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交易の国 王都編 13

お久しぶりでございます。

働く細胞と言うアニメを見て思う事があります。「大変そうだけど毎日楽しそうに仕事しているな」と。

自分もそんな環境で働きたい!


さて、細々と書き進んでいるのですが・・・どうも進みません。相変わらずの更新速度になると思いますが、よろしくお願いします。





 ~ クリス達がニューイと別れる少し前に話は戻る ~





 「護衛して欲しい方は 貿易に国 第一『王女』ヴィルジニア・ラ・モーレ・コンメルチャンテ様だ。」


 この言葉を聞いて、僕達三人は普通に驚いて声を上げてしまった。そもそも、このタイミングでここに王女様が居る事の方が驚きだが。それ以上に僕が驚いたのは・・・現王様、どんだけ子宝に恵まれてるんだと言う事。一体何人子供が居るんだ!


 「詳しく説明している時間が無い。正直、君達の意思に関係なくヴィルジニア王女様を連れて行ってもらうつもりだ。あちらもすでに準備は整っている。よろしく頼むぞ!」


 ホッシスは「でわ!」と言ってすぐに隊を率いて敵に向かって行ってしまった。僕達は取り残されてしまったが・・・断ることも出来ない状況になってしまった。

 さらに、状況は悪くなる一方で・・・ナーグが屋根から立ち上がって状況を見て居たところ、どんどん魔物は増える一方だと報告して来た。


 「・・・仕方ない、こうなったらやるしかないか。」


 諦めと覚悟を同時にしたかのように、複雑な表情で御者に腰を下ろしたシンさん。そんな時である。


 「あの・・・、貴方方が姫様を護衛して下さる冒険者の方々ですか?」


 使用人・・・と言うかメイドさんの格好をした若い女性がオドオドしながら声を掛けて来た。

 その後ろにはフルメイルの鎧を付けた護衛の男性が一人、こちらも兜を取っているため顔が良く見えるが・・・まだまだ若い顔つきだ。なんなら少し幼さが見えるくらいである。

 そして、僕らの護衛対象だろう・・・ピンクの可愛らしいフリフリがたくさんついているドレスに身を固めた。まさにお人形さんのようなお姫様がヒッソリと護衛の傍で立っていた。しかも、恐怖のせいで激しく怯えている様子で、顔が青くなっており涙が止めどなくあふれている。

 年齢はクリスと同じくらいだろうかと推測するが・・・正直分からない。もしかしたらもう少し若いかもしれない。

 ただ、クリスとは大違いだな。同じような場面ならクリスの方がもっとしっかりしてて敵に負けじと胸を張って最前線に突っ込んで行く。この子は完全に怯えてしまっている以上、性格が正反対なのかもしれない。


 僕がそんな想像をしていると、メイドさんが僕達に挨拶して来た。


 「私はヴィルジニア王女様の専属メイド、カーラと申します。こちらは専属護衛のテオドールです。ホッシス副団長様から貴方方の馬車に乗り街まで行けと助言を頂きました。どうか!姫様をお助け下さいませ!」


 ・・・あー・・・うん。


 僕もシンさんも・・・当然ナーグも「どうしてこうなった。」と思ってるだろう。その証拠に、シンさんがさっきから小声で「お前のその引き寄せる体質は魔法の一種なんじゃないか?」とか言ってきてる。魔法だったらとうの昔に解除してるわ!そうじゃないから長い間悩まされてるんだよ!僕は!!

