交易の国 王都編 1
ようやく女王の国編が終了しまして。新たな国の物語となります。
クリスティーナ王女とゴーリラ戦士団団長の婚約パーティーから早一週間。
クリスは王城での用事と、婚約したことで必要となった準備などで忙しいらしく。旅の出発は先延ばしになり、僕は少々城壁の街で足止めを喰らってしまった。
その間に、僕はパーティーの時にドリス譲と約束していた身体強化の件を済ませたり。シンさん達の付き添いでギルドの仕事をしたりと。・・・何だかんだと充実した一週間を過ごした。
ミームちゃんもすっかり元気になって、今では二人で魔法の研究を共にしたりしている。その間に先日の件を話してくれるかと思ったのだが・・・思いのほかそちらの方は全く話題にすら上がらなかった。僕もあえて突っ込んだりせず、むしろそんなことあった?レベルまで忘れようとしていたのだが、やはり一度動いた興味の触手が黙っておらず。忘れることは叶わなかった。
ちなみに、キリーさんに頼まれてギルド職員の仕事も少しばかり手伝ったが。あまりの手際の良さに感心されてガチでスカウトされた。金額も良い値段を提示されたのだが・・・流石にこればかりは御免だ。毎日やってたら研究の時間が無くなる。それだけは勘弁だ。
それ以外にも、街の方は領主や貴族達が一気に処罰されてしまったので上層部の方は混乱の渦中にあるみたいだ。連日王都から沢山の人が出入りして立て直しに必死である。腐っていた街の衛兵達も、戦士団の副団長であるライーオさんが中心となり叩き直しと再生を急ピッチで行っている。
そのトレーニングはまさに「地獄」と称されて、怠けていた衛兵達の多くは脱走したそうだが・・・もちろんそんな事許されるはずもなく。キツイ罰が行われていると言う。
それからもう一つ、全世界に大きく知られたことがある。
それは・・・『神罰』が下ったと教会が大きく発表したことだ。
原因となってるのは・・・まぁ、全て僕なんだけど。しかし協会は、僕があの『大規模作戦』で使った魔法を全て『神様』が行ったと言うことにしたのだ。
ちなみに、発表した文章がこちら。
「女王の国に住み着いていた悪しき心に対して神が審判を下した。勇敢に戦い傷付いた者達を全て完全に癒し、罪を偽ろうとした者達へ断罪の光を見せた。神は天から我々を見ておられる。我々を見守っておられるのだ。顕現されたのも信仰心があっての奇跡。堅実なる者達よ協会に集い神に祈るのだ!」
世論の反応は・・・まぁ、まちまちだけどね。もともと信仰心が高い地域なんかは熱を帯びてるみたいだけど。現実を知っている問題があったこの城壁の街では、むしろ冷ややかな目で見られている有様だ。ただ、実際の所どうだったのかを話す人なんか誰も居ないので、教会の良いように改ざんされて言いふらされている状態だ。
そんなこんなで、一週間が過ぎて・・・今日はようやく出立の時。今現在は朝「8の刻」
朝の街中は出勤中の人がまばらになり始め、がもう少し立つと一段落したしそうな時刻になっている。
僕は待ち合わせ場所である城門前に来ている。この城門は女王の国王都に向かう門とは反対にある門、そう・・・貿易の国の方へ向かうための門だ。かなりの通行量がある為か城門も大きく作られており、検問場も複数存在している。すでに数多く魔道人形の荷馬車などが詰めかけひと際賑わっている。
僕等は歩いて抜けるだけなのでこんな混雑したところは通らない。脇にある小さな通行所を通って抜けるだけ。便利だな~。
ちなみに・・・ここからまず貿易の国と女王の国の国境までが約10日~15日掛かる。それからさらに国境を越えてから貿易の国までは2カ月ほどかかる予定だ。かなりの長旅になるが、徒歩の予定だからね・・・これでも最短の計算で算出している。予定外な事や、街道が塞がってたりすればさらに時間が掛かる。
素直に魔道人形の荷馬車でも使えば、グーーンと短縮できるのだが・・・それでは面白みに欠けるし、色々見たいと言っているクリスにもあまり好ましくないと思うから使おうとは思ってない。
「あ!居ましたわねナナミ!お待たせいたしましたわ!」
おっ、少し遅かったけどようやく来たな・・・?あれ?・・・なんだか人が多いような?
