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始まりと過去 3

前話から期間が空いてしまいましたが、ようやく続きです。切り所が分からず、最後までぶち抜いてます。

そして、最初で最後なのですが。唯一、主人公が告白される描写があります。主人公に恋愛させる気はないので、これっきりです。

 



こうして300年前の僕は故郷に帰る為の第一歩を踏み出したのだが。

 自分の身体がどうなったかを調べたり、見た目は変わっていなかったことに落胆したり。とりあえず魔法を知るために魔法の国に向かって、お約束の馬車襲撃イベントをこなしたりした。人と会った時に、この世界の言語について何も対策をしていなかったので不安だったが、そこは神様通じるようにしてくれていたことに感謝したり。

 それから50年位は魔法の国で過ごしたと記憶している、魔法協会のギルドで保有する魔力量が桁違いで騒ぎになったり、冒険者ギルドでのよくある新人への恒例行事でやらかしたり。お貴族たちから目を付けられてひと騒動起こしたりいろいろ問題を起こした。

 ただし目立ったおかげで魔法研究の工房で働くことが出来たし、目的の転移魔法も覚えることが出来た。


 だが転移魔法を覚えた頃には問題発生、不老不死の身体なので周りか変なうわさが立ち始めた。

 魔法使いの研究の一つとして不老・不死があったのだが、僕が老いないことを事に目を付けた研究者達が、不老の秘薬の作成に成功したのではと勘違いし、国を味方につけて僕から情報を聞き出そうとする事件が起こった。

 神様に頼んで作り変えてもらった身体なので、そんな秘薬の作り方など知らない僕は、この騒ぎはあまりにも大きくなり過ぎてしまった為。50年分の研究資料や素材などをかき集めて、逃げるように国を出て行った。




 次に向かったのは英雄の国、選んだ理由は魔法の国の関係者があまり居ない事。それから、この近辺で聖獣を見たとの目撃情報もあったからだ。

 この国に住んで居たのもだいたい50年位だったと思う。魔法の国での出来事もあったため、目立つのが嫌だった。人の気配がなく辺境の地にラボを作り、森や山岳地帯に出向いて素材を集めたり聖獣を探したりしていた。


 この時に、研究の副産物で出来上がったアイテムがある。ラノベ異世界モノ小説お馴染み、通称マジックバックだ。

 この世界では、このお馴染みアイテムは、実は存在して無かったのだ。不思議に思っていたのだが実際には転移魔法よりも高魔力を使用するため、人間では作れないモノらしい。転移で戻る際に通るであろう異空間や次元の研究をしていた時に、たまたま見つけた空間魔法。バックなどの空間を、高出力の魔力を風船を膨らませる感覚で叩きこむと、次元が歪み空間へ干渉して広がる。

 これをやってみたのも、お茶の間の人気アニメに出てくる青いネコからヒントを貰い。冗談半分残りは遊びで、試しに机の引き出しの中で思いっきり魔力放出したら。次元の歪みが発生し、空間が広がっていったのだ。それをヒントにマジックバックを作り上げた。


 空間魔法で帰還へ一歩近づいたと思ったのだが、ここまで来ると誰でも使える魔力では研究が進まなくなり、壁にぶち当たっていた。

 そんな時に目を付けたのが魔素だ、あれは高純度の魔力そのものだから、あれなら出力が上がると考えた。本格的に魔族を探すことにした、彼らがやっている魔素の調整方法を調べる必要があったからだが。個人的には、ただ単に会ってみたい気持ちも強かった。





 魔族に会うことが出来たのはそれからすぐだった。

 その時で会えたのは大型の狼だ、体高が2メートルはあるだろ超大型だった。しかも意外と普通に話してきた。いや正確には 「念話」 と言うらしいが、頭の中に声が響く感じだった。


 「おや、こんな場所に人間とは。魔素溜まりで危険ですの早く離れなさい。」


 そんな感じで、やたらとはっきり聞こえるイケメンボイスで注意されたのを覚えている。

 そこからはまさにトントン拍子で話が進んでいき、魔族長代表の古龍に会うことも出来た。

 魔族長代表と名乗っているのは。昔よりも今では、魔素溜まりを管理できる魔族も増えさらには種族も増えた、このままではまとまりがなくなるとして、各種族で代表者を決めその代表者たちが集まる会議 「魔族長会議」 なる組織を作り上げたらしい。その中でも神の声を聞くことが出来る、古龍の種族が会議の代表をしてる。

