて気を失ってたんだって。その時にこうなっちゃったって」


「それで施設に移されたの。お父さん逮捕されたって。それで今度はこの家に来ることになって、私、何がなんだか分からなくて。怖くて、これからどうなるのか全然わかんなくて!! お父さんもいなくなって、目も見えなくなって、足も動かない。治るのかな? 目と足、お医者さんは聞いても教えてくれなかった。やっぱり治らないのかな? 私──」


 紫音の告白に大人達は息をつまらせる。だが蓮は違った。


「──大丈夫、もう誰にも殴られないよ。俺が紫音を守るし、いつも一緒にいるよ。だから大丈夫。俺は紫音の目にも足にもなれないけど。不安ぐらいだったらどうにかできる。これからあるのは怖いことじゃない。俺と一緒に楽しく過ごして、幸せになるんだよ。お父さんが言ってたんだ。なりたい自分をイメージするのが大事だって。だからさ、楽しく過ごす、幸せに過ごすイメージをしよう。それで、現実にするんだ」


「──あ、う……う、あああああああああああああああああああ!!!!」


 紫音は車椅子から蓮に飛びついて、蓮も紫音も床に倒れ込んだ。蓮は覆いかぶさり大泣きの紫音の背中をやさしく抱いた。紫音はこの日、初めて救われた。救ったのは蓮、それが二人の出会いで。紫音はこの日、蓮を好きになった。



────────



「おいおい、街壊して、地下までぶっ壊されたら流石に僕でも怒るよ!! というかこの異常事態を引き起こしたのが君の妹? しかもお咎め無しにしろっていうのか!? ああ、そうだよ。君をお咎め無しにすると言ったよ。僕には君を殺すことはできないしね。けど、ここまでやって、気にするなっていうのか!? せめて地獄兵器が無事だったら……あーもう、でも壊さなきゃ止められなかったよなぁ~」


 イリーが凄く切れてる。普段青白いのに真っ赤だ。俺が、俺がなんとかしてイリーを説得しないと……


「あ、あのイリーさん。俺が壊した分はちゃんと働いて返すので、妹も一緒に、もう大丈夫なんで、妹も反省してるんで……だからその」


「あの、地獄兵器なら直せますよ? イリーさん、でしたっけ?」


「は? シオン、それマジ?」


 シオンは頷くと壊れた蜂の巣の地獄兵器、ブルーシェーリングに近づき触れた。すると装甲や飛び散っった破片が粒子になって再構築された。ブルーシェーリングは新品同然になっていた。


「ちょっと待て、今のどうやったんだ? シオン? 君はその……角も生えてるし普通じゃないのはわかるが。今のはなんだ?」


 イリーの疑問ももっともだ。これもエゴスキルってわけじゃなさそうだ。けど見覚えがある。エイルがアルターエゴみたいに巨大化した時だ。


「私はエイルと同質の存在だから。精神感応物質なら自由に動かせる。ん~そうねぇ。説明すると意思を持たない人から離れた精神エネルギーはコントロールできるの。で、精神感応物質はその精神エネルギーの動きに追従するから、動かせるってこと」


「こりゃ使えるな……わかった君の妹を許そう。だがそのかわり研究に協力してもらうからな。いいな?」


「はい! それでいいです。はい! シオンもそれでいいか?」


「それがベターかと、兄さん? だから異論はないよ」



──────



 バガイ山、エイルは坑道の中にいた。傷は完全に癒えていた。しかし、エイルは動かない。無気力にうなだれている。


「シオンが負けたか……けど、別にいい。今はそこまで期待してない。次、次のためにあいつらを殺すために動かなきゃいけないのに……なんでだろう。やる気がまるで湧かない。いや、そうか……なんでかはわかるよ。君たちを、生み出しすぎたせいだね」


 坑道、エイルの周りを白い流魂奴のような生物が取り囲んでいた。その数は坑道内では収まりきらない。バガイ山は白く染まっていた。

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