「遅かったですね。と言うか・・・シンさん?そんな大荷物抱えてどうなされたのですか?挨拶は昨日済ませましたし、見送りも断ったはずですが?」
クリスと一緒に現れたのは僕が自ら自分の正体を・・・『孤高の魔女』と言うことを明かした冒険者パーティー『ハートエッジ』の皆だった。それぞれ大きな荷物を背負っておりこれから遠征でも行くのかと言う身なりをしている。
「大荷物とはなんだい!これ位当然さね。国境の街までは約15日もあるんだよ?途中村や町に寄るって言っても、日用品だけでもこれ位になるさ?てか・・・アンタの荷物が少な過ぎるんだよ。」
ん?ん??んん??!
「・・・あの・・・国境の町?まさか・・・あ!向かう先が同じってだけですよね?」
「違うぞ?俺らは仕事を受けたんだ。依頼内容は・・・『国のとある要人が護衛を一人だけ連れて無謀にもイーセア全土を見るたびに出ると言う。これを側で護衛して欲しい』って仕事だ。金払いも良くてな、なんと即金で前払い。無事に護衛を済ませたら追加報酬だ・・・どうだ?やらないわけには行かないだろ?」
・・・インツ・・・インツなのか?あのヤローーーーーー!!!!!
クリスはサーラさんとハイタッチで喜んでるし・・・ミームちゃんはモジモジして可愛いし!シンさんはニヤリとしたり顔だし!ナーグはナーグだし!!
「ちょ!ナナミさん?俺っちの扱い雑!!」
「ナーグさんは少し黙ってて下さ!シンさん?!どう聞いたって怪しい依頼じゃないですか!嬉々として選んでいい内容ではありません!すぐに断って来てください!」
「それは出来ない。すでに契約を交わしたんだ、無理だな。」
むきーー!!何でこうなるの!!これでは進行速度がさらに遅くなるだけじゃないか!人数が増えれば増えるほどいろいろと調整が大変になるんだぞ?!
まったく!これじゃあ用意した食材がすぐに底を着くじゃないか。予定していた街よりも手前で・・・。
僕はすぐさま雑貨店で買った簡易地図を取り出して道中の予定を組み立てる。
こんな事ならビックリさせるために秘密にしないでぶっちゃけて話してほしかった・・・。僕の懐事情も考えないでの追加・・・あの野郎・・・今度会った時は本気の威圧飛ばしてやる・・・。
なんだかんだとブツブツ言いながら僕は地図と睨めっこし、さらに出発もしたいので通用門に向かって歩き始める。感知魔法を使って気配を探りながら歩いてるため普通に歩けるのだが、それを見ていた皆は慌てて僕を止める。
「ナナミ!地図を見ながら何て危ないですわ!時間はありますし、ゆっくり行きましょう?」
「駄目です!!皆さん、申し訳ありませんが少し速足で進みますよ!話し合いをしなければならないんです。こんな大勢の人が居る場所では出来ません。人気が無くなるまで急ぎます。」
僕の気迫ある勢いに負け、クリスも皆も頷いて返事をするだけだった。
一刻ほど歩いただろうか、後ろで付いて来ている皆はコソコソと話し合っていたようだが気にしてない。
人の気配もなくなり、城壁の街も小さく見えるようになった。そこで僕は行ったん止まり、後ろに付いて来ている皆に振り替える。
僕が急に止まって振り返ったもんだからクリスは急停止した様な格好になり思わずのけぞる。皆は少しビクッ!と身体を硬直させる。そして・・・僕に向かって皆で揃ってこう言って来た。
「「「「「すみませんでしたー!!」」」」」
「・・・?」
僕は呆気に取られてしまう。
「ナナミがそこまで怒るとわ思わなかったんだよ。全てはインツ様からの依頼なんだ・・・断れなくて。」
やはりあいつか!・・・いやいや、今はもうそんなに気にしてないし怒ってない。むしろ、これからの事を説明しなきゃいけないからここまで来たんだ。
「私はもう怒ってませんよ。それよりも・・・。重大な事を話さなければなりません。クリス、鞄。」
「良かった!皆さんにも話されるのですね。一安心ですわ。」