 人間よりも立派な組織になっていて当時の僕は驚いたものだ、さらに神様からの指示で僕の手伝いまでしてくれるとか感動で涙が出た。


 あまりにも居心地が良かったのと充実した素材が沢山有ったので、一番長い事定着していたような気がする。100年位?だったと思うが、その間に人間界では、英雄の国と魔法の国が大きな戦争をして泥沼化していた。

 魔族の方でお世話になっていても意外と情報は入って来ていた。人間の街に潜入調査を常にしているらしい。なので意外、国に赴かなくても情勢を知る事ができた。


 研究の方も、三歩進んで二歩下がるような成果しか上げられなくなってきた時、人間と魔族どちらにも大きな衝撃が走る事件が起こる。東の大国に強力な悪魔が現れたのだ。

 しかも、その悪魔はわざわざ自分の存在を知らしめるかのように、イーセア全土に自分の宣言が届くよう声を拡声させて宣戦布告してきた。


 「悪魔界より来た大魔王デミだ!これよりこの世界を我のモノにする為侵略を始める!覚悟せよ!」


 この宣戦布告に世界中の人々は恐怖し、イーセア全体に響いた悪魔の声で人々は絶望のどん底に落ちた。

 ただ僕だけは違った、むしろ歓喜していた。チャンスが来た、異世界を転移する方法が答えから現れてくれたと思っていた。仕方ないだろう、もう200年近くもめぼしい成果をあげられてなかった。悪魔界がどうゆうところとかは全然分からないが、僕が知っているこのイーセアにそんなところはない。ならば、奴はこの世界に無い『別の世界』から現れたのだ。

 その時の思考は 「帰れる」 それしか考えてなかった、それしか思わなかった。


 やたらとしつこく僕を止めようとしてくる魔族達の制止を振り切り、荷物をまとめた僕はすぐに東の国にほど近い大きな都市に向かった。現在の交易の国の王都になってる場所だ。


 魔王にはすぐに出会えるだろうと思っていたのだが、これが意外と年月を要した。

 自慢ではないが、この強化された身体は強かった。過去に人間最強と言われていた英雄にも勝つことが出来たし、魔族最強の古龍にも五分五分の戦いで引き分けた。

 それなのに魔王軍を突破出来なかったのは、魔王は自在に魔素を使い、非常に多くの魔物や人間を狂暴化させそれらを軍隊として用意ていた。

 どんなに敵を倒そうが、随時魔物が投入され組織だって動く魔王軍に、どんな力であってもたった一人では無力だった。


 自分の力を過信し過ぎたのも、なかなか攻略できなかった原因の一つであろう。その時はとにかく帰りたい気持ちが強すぎて暴走していた、周りの助けはいらない、自分の持てる力を全部使い突き進めると本気で思っていた。

 ここまで暴走すると、僕は周りの人達を拒むようになっていた。いつも孤独で、たった一人で魔物達や狂った人間達を薙ぎ払い蹂躙していく姿から、人々から 「孤高の魔女」 なんて呼ばれるようになっていた。

 そんな二つ名を持ち、魔物を蹂躙していく圧倒的な強さはイーセアの全土名のある国々に広まっていた。





 魔王の攻勢が止まず、なかなか進めないことに苛立ち始めた頃。最近誕生した人類の希望 「勇者」 が声を掛けてきた。

 ほかにも各国から選抜された聖騎士、戦士、魔法使い、聖女の、勇者を含む5人でパーティーを組み魔王討伐の使命を果たすよう命じられたらしい。

 僕が暴れまくっている間に、英雄の国と魔法の国で戦争一時休戦を決定し。人類一丸となって魔王を倒すことに一致団結したそうだ。さらに、タイミングを見測ったように英雄の国にある大神殿に神託があり勇者が誕生していた。


