交易の国へ 道中の街編 1
これから一路貿易の国へ向かう道中編です。
テンポが悪かったり、急に駆け足になり急展開になったりすると思います。苦手な方はごめんなさい。
イーセア、この世界はそう呼ばれている。
世界地図はあるらしいが、めっちゃ高級品であんまり出回ってない。最近は飛空艇が出来たので、もしかしたら新たな発見があるのではないか?そんなことも言われている。
100年前位前だったか。一度だけ世界地図を見る機会があり、この大陸の全容をその時初めて見た。
一つ大きな大陸があり、その周りに大小さまざまな島が点在している不思議な形をしていた。
僕の元居た世界でも、何億年と時が過ぎ、大陸移動の影響でもしかしたら将来は一つの大陸になるのでは?とか憶測が飛んでいたが、この世界は既に一つのまとまりだった。
そんな巨大な大陸なので、歩いて移動するのはかなり大変だ。ほぼ大陸の中央に存在する国、貿易の国から各国の王都までの距離が、おおよそ2300キロメートル。単純に直線で歩いた場合、ニケ月以上かかる距離になる。
険しい道は当然あるし、それほど高い山ではないが山脈地帯もあれば超広い平原、めっちゃ幅の広い川や超巨大な湖など、各地には様々なところがあり、それらを越えるにはさらに時間を要する。
だから転移魔法を使う者は重宝されやすいが、多人数を一度に移動できるのは、国お抱えの国家魔術師くらいだろう。一人で行動する分にしても、相当魔力量を保有しているか、訓練をしないと一人で長距離もかなり厳しい。「一度に多人数」や、「超長距離」と言った場合はだ、短距離で少人数なら何とかなるだろう。
転移魔法が使いにくいみたいな言い方をしているが、習得するだけでも凄い魔法なのだ。これが出来れば魔法使い、魔術師としては一目を置かれる存在なので、何度も言うが、転移魔法は凄い魔法なのだ。
大分昔、僕がこの世界に降り立つよりさらに前までは、馬車や歩きだったそうだが。
今は魔道具の発達により、かかる時間も大幅に短くなった。ちょろっと以前にも話したが、魔道人形の発達が一番だろう。馬だとは思うが、動物を使い以前は荷馬車を引いていたが。それを模した魔鉱石を使った人形を作り、術式を組み込んでいるので、手綱から御者の魔法使いが魔力を込めると動き出す。あとは自分の魔力が尽きるまで動かせるって仕組みの代物だ。
スピードも込める量によって変わるので、自分が動力の車みたいなもんだろう。さらに悪路の街道でも大丈夫なように、鉄を使った頑丈なフレームを採用していたり、衝撃緩和のバネ付き荷車まである。
かなりのスピードが出せるので時間が大幅に短縮できる、料金も少し割高だが、それでも手ごろな為、一般市民の間では随分と使われているようだ。
ちなみに、かなり料金が高いが、現段階で最速の移動手段。魔道列車なる物も存在している。
これは仕組みは魔道人形の荷馬車と仕組みはほぼ同じなのだが・・・規模が違う。制御するためには魔法使い5人が必要で、使っている素材も「女王石」を惜しげもなく使っている。
四カ国が協力し作った物だが、今の所は国家間を移動するようにしか出来ていない。各国それぞれ各地にレールを引いているみたいだが、材料の問題や動かすための費用、維持費などなどの問題から、とりあえず国家間の移動が出来ればいいと言うことで大きく進展はしていない。
これを使用している人々も、外交官や貴族、あとは金持ち商人や富裕層位で、利用の割合も少ないことも影響しているだろう。
僕の世界で言う、新幹線が魔道列車で夜行バスが魔道人形の荷馬車と言ったところだろうか。魔道列車にもグリーン車と普通車みたいに、分ければもう少し乗り手が増えるのでは?などと思ったのだが。僕が乗ることは無いので気にしない。
大まかな移動手段はだいたいこんなものだろう。後は新しくできた飛空艇だが、僕もまだ見てないから分からない、飛空艇は旅の目的でもあるので楽しみにしておこう。
そうそう、魔法で自分が飛んでしまえばいいのでは?と思う人もいるだろう。飛べる人はそれで良いだろうが。転移魔法と同じように、沢山運べるわけでないし長距離移動しようもんなら魔力不足で落下する。魔力量に自信があり、一人で飛ぶだけなら問題ないだろう。
飛行魔術が使いにくいみたいに言っていますが、かなり高度な魔法で習得するだけでも・・・うんたらかんたら。
まっ、僕みたいに無尽蔵な魔力あればなんだって出来ますが。なにか?
