交易の国へ 道中の街編 13
物語を作る難しさ その2
それっぽく説明したりいろいろ意味合いを持たせることが非常に難しい
(完全に個人的感想)
昨晩・・・僕はとんでもなく嫌な予測を立ててしまった。
いや、思いついてしまったの方が正しいだろうか?まあ、どっちだっていい。どちらにしろその可能性であるかどうかは確定してない、証拠も何もないただの仮説だ。・・・だから確かめなくては。
僕は次の日、朝早く起床し宿を出ていく。
まだ寝ているクリスには手紙を書いて置いてきた、今から行く場所には連れていけない。僕の予想が当たっていれば・・・おそらく『大森林山』の中に『証拠』が残っているはずだ。
そして・・・おそらく森に居て魔物が増えたことを直に感じていたヘヴィーなら場所を知っている・・・。
朝の日差しが薄く上がりは始めた頃・・・僕はヘヴィーが仕事をしている魔素溜まりまで来た。
ヘヴィーは寝起きなのか、欠伸をしながら僕の方へ近寄ってきた。
「どうしたの~、こんな早くにー。もしかしてー、近くの街から出ていくからー、挨拶しに来たのー?」
「ちょっとやらなきゃいけない事が出来てね、まだまだ旅の続きは出来そうになんだ。」
大きな伸びをしてヘヴィーは挨拶代わりに僕に巻き付いてくる。起きたばかりのためかさほど強くはない、むしろ優しく絡みついてくる。この前されたばかりだが、このヘヴィーの抱き付きは気持ちいものだ。ずっとされていたいと思ってしまう・・・ん?ずっとされていたい?
僕は慌ててヘヴィーを振りほどく、そして距離を取って離れた。
「あーあー、もう少しだったのにー、どうだったー?これがー、魔族ラミアの『魅了』だよー?悪い気分にはー、ならなかったでしょー?」
「あのな、僕が耐性有るからっていろいろ試さないでくれないか?油断も隙も無いんだから。」
ケタケタと笑うヘヴィー、いたずらが失敗に終わったが、慌てた僕を見れて満足したらしい。
さて、本題に入ろう。
「ヘヴィー、聞きたい事がある。君が感じ取った魔物が増えた瞬間の場所について覚えているか?もし覚えているならその場所に案内して欲しい。増えた魔物を始めのうちは倒してたんだろ?その場所も案内して欲しい。」
「あれー?この前ー、調べたんじゃないのー?」
ああ、この前ヘヴィーに会った後調べたことは、魔鉱石がどのように影響しているのかっていうのを中心に調べてたから、急激に発生した場所とかそう言う所は頭から抜けてて調べてなかったんだよ。
正直、その時になんかかしら発見していれば、一昨日シャバクを取り逃がすような失態は侵さなかったと思う。と言うか、可能性に気が付いたのが昨日の晩だからな?
