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女王の国 王都編 5

今回で王都編は終了です。ここずっと急展開しか言っていませんが、止めることが出来ませんでした。

苦しい方はどうか無理せずブラウザバックをして下さい。



 視界がハッキリしたので、改めて二人を見る。

 インツはなんとか平静を装っているが、口元が引きつっている。女王陛下は先ほどよりも一段と険しい顔になっていた。あれ?なんかやらかしたかな?


 「なるほど、この目で見るまでは半信半疑でしたが。・・・まさか、あの状態から復活するなんて。しかも、どんな魔法を使ってるかすら分からない、大量の魔力をかき集める、までは理解できましたが。ただの回復魔法でもない・・・」


 そんな感じで女王陛下は、悶々と思考の海に沈んでいる。

 いやいや、僕にも分からないから。分からないからこそ教えることも出来ないし、説明も出来ない。こんなことなら神様に聞いておくべきだったかな?いや、違うな。もし僕が教えてもらっていたら、何かの拍子に言っちゃったりするかもしれないし、そうなったら取り返しがつかないか。


 「へ、陛下?とりあえず、場所を移動しませんか?これだけ大量の魔力を使っての魔法です、城内を警備している戦士団が勘づきます。」


 インツのその言葉に思考の海から浮上した女王、「そうですね。」と一言発し、僕の手を引っ張りながら、足早に会議場を後にする。その後ろからはインツが連なり、僕に何かを被せてきた。

 突然、前が見えなくなったことに驚き声を上げようとしたが、女王陛下は僕の口に人差し指を当て、静かにするように合図してきた。さらに、突然後ろから抱き上げられた、インツが僕を持ち上げたのだ。

 僕はこのままでは何も見えないので、感知魔法を発動しようかと考えたのだが。僕の考えてた事が分かったのか、インツに「今は何もしないでください」と忠告されてしまったので、大人しくしていよう。

 そんなやり取りをして、インツに抱きかかえられた瞬間、けたたましい足をと共に戦士団が現れた。


 「ユスティーナ女王!?なぜこちらに・・・いえ!これは失礼しました!」


 そんな声がする。声の感じ先ほどの戦士団の副団長のどちらかに似ている。


 「いえ、かまいません。いったいどうしてのですか?重装備の兵まで連れて、何事です。」


 「はっ!先ほど、巡回警備していた戦士の報告と、警備用の魔道具に、会議室方面にて異常な魔力を感知いたしました。魔道具はかなりの数値が出ており、万が一のことも考慮しい、武装した次第です。」


 そんな魔道具があるのか。いや、もしかしたら冒険者ギルドとかにおいてある計測器みたいなものか?でも、そう言う物とはなんか違う気もするな。んー、気になるけど知ったところで意味も無さそうだな。

 しかし、さすがは王城って感じだ、警備体制ばっちりだな。


 「ふむ、先ほどまで会議室に居たのですが。インツ?そんな感覚は有りましたか?」


 「いいえ、何も。さっきの罪人の遺体を運び出して来たばかり。後は、掃除を使用人に任せましたが。」


 「そうでしたか。おい!お前らは先に向かえ!我は後から向かう!」


 副団長が指示を出し、戦士たちは会議場へ向かう。自らはこの場に残っているのだが、緊急事態だし護衛も兼ねているのかな?


 「陛下、こんな状況です。お一人では危険ですのでお部屋まで護衛に着きます。」


 「ええ、お願いいたします。」


 「しかし、なぜまた会議場に・・・まさかとわ思いますが。」


 「どうしても気になったんのです、彼女が本当に死んだのか。もしかしたら時間が経ってから蘇るのではないかと思ったのです、それを確認したかったのですよ。死体を見に行くと言えば、そんな事許されないでしょ?ですから、こっそり行ったのですが・・・。」


