11:混沌と踊れ
レッドアビスのコックピット、モニター映像から青い機体が見える。地獄兵器「ブルーシェーリング」そして、それを駆る……俺の妹「シオン」向かい合うレッドアビスとブルーシェーリングのエゴフィールドが触れ合う。俺とシオンの精神世界がぶつかる。
体が熱い……熱い、熱い熱い熱い!!? とても正気でいられない熱気が俺を襲う。一瞬で汗が噴き出す。熱いのに冷たい、熱い熱気の後ろ、その熱気を少しでも離れたら凍死でもしそうな寒気、冷気がある。これが……シオンの心。俺を思う熱とその他への冷徹と恐怖。そうか……シオンにとって俺は……生きるのに必要な存在なんだ。
耐えられない苦痛で溢れる世界で唯一の救い……シオンは俺に執着し過ぎている。想いの熱が俺を殺しかねないほどに。狂気、愛という混沌が俺を襲う。
拒絶したいと思った。理解できなくて怖かったから。けど、俺は踏みとどまってしまった。シオンは俺の妹で悪い子じゃないんだ。ただ、辛いことが多すぎたから。拒絶はできなかった。俺を思うシオンに応えなければ────
「レン!! レン!! 目を覚ませ!! そいつに飲まれるな!!」
「──っ!? ゼル……? 飲まれる……何を……!?」
衝撃を受ける。ゼルに正気に戻されたことに気付く。正気と狂気の落差で地軸が反転したのかと思った。俺は飲まれていた……シオンに。正気と狂気のギャップは俺の心に結構なダメージを負わせた。そしてそれが警戒心に繋がる。ああ、感謝してやるよゼル。俺は負けられない。だってお兄ちゃんは間違ってるって思ったから。譲れないよ──
「戻れるよね。お兄ちゃんなら。あともう少しかもって思ったんだけど。お兄ちゃんは私を嫌いにならないの? さっきので分かったでしょ? 私、悪い子だよ?」
「お前が俺を想うのに間違いなんてない。悪いことじゃない。ただ、やり方が悪いだけだよ。シオンは悪い子じゃない。お前が俺のことをあんなにも強く想うのは凄いことだ。けど、けど俺はお前に支配されるつもりはないんだよ。シオン、それはお前が嫌いなことをしようとしてるんだよ!!」
温かい、優しい感覚がする。シオンが笑った。いや、安心したのか。嫌われないことに。そしてまた熱くなる。ああ、そうだな止まる気はないよな。流石は俺の妹だ、今まで出来なかった欲望が溢れ出す。この地獄で俺も欲望ダダ漏れだしな。自分の足で動けて、俺を見る。お前のその欲望がここまで強いとは思わなかったよ。
「レン、お前を飲み込もうとした狂気はやつの能力だ。エゴスキル。操縦者のエゴが精神感応兵器で能力として昇華された技だ。おそらく正気を失ってる従業員達もこれにやられたんだ」
「なるほど、シオンが従業員を操って俺たちを呼び出したのか。そして地獄兵器も完成させた。けど、なんでシオン。シオンが俺たちのこの状況を利用できる? どこで俺たちの居場所を知った? そして地獄兵器を知った?」
「私の能力だよ。エゴスキルっていうらしいね。そこのチャラ男が言うには。私ね、翼の生えた男から生まれたの。あいつの一部だった私をあいつは切り離して一つの個にした。それでね。また生まれた瞬間、分かったんだ」
「──お兄ちゃんのこと……お兄ちゃんが見ているもの聞いてるもの思っていること、居場所も全部、分かったんだ。お兄ちゃんの全部が分かる能力。そして私の愛を感じさせる能力。それがあれば、この状況を生み出すのは簡単だったよ。自分の足で歩くよりも、お兄ちゃんの顔を見ることよりも。全てが簡単なの、全部、全部簡単よ」
「お兄ちゃんに愛を伝えることに比べれば全部、簡単なこと。私はお兄ちゃんと愛し合いたい。ずっと──そうしたかった!!」
怒ってるのか。シオン……今までできなかった自分に。動きたくてもできなかった自分に怒ってる。仕方ないで終わらせられない。悲しいな。
「けど、そうか俺の全部が分かる……か。じゃあ俺が何を思ってるのかも筒抜けで俺がお前にどう勝とうとするかもお見通しってことだ。で、俺が言うのなんだけど、お前のエゴは強烈だ。間違いなく強い。さらに言えば地獄兵器はアルターエゴより強いらしいしな。これは俗にいう無理ゲーってやつじゃないか?」
相手の方が強い存在で、相手は俺の考えが読める。どう勝つ? どうやったら勝てる? アドバンテージと言えば戦闘経験ぐらいか? と言ってもアルターエゴの操縦は単純なテクニックだけで決まるわけじゃない。エゴが強ければその分補正がかかる。パイロット自身も強化される。
「レン、これは厳しいねぇ? けど、君なら勝てるよ。君は君で、誰も君を真似できない。分かることとできることは違うのなら。君は絶対に勝てる」
「簡単に言ってくれるよな~ゼル。安いアドバイスだ。だから後で安酒を奢ってやるよ。俺の強さを押し付けて、無理やり、強引に勝たせてもらうぜ!! ──シオン!!」
「──っ!? はやっ──」
思考の切り替え、次の次の次、切り替え続ける。成功するまで、勝つことができるまで。思考とも脊髄反射とも見分けがつかない。俺の執念はスピードになる。勝つことを決めた瞬間に、いや瞬間を千等分したその欠片の速さで攻勢に出る。シンプルな突撃。レッドアビスはブルーシェーリングの目前に移動する。なるほど、どうやら見えてるらしいな……シオン!!