「ん~・・・正直に言うねー。坊やには見せたくないかなー。」
「・・・それは、僕には刺激が強すぎるから?それとも・・・元の世界に帰る為なら何でもしようとして、様々な魔法を研究してる僕が・・・人道的では無い研究を始めてしまうかもしれないから?」
ヘヴィーはさも「その通り」と言いたげな表情だ、視線は僕を向いているが非常に心配している。
へヴィーのここまでの反応を見ていれば分かる・・・おそらく僕の予測した事は当たっている。おそらくシャバクは・・・『人間の血肉』を基盤として使い、魔鉱石で大量の魔力を加減無く寄せ集めて魔物を『作り上げている』
ゴブリンやオークやボアウルフ等、下級の魔物の発生は様々だ。大きな戦場があった所、魔力が豊富に存在するところ、人間の墓場近くからも発生することがある。しかし、どうやって発生しているかは多くの謎がある。僕はあまり詳しくは知らない。古龍や始まりの木とかに聞いても神様しか知らないだろうと言っていた。
たぶん、シャバクは発生させるための一つの方法を解明したのだろう。それが今回の方法だ・・・。
人の血肉は冒険者から集めたんじゃないかと考えてる。残虐な殺し方や非道な暴力にも意味があるのだろう。そうして集めた血肉を基盤とし、魔鉱石で魔物が発生しやすいよう大量の魔力を寄せ集める。
この『大森林山』は魔力がかなり豊富だ。大量の魔力を使う実験にはうってつけだろう。そもそも山頂まで木々がぎっしり生えたのも魔力による影響が大きい。この森は魔素が頻繁に噴出してしまう、その為常に魔族の誰かが中和しに来ているのだが・・・魔力だけがどんどん生成され高濃度の魔力に影響された木々が多くなり成長していって山頂までもが覆われてしまう結果となった。もちろん魔物にもその魔力は影響して、この森の奥は凶悪な魔物も多く存在している。
話を戻そう、大量の魔力を使うと言う意味ではこの森は最高の環境と言って良い。魔鉱石が劣化して取り出されたのも、上限無く無理やり容量を超える魔力を集めさせられた為に起こった劣化だと思われる。
ただ、最後の工程・・・『作り上げる』については分からない。おそらく魔法陣を用意た術か儀式のような物だとは想定できるが・・・それを探すために僕がここに来たのだ。もし発生源に痕跡があれば、間違いなくシャバクが魔物を作っていたと言う『証拠』になる。もしかしたら・・・被害者たちの血肉が残っている可能性もある。それも確認できれば僕の考えは正しいことになるが・・・実際にこの目で確かめるまではまだ確定してはいけない。
「ヘヴィー、僕はね?帰る為なら何でもするつもりだよ、もう300年経ってしまった・・・普通に考えたら向こうでは僕はとっくの昔に死んでいて時代も大きく変わってると思う。けどね?戻りたいんだ、僕の世界に。・・・本当に追い込まれて研究が頭打ちになり、進展が無くなれば・・・僕はそう言う方法にも手を出すかもしれない。」
「・・・そうか。」
シャバクがどうしてこんな魔物を増やす実験をしているのかなんて分からない。むしろそんな非人道的な実験をしてまでやらなければならないのか・・・何が理由でそこまでするのか。
・・・僕は彼の本音を聞いてみたい。聞いてどうするとか分からないが・・・、何が彼をそこまでさせるのか知りたい。
ヘヴィーは先ほどまでの寝起きの表情は何処かへ行ってしまい、今は暗い表情で僕を見ている。
そして大きな体を動かし、ある方向へ向かい進み始めた。
「・・・付いて来て。」
ヘヴィーは振り向かず、一言だけ僕に発して進んで行った。
僕は黙ってヘヴィーの後を追う、蛇の身体で進むため後を追うのは楽だった。道が出来上がり実に歩きやすい。しかし、進めば進むほど異様な匂いと腐りかけの肉の匂いが漂い始めた。
突然してきたその匂いに、なぜ以前この付近を通った時に似合わなかったのか不思議に思ったが、どうやら風魔法で匂いが漏れないように仕込みをしていたみたいだ。ずいぶん手の込んだことをしている。
30分ほど足早に進んだろうか、魔素溜まりからさほど離れていないが着いたらしい。辺りには匂いどころか空気自体が淀んでいるように見える。というか、淀んでいるのが『見える』とか、明らかに異常である。
「これは・・・常人では突破すらできないな。ヘヴィーも良くここで魔物を討伐してたね、長くいるだけで魔素溜まりよりも早く気分を悪くしそうだよ。」
神様に作り治してもらった僕なら全然平気だけどね。
「坊やにはー、見せたくなかったー。・・・人間とー、ようやく仲良くなり始めたのにー。それにー、こんな事ー、坊やにはしてほしくないからー。」
「人間が殺されてる事件を知らないって言って。話逸らす目的で、魔物大量発生に関係している魔鉱石を預けたのか?でも・・・魔鉱石預けたらところで、どうせ僕にはすぐバレると思わなかったのか?」
「いつもの坊やならー、研究を始めてー、事件終わってからー、行動開始するとおもったのー。」
なるほど、研究バカの僕に魔鉱石を預ければ、そのまま研究始めると思ったのか。そしてそれに熱中するあまり、事件の事なぞ忘れて終わった頃に行動を再開すると思ったのか。・・・クリスが居なかったらそうなってたかもな、彼女に頼ったから僕はシャバクと会ったわけだし。そもそもこの街なんか、一泊したらそのまま通り抜けてた所だったしな!