 しかし、こうなってしまったのだ。有無を言わさず僕らに協力させるつもりだったんだろう、ホッシス副隊長・・・報酬はたっぷり貰うことにしよう。


 「分かりました。出来る限りはさせてもらいます。狭いですが荷台にお乗りください。ただ、王族の方が乗るような物でない為、快適さは皆無ですので我慢してください。」


 シンさんが御者台から飛び降りて三人を荷台に押し込める。まぁ、座りやすいように片付けるフリをして一部の荷物をマジックバックに仕舞っているだけなんだけどね。程よく空けた空間にみっちりとだが収まった三人、王女様はまだに一言も喋らず怯えたままだ。


 「王女様、元気出して欲しいッス!この馬車早いッスから!」


 元気付けようと明るく声を掛けたナーグだったが。王女様の方はむしろびっくりした・・・と言うかさらに怯えたように身を小さくしてしまった。

 この反応を見た護衛の男性が、鋭い目つきでナーグを睨み付けて威圧する。


 「あっ!悪かったッス!もう余計な事は言わないッス!」


 さっさと見えないように屋根へと身を隠したナーグは、小さく肩を落としてしまった。

 正直、あそこまで怖がることだっただろうか?と、思ってしまったのだが・・・よほど精神が弱いのか、あるいはこんな間近で戦闘を経験したことが無いからなのかは分からない。でも、余計な詮索はしない方が良いだろう。聞いたところでどうしようもない。


 準備が整ったので、僕達はすぐに戦線を離れるために街道から少しずれながら街へと魔道人形を進める。ナーグが進路を指示して、僕はそれに全力で答えるだけ。相当スピードが出ているので結構揺れるし飛び跳ねているが気にしない。途中ナーグが振り落とされそうになったけど、それも気にしない。


 「ナナミさん!!落ちるッス!!」


 「ナーグなら大丈夫!」


 「んな無茶言わないで欲しいッス!!」


 高速で駆け抜ける場所の風景に驚いたのか、中に座っている三人は茫然と外を眺めていた。途中跳ねたりしているので、何度か強い衝撃を受けているのだが。あまり気になっていないみたいだった。

 そして、ようやく余裕が出て来たのか。女王様が言葉を発した。


 「・・・とても・・・お早いですわね。」


 その言葉に反応したのは御者台に居たシンさんだ。さも当然と言わんばかりの態度で王女様相手に平然として見せる。


 「本来はもっと早い。アンタらに合わせて速度落としてるんだ。それに・・・これ位で驚いてたら後々疲れるだけだぞ?」


 「貴様!王女様に対する口の利き方がなって無いぞ!!」


 テオドールが言葉遣いに文句を言っているが、シンさんはさして気にしてない様子だった。それどころか進行方向の状況確認の方が忙しいみたいでテオドールの事はガン無視している。

 これには流石にテオドールも頭に来たのか、再度注意しようと身を乗り出すが。それをヴィルジニア王女が引き留めるように制止させる。


 「姫様?」


 「テオドール構いません・・・良いのです。こうなってしまったのも・・・レイセルクお兄様の忠告を無視した私の責任ですわ。」


 なんだか深刻そうと言うか・・・重くて暗い。

 そう言えば・・・


 「あの、御一つお伺いしたい事があるのですが・・・。」


 僕は前に目を向けたまま質問する。当然、それに反応したのはシンさん含めて全員だ。僕の方に顔を向けてくる。


 「なぜ、王女様なのに、貿易の国の貴族達が付けるような『ラ』とか『モーレ』を、名の後に付けているのですか?私の知っている限りでは・・・その・・・そのまま名乗っている方の居たので。その通りなら、ヴィルジニア・コンメルチャンテと名乗ると思っていたのですが。」


 まぁ、僕の知り合いと言ったら一人・・・クリスティーナ・ベルクの事なんだけどね。

 クリスの場合、女王の地位を継いだ時に『クイーン』の称号を引き継ぐことになるから。そうなったら、クリスティーナ・クイーン・ベルクになるんだろうけど。


 僕の疑問に対して、またしてもテオドールは注意したそうに身を乗り出して来たのだが。ヴィルジニア王女がそれを制して答えてくれる。


 「それは、私が王位継承権を持っていないからですわ。貿易の国では、男性のみが王になれます。ただ、王族としての地位がある為、私は大貴族と同じ称号を頂いているのです。お兄様方は、王位継承権がございますから・・・名の次にすぐに姓が付きます。そして、王位継承者が決まった時、選ばれた者に『コンメルチョ』の称号を与え。そうでない者には実力にあった称号を授けると言うのが通例となっております。」


 ほうほう、と言うことは?