さて、そんな長い距離をわざわざ徒歩で旅しているわけです。
現在、女王の国から貿易の国へ向かっている道中。国境まではまだまだ先で淡々と歩いている。
「ナナミー!歩くの飽きましたわ、休憩しませんかー?」
僕の少し後方から、情けない声が聞こえてくる。
言っておくが彼女は 女王の国・第一王女 クリスティーナ・ベルク様である。
歩き始めは余裕と言いながら笑顔だった。しかし、もう10日間くらいは歩いているだろうか、途中野宿したり川で水浴びしたのだが、流石に音を上げたようだ。
まぁ、分からないでもない。本当は少し前にある大き目の街で、宿を取るつもりだったのだが。王都での騒ぎのすぐ後の為、安全を考え寄らないことにしたのだ。王女様の顔は知られているし、下手に貴族に鉢合わせたら僕がバレるかも知れないからね。
そんなこともあり、ただいま絶賛強行軍中である。
「あと半日ほど歩けば、少し大きな街に着きますから。そこでゆっくり休めますよ。」
「それは分かっていますわ。そうではなくてー、少しお話をしましょうって事ですわ。急ぐ旅でもないのでしょう?城門が閉まる前までに入れればいいのですから。」
この女王様の言う通り、まだお昼前だ。日が暮れる前までに入り口の門までに着けば、女性二人の旅人位安全優先で門番も入れてくれるだろう。
「歩きながらでも話は出来るでしょう?それに、だいぶここまで来る間に話したと思いますが?」
でも駄目だ。さすがに今は早く街まで行きたい、いろいろ買い足したい物が沢山ある。
特に!クリスの私物!あのおバカさん殆ど手ぶらで来やがって、『戻って取ってこい』と言って、自前の転移魔法を使わせて取りに行かせたのだが。戻った先で女王陛下に『それは旅をしながら自分で何とかするのも醍醐味です』などと言われ。納得して帰ってきやがった。おかげで日用品を購入したはまでは良かったが・・・ついうっかり使ってしまった・・・あれを。
「うー・・・駄目ですわ!もう我慢の限界です!!いい加減教えてくださいませ!」
「教えません!!」
「けち臭いですわよ!!いい加減観念なさい!その『マジックバック』について教えなさい!!」
そう、うっかりクリスの前で使ってしまった。野宿している時に、手荷物がかさばるのが嫌だと思い不用意に使ってしまったのだ。しかもその時に、凝視していたクリスに対して『マジックバックに整理して入れてる』などとポロっと言ってしまったのだから、さー大変。そこから連日事あるごとに、ズイズイ聞いてくるようになった。
一人の期間が長すぎて、癖でいろいろやるようになっていたみたいだ。まぁ、見られてしまったのがクリスで良かった。
「ずるいですわよ!そんな便利な物を独り占めなんて!旅仲間なんですから、私にも一つ下さいませ!」
「上げません。」
「ならば作り方を教えてくださいませ!」
「教えません!あのクリス?いい加減諦めてくれませんか?見せてしまった事は謝ります、ですがこの技術は今のまま世に出回ってしまうと大きな混乱になってしまいます。誰にも教えられないのですよ。」