「坊やー?一つだけー、ヘヴィーと約束してー。」
「どうしたの、改まって。珍しく真剣じゃないか。」
「『人間』を実験材料に使う前にはー、必ず私達にー、相談してー。『人間』を使ったりするとー、神様が怒るからー。・・・だからー、お願いー。坊やは人間なのー、人間の道をー、外れちゃダメー。どうしても駄目な時ー、手遅れになる前にー、絶対に私に相談してねー。ヘヴィーと約束ー。」
ヘヴィーからの約束は、『忠告』のようにも聞こえた。
おそらく今後僕はどこかで壁にぶつかる、今でも研究は思うように進まないし実績もほとんど無い。すでに感じている行き詰まり感、今回の旅は新しい発見が目的である。それはもちろん様々な可能性を見つけるためでもある。それが『人間』を使う物であっても・・・。
ただ、使い方が違う。僕の場合は『自分自身』だ、他人を使うような事は『まだ』しない。安全が考慮できた段階で使用する可能性がある。シャバクのように非人道的のような使い方は『まだ』考えていない。それをするのは、全てやれることを試してからだ・・・そして自分が狂わなければ。
・・・いずれ、自分が壊れてしまい狂ったように実験の為に殺戮を繰り返すようになるのだろうか。・・・それはまるで、今回の殺人犯であるシャバクそのまんまだな。
「ヘヴィー、約束するよ。ただ・・・僕が狂ってしまった時は、古龍から神様に頼んで僕を消滅させてほしい。僕は普通には死ねないから。」
そう言った瞬間、思いっきり頬を叩かれた。しかも魔族ラミア最強の尻尾で出せる本気で叩かれた、僕は完全に不意打ちだった為に防御が間に合わなかった。叩かれた頬・・・いや、頭部は粉砕して僕の首から上が無くなった。
痛いとか思う前に僕は死んだ後の浮遊感に居る、唐突過ぎて呆けてしまっていたが、慌てて気合いを入れて復活をする。
「ヘヴィー!いきなり何するんだ!」
即死だった為、さほど痛くなかったが。復活するのは意外と疲れるのだ!それに、なぜこんな殺されかたしなきゃいけないのか理解できない。
ヘヴィーは明らかに怒っていた、どうしようもないくらい怒っているのか身体に力が入り過ぎて小刻みに震えている。
「坊や!どうしてすぐそう悪い方向に話を進めるの!これから先の事なんか分からないでしょ!狂ってしまう?消滅させてほしい?バカ言わないで!そうならないようにすればいいでしょ?!それでもだめだったら私に相談して!そうなる前に絶対に力になるから!必ず助けるから! ・・・だから!・・・そんな、・・・そんな悲しいこと・・・言わないで。」
震えるヘヴィーは、大粒の涙を流しながら僕にしがみ付いてきた。
まったく、まだまだ先の話で可能性の話をしていただけだと思ったんだけど・・・素直で良い子のヘヴィーを辛い思いにさせてしまったようだ。確かに、マイナス思考だったね・・・ここは「約束する」それだけで良かったんだね。僕はまた・・・ずっと先の不安ばかり語ってしまったね。その時にならなければ分からない事なのに、今考えても仕方ないことなのにね。
ごめんねヘヴィー、不安にさせてすまないね。僕をそこまで思ってくれてありがとね・・・。
ヘヴィーが泣き止むまで僕は黙って抱きしめられていた。・・・いや絞め殺されそうになっていた!