 「陛下、あまり勝手な行動は慎んでください。」


 副団長の表情は若干苦い顔をしている。

 しかし、よくまあポンポン嘘が付けるもんだ。いや・・・これ位出来ないと女王はやってられないか。そう考えるとクリスは大丈夫なのだろうか?そう言うのが苦手そうだ。

 しかし、魔力の事に関して何も言ってこないな?なんだか怪しまれそうだと思ったのに。


 「では、ユスティーナ女王陛下。僕は荷物を運ばなければなりませんので、これにて。」


 「ええ、頼みましたよ。」


 ようやく遺体安置所に向かうのか。と思ったら、インツが小声で話しかけてきた。


 「(別ルートで女王陛下の部屋へ向かいます。ナナミ様は今しばらくそのままで。)」


 うーん?予定が違うぞ?僕は遺体安置所に送られた後は、そのまま逃亡の流れになっていたのだが?

 もしかして、欲望に目がくらんだか?やっぱり騙されていたのか?どちらにしても嫌な予感がするんだけど、復活するとこ直接見られちゃってるしな。

 どうなるか分からない現状を、考えては否定し、想像してはそれを消し飛ばし。かなりの時間連れまわされていたみたいだが、なんだかんだと悩んでる間に、いつの間にか女王の部屋に付いていたみたいだ。


 抱き上げられていた身体は静かに降ろされ、ソファの感触が身体を包み込む。

 「はっ」とした頃には被り物が取られ、日の光が眩しく慣れるまでに時間が掛かった。

 光に慣れ、部屋の中が見えるようになると、そこは立派な執務室だった。調度品の数もそうだが全てが立派だ。フカフカの絨毯に綺麗なタンス、窓の一部はステンドグラスみたいになっており色鮮やかに室内を飾っている。腰かけているソファも僕が居た部屋の物より居心地がいい、まさに王の部屋だ。心なしか良い匂いまでして心が落ち着く。


 じっくり室内を見渡していると、僕を運んでくれていたインツが目に映る。

 先ほどまで引きつっていた顔はそこには無く、Sっ気のあるイケメンスマイルをして僕を見ていた。

 そんな彼に、僕は気になっている事を聞いた。


 「あの、これでは計画が無駄になってしまいますよ?一部の貴族は私の遺体を確認しに来るでしょう?遺体が無くなっていては、ここまでの演技が無駄になってしまいます。」


 「大丈夫ですよ、『既に遺体は焼却した』ことなっております。ナナミ様と背丈の合う亡骸を用意し、既に工作も完全に行っております。僕が何も無計画に遠回りした訳では無いですよ?時間を稼ぎつつ誰にも会わないようにしていたのです。実際、一部の貴族は先回りしてた者も居るみたいですが。そいつらが偽の遺体を、炉に投げ入れる瞬間を見てくれてますので、本当に死んだと思われているでしょう。」


 僕の計画の詰めが甘い所を、補填してくれた、そんな感じなのかな?これで完璧な偽装が出来たからここに連れて来ても安全だと言うことか。

 当初の計画では、貴族がまさか遺体を欲しがるとは思わなかったし、そんな変態が居るとも考えなかった。誰も居なくなればそのままこっそり抜け出して、はい!終わり・・・だと思ったのだが、先のような輩に遺体が無いことが知られたら、またこの話題をぶり返す結果になっていたのか、危ない危ない。


 「魔力の異常発生で兵が動いてしまいましたが、あれは大丈夫なのですか?」


 「正直、あれはかなり焦りました。まさかあれほどの魔力を使うとは思っても見なくて。正直、魔力暴走でもしてるのではないかと思っていましたよ。」


 もう一つの問題、魔力が検知されたこと。

 僕的にはなんてことないと思っていたのだが、警備に引っかかってしまったのでそれの収拾についてだ。

 勘の良い人は、もしかしたら復活、とか考えそうだが。それ以前に、城内での異常だ、混乱しないはずがない。

 と、思っていたのだが。


 「ですが、ご安心を。『掃除用の魔道具が暴走してしまった』って事になっております。」


 インツ曰く

 会議場で僕が流した血を掃除しなければならないのだが。掃除用品に自動で吸引してくれる魔道具があり、それを使って血を取っていたが。本体は液体を吸引するように作られていないのに、無理やり吸い込もうと出力を上げた結果、過度の魔力供給で暴走した。

 と、言うことになるように仕向けたらしい。会議場にはボロボロになった魔道具に、使用人役を配置したらしい。

 

 あんな短時間の間に良く思いつくものだ!感心したよ!でも、良く都合よく色々あったね!