 「王女様は王位継承とか、実力とか関係無く・・・大貴族と同じ称号を貰えているわけですか。」


 僕は普通に自分で理解する為にそのまま感じたことを口にしたのだが。これがまずかった・・・。


 「貴様!!姫様になんてことを言うのだ!!実力とか関係ないだと?!貴様は姫様の何も知らないのにそんな事を口に出すことは許さん!!姫様に王位継承権があれば!男であれば!間違い無く、王位継承されてたはずだ!!様々な分野の知識を持ち、民からの信頼も厚い、何より!貴族達から上がってくる厄介な問題を全て解決している御方だぞ!!商人ばかりが多く居るこの国で、それを円滑に回せるよう・・・影で支えてた御方なのだ!!現王テリテル様に『男であれば』と言わせたほどなんだぞ!!  ・・・撤回しろ!!今すぐ謝罪しなければ貴様の首を切り落とす!!」


 「テオドール!落ち着きなさい!彼女の言っていることは間違いではありません!」


 狭い荷台の空間で、鞘から剣を抜こうとするテオドール君。彼はかなり情熱家?熱血?まぁ、どちらでも良いのだが。どうやら僕は言ってはいけない事を口にしてしまったようだ。熱くなり過ぎて血走った眼をしている彼を、メイドのカーラとヴィルジニア王女自身が必死になって止めている。

 かなり暴れまわるせいで、荷馬車の安定性が取れなくなってしまった。仕方ないので一時停止してテオドール君に落ち着いてもらおう。

 まずは・・・。


 「大変失礼いたしました。無知な私を許してください。」


 心を込めたつもりが、早く謝った方が良いだろうと思いすぎて、若干棒読みになってしまった。と言うか!謝罪の言葉になったかすら怪しい。


 「テオドール、謝罪は受け取りました。もう良いでしょう?少し落ち着いて。今は皆でハーレル様の元へ向かうことが第一優先ですわ。」


 おや?この王女様・・・。先程まで怯えていたのが嘘のように思える位、しっかりしているぞ?あれか?絶望的な状況になったからかな?今は助かる見込みがあるから、心に余裕が生まれてるのか?


 まだまだ興奮状態にあるテオドール君をなだめつつ、僕等はその場に少しの間留まってしまったのだが・・・。


 「っ!!ナナミさん!!早く進むッス!!」


 どうやら魔物は待ってくれないらしい・・・。と言うか、騎士団の方すら無視してこっちに突っ込んで来てないか?

 

 僕は少し急ぎ目に発進させようと魔力を込めたが、すぐに前方の状況を見てそれを止めた。

 シンさんが「どうした」と声を掛けてきたが、すぐに前を見て状況を理解したらしい。


 「・・・囲まれたか。結構な数だな。」


 「・・・ハァー。どうします?私がやりますか?」


 「いや、ここは俺とナーグに任せろ。・・・ナナミばかりに頼っては俺達は強くなれないからな。」


 そう言って、シンさんとナーグは荷馬車から飛び降りて行ってしまう。

 シンさんもナーグも、前回の街でシンさんがマークにやられて以来・・・どうも自分達の力不足をどうにかしようとして必死に鍛錬をしている。旅の道中も積極的に前に出て行くし、僕に戦わせようとしない。それに、暇があれば僕相手に接近戦の模擬戦を何回も挑んでくる。僕はいつも通り避けるだけなのだが、最近は結構ギリギリの場面が良くある。僕は僕で回避の訓練にもなるから良いんだけど、あれで本当にシンさん達の鍛錬になっているのかどうかは不明だけど。