身体強化を掛けるのが遅かったのか、身体が締め付けられてミシミシとヘヴィーの尻尾が食い込んでいく。なんとか耐えているが・・・かなり痛い!始めから強化していればこんなことにはならなかった!中途半端に食い込んだ後に強化したが、こんなことならいっその事絞殺された方が楽になりそうだ。
僕が痛たそうに悲鳴を上げたとこでヘヴィーもその事に気が付きようやく解放された、あー・・・締め後が付いちゃったよ・・・回復魔法で消えるかなー。
「ごめんねー、いつも以上に力入ったみたいー。」
ニヘラっといつもの笑顔に戻るヘヴィー。良かった、元気になったみたいだ。
「ヘヴィー、改めて・・・。僕は必ず約束は守る、おかしくなる前に・・・辛くなる前に必ず相談するよ。その時は力を貸してほしい。・・・これでいいかな?」
「うん!」
初めからこう言うだけで良かったのにな、どうも悪い方へ悪い方へ考える。しかも、ずっと先の事を・・・。先に備えるのは大切だけど、見通しも見えないし分からない事についてあれこれ言うのはちょっと違うよね。
まったく、魔王が現れた時のように何も考えないで行動していた僕の事を今の僕は少し見習うべきだな。旅の事だってそうだ、何があるか分からないのに、いつまでも石橋を叩いていたのでは先に進めないし楽しめない。もう少し大胆に行こう!
・・・いや、少し大胆に行き過ぎて僕の正体がどんどんバレている・・・今は慎重になるべきか・・・。結局ライーオさんと部下の人達にもバレちゃったね・・・はぁ・・・。
今までの事とこれからの事に一喜一憂している僕だったが、目の前の事を忘れそうになったところでヘヴィーに本題の話をされて目の前の問題の事に集中する。
「この先にー、坊やの探し物があるー。そのかわりー、結構ひどい状態ー。私はー、これ以上ー、近づきたくないからー。ここでバイバーイするねー。」
「ありがとうヘヴィー、それから大規模作戦の時も注意しててね。もしかしたらシャバクの奴が何かしてくるかもしれないし、戦士団以外にも冒険者で手練れも結構いるから。無いとわ思うけどケガしないようにね、僕は人間側に居るからすぐに助けに来れないかもしれないし。」
「大丈夫ー、そこまでー、心配してくれるのはー、嬉しいけどー。魔族ラミア族長をー、甘くみないでねー。」
カラカラと笑いながら「バイバーイ」と言って去って行ってしまった。先程まであれほど情熱的だったのに・・・熱が冷めるのが早いもんだ。安心したっていう気持ちの方が大きいからさっさと離れられたのかな?とりあえず、ヘヴィーには世話になりっぱなしだなー・・・事件が解決したら、高級な羊肉でもお土産に持って来てあげよう。魔族は食事は必要ないけど食べない訳では無いからね、ただのアクセサリーを渡して喜ぶのはピクシーやサキュバス位だ。食べ物で良いだろう、いつもそうだからね。
さて、随分と時間が掛かってしまったがようやくお目当ての物を見ることが出来る。
ゆっくりと草をかき分け進んで行くにつれて、さらに匂いがきつくなる。もう何の匂いか判別などできないし空気も淀み辺りは埃っぽい。マジックバックから簡易用のマスクを取り出して使用する。少しはマシになるかと思ったが効果は薄い・・・無いよりは良いだろうから付けたままにするけど。
100メートルくらいだろうか、うっそうと生い茂る草や木をかき分け進んだ先に『ソレ』は有った。
辺りの木々は綺麗に無くなっており森の中に突然現れた広場。広場と言っても住宅地の中にある公園位の広さだろうか。そこの中央に、赤黒い線で描かれた魔法陣が存在していた。
太くて簡単には消せないように定着させられているその陣の周りには、おびただしい量の『血痕』が残っており。さらには異臭を放っている無数の『肉片』が散らばっている。それは果たして本当に『人間』の物なのかすらもう分からないほど原型をとどめていない・・・もしかしたら魔物の物も混ざっている可能性がある。
