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交易の国へ 道中の街編 11

毎回投稿するたびに思うのです。    誤字の量ヤバシ・・・。

今回もよろしくお願いいたします!






 「それで?冒険者達に顔を見せた後、副団長に部下を迎えに行かせ。その間に私の事を戦士団長殿に話し、了承させて一緒に転移してきたと・・・。」


 僕は長い長いゴーリラ団長の話を聞き終え、自分の中で色々まとめながらそう締めくくった。

 ゴーリラさん?あの・・・自分がクリスから貰ったクリティカルダメージの所話す必要あった?自分で言っててさらにダメージ受けてたし、それ見てたクリスはドン引きしてたよ?しかも、力入り過ぎてシンさんなんかどうでもいいよって顔してたよ?

 てか大丈夫なの?たぶん僕、そのライーオさんとか言う人にも顔見られてるし知られてるよ?そっちはいいの?


 僕のそんな心配なぞさして気にしていないクリス、それよりもまさか公務の服に着替えてくるとは・・・それにゴーリラさんと行動共にしてるし。


 「そちらの状況は理解しました。それで・・・クリス?本当に大丈夫なのですか?」


 あれだけ嫌がってたのに、無理してないか心配だ。


 「心配ありません、私の問題以上に国に関わる問題の方が優先ですわ!私はクリスティーナ・ベルクですもの、こんな時に自分に負けてるようでは駄目ですわ。」


 そうか、たくましいな・・・でも根っこでは自分の誘惑に屈しまくってるんだろう。こうやって旅をしたり城下町にお忍びで通い続けたり、威厳も何もあった物ではないが・・・でもまあ、今のクリスはしっかりクリスティーナ王女様だ。全く、どうしてこうも変われるかねー。

 そんなほんわかした空気を現実に戻す言葉が聞こえる。


 「あのな・・・ナナミ、そろそろあいつを見に行こう。動ける状態では無いと思うが、逃げられるのも困る。魔道人形もすぐそこまで来てるから急ごう。」


 あー、そうだったね。はいはい、実はもう死んでるんじゃないかと諦めてたんだ。だってあれから長い説明されたけど反応ないんだよ。うんともすんともしない。でも感知魔法には反応してるから、ギリギリ生きてるんだろうけどさ。


 「自分が先行する、シンとやらクリスティーナ王女の側で護衛を。ナナミ殿、貴方の事はクリスから聞いた。・・・いろいろ謝罪しなければならないが後にさせて欲しい。今はどうかクリスの側にいてやってくれ。」


 ゴーリラは返事を待たずに盾を構え、吹っ飛ばされたシャバクの方へ進んで行く。

 堅物のイメージそのまんまの印象なんだがどうも少し関わりにくい。慣れるまでにはもう少し話をしてみないとな。


 僕らがシャバクを視認できるまで近づくと、驚いたことに彼は生きていた!!・・・あっはい、冗談は置いときますね。感知魔法で反応はしているのだから生きてます。ただ・・・大けがをしているように見受けれる。意識は戻っているようで必死にこの場から逃れようと試みている。

 どうやら回復魔法は使えないらしい、ただその代わり回復薬のポーションを飲んでいるみたいで少しずつだが傷は癒えているようだ。

 ゆっくり近づく僕らの方に気が付くと、躊躇なく攻撃魔法を放ってきた。今度は水系の魔法のようだ、細く長い針のようなモノを連続で打ち続ける。


 僕が防壁を張ろうとしようとしたらクリスに止められた。


 「ゴーリラに任せて下さいませ、これ位ならどうってことありませんわ。」


 クリスの言う通り、ゴーリラに直撃した攻撃はただの水の塊が当たっただけのように弾けるだけだ。

 これは装備品によるものなのか、はたまたゴーリラの単純な身体強化だけなのかは分からないがなんとも勇ましい。シンも「流石、国のトップは格が違う」と納得するような表情で戦況を見ている。