 こんなアドリブ力が僕にも備わっていたら、こんなことには!・・・そうか、神様に頼み新しく付けて貰えば!

 ・・・いや、無理だな。愉快な方を選ぶからやってくれないだろう。


 とりあえず、なんとかこの場は収まり。女王陛下の信頼も落とさず、僕も無事に国を出ることが出来、目的は達成された。あとはこれ以上問題を起こす前に、僕はさっさと国を出たい。


 「そう言えば、ご挨拶をしていませんでしたね。初めてお会いした時は、いろいろ立て込んでいたので出来ませんでしたし。」


 「・・・そうでしたね、あの時は挨拶もせず失礼しました。ナナミと申します。今は流浪の旅をしております。」


 「僕は インツ・イスターツ 親からほぼ勘当されてる状態だから、今はこれしか名乗れないけど。女王陛下の手となり足となり、なんでもする雑用係と思ってくれていいよ。」


 「そうなのですか?正直、役職を持った偉い方なのかと思ってたのですが。」


 「ははは、そう言われたのは初めてだ。・・・いろいろあるんですよ。」


 そう言い終わると、インツの顔には一瞬だが覇気が無くなった。彼にも事情あるのだろうが、詮索する必要は無い。僕はすぐにこの国から出ていくからね。何もして上げられないし、何も出来ない。


 「それにしても、さっきのはホントにびっくりでしたよ。いったいどうやっているのですか?」


 なんかスッゴイ気軽に聞いて来ているのだが、これが彼の性格なのだろうか。いや、むしろあっさり確信を聞いてくるあたりは好感が持てるが。


 「この事については、何も話すことはありません。」


 「まっ、そうですね。それが当然の反応でしょう。」


 何も言わないと言ってしまへばこれで話は終わりだ。


 「ところで、ここに連れてきた理由をお伺いしても?」


 「ああ、そうだった。実は、陛下が居ないので僕もどうすれば良いのか困っていたんだ。陛下が話をしたいから、ここに連れてくるようにと言われてただけで。何も聞いていなんですよ。」


 居ない?インツ君?君は何を言っているんだい?しらばっくれても無駄だ。僕は既に感知魔法を発動している、君が僕をこの椅子に下してすぐ位にだ。

 正直に言うと、感知魔法を使ってから、僕はインツを少し怪しいと思っている。理由は、感知に引っかかった存在のせいだが。明らかにインツは知っている、気付かれないようにしているが、たまにそいつに目線で合図しているのが分かる。

 何だか、隠れてる奴は隠蔽魔法のプロじゃないのか?ここ数日で全盛期並みの感知が出来るようになった僕ですら、曖昧にしか把握できない。だが確かにそこに居る・・・。


 「陛下は確かにいらっしゃらないようですが・・・別の方は居りますよね?」


 「え!」


 インツの顔は驚愕の顔を一瞬したかと思うと、何とか取り繕いながら僕の方を見る。

 おーい、流石にそこまで動揺したらバレバレですよ。インツ君、意外と表情隠せないんだね。いや思いのほか本気で驚いたのかな? そして、隠れている方も。

 ふむ、手荒な事はしたくないがここまで来ると何が目的かさっぱり分からない。女王は何を企んでいるのやら。ちょっと準備運動でもしますか。


 そうと決まれば行動は素早くだ。

 転移魔法を使い、一瞬で隠れている朧げな影の側へ転移する。

 隠れている者も突然僕が居なくなったことに驚愕していた、もちろんその隙を付かせてもらう。あっという間に組み伏せ抵抗する間もなく拘束する。捕まえた所で、悠々とインツのいる場所に、謎の奴を引きずって戻ってきた。