端の方には作業台と思わしき簡単な木の机があり、その上にはトカゲモドキ君でも見た爬虫類の皮が雑に積み重ねられていた。
見れば見るほど吐き気が上がってきそうな惨状を、僕は眉をひそめてしっかり目に焼き付けた。・・・自分がこうなってはならないと言い聞かせるように。
人の気配は無い、と言うか常人は長く入れないだろう、最悪な環境なのだ長くいたら細菌が体内に入り込んで病気になる。
僕は頑丈に作り変えてもらっているので、気にせず魔法陣を調べるためそれに近づいて行く。近づけば良く分かる・・・かなりの血肉を使っている事に。これは冒険者だけの犠牲者だけでは説明できないほどだ。歩いて地面を踏みしめると泥の上を歩いてるような感覚になるのだが、それは全て血と土が混ざってそうなっている。靴なんかは泥の色なのか赤黒い血の色なのか分からなくなっている・・・。
さらに近寄れば、柔らかい物の上を歩いているような不安定な感覚になる。見れば・・・大量の『肉片』だ、地面ですらない。流石に僕も気持ち悪くなってきた、これはひどい状況だ・・・ヘヴィーがここまで来なかったのが良く分かる。
それらを越えて、ようやく魔法陣の前に到着した。赤黒く見えた理由は・・・やはり『血』で書かれている為のようだ。しっかり消えないように定着させるように丁寧な処理が施されている。何度も使用する事を事前に考えて劣化を抑えるためにこうしたのだろう。
「恐ろしいな・・・流石にゾッとする。こうはなりたくないな・・・。」
僕は『まだ』そう思えてる。その事に安心すると同時に『こうなってしまうのではないか?』と、大きな不安も感じる。ほんのちょっと考え方を変えるだけで・・・人間はこうも簡単に残虐になれるのだ・・・。
ゆっくりと深呼吸しながら気持ちを整える。落ち着くのを待って、魔法陣の解析作業に移った。
時刻はお昼近くの「11の刻と半」
冒険者ギルドの会議室にて、戦士団の一行とクリス、それに冒険者Cランクパーティー『ハートエッジ』のメンバー。そしてこの街のギルドマスターであるキリーが集まっていた。
どうして集まったかと言うと、クリスが朝起きた時にナナミが居らず置手紙を残して出掛けてしまった事が原因だ。
書いていた内容が「至急行かなければいけない事が出来たので、一人で行きます。 ナナミ」と、急いで書いたのか簡潔にそう記されていた。
これをクリスは「まさか!正体がバレたので身を隠したのでは?!」と早とちりして、シンやらキリーやら挙句の果てには街の衛兵達に喝を入れていたライーオを巻き込んで大騒ぎしたのだ。
このままではクリス一人で探しに行こうとしていたため、皆が一度に集まり一度話し合おうとこの場に集まった・・・と言う流れである。
「相変わらずクリスはお転婆だな・・・もう少し冷静に考えれば_____」
「そうですわね!ごめんあそばせ!」
プリプリ怒るクリスにお小言を言うゴーリラ、いつもの光景なのだが・・・今回ばかりはクリスが本当に聞き入れないとばかりに突っぱねており、どこか棘がある口調になっている。
「あー・・・とりあえずお二方?ナナミの件で集まったんだから、まずはそちらの話をしましょう?と言っても、俺的には王女様の言うような事ではないような気がするがね。」
キリーは喧嘩を諫めるように両者をなだめつつ、自分なりの見解を示す。
「昨晩ナナミに報告をして、それを聞いたナナミの表情が一変したんだろ?おそらく何かに気が付いたんだ、しかも・・・かなり重要な事に。それが何なのか分かれば・・・彼女を追うことが出来ると思う。」
キリーはそこまで言うと「それが分かれば苦労しない」と椅子の背もたれに身体を預ける。クリスは昨晩の事を良く思い出そうと目をつむる。
「あれ・・・ですわ。確かミームから貰った報告のメモを見て・・・少しした瞬間に顔色を変えましたわ、まるで驚いと言うか・・・何かに怒っているような顔でしたわ。」