シンさん達が疑問に思う中。僕は『マジックバック』のお披露目をした。一同そりゃあもう驚いていた。始めは何が起こっているのか分からないと言った様子だったが、僕が次々にシンさん達の荷物を鞄に仕舞って行くのを見て顎が外れんばかりに口を開けて驚きを隠さなかった。
もちろんと言うべきなのだろうか・・・ミームちゃんは即座に鞄を凝視しどう言う仕組みなのか調べ始めたし、サーラさんとシンさんは、これを使った商売の話を始めゲスイ顔つきになっていた。ナーグは普通の反応だったが、語彙力が無かったのか終始「スッゲー!」しか言えてなかった。
いろいろ問い詰められたのだが、作り方だけ簡単に教えてあげる。そしたらミームちゃんは腰を抜かして僕の魔力量に驚いていた。クリスと同じ反応しているのを見るとなんだか笑えてしまった。
それからもう一つ、旅の目的。未知の魔法や技術を探し回り、クリスが望む多くの土地と人を見に行くこと。具体的に『飛空艇』が現在の最終目的であるとも伝えた。具体的なゴールが見えないとグダグダになっちゃうからね。
シンさん達もそれについては了承してくれた。かなり長期間の拘束になるのだが問題ないのか?と聞いてみたが。「そろそろ他の所の冒険者ギルドにも行こう」と話し合っていた所で丁度良く話が来たそうだ。なのでむしろ望むところだと返されてしまった。
ひとまずお互いの意思確認が出来たので、僕としては一安心。正直これからいろいろクリスとそうだったように積み上げて行かなければならないのだろうけど。それは少しづつ重ねていくしかない。
「はぁ・・・とりあえずの不安は解消されました。まぁ、こうなってしまったからにはこれからもよろしくお願いしますね。とりあえず、食料は何とかなりそうなので・・・予定通り一気に国境まで歩きたいと思います。歩きですけど・・・良いですよね?」
「おう!任せなよ!・・・と言いたいんだけど、ナナミ流石にアタイは魔道人形を使いたいさね。どれだけ歩くと思ってるんだい?」
うぐ・・・それはそうなんだけど・・・。僕としては問題ないけど、皆の意見的には絶対そっちの方に賛成票が集まるよな・・・。
と、思っていたのだが?
「駄目ですわサーラ。これだけはナナミの言う通りにして下さいませ、これはナナミの旅なのですから。」
「サーラ、クリス様の言う通り。我儘は駄目。」
クリスとミームちゃんが僕の味方になってくれた。驚くべきことに、ナーグもこちら側に着いたので、賛成多数により徒歩の移動が採用された。
サーラもシンも面倒な顔つきで居たのだが。依頼人の意向で王女様の意見を優先しなければならず、仕方なく従うことにしたようだ。
それからと言うもの、初めのうちはネチネチと嫌味を言っていたシンさんは数日で大人しくなり。サーラさんに至っては始めの小さな町に寄ってから静かに淡々と歩くようになっていた。
途中途中では少しばかり寄り道もしたが、概ね予定通りの進行速度で街道を進んだ。途中高い山岳地帯を抜けることになった時は流石に皆から不満の声が上がったので、僕が全員を浮遊魔法で持ち上げて僕だけ歩いてクリス達は僕の魔力で浮遊した状態で付いてくると言う。なんともシュールな絵面で乗り越えた。
その後、谷の間を進む道や。進むにつれて平たんになって行く土地の様子を見ながら進むこと12日目。城壁の国並みに大きな一塊の都市、二つの国の国境を跨いで作られた国境の街まで到着した。
流石は国境の街、街の城壁の中へ入場するだけでも相当な荷物検査を受け、細かなチェックを受けることになった。国境の国だけあって警備は一層厳しく、不審な行動をすれば検問に引っかかる程だ。
あらかじめ皆の荷物を『マジックバック』から出して渡しておいたのは正解だった。時間は掛かったが何とか無事に街に入ることが出来た。
到着早々、観光をしたいと言ったクリスに対して。シンさんはまず冒険者としてやらなければならないこがあると言い。僕とクリスを連れて皆でこの街の冒険者ギルドに向かうことになった。