 案外あっけなかったな。正直、転移魔法位で驚くことでもないのに。熟練者ならすぐに警戒して来るし、なんなら予測して攻撃してくるものだって居る。隠蔽に余程の自信があったのだろう。


 「この者は何処の輩でしょうか?私の事をあまり知られたくないので、インツさんが知らないのであればこの場で灰にしてしまいますが。」


 「・・・・。」


 インツは完全に思考が停止していた、顔が口を開けたまま動いていない。床で這いつくばり、未だにハッキリ姿が見えていない朧げな影も、動かないで大人しくしている、正確には拘束しているから動けないのかもしれないが。


 「インツ様?呆けている場合ではありませんよ?早く答えてください、私は本気ですよ。」


 そう言って手から炎を出してやる、もちろん魔法を使って出しているのだが、演出としては完璧だろう。インツ君もようやく復活したようだ。


 「知ってるよ!そいつに関しては詳しくは言えないんだけど、僕と似たようなことやってる奴だから、悪い奴じゃない!」


 インツ君、一気に思考を回したので少し焦っているようだ、少し過度に演出し過ぎたかな?

 まっ、こいつの素性は分からいないけど、憶測で考えれば、影で裏の仕事をしている奴だと思うが・・・。これだけ隠蔽魔法が得意なんだ、監視や情報収集なんていうのはお手のもんだろ。


 そんなやり取りをしていたら、扉の向こうから女王の気配を感知した。

 どうやら他にも人が居るらしい、この感覚は・・・。


 「お待たせしまし・・・。これはなんの騒ぎですか?」


 まぁ、部屋に入るなりこんな状況見ればそうなりますよね。あまり鋭い眼光で睨まないでくださいよ、その目線だけで人が殺せてしまいそうです。


 「へ、陛下これはですね。」


 「・・・見つかった。」


 焦るインツとは対照的に、僕の足元で拘束されている朧げな影が、超簡潔に状況説明をした。ていうか、この影・・・女性の声だったんだけど。組み伏せた時は筋肉もしっかりしていて、その失礼だが・・・女性らしい柔らかさが無かったので小柄の男性だと思っていた。


 そんな緊迫した状況だったのだが、一人の女性の行動により見事にぶち壊される。


 「ナーナーミー!!!良かったですわー!!!!」


 言うまでもない、クリス王女である。

 感知していたから気が付いていたけど、大声で名前を呼ぶのは止めて欲しい。いくら部屋の中とわ言え、誰が聞き耳しているか分からない。まぁ、僕の感知魔法で周囲に誰も居ないのが分かっていたから、あえてそのままにしたのだが。

 周りの事なんか気にしないクリスティーナは、目の前に居るナナミに思いっきり飛びつき、これでもかと言わんばかりの強さで抱き付いて、さらに頬ずりや頭を撫でまくって存在を確認していた。


 いや、待って欲しい。クリスに私の存在を教えていいのか?この子は意外と出来る様に見えて、その中身は天然であり脳筋であり考えなしである。

 嫌な予感しかしない、これあれだ・・・スゴロクで言うところの振り出しに戻るだ。


 僕の顔に彼女の涙やら鼻水やらが付きまくって気持ち悪いのだが、なかなか解放されない。

 気持ちは分からない訳では無い、自分のせいで泣いていたのを知っている。正直辛い思いをさせてしまったので、それと相殺だ。これは甘んじて受けよう。

 だが、正直クリスのおかげで、緊迫していたはずの空気が和やかになった。ユスティーナ女王陛下も少し呆れた表情をしているが、我が子を心配をする母親の顔になっていた。


 「クリスティーナ王女、そろそろ離れてください。」


 「嫌ですわ!離れません!」


 子供か!もうそんな駄々をこねる年でもないでしょう?