 シンさんとナーグに続いて、テオドール君も飛び降りて行ってしまう。流石に王女様付の護衛なんだから、そこは我慢しなさいよ。

 そんな僕の心の声が聞こえたのか聞こえないのか分からないが、テオドール君は殺気を隠さず魔物と相対している。


 「ナナミ!道を切り開いたらとにかく街に向かって進め!!最速で良い!」


 「シンさん達はどうします?ここでエサになるつもりですか?」


 僕のあっけらかんとした質問に対して、シンさんはいつも通り少し怒りながら「そんなつもりわねー!」と声を張って反論して来た。

 それと同じ位のタイミングで、僕等の頭上に大きな魔力の反応が突然出現する。この反応・・・まさかスピか?


 「到着です・・・わ?っっっ!!!てっ!!空中?!」


 と、慣れ親しんだ声で盛大に落っこちてくる人物が居る。そして見事に尻餅をついて着地した。


 「イッッタイですわ!!!!!スピ!!!少しは人間の事を考えて下さいませ!!」


 一人で愚痴を述べているが、それはむなしく空に響くだけ・・・。

 魔物達も突然空から現れた謎の生命体に驚いているのか、警戒したまま動こうとしない。


 そんな中、フヨフヨと少し弱々しいが。飛行魔法を使ったミームちゃんが、サーラを必死に掴んでゆっくりと地面に降り立っていた。


 「ん~!サーラ重い。」


 「こら!!アタイに失礼な事言うんじゃないさね!ここは嘘でもいいから羽根のように軽いと言うべきだよ?!」


 ・・・突然現れた三人のせいで、先ほどまでの緊張感は何処へやら。

 驚く僕達と魔物・・・それから王女様一行。しかし、その隙を突いてすぐに態勢を立て直したクリスとシンさんが進路上の魔物へ攻撃をかます。


 シンさんの目にも止まらない速さの攻撃から、クリスが土系の範囲魔法で援護する。見事な連携だった。何の合図も無く、事前に打ち合わせをしたわけでもない。いつの間にか本当に仲間っぽいことしてるな~。

 と言うか、転移魔法で送られてきた先が魔物に取り囲まれた状況だったのに・・・動じずに行動できるなんて。もしかして事前に察知して来てたのかな?


 「ナナミ!!道は開けたぞ、先に行け!!」


 「で、ですが・・・皆さんが。」


 僕的にはこのまま皆を連れて逃げ切りたいのだが、どうもそんな悠長なことは言っていられないらしい。既に後方からは、さらに多くの魔物が追って来ていることが感知魔法で分かってしまっているからだ。せめて王女様の護衛だけは連れて行きたいのだが・・・テオドール君は魔物を倒すことに夢中になっている為、こちらの方を一切見ていない。

 守るべき方から離れるだけじゃなくて、さらに目まで離すとは!君は護衛失格だぞ!


 「仕方ない、王女様!何かにしっかり掴まってください!最速で振り切りますよ!」


 僕はそう言って、チラリと王女様を見る。王女様もしっかり頷いて御者台の近くまで来て態勢を屈める、メイドさんは王女様に覆いかぶさるようにして抱き付き。しっかりと身を守るように動かなくなった。


 僕は今までで一番魔力を込めたと思う。魔道人形の方が壊れるんじゃないかと心配になったが、この状況を何とかするためには先に進むしかないと思った。どうやら魔物達は王女様に向かって進行しているようだ、ここで留まるのはシンさん達が不利になるだけ。

 ならば、せめてこちらが少しでも移動して物量を減らしてあげるしかない。


 「シンさん!先に行って待っていますよ!」


 僕のその声を最後に、シンさん達が開いてくれた進路を猛烈な勢いで駆け抜ける。途中、飛び出して来たゴブリンやウルフが居たが、見事に引き飛ばされて視界から消えて行った。

 後ろの荷台の方から「ひぃぁぁぁぁ~」と悲鳴が聞こえているが気にしていられない。こんだけスピードが出ているのだ、手綱の操作を誤ったらただじゃすまない。

 