この街の冒険者ギルドは二つある。
一つは『女王の国』側にある冒険者ギルド。もう一つは『貿易の国』側にある冒険者ギルド。
一つも街と言っても、街の真ん中で国境の境である大きな壁が存在している、それのせいで冒険者ギルドが二つ存在すると言う状態になっているのだが・・・。こうでもしないと、国境を通るたびに膨大な時間が掛かってしまい無駄になってしまうため二つ設けたのだとか。
そんな『女王の国』側の冒険者ギルドの方に向かい、ここに来た挨拶とシンさん達の依頼主であるインツへの報告書を窓口に提出する。
「報告書はついでだが。冒険者は基本的に大きな町に移動したらまず一番に挨拶をしに来た方が良いい。おすすめの宿や現在の街の情報、近隣の魔物の分布などを教えてもらえる。それに、ギルド間で交わしている伝達もあるから、何か連絡が入ってる可能性もある。それの確認も必要だからな。覚えてた方が良い。」
シンさんのイメージって普通の冒険者って感じだったんだけど。改めて今みたいにベテランの冒険者のような事を言って、僕とクリスにいろいろ教えてくれてい事を考えると。・・・やっぱり、すごい冒険者なんだなと実感する。今はCランクだけど、もう実力的にはBランクに上がれるパーティーだと思う。
感心している僕を他所に、クリスは大まじめに懐からメモ帳を取り出して書き記している。クリスにとってはすべてが新鮮でとても楽しそうだ。
簡単な用件だけ済ませると、受付の人から勧められた宿へ向かう。ここは大きな町なので少し滞在するつもりだ。それに、国境を越える為の手続きや書類の手続きなどが必要らしいのでそれも含めての日程となっている。
この日は既に日が暮れ始めていたので、宿に着いたらすぐに自由行動だ。ナーグは自分のやるべきことをすると言ってさっさと出て行ってしまい。ミームちゃんは魔法道具店を見に行くと言ってサーラさんと出掛けてしまった。
・・・道中もそうだが、ミームちゃんに少し距離を置かれている気がする。あの一件以来、普通にふるまっているように見えるが、僕にあまり甘えなくなった。弟子を断ったことやミームちゃん自身のこと・・・この二つが、僕とミームちゃんの間に大きな溝を作ったような気がする。
クリスと言えば・・・既に宿の隣にある酒場に行きお酒を飲んでいる。むろん僕とシンさんも付き添っているのだが。シンさんも少しは飲んでるようで少しだけ上機嫌になっていた。
「いいか?お前らは強くて才能もあるが、冒険者として・・・いや!一般市民としてはまだまだ初心者だ。インツ様にも言われたが、どうもお前らの行動はそこら辺を分からないまま突っ走る傾向がある。これからは良く考えてから行動しろ?何なら相談してからな。」
「分かってますわ!それ位分かってますわよ!!ですが・・・ですが!楽しそうな事に向かって身体が反応してしまうのです!抗えないのですわ、自分自身に!」
・・・いや、二人とも出来上がっている。
小さく諦めの溜息を吐く僕は、少しばかりこちらに降りかかる視線の方を注視する。悪意・・・と言うより、綺麗なクリスを見て鼻を伸ばしてる奴等が注目しているようだ。まぁ、シンさんが側にいるのでむやみに絡んでくるようなことは無いようだが?見た目良し、顔良し、スタイル良しのクリスは。こんな場所では注目されるのは仕方がない。
「おい、アンタ。暇なら俺と飲まねーか?」
あらら?シンさんが居るにもかかわらずクリスに声を掛けるなんて・・・怖いもの知らずと言うかなんというか。ご愁傷様です、その可憐で麗しい女性は中身は怪物ですよ?
「なぁ、聞こえてんのか?」
ん?僕の後ろで声がするんだけど?
そう言えば、目の前の二人とも熱く語り合ったまま無視してるな。あちゃ~これは喧嘩勃発の予感。来て早々問題起こさないでください。
「聞こえてんだろ?俺に付き合えよ!」
その声が終わると、僕の肩に誰かの手が乗るのが分かった。
・・・へっ?