 そうこうしていると、ライーオ達も追い着いて来て援護に回る。


 「くそぉ!!今まで上手く進んでいたのに!!なぜだ!!」


 「話は後でゆっくり聞いてやる。見た所、今の魔法で最後のようだな。これ以上の抵抗は無駄だ。観念するんだな。」


 ゴーリラの言葉を合図に援護に来た戦士達がシャバクを取り囲み抑え込もうとする。

 だが・・・寸での所で大きな魔物の咆哮で邪魔された。


 シャバクは広角を大きく吊り上げ狂ったように笑い出した。その笑いに呼応するかのようにさらに咆哮は大きさを増し近づいてくる。

 シンは警戒を高めクリスを連れて森の方から一気に距離を取る、ライーオとゴーリラはそれを確認するとシャバクを捕らえることから、この場で亡きものにすることを決め同時に斬りかかるが・・・これもまた遅れた。

 大きな巨体が二人の剣を受け止めシャバクを守り、尻尾で器用にシャバクの事を持ち上げた。


 「フハハハ!!お披露目はもっと後にするつもりだったのだがな!大規模作戦の時に投入し、大量の『肥料』を確保する隠し玉だったのだが・・・こうなっては仕方がない!!」


 ん~、なんだこの魔物。龍って感じじゃないし、トカゲが超でっかくなったような見た目をしているがどことなく歪だ。継ぎはぎだらけと言ってもいい。もっと言えばまるで無理やり別の種族をくっ付けたような・・・。


 「キメラですか?」


 「この状況で、何訳の分からないことを言ってやがる!流石にあれは駄目だ、王女様!とにかくここから離れた所に転移してくれ!」


 むむ?キメラと言う言葉はないのか?長い事イーセアで生きてきたがまさか通じない言葉が出てくるとは、いやー分からないもんだねー。


 「ナナミ、キメラが何を指しているのかは分かりませんが、あれはおそらく『複合体』ですわ!」


 『複合体』・・・なるほどね。あの継ぎはぎだらけの魔物の事をそう呼ぶらしい。僕は今まで出会ったことが無かったな。

 

 そんな事を思っているとその『複合体』が戦士団に向けて攻撃を仕掛けている。しかもそれが凄いことに魔物では考えられない多数の属性を同時に発動させると言う離れ業だ。

一つは激しい風をあたりにまき散らし、先ほどシャバクが使っていた水の針を無差別に乱射して、さらには炎を風に乗せて周りを焼いている。知性が低い魔物では考えられない使い方だ。

 人間は訓練すれば多数同時制御は出来るようになるが、それは魔法に対する知識と人間だからこその知能があるおかげだ。


 この「規格外な複合体」はたぶん、シャバクが先ほど言ったのは間違いなく事実でとっておきの切り札だろう。


 「どうだ?!手も足も出ないか、・・・よしここは任せるぞ。」


 シャバクはそう言い残すと転移魔法を使い消えてしまった。

 僕としたことが・・・新しい物に興味を示してしまいそちらに意識が飛んでいた、もしかしたら帰還する方法に役に立つのではないかと考えてしまった。でもよく考えれば、あれだけ生物を改造したところで何も効果はない・・・訳ではないか?あれを要は貯蔵タンクみたいに魔力を大量に貯蔵させて、起動時に足らない魔素分の生贄にすれば・・・。いやいやいや、倫理的にマズイ魔物と言えど生物、道徳に反する。いや・・・なら別の・・・


 「ナナミ!!聞こえてますの!!」


 「あっはい!!何ですか?!」


 「感知魔法ですわ!!どうですの!!」


 あ・・・。



 「・・・上手く逃げられましたね。」


 思いっきり目が泳いでる上にそっぽを向いてしまった。


 「~~~!!!!おバカーーーーーーーー!!!!」


 ごめんなさいクリス、僕にも失敗はあるんだよ。え?考え事?仕方ないじゃないか、だって帰還が目的だしそれが優先だよ・・・うん。本当にごめんなさい。


 シンはそんな僕等のやり取りなど気にせず、お声張り上げて注意をする。


 「二人とも!!戦士団がヤバイ、ナナミ加勢するぞ!」


 「クリス、本当にごめんなさい。あれを手早く倒してくるので許してください!」


 クリスも頬をパンパンに膨らませ、プリプリ怒っているが。戦士団の少人数にあの『複合体』の相手はキツイ。クリスは直ぐに表情を引き締めゴーリラに向かって声を掛ける。

 ゴーリラは何とか返事するが余裕が無いみたいだ。それを受けてクリスはシンとナナミに指示を出す。


 「シンさん、戦士の一名が負傷しているようです。回復薬を使って戦線離脱を手伝ってくださいませ。ナナミは・・・」


 そこまで口にして黙り込んだ、どこまでお願いして良いのか分からないのだろう。

 今はクリスティーナ王女としてここに居る。自分のお願いはナナミが望んでない事を強引に命令するこのになるかもしれない。そう考えると、クリスはそれ以上先が言えなかった。