 あっという間に後方で戦っているシンさん達が見えなくなり、街の立派な城門が前方に姿を現していた。千里眼で確認すると、そこには多くの冒険者や騎士達が集まっており、今まさに魔物の群れへと向かうために出発する寸前だった。

 そんな所に、向こうからしてみれば「前方からとんでもない速度で魔道人形が突っ込んで来ている」ように見える異常事態になっている事だろう。これ以上の混乱は避けたいので、僕は声を魔法で拡声させてから大声で叫ぶ。


 『道を開けて下さい!こちらには、第一騎士団 副団長ホッシス様からのご依頼で、要人を乗せております!!大至急 騎士団大隊長ハーレル様の所へ案内してください!』


 するとどうだ、怪しさ満載の見知らぬ荷馬車だと言うのに。なんの迷いも無く城門の門は開かれ、あれだけ集まって居た人があっという間に道を譲ってくれたのだ。

 これは正直不気味である。


 「随分呆気なく開かれましたね・・・。」


 「あの・・・。実は私が来ることは事前に連絡が来ているはずなのです。ですから、この状況でハーレル様の名前を出す位の要人ですと・・・簡単に推測できると思われます。」


 いや、そうだとしても・・・。もしかしたらそれを装った賊とかあるいは反逆者とか、色々考えられるのだが?

 

 いろいろ思うところはあるのだが、悩んでる余裕は無い。僕の操っている魔道人形は、今現在超高速だ。下手に当たれば多々では済まない、ので!ここまで来たからには少しスピードを落とそう。

 ゆっくりと速度を落として道を譲ってくれた人達の間を通り抜けて行く。王女様はすかさず荷台から御者台の方に身を乗り出して、皆に見えるように手を振る。するとどうだ、あちらこちらから「ヴィルジニア王女!」と歓声が上がって来る。中には「ご無事でしてか!」と、わざわざ近寄ってくる騎士まで居た位だ。なんだかんだと愛されているようだな。・・・テオドール君が言っていたことは間違いではないようだ。


 僕が門を抜けると、数名の騎士達が脇を固め。さらに先頭にまたしても隊長クラスっぽい人が付いてくれた。どうやら場所まで先導してくれるらしい。

 門の外側の方は、王女様の無事を確認できたことも重なって、士気が最高潮まで上がっているようだ。我先にと魔物の群れがある方向へ走り出している。シンさん達も気になるが、あの様子なら低級の魔物の討伐はすぐに出来るだろう。


 ・・・あれだけの魔物が一度に大量に出てくる、そして溢れ出て来るように増えていた・・・。

 ゴブリンが大量発生した状況に似ている、もしかして・・・またハーヴィか?


 「・・・調べることが多過ぎて嫌になるな。」


 「? あの、どうされましたか?」


 僕の一人声が、いつの間にか御者台に座っていたヴィルジニア王女に聞かれてしまった。

 と言うか、いつの間に?


 「そんな顔しないでくださいな。貴方だけでは不審がられてしまいますわ、滞りなく進むにはこれが一番ですもの。それよりも、もし良ければお名前をお聞かせくださいませんか?まだお伺いしておりませんでしたので。」


 「え・・・。まぁ・・・ナナミです。」


 なんとなく名乗りたくは無かった。

 僕の体質の事を考えると・・・余計、面倒事が増える事が多いいから。ただでさえ、お腹いっぱいになる位立て続けに、厄介事が増え続けてるのに・・・これ以上は本当に遠慮したい。


 「ナナミ様、この度は急なご依頼を受けて頂き誠に感謝致します。それから、・・・大切な仲間の方を・・・その。」


 ヴィルジニア王女様は凄い暗い表情になってしまった。いやいや!そんな顔しないで!まだ死んでないから!大丈夫だから、生きてるから!