 真っ赤に泣きはらしているクリスティーナの目をじっと見る、何かを訴えかけているようだ。だいたいは想像つくのだが、いちを陛下にアイコンタクトを飛ばして助けて貰うか。

 そう思って、チラッと見たのだが 「私の娘を泣かせたのだからご自身でなんとかして下さい」みたいな目線を笑顔で返された。


 「今回の計画を知らせなかった事はお詫びします。私には、この方法しか思いつかなかったのです。」


 あ、こんな時どうすれば良かったんだっけ?コミュ障の弊害で対処の仕方が分からないぞ?魔族達となら喧嘩になれば力でねじ伏せてたし、そもそもこうなる事も無かったし。・・・誰か、助けて。


 クリスティーナは頬をこれでもかっ!て位膨らまし、目じりを吊り上げ怒りの形相になっていた。

 僕は悩む、これは何に対する怒りだろうか。仲間外れにしたからか?そうだなそうに違いない、ここは誠心誠意謝って解決を。


 「なぜいつまで経っても!『クリス』とお呼び下さらないのですか!!」


 ・・・・え?そこ?


 「今回の件は、先ほど詳しくお母様に話を聞きましたわ!私が仲間外れにされたのは寂しかったですが、それは必要な事だったと理解しておりますわ!あの時は辛くて辛くてたまりませんでしたが、今はここにナナミが居るのですから良いのですわ! それよりも!出会ってから数日経って、私はもうお友達だと思っておりますのに・・・なぜ!『クリス』と呼んで下さりませんの?!私の事がお嫌いですの?!」


 おう、一気にそう言われても。

 正直、そう思ってくれるのは嬉しいけど。あまり長く留まるつもりは無いし、あまり強く思われて先々代の女王みたいになられるのも困るから。いや、今の状態でも十分似たようなもんだけどさ。

 ここは、ハッキリ言っておくべきなんだろうな。


 「クリスティーナ王女、貴方のお気持ちは嬉しい」


 「クリスティーナ、貴方が先ほどの話ていた件ですが。気が変わりました、特別に許可をします。」


 ん?割り込んできた?あの、今僕が喋ってる最中だったのですが?

 何事?と女王陛下の顔を見ると、それはもう満面の笑みで僕を見ていた。ただし、目の奥は笑っていない。例えるなら、綺麗なメデューサちゃんに睨まれて石化して逃げられなくなる感じ。とにかく奥底がドンヨリ黒く考えていることが真っ黒って事か。

 ははっ、あれー?おかしいな。雲行きが怪しいぞ?


 「お母様!本当でございますの?!」


 「ナナミさん?確認したいのですが、これからの旅の計画を教えて頂いても?」


 ・・・ふぅ。

 状況を確認しよう。まずこの場に居るのは、ユスティーナ女王、クリスティーナ王女、インツ君、そして拘束されている朧げな影。

 この拘束は時間を掛ければ解けるが、外してやろう。インツ君の方は、いつの間にか女王の脇で控えている。すぐには動かないだろう。

 そう周りを見やりながら、朧げな影の拘束を解いてやる。


 「ん?外してくれたの?」


 「ええ、常人にはそれは外しにくいですから。」


 突然の行動に、きょとん顔のクリスティーナ。対照的に女王は即座にその意味を理解した。


 「お一人よりは良いと思いますが?貴方はあまり人付き合いも得意では無いようですから、慣れていた方が良いと思いますよ?貴方にとってみれば、ほんのひと時。それだけの時間でもダメでしょうか。」


 おう、ド直球に攻めてきたな。連れて行くのはごめんだ、それこそ面倒でしかない。


 「私は、面倒事を引き付けてしまう体質ですので、危険な事も多く・・・さらには今回のように、国単位で面倒が起きる可能性だってあります。失礼ですが、そんな問題が起きた時には邪魔にしかなりません。」