 「クリス?私は『複合体』処理でかまいませんか?犯人を取り逃がしてしまったのは私の責任ですから、これ位はさせて頂きますよ。あ、その代わり戦士団の方々には今は私の事は後で旨く話しといてくださいね。」


 クリスは僕を見たまま小さく頷いた。

 まぁ、ここまで来たら隠すも何も無いし、ここに居る人達にはなんと思われてしまうのか。考えたくないが、仕方がない割り切ろう。


 僕はシンの方へ見てアイコンタクトを取る。シンもそれに答え、すぐに『縮地』を使い怪我人の所まで移動する。僕は身体強化でゴーリラ団長の背中の近くへ走って行く。クリスは戦闘からさらに離れ全体を見渡せる所まで移動した。


 シンは手際よく怪我人を避難させると、相手にポーションを飲ませる。戦士の方は痛みに歪めていた顔が安堵した表情になり軽くシンに礼お言っている。


 「すまない、冒険者よ助かった、この礼はこれが終わってから必ずする。すまないがまた戦闘に戻る、君は離れていた方が良い。」


 「なに、気にするな。それよりもう少しここで大人しくしてた方が良い、ポーションはゆっくりとしか回復していかないからな。」


 勇んで前に出ようとする、血の気の多い戦士を引き留め状況を見守ろうとするシン。戦士の方は悔しそうにしている。気持ちは分からないでもないが・・・命あっての身体だ、堪えてもらおう。


 一人抜けたことで『複合体』との戦闘は大きく変化していた。もともと押され気味だった戦士団だったが、均衡が崩れ守りに徹するしかなくなっている。

 そんな状況で僕はゴーリラ団長の背後に付き話しかける。


 「ゴーリラ団長、勝手ですみませんが援護に参りました。」


 「何をバカな事を!!この状況ではいずれ我々は押し切られます!どうかクリスティーナ王女を連れて街へ逃げてください!」


 「そう言われましても、もう来てしまいましたし・・・犯人を取り逃がした責任もあります。ここは私に任せてください。」


 「・・・任せる?」


 「何言ってるんだ?」と、ゴーリラ団長は思ったのだろう。気が緩んだように見えたが、激しく魔法やら尻尾を薙ぎ払って攻撃してくる大型のトカゲモドキ君に集中し、後ろに居る僕を守ろうとさらに身体強化に力を入れたようだ。

 前線で攻撃を繰り出しているライーオと戦士団の部下二人だが、鱗が硬いのか全く攻撃が通ってない。剣が当たる度に甲高い金属同士がぶつかり合う音がする。

 こう見ると・・・あのトカゲモドキかなり重そうだ。かなり太くて大きい足をしている。ちなみに四足歩行のようで一本一本の足がホントにとてつもなくデカい。

 ふむ、ならば高い所から『落とす』か。


 僕は暴れまわるトカゲの背中へ転移で移動する。突然現れた僕に驚いたのか慌てて振り落とそうとトカゲモドキ君は暴れまわるが、身体強化した僕には全く効果が無い。ゴーリラ団長達も気が付いたのか大きな声で何か叫んでいるが、トカゲモドキ君の暴れる音が大きくてかき消されて聞こえない。

 暴れまわるのが無駄だと判断したのか、今度は魔法を打ちまくってきた。それをされた所なんとも思わない僕。慌てずに展開した防御魔法で全て防いでしまう。

 ちょっと期待していただけに残念だ。少しは魔法の攻撃力が強いだろうと思っていたのに・・・どうも外れのようだ。これではたとえ僕が『複合体』を作ったとしても、帰還するための魔法には使えないだろう。原型を無くしてそれこそただの『魔力貯蔵庫』みたいにすれば補えるだろうが、そこまでするつもりは無い・・・それよりももっと効率のいいやり方があるはず。