 「あの、シンさん達なら大丈夫ですよ。どうやら上手く切り抜けたようです。」


 「え?分かるのですか?・・・どうやって。」


 僕は簡単に説明する。

 まぁ、感知魔法を使ってるだけなんだけどね。魔力を多めに使って範囲を拡大している。・・・そして、この旧王都は『魔素』そのものが多い。身体には即座に影響するほどじゃないけど、そんな微量の魔素でも、僕からしたら丁度良い強化材料だ。わずかだけど取り込んで魔法に使用すれば、かなり大きな効果が出る。・・・逆に言えば、気を付けないと僕の場合は、魔法の効果や威力が『魔素』によって上がってしまう。意識して魔素を入れないようにしないと・・・。

 と、言うことなんだが。それを全て言えるはずも無い。なので、この場合は・・・。


 「簡単な感知魔法を使っているのですよ。まぁ、私はそれが得意なので、人より少し遠くを感知することが出来るのです。」


 「左様でございましたか。それでしたら・・・その、テオドールはどうなっているか分かるのでしょうか。」


 それ位お手のもんだ、と言うか・・・テオドール君は護衛クビだろう。全く、お側に居なければならないのになぜ先頭に参加したのか・・・。

 僕は彼も無事な事を伝える。王女様は一安心したかのように安堵してテレ顔を作る。


 「あの子、私より年が上のくせに落ち着きが無くて・・・。でも、一生懸命なのであまり責めないで上げて下さいね?」


 うん、その言葉はぜひ向こうに居る説教マンのシンさんに言うべきことだな。おそらくネチネチと棘のある言葉でテオドール君を言葉で責めている所だろう。






 さて、ヴィルジニア王女様と少々会話をしながら街の中を進んでいたのだが。久々に見る旧王都の景色・・・と言うか、街並みはだいぶ思い出のモノとは違っていた。


 まず綺麗になってる!・・・いや、当然なんだけども。100年前の戦争時は荒れ果てて、それこそ廃墟にしかなかった。それが月日が経ち、復興して人が住み始めたんだ、綺麗になるのは当然かな。

 もう一つは、思いのほか活気があることに驚きだ。僕が思ってた以上に沢山の人が住んでいる。地元民だろうと言う雰囲気の人や、冒険者の身なりの人。さらに観光客であろう綺麗に着飾ってる人達まで居るのが一目でわかる。

正直、地方のそこそこ大きな街位だろうと考えていたのだが、これは良い意味で裏切られた気分だ。あれだけ悲惨だった戦場が・・・ここまで持ち直したことに対して、少しだけ心の中が温かくなった。


 城壁の外は魔物討伐で慌しくなっている状況にも関わらず、街の中の人々はむしろ落ち着いているようにも思える。普通の街では考えられない位、のんびりと過ごしている。おそらく、あれ位の騒ぎは日常茶飯事なんだろう。


 大通りを進み、旧王都の中心にある王城跡地に着いた。ここは今は領主の館が建てられており、広大な土地の一部は、民達が集う大きな公園となっていた。領主の館も立派に作られているのだが・・・それ以上に目に映ると言うか、強調される過ぎて目立ちすぎてる物があった・・・。



 「あの、ヴィルジニア王女様?広場の中心にある・・・あの像は?」


 「ナナミ様?是非私のことはヴィルとお呼びくださいませ。えーと、広場にある像の事ですわよね?あれは、大戦時に活躍し・・・魔王を討伐した『英雄達の像』ですわ。」


 ヴィルジニア王女様は街に入ってからと言うもの、安心しきったのか襲われてた時とは別人のようになり。良く喋る女の子に変わってしまっていた。

そのおしゃべりなヴィル様の話では、過去の偉業を称えてこの地を復興した当時の人々が作成したモノだと言う。中央には勇者が、それを周りで囲う様にパーティーメンバーが囲んでいる。・・・だが、そこには『孤高の魔女』は入っていなかった。