自分の名前が出たことでビクッと身体を硬直させるミーム。まさか自分が何か間違っていたのだろうかとオロオロしだす。
「あ、あの・・・その・・・。」
「大丈夫さね、ミームは何も悪くないよ。むしろ、ナナミの奴に何かを気が付かせる程の事だったかもしれないよ?自信持ちなよ。」
隣に居たサーラがミームを励ます。それでもミームの小さい身体が緊張でより小さく見えている。
そんな中、リーダーのシンはここでしか聞けない話を切り出してきた。
「そのナナミについてなんだが・・・アイツは一体何なんだ?一昨日一緒に戦ったから分かる、『規格外』なんかじゃない・・・あれは『怪物』だ。王女様も戦士団達も何か隠してるのには理由があるのは分かる。だがな・・・ここまで俺達は食い込んじまってるんだ、教えてくれても良いんじゃないのか?」
「キサマ!身分を弁えろ!お前のような冒険者が踏み込んでいい話ではない!」
一瞬にして空気が鋭く尖った様な気がした。
シンは叫びを上げたライーオを睨みつけ、ライーオは今にも剣を抜こうと構えている。その横では部下たちが常に動き出せるように身構え待機し臨戦態勢を取っている。
シンの横ではサーラが既に拳を握って挑発し、ナーグは顔面蒼白で「リーダー、誰に喧嘩売っているんっすか・・・」と死を覚悟している。ミームは杖を持ちすぐに魔法が使えるようにしている。
両者の睨み合いが臨界に達しそうになった瞬間、会議に使われていた大きな長机がハルバードの一撃によって粉砕し、戦士団とハートエッジの間に突き刺さった。
「はいはい、ここでは喧嘩はご法度だ!シン!!お前も何考えてやがる!これ以上突っ込んでくるな!・・・ホントにヤバいんだぞ。」
「ほう、忠告とは優しいなキリー。そう言うお前はどうやら知ってるらしいな?」
「ああ、俺は彼女の事を思うと知らな方が良かったんじゃないかと思ってしまう。だからお前らは止めとけ、ナナミさんは・・・ナナミのままで覚えててやれ。それがお互いの為だ。」
会議室が静かになった、会議室には先ほどハルバードでの一撃で大きな音が鳴ったのだが、職員の誰も入ってこない。たぶんいつもの事なのだろう、あるいは近づくことも許可されてないのかもしれない。
シンとキリーはお互いの目を見ている、物言わずに目で会話をしているようにも見て取れる。周りの仲間も邪魔をしないよう、静かに見守っている。
戦士団とギルドマスター、それに対する冒険者パーティー・・・緊張が最高潮にまで高まって弾けそうになった時、クリスがここに居る全員に聞こえるよう声を出して発言した。
「話す話さないを決めるのは私達ではありませんわ、それを決めるのはナナミです。戦士団の皆に伝えたのは私の独断でございますから・・・本当は許されない事なのです。シン殿?先ほどの質問はぜひナナミに直接申し上げてくださいませ。私達の口からはお教えする事は絶対に致しません。ですので、どうかこの場は引き下がっては頂けませんか?」
真面目だった顔は、最後はクリスお得意の笑顔で締めくくった。
それを見たシンは吊り上げていた目を元に戻し、肩の力を抜いて全身の力を抜いていく。
「確かに、王女様の言う通りだ。こんなこと本人に聞くべきだな、筋を通さないと駄目だ。・・・悪かった。」
「なんだい、アタイ的には国の精鋭部隊と殴り合いが出来ると思ってノってやったのに。このままじゃ不完全燃焼だよ、ちょっと副団長さん?もし良かったらアタイと運動しないか?」
シンが後ろに下がるとサーラは物足りなさそうに声を上げた。
標的になったライーオは丁寧に断りを入れているが、ぐいぐい押してくるサーラに押し負けそうになっている。と言うより、サーラの身体がライーオに触れそうになるのでライーオはそちらの方を回避しようと一生懸命になっているようだ。お構いなしのサーラは一歩ずつ離れるライーオに対してさらに寄っていくため、二人はどんどん壁の方へ寄って行った。