 頭の中でそんなことを考えていると、フッと遠くにクリスが見えた。千里眼で様子を見て見ると、何か伝えようと口を動かしている。


 「えーと何々?『あ・そ・ん・で・な・い・で・さっさ・と・た・お・せ』かな?別に遊んでるつもりはありませんよ?これも色々と参考にならないか『検討』していたのです。・・・良いでしょう、もう充分分かりました。トカゲモドキさん、最後は楽しく『空の旅』に行って来てくださいな。」


 僕はそう呟き、トカゲモドキ君は『空の旅』と僕が言ったとたん静かになった。

 ・・・人の言葉が分かるのかな?面白い魔物だ、良く調教されたのだろう。でも悪いね・・・だからと言って慈悲を掛ける様な人間ではないのだ。

 なんの躊躇も無く、僕はトカゲモドキ君を一瞬で転移させる。たぶん普通の魔法使いや魔術師なら、あの物質量のある生物の転移には相当の人員と魔力と魔法陣を用意しなければならないだろうが僕には必要ない。これでも300年近く転移魔法の研究をしているのだ、この魔法についてだけは誰にも負けない。


 トカゲモドキ君を転移させた場所は、おそらく気付いている人も居るだろう。

・・・そう、遥か上の何もない『空』に上げた。今頃重力に従い落下しているだろう。

あの巨体が空を飛ぶとは考えにくい、第一羽根みたいのも無かった。もし飛ぶならかなり頑丈で大きな羽根が無いとダメだろう。そしてあのトカゲモドキ君がどんなに知性が高いとしても、魔法が得で落下の速度あるいは衝撃を緩和させるために風の魔法を駆使したとしても、高度20kmからの落下の衝撃は相当なモノだろう。ただ、あの巨体だ。空気抵抗があるしそこまで速度は出ないかも。そこそこ時間は掛かるだろうし、のんびり待ってようかな。

 あ、もしかして飛行魔法とか使えたりするのかなあのトカゲモドキ君。ちょっと不安だから千里眼で見て見よう。

 僕は飛ばした上空の地点を見上げ、千里眼で探した。するとうねうねもがきながら落下しているのが見える。・・・どうやら杞憂だったようだ。この感じだと落下までにはまだまだかかりそうだな。


 僕はトカゲモドキの落下予測地点の方へ向かう。そこは幸いなことに何もない平原だった。近くに街道が一つある位でさほど影響はないだろう。あれだけの巨体だ、落ちた時の衝撃はいかほどのものか・・・念のため大きく防御魔法の防壁を発動させておこう。これで街までの被害は食い止められるはず・・・てか街は大きな塀があったんだよな?なら大丈夫か?


 僕の後方から戦士団の全員とシンが走って追い着いてきた、丘の方からはクリスが来るのが見える。


 「ナナミ殿!貴方はあの魔物に一体何をしたのですか!」


 「おい!ナナミ、まさかと思うがあれ飛ばしたのか!今どこに居る!!」


 「ナナミー!!良くやってくれましたわー!!」


 あのね皆、とりあえず一人ずつ話してよ。聖徳太子なら余裕かもだけど、僕はいっぺんに処理なんて出来ないんだから。


 「皆さん、まだ終わっていません。上を見てください、徐々に大きくなっている影があると思いますが・・・あそこに転移で飛ばしました。おそらくあと数分と言ったところでしょうか、地上への衝突した時の衝撃に備え皆さん一か所に集まってください。私が防壁を張ります。」


 僕が上を指さしてそう説明すると、全員見上げてそれを確認しようとする。

 ライーオが「バカな!一瞬であそこまで」とか言って驚いているが、クリスとシンはあまり驚かずに呆れて溜息を付く。


 「ナナミ、アンタさっき八人位いっぺんに転移させてなかったか?しかもほとんど間を置かずにあれも転移させるとか・・・。」


 「私も流石にこれを見せられると自信を無くしますわ。どうなってますのナナミは・・・まだ余裕そうですし、ありえませんわ。」


 二人の反応はすでに諦めに近いと思う、新鮮な反応をしているのは戦士団の人達だけだ。特にライーオ、僕を何度も見ては何かを思い出そうと目尾つむり、ゴーリラに話しては「機密だ」と言われてもどかしい表情を作り、何度も僕の方をチラチラ見ては警戒している。