 他国で問題が起こった時、王女様に何かあったら責任が取れないし、守り切れるかも分からない。

 神様に使う時は気をつけるように言われた魔法を容赦なく使えば、問題ないだろうが。それで逆に怪我でもさせたら目も当てられない。


 「他人とどう接するか、あるいはその対処法などは。日常から人と会話し接する事で学べるものです。貴方は長い時間、それを避けているようですから、余計面倒に巻き込まれやすいのではないのですか?娘はこれでも王族です、良い後ろ盾になると思いますよ?それに、この子にも様々な人と接しさせたいのです。貴方とは違う意味で、この子は危ういですから。」


 「私、いえ『孤高の魔女』と呼ばれていた私と一緒なら、安心して送り出せると?」


 「初めは反対だったのですよ?既に19歳、本当は公務や婚約など様々あるのでそんな時間は無いと思っていたのですが。ナナミさんの表情を見て変わりました。『この子を一人にしてはいけない』そう思わせる位、危うい状態だと思っております。それにキスハからの報告にもありました、お一人で居る貴方は・・・寂しそうにしていたと。」


 そうか、寂しそうにしていたのか、キスハさんがいる時は、表情は変えたつもりは無いんだけどな、そう見えてしまうのか。

 ていうか、王女は大事な時期なんだろ?そんな何年掛かるか分からない旅に連れていけないよ。反対してたなら、そのまま意志を変えないでください。


 「・・・駄目です、諦めてください。」


 ここは譲らない。これだけは駄目だ、絶対良いことなんかない。

 寂しいとかそんなことは二の次だ、言われた通り、人と接する事が足りないことも分かってる。

 でも、連れて行くのだけは・・・こればかりは駄目だ!駄目なんだ、その先に待ってるどうしても避けられない辛いことを、経験したことがあるから分かる・・・、それを何回も経験したくない。僕はそれほど、強い人間じゃない。


 それ以上、そこに居たくなかった。話をすればするほど、抜けられなくなると確信があった。説得されたりするのには弱いんだ、最終的には僕が折れてしまう。これ以上・・・縁が深くなれば、僕が辛くなる。

 自分がそうなるよう選んだくせに、我侭な事だ。

 だから、もう行こう。別れも言わなくていい、これがいつものやり方だ。


 転移魔法を発動させて、即座に転移する。

 遠くへ飛ぶため、多めの魔力を使ったので、もしかしたら警備に引っかかってるかもしれないが。もう気にすることは無い、どうせ女王陛下が上手く誤魔化すだろ。







 転移した先は、女王の国の王都から少し離れた所、南へ向かう街道の近くに出た。

 別に転移先に人の目があったりしても気にしない、転移魔法は上級魔法で、使い手が少ないかも知れないが。だからと言って、その人たちはこそこそ使ってたりはしない、堂々と使っている。それは自分の能力を示す意味でもあり、自慢でもありなど、様々な意味合いが含まれている。

 突然現れてからと言って驚く人はいるかも知れないが、たいていの人はすぐに魔法だと気が付くだろう。転移魔法の存在は周知されているのだから隠れてする必要がない。状況によって変わったりするが。


 今回の場合、隠れて使用した方が良いのだろうが、別に構わない。追手が来るとも考えにくいし、女王の国にはそこそこ使える奴もいるみたいだったが。

 

 さて、面倒なこともひと段落。最後はいつも通り逃げて来てしまったが、これで良いのだ。これで・・・


 「逃がしませんわ!!ナナミ、私をあまり舐めない方が良いですわよ!」


 え?!思いもよらない声が聞こえたので、素っ頓狂な顔をしたまま振り返ってしまっただろう。


 「フフッ!ナナミの仮面をまた剥がせました、本当に素の顔は可愛いですわ!」


 「どう・・・、やって?」


 「先々代の女王陛下は、貴方が忽然と姿を消した時、ある仮説を立てていましたわ。あれだけの魔力で、もし全力の転移魔法をしていたら、見つけるどころか想像もしないところまで飛んでいけるだろうと。」


 また先々代か!!ここまで来て本当にしつこい!しつこ過ぎだ!!

 てか!僕の全力をもってしても、本当に帰りたい世界に帰れてないけどね!!


