交易の国へ 道中の街編 10
二日連続投稿、次回からは通常のペースに戻ります。
いつもよりも長めになっておりますのでご了承くださいませ。
今回は長めとか言ってましたが、当社基準ですのでご注意を。
『大森林山』森の麓、まだまだ浅い所で『ボアウルフ』の毛皮を取りに来ているパーティー二組を少し離れてる所か見守っている僕。実際は片方だけで良いのだが、両方いっぺんに見守ることが出来るのだからそうしている。
ちなみにシンの方もしっかり確認している。見ていて思ったが、彼は多種多様の技術を持っている隠密から足さばき、剣術から武術など様々だ。
こうしていろいろ見れたのも、あまりにも戦闘と言うか魔物が多くいる為だ。目的のボアウルフからゴブリンなどが多く既に依頼分は調達できたと思う。依頼を受けているパーティーは、今は双方落ち合って依頼の毛皮をまとめて数えている、揃っていればすぐに撤収だろうか。
何だかんだと時間は過ぎており。既に「お昼の1の刻」になっている。
時計を確認していると、シンの反応がこちらに向かって来た。
「やはりここに居たか、向こうが合流した、こちらも二人で追うぞ。」
草木をかき分ける音も無く、静かに現れたシン。たぶんこれも『技』なんだと思う。
僕は小さく頷く、正直二組のパーティーが合わせってる形の為、この人数にはいくら『孤高の魔女(偽物)』でも手を出してくるとは考えにくい。
全体で見ても8人だ、僕やシンが入れば10人。さてどうなるか。
パーティーは数が揃っていたのだろう、荷物をまとめ森を出る為に進路をそちらへ向けた。僕もシンも後を追う。
「ナナミ、ミームみたいに杖とか持たないのか?魔法使いなら持ってた方が良いんじゃないのか?」
シンが警戒を解かないままこちらを見ずに唐突に質問してきた。
確かに、魔法使いや魔術師は杖を使い術を使う方が効率がいい場合もある。女王石などを使った杖なんかは格段に良いだろうが、結局のところ魔法は慣れみたいなもんであるため使わない人も居る。ただ、威力だけは女王石や神聖な木から作り出した杖などを使った方が上がる為、威力を上げたい人は持つ。
僕の場合はどちらも己自身で上げられるので必要ない。ただ、持っていない訳では無い、魔族の『魔族 古代 始まりの木』の一部を削り出して作ってもらった僕専用の特別製の杖がある。装飾品には女王石をメチャクチャ贅沢に使った一級品、ただし・・・。初級の魔法でさえ高威力に打ち出すため、並みの魔法使いが使えば一瞬で魔力不足になり動けなくなる。上級魔法なぞ下手に撃てば死んでしまう。無尽蔵に魔力がある僕だから使える杖だが、ただし魔王戦争時代にやらかしてからは封印している。もちろん旅には持って来ていない、古龍が管理してくれている。
「持ってて良いこともあれば、人によっては足かせになる事もあるんですよ、杖って言うのは。」
強すぎる者からしてみれば、有っても無くても大して変わらないのだ、特別製を除くが。
そんな僕の返答に意味が分からないようで首を傾げたシンだったが、すぐに考えるのをやめて見張りに集中した。
そんな会話をした後は断続的に襲い掛かってくる魔物を倒し、余裕を見ては魔鉱石が入っていないか確認するため、手際よく部分的に解体したりして森の出口まで向かった。
「・・・無事にここまで来れたようだな。」
シンが警戒を解かないまま呟く、正直これからが一番危険なんだと思う。
僕等はそのまま警戒しているが、森を抜けたパーティーは既に気が緩み始めている。斥候の担当が明らかに気を抜いているのが分かる。
その時である。僕の感知魔法に反応があった。
「!!! シン!来ますよ!」
「俺も気付いた!行くぞ!」
感知した瞬間の僕とシンは行動は早かった、街の方角へ気を緩めて進んでいるパーティー集団の後方に高出力の魔力反応が出たのだ。
シンは身体強化で『縮地』を使い一瞬で反応の所に距離を詰める、僕は相手に背中を見せているパーティー集団の最後尾に転移して、転移して来るであろう敵とパーティー集団の間に『防御魔法』を大きく展開して守りを固める。