 勇者が声を掛けてきた理由は当然パーティーへの誘いだ。

 ちなみに、当時僕に声に掛けてきた人は沢山いる、有名冒険者パーティーのリーダーや魔法の国の偉い人、英雄の国の騎士団長や・・・一番印象にある女王の国のトップ女王様本人とか。正直、女王は助けなければ良かったと後悔した記憶がある。しつこく付きまとい、自分の国に来いとかいろいろ言って自国に帰るまでずーと、付きまとい面倒だった。あと、勧誘しに来たのは他にも沢山いたが後は覚えていない。

 それらすべての誘いや勧誘はすべて断っていた、勇者の誘いも即座に断った。


 本当にあの時は自惚れていた、相手を見下し邪魔扱いしていた。

 魔王を問い詰め、帰れる方法を早く手に入れる事しか考えていなく、それ以外の事が鬱陶しく思っていたし、先に進めない事に苛立っていたこともあって、周りの声に耳を傾けていなかった。


 しかし、そんな様子の僕に対して勇者は何度も話しかけてきた。偶然戦場で出会い共に共闘したこともあった。あまりの鬱陶しさに本気で殺気を向けて警告もしたのだが、あの勇者は諦めなかった。

 その後も事あるごとに側に居たり、ストーカーまがいのこともされた。流石に勇者のパーティーメンバーも呆れ始め、何故か僕に何とかしてくれと頼みこんでくる始末。

 あまりに鬱陶しかった為、諦めて話をしてやろうと話の席を設けた時に。僕はこの世界に転移してきた時以来の衝撃を勇者から受けることとなった。


 「あなたの事だ好きだから、大好きだからずっと側に居たいのです!」


 「・・・・・は?」


 お忘れかも知れないので再度僕の事を説明しよう。

 転移する前もそして今も、心は 「男」 である。何なら今でも全部男になりたいと思っているのだが。何故か転移して目が覚めたら、僕の身体は 「女性」 で、見た目もそう悪くないと思う。僕は好みだ、好きなタイプド真ん中だ。そんな容姿なので、性別で分類するなら間違いなく女性とだろう。

 神様の嫌がらせが今になって効いてきた、怒りが爆発しそうだ。今度あそこに行ける機会があれば今の気持ちをぶつけるとしよう。


 そう、この時この世界で初めて告白されたのだ。いろいろ悩んでいたことが吹き飛び、魔王の事や帰還の方法など。思い悩んでいたことすべてが吹っ飛び真っ白になった。

 あの時は、間抜け面をさらしていただろう、それくらいショックだったのだ。

 はっきり言っておくが、そんな気はさらさらなかった。そもそも、恋愛とか好きとか嫌いとか、この世界に来て考えもしなかった。それを考える位ならさっさと帰還して、向こうの世界で幸せな恋愛をしたいと思うくらいだ。とにかく不意打ちでショックだったが、だが悪いことばかりでもなかった、張りつめていたものが緩んだ事で少し余裕が生まれた。冷静に考えられるようになれたと思う。


 この 「勇者告白事件」 は瞬く間に広がり、周りが騒ぎ立てた。その流れで強制的に勇者パーティーに参加させらるということになり、冷静さを取り戻した僕からしてみれば、このパーティーへの参加は、今までしてきた事への罰を課せられる気持ちだった。

 ちなみに、勇者の告白に対してはハッキリと断った。断ったのだが、一度の告白で断られても終わりではないらしい。本気で好きなら相手に認めてもらうよう努力し何度でも思いを告げるのだと言う。 

 そう教えてくれたのは、恋バナ大好き乙女な聖女様と女性の魔法使いさんだった。告白って一回駄目だったら諦めちゃうもんじゃないのか?と考えが過ったがここは異世界だ。200年目にして改めて気が付くことがあるとは。

 そしてここで重大なミスをしたことに気づかされた。女性側の対応、僕は断れば終わりだろうと安直に考えるのだが。この世界だけなのかわ分からないが、実は初めて告白された相手の場合、女性はほとんどがバッサリ断る。理由は簡単、相手がどれだけ自分を思っているか測るためだ。その後の自分へのアピールや態度、思いの告げ方などあるらしいが。そうして相手の本気度を見極め、信頼できると相手であれば受け入れるらしい。