「よぉ、やっと振向いてくれたか。おっ!やっぱり綺麗なお嬢ちゃんじゃねーか!こっち来て一緒に酒のめよ。」
・・・皆さん・・・どうやら。声を掛けられていたのは僕だったようです・・・。
いやいや!勘弁してくれ!誰だよこのスキンヘッドのおっさん!・・・てか、こっちと促された方を見るとやけにムッサイ男達が溜まってるじゃねーか!嫌だよ、誰があんなところに入るか!
「申し訳ありません、他の方を当たって下さい。今日今しがたこの街に着いたばかりで疲れてるので。」
「おっ!てことは旅人さんか?!アンタ、それなら俺らが癒してやるよ~、最高のマッサージを知ってんだ。疲れ何て吹っ飛んじまう!どうだい?旅の話聞かせて欲しいぜ?こっち来いよ。」
この男・・・酒臭くはない、おそらく子分みたいな立ち位置なんだろう。向こうで下卑たリーダーみたいな奴の笑い声が聞こえる。周りに居る連中は、それはそれは下品な言葉を口々に出している。止めて欲しい・・・。
とりあえず、「他所を当たって」と言って食事の方へ顔を戻す。目の前にはさっきまで熱く語っていたシンさんとクリスが、もの凄い顔で後ろの男を睨みつけているのが見えた。ハハハ、これなら流石に諦めるだろ。
「固いこと言うなって、少しだけで良いんだよ。」
なおも食い下がるか・・・こんなの無視だ無視。僕がそのまま返事もしなければ、シンさんもクリスもそれに続いて無視を決め込む。
「・・・チッ、田舎者め。」
彼は去り際にそんな事を言って足早に仲間の元に戻って行ったのが見えた。
田舎者ですか・・・僕否定しないよ?だってその通りの場所から来たからね。辺境も辺境、魔族が住み着く最北の地だからね。
しかし、まさか僕に声を掛けてくるとわ・・・。確かにバッチバチに化粧したあの時は超絶美少女だったけど、それ見て以降・・・化粧しない僕の顔って意外と平凡に見えるんだよね。
「ナナミ・・・また顔に出てますわよ?貴方は黙っていればかなりの美人に入りますわ。少しは自覚をしなさい。」
「それを言うならクリスだって。黙ってれば本物の王女なのにもったいないですねー。」
「・・・ナーナーミー?言いたい事はハッキリ言うべきですわ?」
「おやおや?私の表情は分かりやすいんじゃなかったの?言わなくても分かるんじゃないの?」
「「フフフフフフフ」」
「・・・仲良いな、お前ら・・・。」
そんな和やかな雰囲気に横やりが入って来た。
先ほど僕をナンパしてきた男のリーダー格が突然横から入って来たのだ。
「おい!!お嬢ちゃん・・・俺の仲間の誘いを断ったって?良い度胸してんじゃねーか。いいか?黙って俺らに付いて来い、今なら優しいお仕置きで許してやる。」
その男もスキンヘッドだったが、体格と身長が一回り大きい分スッゴイ大きな壁に見えた。たしかこれに筋肉をモリモリのモリモリにしたらテリーさんみたいになりそうだ。逆に言うと、テリーさんを見ている分迫力が無いので見劣りする。
この状況にクリスとシンさんは立ち上がって彼を止めに入ろうとするが、なんとスキンヘッドの仲間達が割り込んで来て妨害してきた。クリスもこれには驚き、シンさんはむしろ舌打ちしてる。
「おい、アンタこんな真似して良いと思ってんのか?ここは国境の街だぞ。問題起こせばアンタたちの方が不利になるぞ?」
「ああ?オメー、冒険者か?ハッ!俺の事も知らねーとわな・・・ランクは・・・Cか。相手になんねーな。」
鼻で笑い、失笑する大柄のスキンヘッド。シンさんはこれでも凄いんだぞ?舐めてかかると痛い目見るぞ?本当だぞ?・・・てか、この人凄い奴なのか?こんな女一人に寄ってたかって近寄ってくる奴が?チンピラの間違いじゃないか?それより・・・クリスを取り囲んでる奴等の方がヤバイ。涎たらして汚い上に何よりなんかいやらしい目つきしてる・・・。あのな?クリスはまだまだ清い身体で居てもらわなきゃならないんだ。なんなら旦那さんも居るんだぞ?だから・・・。