突然僕等が現れたことにパーティーの人達は驚愕したが、その直後に視界を覆うほどの大きな爆炎が目の前に出現してさらに驚愕し言葉を出すことが出来なかった。
「シン!無事ですか?!」
「大丈夫だ!!ナナミはそいつらの避難を優先しろ!方法は任せる!」
爆炎はパーティーの方は防ぐことが出来たが、術者の近くへ向かったシンは防御効果範囲には居なかった為直撃を受けたように見えたが、返事があったのでどうやら無事のようだ。
僕はそれを確認すると防御魔法を展開したまま後ろに居る人達の方へ振り向く。
「皆さん!今からあなた方を全員、冒険者ギルドの地下運動場に転移させます!向こうに着いたらすぐに職員の人達に報告してください!よろしいですか!」
『方法は任せる』と言われたので最も手早く済む方法を選択する。このまま守りに入っていたらシンの負担が大きくなる、僕も彼の支援に回りたい。本当はこんな魔力を見せつけたら厄介なことになりそうだが、気にしていられない。
パーティーの面々は驚愕のまま微動だにせず僕の声が聞こえていないのか、一点を見つめたままだ。
「まったく!報告はして下さいね!!集団転移、捕捉・・・行きなさい!!」
僕が魔法を発動させると、一瞬で冒険者パーティーはその場から消え去った。
それと同じタイミングで、爆音が止み炎が消え去る。・・・視界が開け辺りに焼けた草木の匂いが立ち込める。
シンも絶え間なく『縮地』を使って避けていたのか、少し汗をかいた状態で僕の隣にどこからともなく現れた。
「はぁ・・・、最高の転移だ。完璧だよ、もう少し粘らないとダメかと思ったが。」
「これが最善だと考えました、あとで私の噂の火消しも手伝ってくださいね。」
「はっ!こっちの火消しより面倒だなそれは。」
まだ軽口がたたける位の余裕はあるみたいだ。
そうこうしていると、ようやくお目当ての『孤高の魔女(偽物)』とのご対面の時が来た。
「ふむ・・・どうやら逃げられてしまったか。人数が多くて手間が省けると思ったのだが・・・まあいい。それよりも良い収穫だ、どうやら冒険者ギルドもようやく切り札を出して来たようだしな。」
シンは背筋が凍るような感覚がした、格上だ・・・それもつい昨日、同じ感覚を隣に居る奴からさせられた。恐れと恐怖が度を越して自然と笑みがこぼれる、シンはより目つきがきつくなる、はたから見たら不敵に笑っているように見える。
「(ヤバイ・・・あれは駄目だ。やはり逃げの一択だ、しかし・・・ナナミが後どれだけ魔力を残してる?あれだけの人数一回で転送したんだ、普通ならぶっ倒れてる・・・敵の前だからやせ我慢してんのか、それとも・・・。)」
心の中ではとにかくこれ以上こいつと関わるのはマズイと警戒音が鳴り響き、どうすれば良いかとしっちゃかメッチャかな状態だ。
シンがなんとか作戦を練ろうとしていると、それを知ってか知らずか、隣の女性は相手に向かい話しかけ始めた。
「おやおや、見た目は女性に見えますが・・・なるほど上手に整形なさいましたね、お見事です。ですが、声がどうしても太いのでそこを改善されてみては?そうすれば需要があると思われますよ?」
シンは「おい!挑発するなバカ野郎!」と口には出さないが、目で不満をぶつけた。しかし、ナナミはお構いなしに話を進める。
「貴方が噂の『孤高の魔女』だとお見受けいたしますが、お間違いありませんか?」
孤高の魔女と噂されている女性?は、顔をシンやナナミに良く見えるようにし帽子を取り丁寧にあいさつをしてきた。
「この私を見ても驚かず、恐れもせずに質問して来るとは。いいでだろう、答えてあげよう・・・私は噂にされている『孤高の魔女』で違いが無いが・・・どうも誤解されているようでな。我は、かの英雄ではない。我が名は シャバク・セイル と言う。さて?ご要望にお応えしたのだ、そちらも答えてもらおうか?我が爆炎の魔法をいとも容易く防ぎ、さらに8人同時の高度な転移魔法を使った魔法使いさん?」