 「その話を聞いた私は、小さい頃から特訓してましたわ。転移魔法を使えるように!もともと私は歴代の女王の家系の中でも魔力保有量では一番なのです。幻術魔法もそうだったように、転移魔法も得意なんですわ!すでにナナミにはマッピングしております!どこ行こうと追い着いて見せますわ!」


 「なるほど・・・、この転移魔法があるから女王陛下もお許しになったのですね。緊急時はその場からすぐに離脱できるし、その魔力量なら・・・南ににある英雄の国あたりからでも帰還できる。そのかわり魔力使いすぎで疲れそうですが。回復剤を合わせれば往復も可能・・・。」


 「その通りですわ!ナナミに私が同行したいと切り出せば、すぐに転移で逃げるだろうと、お母様は読んでいました。まぁ、同行の件については、お母様にも反対されたのですが・・・。ですが、条件を付けてもらいましたわ、すぐに逃げるだろうナナミに、無事同じ転移魔法で追い着くことが出来たなら、同行しても構わないと!」


 「そして、予想通り転移で逃げられて、見事追い着いたと・・・。もっと遠くにするべきだった。」


 てか、女王陛下の思惑通りだったのか。

 僕の話に割り込んできたのも、わざわざああやって説得したのも・・・僕が、自分の人付き合いの苦手な所を付かれ、同行させるのを嫌がり逃げる所まで計算に入れてた?


 「クリスティーナ王女?そもそもなぜついて来たかったのですか?」


 「簡単ですわ!お母様も、旅に出ていたと話を聞いてから、私も旅をしてみたかったのです。公務で他国へ行ったことはあるのですが、それとこれとは大違いだったと。羨ましかっただけですわ!」


 あぁ、うん。よーく分かったよ。

 ホントに血筋は争えねーな!!見事に引き継がれてますよ!ユスティーナ女王陛下!過去に自分もお転婆だったんですね!まったく困った血筋だよ!


 「・・・私は了承していませんが?」


 「それならかまいません、側を歩いて一緒に歩くだけですわ!」


 ああ、駄目なのに。絶対駄目だって分かってるのに・・・面倒だとか振り回されて大変だとか分かってるのに・・・最後が来た時が一番辛いって分かっているのに。・・・これからの事を考えて、ワクワクしてる自分が居る。

 感情の矛盾、女王に言った言葉は本心だ。嘘じゃない。邪魔なだけだし迷惑なだけだ、でも僕の心の中でクリスティーナに初めて会って、振り回されて追っかけられて疲れて、そして最後に見た景色で何かが満たされた感覚が思い出される。また、そんな感覚を味わいたいと思ってしまっている。

 

 本当に我侭だな、僕は。


 「・・・はぁ。  基本歩きで南へ向かいます。王女様と特別扱いはしません。良いですね?それで良ければ側に居なさい、クリス。」


 「・・・ええ!もちろんですわ!ナナミ!!」


 スタートする前からドタバタしたが、ようやく一歩踏み出した。予定とは違い、一人ではなく二人で。やっぱり僕の方が折れてしまった。だからダメなんだと思いつつも、クリスには見えないように口元を緩める。この気持ちは久しぶりで、例えようがない。

 見ているか古龍よ、お前の想像を超えているだろう?僕もこれからが不安だが、久しぶりに頑張ってみるよ、人との付き合い方。



 そう気持ちを新たに、二人でスタートしたイーセア縦断の旅。一路向かうは交易の国、そこで新しい魔道具などがあるか探さないといけない。

 しかし、この先に待ち受けるのは平穏か波乱か。

 運命の糸は既に絡まりほどけなくなっているのだが、僕はそんなこと知る由もなかった。






ここまで読んで頂きありがとうございました。

ようやく旅がスタートできたので、次回は交易の国に向かう話です。

途中で街に寄らせたり、なんだかんださせたいなと思ってます。

ただ、急展開になり過ぎないよう気にしながら頑張ろうと思います。


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