 一安心、と言うよりむしろ疑問に思ってしまう。


 「・・・孤高の魔女が居ないんですね。」


 ついつい口に出してしまった。別に何とも思っていなかったのだが、思っていたことがポロッと出てしまった。


 「もう一人の英雄様の事ですわね?あの方の像は一つも無いと聞いております。女王の国には過去の姿を残した魔道具があると聞き及んでいますが・・・。その他ですと、英雄の国に『肖像画』があると聞いたことがありますわ。」


 「ブフッ!!!」


 思わず吹き出してしまった。

 ・・・いつの間に書かれてたんだ肖像画!!あ・・・僕が気絶してる間にでも書かせたのかな。この上なく厄介!やる事リストに加えておかねば、肖像画の消去・・・と。

 まったく、女王の国 先々代女王 レオポルディーナも余計なモン残してくれたが・・・。誰だよ肖像画書かせた奴は!!


 僕は心の中で書いたものと、それを描かせたものへの怨念を送っていると。先導していた騎士達が屋敷の前で停止した。どうやら領主の館が目的地だったようだ。

 クリスには悪いが一足先に街の景色を見れたので僕は満足だったが、これから先は誰かに変わってもらいたいくらい憂鬱だ。チャンスでもあり・・・ピンチでもある。とにかく目的を達成するために行動するしかない。


 ヴィルジニア王女様は騎士達にエスコートされ、御者台から降りて屋敷の入り口へと向かっていた。すると、僕の方にも手が伸びてきた。


 「どうぞ、こちらへ。」


 「え、いや・・・私は依頼をやり終えたのでこの辺__」


 「ナナミ様!ぜひお礼をさせて下さいませ!あ・・・ですが仲間の方が・・・。そうえすわ、皆さんが戻られるまでこちらでお待ちになられて下さい!旅の話も聞きたいですわ!」


 嬉しそうに提案するヴィルジニア王女様。すぐに隣に居る騎士に何か頼みごとをしている、おそらくシンさん達を屋敷へ案内するようにと言っているのだろう。・・・ふぅ・・・、シンさんすまない・・・道連れになってもらうよ!

 仕方ないんだ!僕には断れない!!ここで断れる勇気が無い!!・・・でも、抵抗しなかったと思われるのはなんか嫌なので・・・それっぽいことは言っておかないと示しが付かないか。


 「あの、ヴィルジニア王女様」


 「私の事は!ヴィルとお呼びくださいませと申したはずです!」


 「ウッ!・・・ヴィル様・・・?私は、仲間と合流するためここでお別れしたいのですが。」


 「問題ありません!ささっ!ハーレル様への報告を手短に済ませてお茶にしましょう!」


 ノリノリで気分はまさにルンルンの王女様・・・。あの時恐怖で怯えてた面影などどこにもない、別人か?と言う位の変わりようである。付け加えるなら・・・この勢い・・・クリスと何ら変わらない。あれか?王女様と付く人達は皆こうなのか?!

 結局勢いに負けてヴィルジニア王女様に付いて行くことになった。心の準備が出来ないままでいきなり大ボスと出会う気分、いやー精神的にキツイわー。


 館の中はシンプルな作りだ、貿易の国の貴族は目立ちたがり屋が多いと聞いていたので、てっきり派手に凝った装飾がされてたり調度品が有ったりと想像したのだが。あまりそれは参考にならないようだ。

 階段を上がり、二階の奥の方へと歩みを進める。途中何名かの使用人たちを見たが・・・一人一人が一流の戦士みたいな体格をしている。この街は使用人ですらそんなレベルなのかと少し驚いてしまった。まぁ、いつ何時、どこから魔物が現れるか分からないこの地方では、当然なのかもしれない。

 そんな使用人たちを見て現実逃避していたのだが・・・すぐに現実に引き戻される。ヴィルジニア王女様は「準備がありますので少しお待ちください」と言い残してメイドのカーラさんと共にどこかに行ってしまった。僕だけは、騎士の人達に案内されて応接室みたいな所に案内される。