身震いする、そんな感覚は久しくシンは感じていなかった。しかし、シャバクと名乗った者が言葉を発するごとに高まる殺気に気圧され、警告音が身体の震えとして出てきた。
想像も出来ない力の重圧を受け続け意識が飛びそうになった時、そっと・・・背中を誰かに支えられた。自分を支えるにはあまりにも細過ぎる腕が、力強い大樹の枝のように思えるほどしっかりとシンを支えている。そして、支えられてから不思議と身体の震えが収まり安心感が戻ってきた。
彼女はシンが冷静に戻ったのを確認すると、支えていた手を放し、シャバクの質問へ答える。
「失礼、ご丁寧に名乗っていただきありがとうございます。私の名前はナナミ、生憎と姓はありません。ただの流浪の旅人でございます。それと、私はまだまだ魔法使いとしては未熟でございます、そんな私の魔法をお褒めいただき感謝いたします。」
シャバクは顔を大きく歪ませ不愉快感を露にする。
「ほう!ほうほうほう!!あれが、あの魔法が未熟と申すか?!嫌味にしか聞こえんな!それでは防がれてしまった我が魔法は余程未熟だとでも言いたいのか!!」
怒りを隠すこともせず、ナナミに対して攻撃的な視線を向ける。
それを見たシンは小声でナナミにダメ出しを言う。
「(おい!何言ってんだ、逆上させてどうする!)」
「(すみません、全然嫌味とかそんなんじゃなくてですね?思ったことをそのまま言っただけで。)」
・・・そう、ナナミはコミュ障なのだ。相手の感情を逆なでしているわけでは無い、むしろ一生懸命考えているのだ。
そんなナナミの気持ちなど知らないシンは、最悪な状況になってしまった事に焦りを感じ始める。
しかし、無情にも・・・そう思った時には既に状況は進んでいた。
「もうよい、面白い奴だと思ったがさっさと終わらせよう。ナナミと言ったな、お前は普通の冒険者とは比べ程にならんほど魔力を保有しているようだ、これは良い『肥料』となるだろう。我が偉大な実験の成果になれるのだ、感謝しながら死なせてやろう。それが我を侮辱した罪滅ぼしになる。」
「ナナミ!お前は転移できるか?!出来るならさっさと行け!俺が時間を稼ぐ!」
シャバクは不敵に笑い始め魔力があたりに満ちてくる、シンは何とか彼女だけでも助けなければと行動を開始しようとした時だ。
シンは隣に居たはずの彼女が居ない事に気が付く、それとほぼ同時にシャバクの不敵な笑いが止まった。
そして、そよ風のように流れる優しく響く声が、シャバクの懐から聞こえてきた。
「その『肥料』とやらの事、詳しく教えてもらいましょうか。」
「は?」 「は?」
この時シンはシャバクと声が被ったことに対して嫌悪感を感じたが、それよりも驚きの気持ちの方が強かった。
何も特別な事はしていない、以前も言ったが僕は強力な身体強化を掛けて飛びついてるだけだ、この状態でもし『縮地』等が使えたらイーセア世界一周を、あっという間に出来てしまうだろう。
話をして穏便に済ませるつもりだったのに、どうやら怒らせてしまったようだ。行き過ぎた謙虚は嫌味にもなる・・・今後は注意しよう。でも、だからってあそこまで怒らなくても・・・。
まあ、こうなってしまっては仕方がない、どうせ捕まえるのだ手加減なんかして上げない。こいつは多くの人を殺めている、慈悲なんかやらないよ?ただ、終わらせる前に『魔鉱石刻まれた術式』と『肥料』についてはきっちり聞かなきゃね。
「なぁ!!貴様、魔法使いではないのか?!」
驚愕に響くシャバクの声。
「おや?魔法使いと魔術師には接近戦ですら基本ですよ?」
そうなんでも無いような言い方をしながら、右手でシャバクの腹に掌底打ちをする。
掌底打ちにした理由は、身体強化した状態でグーで殴ったり、指先を真っ直ぐにして打ち抜く貫手突きしたりすると。思いっきり相手が破裂したり、身体を突き抜いたりするからである。
今は相手を生かしたいので、痛みを与えにくく、相手の腹筋辺りであれば効果が低いと思ったのでこれを選択した。