いや、別に良いんだろうけどさ出回っても。でも・・・嫌な予感しかしないんですよ、僕ほら面倒事を寄せ付ける体質ですし。だから嫌な予感っていうのは意外とよく当たるんですよ、いや本当に。
「ならば出来上がった物をくれれば良いのですわ、それなら問題ないでしょうに。大事な物なら、私は無くしたりなんかしませんわよ?」
クリス、胸を張ってそう言っているが。僕には、顔を真っ青にしながら、必死に探している光景が目に浮かんでくるんだよ。うん、駄目だ・・・まだまだ信用できない。
「話は終わりです。キリキリ歩きなさい。」
無理やり会話を終わらせて、僕はさっさと歩きだす。
ちなみに、荷物の大半は背負うタイプの皮袋に詰め僕が背負って、クリスは手提げタイプの袋を振り回しながら持っている。手ぶらで旅なんて怪しまれるので、余計な面倒が無いよう。基本的には旅人らしい荷物で歩いている。そんな状態だったのに、本当に何をやっているのか僕は。次からはもっと気を付けて、人目に付かない所で整理しよう。
その後、クリスはブツブツと文句を言いながらだがしっかり付いて来ている。本当に王女様なのか疑ってしまうくらいの落ち着きの無さなのだが。それこそ、黙っていれば清楚で綺麗な女性なのだ、黙っていれば。お転婆にしてもほどがありすぎる、この子がカッコ良かったのは、出会った時だけだったな。
日が天高く上り、緩やかに下り始めた頃。
目指していた街が見えてきた、王都と比べれば全然大きくはないが、それでもそこそこ大きい街だろう。この調子なら予定していたよりだいぶ早く着きそうだ。これなら、着いてすぐにいろいろ見て回れるだろう。
何に気なしにスタスタと進んで行くと、細い街道の方から荷馬車とそれを護衛している人達らしき集団が進んで来ているのが見えた。魔道人形ではない昔ながらの馬引きの荷馬車だ。それを見たクリスは・・・。
「ナナミ!見てくださいですわ、馬引きの荷馬車です!王都は魔道人形ばかりで、今では珍しい物です!なんだか感動ですわ!」
「小さな村や集落なんかでは、魔道人形の荷馬車を持つくらいの余裕がないのでしょう、魔法に優れている者も必要です・・・なにより高いですし。今でも、意外と使ってる所は沢山ありますよ?」
「そうなのですか?! あ、向かうところは同じみたいですし、載せてもらいましょう!」
そう言うや否や、クリスは走ってその馬車に向かって行った。
いやいや、もう街見えてるし歩けばすぐだよ。物珍しいだけで食いつかないでくれよ。その好奇心だけで思いついたように行動しないでくれませんかね?王女様?
大きな溜息をしつつ、仕方がないのでクリスの後を追う。面倒になる前に引きはがして・・・と、思ったのだが。荷馬車が止まっており、その前で満面の笑みで両手を振っているクリスが居た。
「ナーナーミー!乗せて下さるそうですわー!!」
オウ!なんでじゃ!!