 団員達は各々反応が違ったかが、ここは割愛しよう。反応はいつも通りと言ったところで説明は変らないし。

 だが、戦士団の団員も僕の方を見ては何か言いたそうな顔をしているので、ライーオと同じように薄々は気付いているのかもしれない。しかし、ゴーリラがそのことについて一切何も言わず「機密だ」としか言わなかった。それを聞いて彼らがそれ以上踏み込んでこない辺りは素直に凄いと思った。


 数分後、見上げる空に大きな黒い影がハッキリと見えてきた。間違いなくこれはあのトカゲモドキ君だろう、未だにウネウネもがいている。

 そんな様子を皆が見たのだが、クリスが少し悲しい顔をしながら何か言いたげに僕を見ている。


 「あれは魔物です。知能は高いようですが、存在が危険なモノなのですよ?分かりますか?」


 「クリス・・・お前の気持ちは分からんでもないが・・・あれは危険だ。見るのが辛いなら俺の後ろにいろ。」


 僕の言葉に続いてゴーリラ団長もそう言った。

 ゴーリラはクリスを自分の後ろに下がらせ、これ以上見せないように視界を遮る。これは命のやり取りだ、確かに罪悪感を感じるかも知れない。やってる事はパラシュート無しのスカイダイビングだ、考えただけでも恐ろしい・・・。それをさせた僕はたぶん最低な人間だと思う。

 でも、下手に魔法をぶっ放すことよりも我流の拳で粉砕するよりもこれの方がまだ良い。「転移魔法が得意で魔力が豊富」位で留まるからね。転移魔法自体凄いことだけど・・・誰も知らないレーザービームみたいな魔法使うよりは全然マシだ。


 「さて、もう間もなくですね。防御魔法『強固な防壁』・・・範囲拡大して・・・展開!」


 だいたい落ちるであろう場所を中心に、大きな円を書くように防壁を展開する。

 『強固な防壁』は防御魔法の中でも上級の魔法・・・らしい。大量の魔力を使用して作り上げる壁だ。ただ、普通に使うにはちょっと不便・・・と言うか普通に壁を作り上げてしまうので、これを使うと敵味方関係なく通り抜けが出来なくなる。

 見た目は、シャボン玉のような薄い膜が城壁のように高く作られ、中には集められた魔力で頑丈に作られている。この膜のせいでこちらも攻撃できない上に通る事も出来ない・・・当然相手も、本当に『守る』為だけの魔法。初級の防壁の方は小さい壁なので遮蔽物として使うには便利、

 防御魔法の基本である『防御の魔法』は術者や対象の身体の周り覆うように展開するため、混戦状態ならそちらの方が便利だったりする、防御効果は防壁の方が高いけどね。

 ちなみに、聞いた話だが防壁は模擬戦や学園の訓練場でよく使われるのだとか。壁がシャボン玉のように透けるため、派手な見世物で観客へ被害を出さないために施される時もあるそうで、むしろ戦闘よりそちらで使われることが多いとか。

 なので、この魔法を覚えている人もかなり限られている・・・。僕はとにかく多くの魔法を知りたかったから覚えただけだし!今はそんな不遇の位置に居る防壁君だが、昔は籠城戦とかで大いに力を発揮していたのだ。今は用途が変わってしまっただけだ!


 防壁の防御魔法を展開させると、これには皆驚くと言うより困惑している。


 「そこの女性冒険者よ・・・これは何の真似だ?ただの『訓練用の防壁』ではあの巨体が落下した時の衝撃は防ぎきれないではないか。しっかりとした『実戦用の防壁』を作ってもらいたいのだが?」