 そんなこと分かるわけがない!そんな女性の鉄則があるなんて思いもしなかった。元居た世界では一度告白してフラれたら終わりみたいな感じだったし。そもそも僕は男だ!女性の気持ちも考えも分かるはずがない。

 だが、謎が解けた。だから周りから強引に僕をパーティーに参加させたり。やたらと勇者を盛り上げていたのか。


 そんなひと騒動があり。その後は嫌々ながらも、一人では足止め状態の現状を打開するための策として、お互い協力することにした。パーティーに入って思ったことは、一人で居る時より誰かと話せる環境があるのはやはり良いことだ。心に余裕が出来て、考える余裕は生まれた。・・・勇者は鬱陶しかったが。


 この頃から急激に魔王軍に陰りが見えるようになってきた。人間側はここぞとばかりに勇者を筆頭に進軍、勢いがあるままに魔王城目前まで迫った。


 魔王軍の衰退の理由は、魔王を倒した後で知ったのだが。魔族達が魔王の使っていた魔素を中和し霧散させたおかげだった。魔素頼みだった魔王からしてみれば、力の源がどんどん減っていったのである。

 魔王が現れて飛び出そうとした僕を引き留めた理由も。時間が掛かるが、魔素の塊である魔王を弱体化できることが見ただけで分かったため、それまで待てと言う意味だったそうだ。

 この話を聞いた時は、魔族の話すら耳に入らず気が狂ったように一直線に突っ走り迷惑を掛けてしまったと大いに反省した。





 魔王が現れて5年、人間が起こしていた大戦争よりもはるかに短い期間だったが。各地に大きな被害を出し、多くの犠牲を出した魔王は討ち取られた。


 魔王城に突入した混成軍は激戦を越えて人間の勝利を手に入れた。

 魔王城には常に魔素が溜まり、長くいれば狂ってしまう者も現れるほどだった。しかし、そこは神様の加護を持つ勇者君が力を発揮して聖域を作り上げ、人々を守った。

 この時点で言っておくが、魔王は実にあっさり倒されてしまった。魔王城内の方が攻略に時間が掛かった。それだけあっさりだったのは、魔王自身にあるだろう。

 魔王は魔素を使うことで他を圧倒していただけであり、魔王軍すらも魔素が無ければ維持することが困難だったのだ。そう魔素が全てであれば、初めから魔族達と魔素を中和することに全力を注いでいればもっと早く戦争は終わっていたのだ。


 勇者の聖域の中では魔王は本来の力を発揮することが出来ず、悪あがきで魔素の大爆発をしようとしたところを僕の手によって阻止された。


 そしてついに、念願の時が来た。魔王の悪あがきを阻止した僕は、目の前にいるそいつに教えてもらわなければならない。ようやく見つけた手がかりだ、絶対に逃がさない。必要ならこいつを連れて逃げ出すことさえも考えていた。


 「魔王、答えなさい。どうやって異世界を越えてきたの?悪魔界への行き方を教えなさい。」


 勇者パーティーにも聞こえているだろう、僕はそんなことは構わず質問していた。


 「はっ!なんだ?!そんなもん知らねーよ!」


 聞き間違いだろうか、いや魔王のことだ僕を動揺させる為の罠だ。


 「いいえ、貴方はイーセア全土に向け声明を出した時に言っていたでしょう!悪魔界から来たと!」


 そうだ、言っていた。頼む教えてくれ。


 「あぁ、方便だよ!そう言った方が盛り上がるだろ?勘違いしているようだから教えてやる。」


 方便?勘違い?・・・まさか。待ってくれ!言わないでくれ!最悪の筋書きだ!