『そんな目で見んな!』
僕はクリスの前でヤバイ目つきをしていたい男二人に対して、思いっきり魔力の圧力『威圧』を放ってやった。当然、受けた男二人は崩れ落ちてしまい、泡吹いて気絶している。周りが見たら、突然二人が倒れたように見えただろう。クリスとシンさんはすぐに理解したみたいだけどね。
ここは食堂だ。もちろん多くのお客さんが居る。その人達だって僕達が囲まれてるのを見ていたが、誰も見て見ぬふりをしていた。おそらくだけど、この男のせいだろう。それでも、一部の人は外に出て衛兵を呼んで来てくれてるようだが。・・・ちなみになぜ人の動きが分かるか、簡単な話『感知魔法』を使っているからだ。いつでも退路が確保できるように周囲の把握をしていたのがこんな形で役に立っている。
「おっおい!どうした!!」
倒れた二人の側にいた一人が駆け寄り様子を見ている。ただの気絶だから水でも掛ければ目を覚ますよ。
そんな少し慌しくなった所を見計らって、僕は二人の手を取る。クリスとシンさんは何事?と言った顔になったが、状況を説明するよりも先に行動する。
「店員さん?これ食事の代金です。」
そう言って、少し多めに入った小さな皮袋を店員に向かって浮遊魔法で飛ばし。受け取ったのを確認したらすぐに転移魔法を発動させる。
向かう先は隣の宿、僕とクリスが取った部屋だ。さっさと移動してしまったので、クリスはポカンとしたままだったが・・・。シンさんはもう慣れてしまったのか、転移が終わったのを確認した瞬間・・・。僕を思いっきり叩いた。そりゃーもう、いい音が鳴りましたよ。
「バカ野郎!!これじゃあ衛兵に説明できねーだろうが!!それよりも!いきなりこんな事するんじゃねーと何回言えば分かるんだ!!」
「いえ、だって・・・経験上あの手の類の人間はすこぶる面倒なのが多くてですね?・・・逃げるが勝ちなんですよ。」
「そうじゃねー!三人同時に転移したことが問題だっていてんだ!!一般的に転移魔法を使えるだけで凄い事なんだ。それを複数同時で移動させるなんて見せたら大騒ぎなんだよ!くそ、幸い隣だ・・・すぐに食堂に戻る。お前らはここで待ってろ!いいか・・・余計な事はするなよ?!」
ブツブツと文句を言いながら素早く外へ行ってしまったシンさん。・・・ふむ、また面倒な事を起こしてしまったか?
まぁ、考えても仕方がない!ここは開き直ってジッとしていよう!
それから時刻が過ぎ・・・。
日は既に落ちてしまい暗い夜空が天を染めている。街はまだ夜の賑わいの真っただ中で賑わいを見せているようだが、そんな賑わいが程遠く感じるほど、どんよりとした雰囲気を漂わせたシンさんが帰って来た。なんだかんだで2刻ほど時間が経っただろうか。
彼の隣にはナーグがおり、彼は苦笑いしながら「ただいま」と手を振ってくる。シンさんとは違いこちらは余裕がありそうだ。
「ああ、気にしなくて良いッスよ。ナナミさんに絡んできた連中、ここんとこ問題ばかり起こしてた集団だったみたいで。衛兵が見事にしょっ引いて行ったッスから。むしろ、アニキが心配してたようなことが起こらなくて徒労に終わっただけッス。」
ふぅ、それなら良かった。なんとか問題を起こさずに済んだね。
「何安心してやがる!ナナミ、少しお前には常識を覚えてもらうぞ!こんなこと行く先々でやられてたら身体が持たない。貿易の国へ行く道中はそれをしっかり叩きこむ期間にする!」
・・・前言撤回、面倒が増えてしまった。
まぁ。今回は相手の都合で事なきを得たが、次がそうなるとは限らない・・・。ましてや『貿易の国』だ、商売の匂いや可能性・・・あるいは儲け話が有ったらすぐに飛びついてくる奴の方が多い。『マジックバック』然り・・・僕の『転移魔法』然り。
当然、魔法の事に関してはクリスも危ないんだから気をつけるようにと注意喚起されたクリス。彼女も真剣な面持ちでシンの話を聞いていた。