 ライーオが呆れを通り越して少し小馬鹿にながら僕の作った防壁にケチを付けてくる。

 んー、『実戦用の防壁』とはなんだ?これ以上のモノだと『最上級』位しか思い浮かばない。正直、そこまでの衝撃波は来ないと思うのだが・・・。


 「クリス?実践用の防壁とは何ですか?」


 「貴様!クリスティーナ王女様に向かって何という言葉遣いを!」


 あー・・・はいはい、ライーオ副団長少し静かにしててねー。周りの部下達もそんな顔しないで、そんなに睨まれたら僕困っちゃう。


 「ライーオ!良いのです。事情は後程説明いたしますわ。それでナナミ、先ほどの質問への答えですが。「土を使うべきではないか」と言うことですわ。この魔法はあくまで仮の防壁、街のようにしっかりしたものを作るべきだと彼は言いたいのです。」


 えぇー、それの方が面倒だよ。確かに強度的な問題で言えばそうかもだけど、これでも十分な強度で作ってるつもりだ。見た目が弱そうだからそう見えるだけで、中身はしっかりしてるから大丈夫だよ。


 「言いたい事は理解しましたが・・・それを実行するには時間が足りません。だって、ほら・・・。」


 僕がそこまで言い終わると、予測していた所とはちょっと違っていたが、防壁を張った円の中にトカゲモドキ君は落ちた。

 轟!と重い音と、パン!と破裂するような音、そして直後に起こる大地の揺れ。防壁があるため衝撃波は全然ない、揺れだけ感じ取れたがそれほど激しい物ではない。ただ砂煙は凄かった、被ることは無かったよ防壁に守られたから。ただ、まるで大量の爆弾が爆発した後みたいになっており、小さいがキノコ雲まで出来ている。

 シン辺りが「こりゃ凄いな・・・」と身構えた状態で防壁を見ている。思いのほか激しい落下だったようで目を見開いていた。僕からしたら「これ位かー」しか感想が出てこなかった、どうせならもっと高く飛ばしておけばよかったかもね。


 一通り状況が落ち着いた頃、街の方から多くの冒険者たちを乗せた魔道人形の荷馬車が現れた。先導していたのはキリーだ、どうやら街の方にも音が聞こえたみたいで、もともと待機していた者達が飛び出して来たみたいだ。

 クリス達の方にも気が付いたみたいで、全員こちらに向かってくる。


 「クリスティーナ王女様!戦士団の方々もご無事で!シン、お前も良く無事だったな。」


 キリーがそれぞれに声を掛け終わったとたん、シンに飛びつく影が三つあった。


 「この!バカ野郎!!アタイをどれだけ心配させるんだい!!」


 「リーダー!!!もう死んだと思ってましたー!!」


 「・・・良かった。」


 言うまでも無くパーティーの面々である、サーラは力加減が出来ないせいか絞め殺さんばかりの勢いで抱き付いている為、シンは必死になって引き離そうとしている。しかし、ナーグが両足にしがみつきがっちりホールドしているのが効いているみたいで思うように逃げられないようだ。ミームちゃんは一歩引いて見守っている。


 「おま・・・え・・・ら!いい加減離れろ!!」


 抵抗むなしく、シンはどんどん顔色を悪くしていく。・・・あれもしかしてワザとやっているのではないだろうか?


 そんなやりとりを横目に、キリーはクリスとゴーリラ達と話をしている。状況説明だろうか、しきりに僕の方を見ながら話をしているのでこの惨状をどう説明すればいいか悩んでいるようだ。

 ですが、もうしばらく待って欲しい。どうやらトカゲモドキ君は想像以上に頑丈のようだ。感知すれば分かるがまだ反応がある。まだ・・・生きてる。


 僕は防壁を解除し、一人で先に対象に向かって進んで行く。それに気が付いた皆も後に付いてくる、クリスは戦士団に守られ、冒険者達は各々武器を手に取り戦闘態勢を取りながら慎重に進んでくる。

 大きなクレーターの前まで来ると、それはゆっくりと這い上がって来た。


 「驚きました、まだ動けるとは・・・。でも、それが精一杯のようですね。」


 痛々しい光景だ、足の一部は完全に折れているし、背骨も折れているのか曲がったままだ。尻尾は衝撃で千切れており、口からは大量の血を流している、内臓もやられているのだろう。