キリーも困ったようなしぐさをしていたが、クリスの方へ向き「ありがとう助かった」と簡単にだが礼を言ってきた。
「さて・・・ナナミ殿に関してはもう良いだろう。少し脇道へそれてしまったが、あの方は必ず戻ってくるだろう。ここはもう一つの問題について話しをしたいと思う、この街の事についてだ。」
今まで何も言わず黙っていたゴーリラが突然発言し、会議を続け出した。
一同はその事に驚きすぐに理解できなかったが、もう一つ大きな問題があったことを思い出した。ナナミの事で集まった面子だが、この街で起こったことについては大なり小なり関わっている。ナナミの話の方が印象が大きすぎて忘れてしまいがちだが、こちらも忘れてはいけない。特にギルドマスターと戦士団と王女は。
「そうですわね、この街を統治している貴族達と代表の領主についてですわね。」
「私としたことが、大変な事を失念していました。申し訳ございません。王女様にギルドマスターも居りますので、この二日間の報告をさせて頂いてもよろしいでしょうか。」
「お願いします。ギルドマスターの俺は聞いておきたいです。シン、お前も付き合え。さっきの違反も奉仕活動の対象だ、この件で手伝えることがあったらそれをやってもらう。」
シンはそれを聞いて舌打ちをして「面倒だ」と悪態をついていた。サーラ達は笑いを堪えているようだったが、キリーが「もちろん連帯責任だから」と付け加えたとたん絶望の顔に変わり、笑うよりも文句をぶつけ始め言い争いになっていた。
脇でそんな事をしているのだが、ライーオには全く関係ないのか淡々と報告をしていく。
まずこの街にいる兵について、これは早い段階でゴーリラとライーオが自ら抜き打ちの視察を行い。勤務態度や訓練の状態、さらに今回のギルド任せにしていたことなどについて厳重な注意と今後の対策を具体的に指示してきた。上官の兵については軽い罰で1年間の減給、最も重い物で解雇にした。抜き打ちの視察の際に、不正を犯していた者も居たことが分かり重い処分になった者が居たのだ。
その後、統治を任せている領主にも会いに行ったのだが・・・ヒドイ状態だった。まず街にどんな問題が起こっているかも把握しておらず、突然来た戦士団団長ゴーリラに対しても先振れも出さずに来たことに対して激怒していた。訪問する前には、緊急事態で女王から直接連絡が届いているはずなのだが、それについても知らないの一点張りで話にならなかった。あまりにも話が通じないどころか、むしろゴーリラ達に対して比礼の詫びをしろと強要する始末。これ以上は無駄だと判断した両名は何も言わずに領主邸から去ったそうだ。
ライーオが後で調べて分かったことだが、元々はしっかりとした人だったのだが。数年前から様子がおかしくなり、ある日を境に性格がガラッと変わってしまったそうだ。
多くの使用人どころか血の繋がった家族まで、ほぼ全ての人を住まいから追い出し、新たに人を雇い入れたのだとか。妻も離縁し、新しい妻を迎えて子をなしたそうだ。前の妻との間にも子は居るのだが。まるで居ないように扱い、新しく生まれた子に家督を譲るとまで言いだしているとかで混乱の中にあるそうだ。
この情報は離縁させられた妻からの情報だとか、変わってしまった元夫に復讐をしたいと思っていたらしくすべて話してくれたそうだ。しかも、現在も行っている不正行為の事も全て話して来たとかで、現在はそれを元に捕えるための準備をしていると言う。
「おいおい、女王陛下の言葉無視してる時点で反逆罪だろ。その場で切っても良かったんじゃないのか?」
シンが物騒な事を言っているが、確かにそれも間違いでは無いだろう。