 王女様の準備が整うまでここで待つように言われ、黙って指示に従って椅子に腰かけた。しばらくの後、飲み物を持って来た使用人の人が入って来たが、それ以外は何もない。おそらく見張りの騎士の方が扉の前で微動だにせずに立って居るのみ・・・正直、居づらい・・・。


 どれくらい時間が経ったのか分からず、心休まる時が無い。そんな息苦しさを感じ始めしんどくなってきた時、ヴィルジニア王女様が応接室にやって来た。ここに着いた時に着ていたドレスとは違う、青を基調としたドレスに変わっている。少し引き締まって見えるそのドレスは、幼く見えていた外見が少しだけ大人っぽく見えるようになっている。


 「大変お待たせいたしました。でわ、参りましょう。」


 ヴィルジニア王女に合わせてゆっくりと歩く一団、周りにはこれでもかと言うほど護衛が付いているので少し異様に見える。僕はその中に入らず、少し外れて歩いている。当然、護衛何て居ない・・・むしろ見張り役の騎士達が両脇を固めている。・・・うーむ、これじゃあ連行されてる気分で面白くない。


 「ナナミ様、申し訳ございません。どうも、道中で私が襲われたことに皆さん警戒しているようでして・・・。」


 「お気に為さらず。慣れてますので。」


 自分で言っておいてなんだが・・・「慣れてる」ってなんだよ!こんな状況なれるわけないだろ!!そんなに経験した覚え・・・・・・なんだかんだでありそうだな。

 そうやって過去の事を思い出そうとする暇は無かった。戦闘を進んでいた騎士が、大きな扉の前に立って声を上げたからだ。


 「ハーレル様、ヴィルジニア王女様と緊急の護衛を務めた冒険者を連れてまいりました!」


 はぁ、いよいよご対面だ。チロさんに注意しろと言われ・・・会わないように対策しようと作戦を立て・・・そして静かに魔王の遺体を捜索するはずだったのに。野営の時から歯車が狂い始めてしまい、夜間強行軍で移動。さらに、何故か知らないけど魔物の集団と遭遇・・・さらにさらに王女様の護衛をやらされるはめになり、最後は見事に要注意人物と接触する・・・。なんなんだこの流れ、ちょっと出来過ぎてるんじゃないのかい?




 僕の諦めと後悔の思考が止めどなく頭の中で回転していたのだが、それを止めてしまう位驚くことが今から起ころうとは。この瞬間まで僕は考えもしなかった。ヴィルジニア王女が護衛を連れて先に部屋に入って行く・・・ゆっくりと流れる風景を見ながら後に続いた僕だったが・・・。その部屋の中に案内されて、目の前に立って居た人物を見て、僕は動けなくなってしまった。


 かつて、僕に告白した唯一の人物にして世界を救った英雄の中の英雄・・・『勇者』と呼ばれていた人物が・・・そこには居た。


 「・・・・・・勇者・・・・・・お前、生きてたのか?」


 僕の言葉は、静かだったこの部屋には良く響いた。

 僕に勇者と呼ばれた人物も、先に入って淑女の挨拶をしていたヴィルジニア王女も、護衛の取り巻きだった騎士達も皆。僕の言葉に反応して皆が僕の方に向いていた。


 そんな静まり返った室内に、勇者と呼ばれた人物が口を開く。


 「ほう・・・そんなに似ているのか?この俺が。」




 



 ・・・・・・その勇者っぽいニカッと笑った顔を見て僕は思う。

 ・・・やらかした!!!!!!!!!








ここまで読んで頂きありがとうございます。


相変わらず、終わりは決まっているのにそこまで到達させるために時間が掛かっております。

ところどころなんだか繋がりが可笑しくなってる所もあるので、時間がある時に修正したいと思います。・・・出来るか分かりませんが。


では、これからもまたよろしくお願いします!


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