 そんな状態でも這い上がってくるあたりこのトカゲモドキ君の生命力は強いと思う。だが流石に見ているこちらの方が辛いので止めを刺してあげよう。


 僕が手に魔力を込めようと貫手突きの構えをしたところで、ゴーリラから制止された。


 「ナナミ殿、貴方は既に魔力を多く使っている。ここからは我々だけで十分だ、王女と共に下がってください。」


 ゴーリラはそう言いながら僕のそばに近づき、さらに周りには聞こえないよう小声で話してきた。


 「(ここでは多くの目撃者が出てしまいます、それは貴方の望むことでは無いでしょう。大丈夫です、ここまで弱れば我々だけで対処できます。疲れたフリをしてクリスと下がってください。)」


 なるほど、確かにこれだけの冒険者の目がある所でこれ以上僕は行動しない方が良いな。口止めするのも大変だし、何より変な噂が流されかねない。ゴーリラ団長・・・流石です。ヘタレとか根性無とか思ってすみません!・・・でも、どうしてクリスに向かってこの優しさと気遣いを向けられないのか不思議でならない。


 僕はゴーリラ団長に言われたように、疲れたフリをしてクリスの側に行く。クリスには笑いを堪えられながら「大丈夫ですか?・・・プフッ」と言われた。・・・悪かったな大根役者で!

 後は消化試合である、流石にトカゲモドキ君は抵抗する力すら残っておらずゴーリラの剣をそのまま受け・・・絶命した。


 ようやく戦闘が終了した。戦っていた時間はそう長くはないが、戦士団は全身を地面に預け緊張の糸を緩める。

 冒険者達は何もしていないが、これだけの魔物を打倒したことに興奮したのか雄叫びに近い勝鬨を上げている。さらに、噂の『孤高の魔女』を返り討ちしたことも伝えられて興奮の嵐となっている。残念ながら取り逃してしまったが、それ以上に一矢報いてやったこが嬉しいのか彼らの騒ぎは止まらなかった。


 その後はお祭り騒ぎに近い状態のまま凱旋することになった。大きなトカゲモドキ君の剥ぎ取りを冒険者全員で手早く済ませ、冒険者達を連れて来た荷車に乗せて街へ戻る。大きな首はそのままにして積み、これだけ大きかったぞと街の人達に見せつけていた。

 こうなってくると街の人達の方にもこの騒ぎは伝染して行き、街の至る所でお祭り騒ぎとなってしまった。

 キリーは、今回の討伐はクリスティーナ王女率いる戦士団の部隊が討伐したと言うことにして人々に広め周り、僕の事は一切言わなかった。どうやら隠してくれるようだありがたやありがたや。

 本当は魔物の事とシャバクの事などの話や、戦士団へ僕の事を説明したりしなければならなかったのだが。街中がお祭りムードで戦士団はあっちこっちから呼び出され、キリーはキリーで冒険者達に連れまわされて結局話し合いをする時間が取れなかった。


 夜遅くになってもあたりは騒がしく、クリスも未だに戻らない宿に一人で居る僕。今回の功労者である僕は、魔力切れで寝込んでいると言うことになっている。もちろん全然平気なのだが、こうしておいた方が怪しまれないからとキリーとゴーリラに言われ大人しく従っている。

 いやー、なんだろう僕一人で対処してたら今頃全部バレて面倒になって転移で魔族の土地に帰ってる頃だね、案外こう言うことで人に頼るってしたことないから考えてなかったけど・・・楽だね。




 いつまで経っても終わらない宴会の声を聞きながら、僕は静かに空を眺める。


 今日も忙しくて濃い一日だった・・・ここの街に来てから平穏な日常じゃないような気がする。

 だか、それが嫌ではない自分が居る。

 こんな事件に巻き込まれる騒がしい日常も、たまには良い物だ。





ここまで読んで頂きありがとうございます!投稿ペースは落ちましたが、これ位が僕には丁度いいみたいなのでどうかこれからもこれ位でさせてください。


さてさて、皆さん最近お読みになってる小説はなんですか?僕は『バスカヴィル家の犬』シャーロックホームズの一冊を読んでます。きっかけは母が持ってた小説でたまたま見つけたからなんですが。ゆっくり見ているのでまだまだ読み終わってません。なんだかラノベ小説ばかりだったので、これはこれで新鮮に感じます。

以上、近況報告でした。


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