ブルーシェーリングがレッドアビスの鉄拳を避ける。ギリギリ当たらない。速いな、シオンは反射も思考スピードもかなり強化されてるみたいだ。けど次もある。レッドアビスをパンチの反動を利用し空中で回転、マシンガンを持たせ、銃口をブルーシェーリングに向ける。その駆動中にこれは当たらないと予測できた。すでにシオンは反応を始めている。くく、そうだ、なら次だ。マシンガンで天井を撃つ天井が崩落する。
「おいレン!! まだ従業員が……って聞いちゃいねぇ!! 仕方ない、オウガラス!!」
ゼルがオウガラスを呼び、一瞬の間に従業員を回収し天井の穴から外へ出ていった。おっと、視野が狭くなってたみたいだ。助かったよゼル。面白い……自分の考えをどこまでも読んでくる敵と戦うっていうのも新鮮でいいもんだ。
「俺がどうするか分からないだろうシオン? そりゃそうだ、俺にだって今崩落してる天井のコンクリがどこに落ちるかなんて分からないし。ここから先が全部アドリブで反射とお前の危機回避能力との勝負だ」
「──っ、自分でも何が起こるか分からない状況を生み出して……反射の連続する状況を!!」
コンクリが次々と落ちてくる。俺はそれを軽々と避ける、そしてその間もシオンに攻撃を続けるマシンガンの射撃、当たらない。避けられる。地下の壁も天井も破壊しながら闘いを続ける。破片を撒き散らし、状況を混沌とさせる。そうだよシオン、これが俺の混沌、俺の生きる闘争という名の混沌だ。
「うっ!? 次から次へと状況が変わって、次はどう動けば、次は──そうだ──」
「ゲームセットだ、シオン」
「──へ?」
シオンの動きが俺と完全に同期する。完全なるトレース。しかし、俺は「俺に対する障害物、破片を避けただけ」お前の状況とはまるで異なる。俺の左に避けたその先には何もない、だがお前の先には──
「──破片!? 避けられ──」
──ズダダダダッ!!!!!
「俺の勝ちだシオン。だからお前は俺のモノだ。俺の言うこと、聞けるよな?」
破片がブルーシェーリングに衝突しその瞬間にレッドアビスのマシンガンでブルーシェーリングの四肢を貫き、無力化した。俺はシオンの嫌いな支配をシオンに。俺は支配されるぐらいなら支配するほうがいいから。悪いな。
「負けちゃった……やっぱり、お兄ちゃんは凄い……ね。分かった私、お兄ちゃんのモノになる。言うこと、聞くよ……変な気持ち、誰かに支配されるのは大嫌いなのに、お兄ちゃんなら、それでもいいって、ううん、大好きって思える」
「そうか、そりゃ良かった。シオン、お前は最後の最後に俺を頼った。俺の思考に頼った。だから俺の真似をした。そして……俺が勝った。お前がお前のまま戦えるようになったら。俺に勝てるようになるかもな。こういうのもなんだけど、お前と戦うの……楽しかった」
「なあああああああああああああに、してくれとんじゃあああああああああああ!!??」
大絶叫が部屋に響く、青白いはずの顔を真っ赤にしたイェイルシュテルン・アルルスラント。イリーがいた。
「やばい」
「やばいね……お兄ちゃん」
俺の気持ちを味わうのだ妹よ。これが俺の苦しみだ……
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