 「俺は、元は只の人間だよ!」






 魔王は自分の事を語り出した。

 小さな村で生まれ充実した毎日だったが盗賊に襲撃され攫われた。その後奴隷商人に売られ、闇を見てきた。売られた先ではひどい仕打ちを受け、人に対する憎しみが増していき、最後には裏切られ使い捨てられた。その捨てられた場所にたまたま魔素が噴き出したそうだ。

 普通なら理性を失って死んでいくのだが。魔王は死にたくなかった、苦しめた奴らにいや人間に復讐するまで死にたくない。強い憎しみの心で魔素を吸い取っていった結果、今のようになったのだと言う。


 魔王の過去を聞いた勇者達は皆それぞれ複雑な表情だった。

 僕は、魔王が嘘でも言っているかと黙って話を聞き、魔王のすべてを見逃さないようにしていたが。嘘を言ってはいないそう確信した。

 そう思ったら、その場で崩れて泣き出したくなった。自分の感情が抑えられなかった。ようやく見つけたと思った、帰れると思った、今までの研究がようやく実を結ぶと確信していた。この時すでに200年だ、自分の故郷への思いが爆発した。今まで抑えてきたものが濁流のように押し寄せ、無理やり押し止めていたものをすべて表に流れ出てきた。そして感情の濁流に耐えられなくなり僕は気を失った。





 魔王を前にして気を失うとは大失態だが、幸い勇者達も居たおかげで無事だった。

 魔王はもう力が残っていなかったため、大人しく首を刎ねられたらしい。その後、僕が倒れてしまったこともあり一目散に撤退。混成軍の軍事拠点まで戻ったそうだ。



 僕が目覚めるまでの間に、魔王が死んだことで魔王軍の統率が乱れ、さらに魔素も少なくなった事も重なり、敵を破竹の勢いで掃討。勇者達が魔王を討ち取った知らせも広がり人間側の勝利で戦争の幕が下りた。

 戦後の処理が連日休まず行われ目途がついた頃合いで、勇者達含む混成軍は防衛国筆頭なっていた英雄の国へ凱旋した。

 凱旋後は式典やらパーティーやらで、国全体がお祭り騒ぎだったそうだ。その間僕はずっと眠ったままだったが。





 僕が目を覚ましたのが、終結して一年が過ぎたころだった。

 気が付くとそこは見知らぬところで、しかもフカフカのベットの上。何がどうなっているか分からないまま記憶をたどる。魔王の真実を聞いて気絶した、そこまでの記憶話ある。そしてまた気持ちが沈んできた。


 「おお!お目覚めになられた!」


 落ち込みそうな僕だったが、枯れた声がそれを押し止めた。声の方を見ると、神殿の神官の服を着た、いまにも倒れそうな爺さんが居た。

 話を聞くと、ここは英雄の国の国賓が使うような客室らしい。混乱している僕に対して爺さんはゆっくりと説明してくれた。

 魔王はすでに一年前に討伐されたこと、倒す直前で眠りに就いてからそれほどの月日が経っていること。


 説明を聞いているうちに、大きな喪失感を感じるようになった。

 あの戦いは帰還するための戦いだった、それだけの為に頑張っていた必死になっていたのに。その感情が全て無くなって、心に大きな穴が開いて今までの原動力が空っぽになっているそんな気さえした。


 それからしばらくは無気力で過ごした、国のお偉いさんが面会に来たり、勇者パーティーが押し掛けてきたり。勲章授与だの婚姻だのなんだのと、お約束のイベントが押し寄せてくるのが鬱陶しくて。ひっそりとその場から居なくなることにした。

 国では僕が居なくなったことに慌てだし、勇者たちも混ざって捜索隊を結成したが。見つけられるはずがない。僕がこの時向かったのは、魔族の所だ。強引に飛び出して行ってまた戻ってくるのは失礼だと思ったが。そこしか思いつかなかった。


 だが、魔族のは僕を拒絶するどころか優しく出迎えてくれた 「おかえり」 そう言ってくれた。空っぽだった心が熱くなった。

 戻ってきたこの時に、古龍から先に話した魔王に対する対策の事を聞き、怒られるほどでもないが冷静に慎重になれと注意された。おかしな話だが、この説教をされている間ですらも僕の心は満たされていった。