クリスの場合は王女っとしての立場が重なってくるため、下手な問題を起こせば国家間の問題になりかねない。おそらく女王陛下の事だ、国を治める王には内密に連絡を入れてるとは思うが・・・それでも一つの問題で大きな事件に可能性だってある。・・・他人事では済まされないのだ。
もちろん、行動を共にする僕の行動もクリスに影響する可能性があるので注意が必要だ。・・・って、言ってる側からこれだから信頼性が全く無いのだが・・・。これを思うと、シンさんから学ぶ機会は重要なのかもしれない。
さて、もうしばらくしてからサーラさんにミームちゃんも戻って来たので、次の日の予定を改めて確認して明日に備えて早めに寝ることにする。
ちなみに僕はシンさんと共に国境を越える書類などの申請をしに行くことになった。今までは一度もしたことが無かったので次からはちゃんと出来るようにと言うことで教えてもらうことになったのだが・・・これまた各書類が多くて大変らしい。しっかり覚えられるようにメモを忘れないようにしよう。
その日はそのまま就寝。旅の疲れがあったのか皆意外と早く寝静まってしまった。僕はその間に研究のノートを引っ張り出して色々出来事を記していく。些細なことは書かないが、気になったことなどは書き記す。その後、ベットに潜り込んで眠りに就いた・・・。
「おーい、いつまで寝てるんのさね。さっさと起きな!クリス?今日は国境の見学だろ?ナナミ、シンの逆鱗が落ちる前に起きちまいな!」
・・・おかしい、僕はさっき眠ったばかりなのに。あの時は確かに外は暗かった・・・。
たまに経験ないだろうか、あまりにも眠りが深すぎて一瞬で・・・気が付いたら朝になっている事があるって事・・・。僕はよくある、しかも決まって忙しい日の前日で、だいたい目覚めると遅刻ギリギリ・・・。今回はサーラさんが居てくれたのでそれは防がれたが・・・朝弱い僕としては布団から這い出るだけでも大変だ。
モゾモゾと布団からズレ落ちながら這い寄る僕に対して、サーラさんは笑いながら僕を掴み上げて洗面台へ連れて行ってくれた。クリスも続いて起きたようで、人には見せられない位の大きな欠伸をして僕の隣まで来る。
「おはようございますわ。」
「・・・うん・・・おはよ。」
僕の方がまだ起動したばかりで準備中のパソコン状態だ。クリスは既に顔を洗っている。
クリスの身支度が一通り終わる頃、ようやく僕が洗面所から出てくる。あまりの寝起きの悪さにサーラさんが呆れてしまった。
「ナナミ・・・野宿してた時はそんなんじゃなかっただろう?アンタそんに朝弱かったのかい?」
「ええ、その・・・野宿は常に気を張っていますからこうはならないのですが。どうしても街の宿になると・・・いえ、ベットになると。どうしても深く眠りに就いてしまう分、寝起きがとても悪くなるのですよ。」
サーラさんに「あまり気を抜きすぎるのも良くないよ?」と釘を刺されてしまったが。そう言ってから、先に準備が出来たクリスと一緒に街観光へ行くために部屋を出て行った。僕もシンさんとの約束があるので素早く出掛ける準備を整える。
すると・・・扉をノックする音が聞こえた。
「おい、サーラから聞いたぞ?もう大丈夫か?」
「はいはい、今出ますからもう少しだけ待ってください。」
ほんの少しだけシンさんを待たせた後、僕はすぐに扉を開けて出て行く。
今日は覚えることが沢山だ、・・・無事に覚えられるだろうか?
ようやく旅らしくなった日常で、僕は覚えなければならない事が沢山ある事に驚きつつも。着実に次の国の王都へ近づいて行く。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
新たな同行者?を引き連れて向かった貿易の国・・・そこに待ち受けてる新たな影とは!
・・・今のところはそう考えております。まーた突拍子もなく話を膨らませるかも知れませんが、ご了承くださいませ。