荷馬車の荷台と、御者の隣に腰を下ろし目の前の街へ向かっている。
御者のおじさんはこの街から、荷馬車で半日ほど離れた村から来たらしい、村名産の野菜や果物を定期的に卸に来ているのだとか。周りを護衛している人たちは冒険者ギルドの方で、街道には魔物や強盗が稀に出てくるため、依頼をして護衛してもらっているそうだ。
クリスが突然声かけた時も、かなり警戒していたそうだが。強盗にしてはあまりにも無策で無防備過ぎたため、話を聞いてくれたそうで。さらに馬引きの荷馬車に、大そう感動していたクリス見て、おじさんが快くお願いを聞いてくれたらしい。
「本当に、連れがご迷惑をおかけして申し訳ございません。」
「いえいえ、構いませんよ!街は目と鼻の先ですし。別嬪さんのお願い聞けないようじゃ、男が廃る!がっはっは!」
優しい人で良かった。問題児のクリスは荷馬車の上ではしゃいでいる。「高ーいですわ」「意外と揺れますのね?」とか言っているが、ことの重大さが分かっていないようだ。宿に着いたら説教の時間だな。
そんな他愛ないやり取りを、御者のおじさんとしていると。ふと視界の端に、冒険者達が、クリスの様子を伺いながらコソコソ話をしているのが見えた。
・・・街に着いたら一番に、クリスの変装道具を用意しなきゃダメかー。
「ナナミ?どうしましたか。全く表情筋が動いてませんが、何か悩んでおりますわね?」
お前のせいでな!悩んでんだよ!周り見ろ周り!おじさんは気が付いてないみたいだけど、さすがは冒険者達、断定はしてないけど薄々気が付いているような雰囲気だ。
てか凄いな!僕全然表情に出してないのに、その洞察力を僕にじゃなくて他に使え!
「クリスちゃんだったかな、君は何処から来たんだい。北の方から来たみたいだけど。」
「ええ、私は王都からやって参りましたわ。それもなんとおうじょ」
僕はクリスの頭を叩いた、平手で綺麗に。それはそれは綺麗に、熟練の漫才師のように素早く決めてやった。
「ちょっ!痛いで」
反論しようとしたクリスを思いっきり睨む、威圧付きで『これ以上余計な事言うな』を眼力だけで分からせた。
シュンと小さくなったクリスはいじけ出し、さらに小さく丸くなって荷台に隠れてしまった。
「クリス。物珍しくて楽しくなりはしゃぎたくなる気持ちは分かりますが、限度があります。少しは心を落ち着かせてください。」
「がっはっは!すまないなクリスちゃん、余計な事を聞いちまったみたいで。お前さんもあんまり怒ってやるな。お前さんは慣れてても、あの子は見た所初めての旅なんだろ?はしゃいじまうのも無理ねーさ。馬の荷馬車ごときで大喜びするくらいだ、見てるだけで大態の事情は分かるってもんだよ。」
「お察しして頂けると幸いです。まぁ、楽しむ位だけなら良いんですよ、ただ・・・面倒事が起こりそうで、気が気でないのですよ。」
ただでさえ、一国の王女と言うだけで大きな爆弾なのに。その爆弾が、いつ爆発してもおかしくない状態のまま、手足を付けて自由に歩き回ったり走ったりしてみろ。生きた心地がしない。
考え方を変えれば、これ以上ない後ろ盾を持っているとも言えるが。あまり貸し借りを作りたくない相手でもある。
「そう言えば、お前さんには自己紹介してなかったな。俺は『モック』だ、普通の農家だが俺のとこの野菜はうまいぞー。あとで分けてやる。」
「私はナナミと申します。流浪の旅人です、クリスとは最近知り合いまして、共に旅をしております。」
モックさんか、髭が驚くほどフサフサしている。つぶらな瞳で優しそうなおじさんだ、農家と言うだけあって腕の筋肉はパンパンだ、ゴーリラ戦士団長と同じくらいある。ただ、体系が違うので例えるなら『ドワーフ』ぽい、・・・人間だけど。
挨拶を交わしていたら、冒険者の一人が近寄ってきた。