ゴーリラ達がそうしなかったのは単純に「何かがおかしい」と思ったからだ。ライーオは数年前にここに訪れた時はあのような性格では無かった、確かに少し我儘と言うか野心が強く、常に上を目指している油断ならない領主だったことは覚えているのだが。あそこまでズレている人間では無かった・・・。
そんなこともあり、一度引いて現状を調べることにしたのだが・・・それがこの結果である。
「それから、キリー殿や冒険者ギルドに対して圧力や無理難題を押し付けてきた貴族の奴等についても報告します。」
ライーオは続けてこの街の貴族達の方の報告もしてくる。
どうやら王都から連れて来た監査官達がこの短い間に調べ上げただけでも、相当な不正や違法取引をしていたことが分かったそうだ。
特にひどかったのは、貧困層の者達を些細な理由や無実の罪などで捕まえて無理やり奴隷としていたことだ。監査官達が資料を見つけて関係してた者を問い詰めたのだが、訳の分からない言い訳ばかりし一向に奴隷達を連れてこようとはしなかった。監査官達は貴族達の制止を振り切り、自分達で見つけた資料を元に奴隷達を解放しようとしに行ったのだが。・・・居るはずの場所に奴隷達は『居なかった』それどころか痕跡すらなかったのだ。
貴族共は「だからそんなことはしていないと言ったであろう?」と若干安堵しながら監査官達のにそう言ってきた。これに納得が出来なかった監査官達は昨晩から夜通し情報を集めて、今日の夜明け前にようやく証拠をつかんだ。
「聞いた報告では・・・奴隷となった少女の『遺体』を発見したそうです。・・・ヒドイ殺され方をされたようで、体中に打撲や切り傷が多く殴り殺されたのではなかと言うことでした。」
「そんな!・・・なんてこと・・・。」
そこまで聞いていた全員が言葉を失った。クリスは口元を抑えてその報告が嘘であってほしいとひどく願っていたが・・・さらにライーオは続ける。
「その少女を皮切りに、現在でも遺体は増える一方だとか。奴隷にされた数がおおよそ50人近く・・・現在では肉体の一部しか残っていない遺体もあるそうで、全員亡くなっている可能性もあるそうです。」
ライーオは拳を強く握りしめ、やりきれない表情で言葉を続けていた。
ミームはそれ以上聞きたくないのか耳をふさいで震えている、それをサーラが宥めナーグが心配そうに声を掛けていた。クリスは両手で顔を覆い、静かに泣いている。
「ライーオ副団長殿、奴隷の遺体があった場所を聞いても?」
この中で比較的冷静に見えるキリーが質問してくる。
しかし、その目は明らかに怒っており、貴族達に対する感情を抑えるのに必死になっているように見て取れる。
「それは・・・」
「それはたぶん、『大森林山』にほど近い所にある納屋ですね。現在は使われていないような所だったので、まさかあんな所を使っていたとは思いもよりませんでした。」
ライーオが言葉を言おうとした所、横から先に場所を言ってきた者が居た。
突然現れたその人に対して全員そちらの方へ目線を向ける、戦士団の団員は即座に剣を抜く、この会議に参加している者で無いなら侵入者だ、即座に迎撃の態勢に入る。
すると剣を向けられたその者は控えめに両手を上げながら困ったように言う
「あの・・・突然入ってきたのは謝りますから・・・それを下ろしてくれませんか?」
困った顔をするその者は鈴のような声を響かせそう言った。
長い沈黙の後、クリスは驚きの顔からいつもの笑顔に戻り、旅仲間である彼女に向かって声を掛けた。
「ナナミ?!帰ってきましたのね!」
ここまで読んで頂きありがとうございます。
混沌としてきた内容に製作者である自分自身が困惑している毎日です。
そして思う事があります、今のような話ではなくもっとライトな自分自身が気軽に作成できる作品を作ればいいのではないかと。
しかし、作りたいのは山々ですが・・・こっちが疎かになるのも嫌なのです。二つの事をいっぺんに出来ない自分なので悩みどころです。