 それから今に至るまで、途中10年くらいは研究の事を忘れ放浪の旅もしていたが。概ね今まで通り研究を続ける日々。そして籠りがちな僕に、古龍から提案があった。


 「小僧、人間界に少しは降りたらどうだ。」


 「なんですか突然?必要ないでしょう、人間の情報はここに居ても届くでしょう。」


 古龍は単純に何十年も籠りっぱなしだから、少しは気分を変えてこいと言いたいらしい。

 と言うのも、魔法の研究の副産物を新たに発見し、ついつい掘り下げて研究していたのだ。本来の目的とは違うが、かなり有効に使えそうなので時間をかけて研究してしまった。


 「我々では気が付かんこともある、直接行けば新たな発見もあるだろう。」


 確かに、それは可能性がある。人間は凄い、ごく最近なんかは、不可能だと言われてた飛空艇を完成させたり。魔導士の魔力量に稼働時間が依存していた魔道人形、それを魔力の供給を自動で行い、ほぼ休むことなく稼働させられる魔道人形を完成させてたりした。新たな魔法の仕組みを作り出している。


 そう考えると、古龍の言うことは正し。

 魔族の情報は政治とかばかり、僕の欲しい情報は少ない。一部の魔族は率先して集めて来てくれる子も居るのだが、魔法の知識が浅いので参考になるのは少ない。直接行けば何か参考になる事もあるだろう。


 飛空艇がどんなものなのかも気になるし、魔力の自動供給も気になる。魔力で使用されてるそれらを魔素に応用できれば、道は開けるかもしれない。そう考えると、悪くないか。


 「うん、悪くないかも。」


 「小僧今の間はなんだ、頭の中で何を考えおったのだ。良からぬことを考えておらんか?」


 大丈夫だ古龍よ、魔王の時のような失敗はもうしない。もうあんな思いはしたくないからな、冷静で居られている安心しろ。


 「よし、少し各地を回って来るよ。時間がたっぷりあるんだから、ゆっくり歩きながら大陸を北から南へ縦断してくるよ!。」


 今いる魔族の住まう場所は、北側にある女王の国のさらに北。永久凍土で気温は絶対零度の世界、そこに山脈に似せた大きなシェルターを作りその中で生活している。土地の大きさで行けば交易の国に匹敵する。

 シェルターの中はしっかり適温にされ様々な種族が住んで居るが、ここに居るのは一部。多くは各地に散っていてそれぞれの仕事を持ち役目をはたしている。


 そこからスタートして、目的地の英雄の国まで南下する。本当は魔法の国へ行けば終わりなのだが、どうせなら古龍の気持ちもくみ取り、休暇気分で旅をしようと思う。魔法の国はいつでも行けるし。


 「提案しておいてなんだが、送り出すのも不安になる。極寒地方も歩いて行くつもりか?」


 「まさか、流石にそれはしない。抜けられなくはないけど、手間がかかる。普通に女王の国の近くに転移してから始めるよ。」


 極寒地方、魔族の間でそう呼ばれているのは女王の国とこのシェルター間の地域の事。寒さに強い耐性のある魔物や魔族なら問題ないが、人間がなんの対策も無に踏み込むのは大変危険な場所。

 そんな危険な場所、わざわざ通る必要はない。転移で移動できるのだから。


 「気を付けて行ってこい、小僧はすぐ問題を起こすからな。」


 「好きで問題を引き付けてるわけじゃないって、そうならない為の対策だって万全だ!」


 「では、何日持つか楽しみにしておこう。小僧からの報告が楽しみだ! はっはっはっ」


 この古龍、肉をそぎ落として食ってやるぞ!

 ふっ、しかし問題に対しての対策は本当に万全だ。多くは読まなかったがラノベ小説の知識と実際に経験した事を合わせれば、イベント回避など余裕なのだ!


 「小僧、何かあればここに帰ってこい。今はここが小僧の場所だ。」


 「ありがとう、古龍。」


 心が温まった、この世界でも帰れる場所がある。古龍や魔族が居なければ僕は心が折れていただろう。あの魔王の真実を聞いて立ち直れなかっただろう、彼らは僕にとってのこちらの世界の大切な家族になっていた。




 それから数日で旅の準備をした。ご近所や関係各所に挨拶しいざ出発。まず目指すはスタート地点の女王の国、山岳地帯にある王都を目指す。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

次話からようやく物語の本編です。かなり雑な300年の振り返りで自分もこれで良いのか不安ですが。

少しづつ書いていきますので、よろしくお願いします。

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