赤毛の好青年、装備は軽装だが鍛え抜かれた身体だ。年は20代後半と言ったところか、目つきがかなりきついが別に睨んでいるわけでは無いらしい。
「モックさん良ければ俺も挨拶させてほしい。」
「おう、そうだったな。しかし悪いな急に人増やしちまって、報酬に色付けるから許してくれや。」
「かまわない、街はすぐそこだしな。俺は Cランクパーティー『ハートエッジ』のリーダーで『シン』と言う。モックさんとはよく仕事を共にする顔なじみ・・・みたいなもんだ。よろしくな。」
うん、目つきは怖いが中身は良い人そうだ。ランクがC・・・と言うことは中堅クラスか。
異世界系、あるいはファンタジー系をよく読む方ならお馴染みのシステム、冒険者ギルドのランク。これについては皆さんもお判りだろう、正直説明する必要もないと思う。
だが、念のため。
この世界では F ~ A までのランクで分けられています。
Fランク は、本当になり立てのお初心者さん、既定の仕事が出来ればすぐにランクアップ。
Eランク は、駆け出し冒険者さん、地味な仕事をコツコツやって達成できればランクアップ。
Dランク は、冒険者としてようやくそれらしい仕事が出来るようになります。
Cランク は、経験が一定年数あり、護衛や討伐の依頼をしっかりこなせるようになると、Dランクからここまで上がります。
Bランク は、一流冒険者です。国直々に依頼が来ることもありますし、難易度の高い依頼を受けるようになります。ここまで来るには相当の実力が必要です。
Aランク は、ギルドがその実力を認め、認可した者。一言で言えば『強い』それだけ。仕事は一般に出回らない超難易度の仕事をするようになる。
長くなりましたが、この通りです。ラノベ小説で異世界系には良く出てくるシステムなので、違いは作品作品違いはありますが、そんな感じです。
ちなみに魔法の国では、魔法協会のギルドでも似たようなランク付けが合ったりするが、それはまた今度話すとしよう。
話を戻すが、このシンと名乗った彼がリーダーのハートエッジと言うパーティーは、以前から何度かモックさんの護衛を行ってきたらしい。結構気さくに話ている。
僕も挨拶を済ませ、シンさんと少し話をしていた。一人で旅して何処へ行ったことがあるのかとか、これから行く予定の所とか、ここら辺なら向こうの方にいい観光名所があるとか。意外と積極的に話をしてきた、見た目が警戒してるように見えてしまったのでちょっと意外だった。
話が進むと、シンさんはこんな事を言ってきた。
「旅をしているんだ、ナナミさんだけでも冒険者に登録していた方が良いじゃないか?クリスさんだったか、もし可能なら入れておいた方が困った時何かと助かるぞ?」
確かに、それが良いのだろうが。その僕に問題がある、過去にやらかしてて未だに忘れられぬ過去。冒険者ギルドでもやるのだろう、測定を・・・。駄目だ、やりたくない。幸い魔物を退治して剥ぎ取りしてその素材を換金することが出来るから、登録する必要は無い。
だが、この時後ろでいじけていたとある女は目を光らせ、盛大に復活を遂げた。
「良いですわ!そうですよ、旅をするなら冒険者になりましょう!いろいろ世界を見て、さまざまな人と出会える!これが私が求めていた冒険ですわ。お母様に言われた通り、これこそ醍醐味ですわ。」
クリスティーナ王女!完全復活!
彼女の背景にデカデカとその文字が輝いているように見えるのだが、気のせいだろう。
僕はこの上なく嫌だと顔色に出してみたのだが、クリスには違く映ったようで。
「大丈夫ですわ!これでも腕に自信があります、ナナミもそんな不安な顔しないでくださいませ。」
違う、不安なのは違わないけど、違う!
さあ、これはマズイ。このお転婆娘の暴走が止まらなくなりそうだ、あのまま大人しく荷台でいじけててくれれば。何事もなく終わりそうだったのに!
「クリスちゃん。お前さん腕に自信があるのかい?見た目は確かに鍛えてそうだが___」
大丈夫なのか?そう言いたそうな顔でモックはクリスを見やる。
そんな話をしだすと護衛で周りに居た、残り3人のパーティーメンバーが集まり始めた。
「リーダー、もうすぐ入り口の門に到着する。検問は待機列が出来てる、少しかかりそう。」
小さな女の子がシンさんの足元まで来て状況を報告する。
もう着いたみたいだ、やはり自分の足で歩かなかった分のんびりできた気分だ。しかし、これはチャンスだ。ただ入場するだけなら大きな検問を通る必要は無い、手荷物検査だけ受ければいいのですぐ入れる。
ここで別れて、クリスと少し話さなければ。・・・やっぱりクリスの言う通り、話す時間は必要だったんだな。そうと決めたら行動開始。
「モックさん、護衛の皆さん短い時間でしたがご一緒していただき感謝致します。申し訳ございませんが、行かなければならい場所があるため、ここで失礼します。」
「お、お前さんここまで来たんだから別に急がんでも。」
「モックさん、こちら少ないですがお礼です。護衛の皆さんにも分けて上げて頂けますか?クリス行きますよ?急いでください。」
「ナ、ナナミ?!どうしたの?!」
混乱する皆を置き去りにし、クリスの手を少し強引に引いて入り口を目指す。この時は、これで良かったのだと思っていたのだが・・・この強引なやり方プラス、渡したお礼が変な誤解を生んでしまった。
彼女たちの姿が見えなくなった頃、モックが驚いた声を上げた。
「おいおい・・・ただ一時乗せてやっただけでこんなにくれるか?」
その顔は困惑していた、先ほど慌しく行ってしまった女性から渡された、革製の巾着から金貨が5枚も出てきたのだ。これは護衛の冒険者達と分けても、金貨一枚にもなる。短い時間、ほんのひと時、これだけの事に対しての報酬としては多すぎた。
モックが困惑していると、ハートエッジのメンバー、そばかすの目立つ青年『ナーグ』が先ほどメンバーと話していたことを口に出した。
「あー、やっぱ本物見たいっすね。馬も見たことないし、あの言葉使い、ちょっとお転婆な所も噂通り。そしてなにより・・・めっちゃ!美人!!」
「ああ、まさかとは思ったが。今の慌てようと報酬を見て確信した。クリスティーナ王女様だな。」
ナーグの言葉に続けるように、シンも頷いた。
モックは驚きすぎて思考が追いついておらず、目を見開いたまま固まっている。
「危なかったー、アタイ実はあったことあんのよね。だからすぐに分かった。王都で仕事に行った時、王女様ったら普通に市場で買い食いしてたのよ?最初知らないでメチャクチャ失礼に話しかけたりしててさー。後から教えられて・・・あの時ばかりは処刑されるかと思った。」
フードを深くかぶっていた女性は、やっと外せると言わんばかりにフードを取り。愚痴りながら話に入ってきた。
彼女もパーティーメンバーで、『サーラ』かなりダイナマイトボディなのだが、ボディービルダーのような筋肉をしている。高身長のシンよりは低いが、女性の中では高身長だろう。
「お忍び・・・なのかな。それとも・・・」
先ほぼ、シンへ報告していた少女。名を「ミーム」最近ようやく15歳になったばかり。実力は分からないが、Cランクパーティーに所属しているのだ、それなりの実力はあるのだろう。
そんな少女は突如として現れた、一国の王女様の目的を読もうと必死になっている。理由は無いただの旅なのだから、深い意味はない。だが、そんなことは彼らは知らない。それぞれの憶測が頭の中で駆け巡る。
「やっぱ、あの噂じゃないッスか?冒険者の話が出たとたんに、食いついて来てたし。」
「アタイはあの性格からして、何も考えてない、ただの旅だと思うけどね?それに、ただの噂話で王都からわざわざ王族が来ると思うかい?」
サーラは流石に一度話した経験がある、まったくもってその通りだ。
先程この二人が言っていた、冒険者の中で今噂になっていること。
「王族が、お忍びで現れている。あの噂は本当かも・・・『孤高の魔女』の噂・・・」
ミームのつぶやきは、そこに居た四人の耳にしっかり届き。それぞれ思いを巡らせた。
「お前ら、老いぼれの俺にも分かるように説明しろ。」
ここまで読んで頂きありがとうございます。
物語の話を構成するって基本的な事なんでしょうけど、いろいろ苦手な僕には難しい。
今はとにかく続きつくてみます。