言っておくけど僕自身は完全に我流だ、流派とか所属してないし教えてもらったことも無い。何ならライトノベル小説の知識位だが、それも良く覚えてない。元居た世界でも特にそう言うのはやってないから、本当に実践で経験した格闘モドキでしかない。
そんな僕が打ち出した掌底打ちは、見事シャバクの腹を捉える。
しかし、想像以上にヤバイ音がした・・・。鈍く何かが千切れる音と、太くて堅い古木をへし折った様な響く音。そして、吹っ飛ぶとは思わなかったので、離れた所にある森の木々をなぎ倒す音。
あれ?・・・普通は相手が防御魔法で身体を覆っているから・・・これでも蹲る位の強さに調整したつもりなんだけど・・・。
そして、僕は思い出した・・・魔王戦争時の冒険者や兵隊の強さは異常だったと言うことを。
僕はなるべく清々しい表情を作りながらシンの方を見る。シンは口を開けたまま動かない。
「・・・死んじゃいましたかね?」
「・・・・・・清々しい顔で言うことじゃね!!!!!」
一拍置いてツッコミを入れてきたシンは流石だと僕は思う。
「そ、そうですよね!ま、まさかこんなことになるとは思っていなくてですね?いやー!相手が油断してくれてたのですね、助かりました!ほらこう見えて私力あるんですよ!」
シンは僕の言い訳に聞く耳を持っていないようで、そんな事より気持ちの整理だと言わんばかりに空を見ている。
そして、シンは何か決意した顔で僕にと書けた。
「ナナミ、もう隠し通せない。俺もさっきの転移の件だけなら噂の火消し位手伝ってやれるが、これ以上は無理だ。この状況で、俺は虚偽の報告なんか出来ない。そうなればどうやっても秘密は露見する。悪いが力になれん、何より・・・俺自身がアンタが何者なのか一番知りたくなっている。」
シンの表情は「アンタは何なんだ」と、問いかけてきているようだった。
こうなっては隠し通せるか分からない、ん~困ったな・・・。
そんな風に僕が悩んでいると、シンと僕は近くで覚えのある魔力を感知する。そして街の方から少数だが騎乗型魔道人形の気配を感知した。
「これは・・・魔道人形か?」
「ええ、たぶん・・・私が一番会いたくない方々がやってきます。」
シンが僕の言葉に反応して、「それはどうゆう意味だ」と言葉にしたところで転移魔法の主が現れる。
もちろん、この魔法の感覚は良く知っている、ようやく旅仲間になれた彼女だ。
「ナナミ!無事ですの!?」
クリスティーナは転移が完了した瞬間、ナナミに目をやり飛びついて来た。強めに抱きしめられる僕は心配してくれるクリスの温かさがくすぐったく感じる。
一通り抱きしめた後、すぐに身だしなみを整える。僕はその光景が不思議に見えた・・・そしてもう一つ、変装の髪染めをしていない。
「クリス・・・?その、変装は?」
クリスが気付いたのか、ハッとして慌てて頭を手で隠す。
しょぼくれた表情で恐る恐る僕の顔色を窺う。
「そのですわね・・・ナナミは怒るかもしれませんが。事情がありまして。」
「それについては自分が説明しよう。久しいなナナミ殿。」
声を聞いて僕は驚いた、クリスの後ろにはなんと戦士団団長ゴーリラ・・・その人が立っていた。
僕だけじゃない、シンも驚いている。どうしていつの間にと思っていると、クリスが「私が一緒に転移で連れて来ましたわ」と教えてくれる。
え?・・・どういうこと?なんで一緒なの?
困惑している僕に、ゴーリラ戦士団長からここまでの話を聞くことにした。
時刻はナナミ達が戦闘を開始する前、時間にすればおおよそ「11の刻」位まで戻る。
キリーがギルドマスターをする冒険者ギルドでは、朝に報告されたことと今後の対策のための仕事で職員は忙しく職場内を奔走していた。
そんなはたから見れば活気のあるように見えるギルドに、国の最高戦力である戦士団のツートップが姿を現した。
「だいぶ賑わっている・・・いや何かあったのか?」
戦士団団長ゴーリラは、ギルドに入ってすぐにそう言った。
その言葉を聞き、副団長のライーオは辺りを一瞥し状況を探ろうとしている。
「団長、先日の件もありますが。これはおそらく新たに問題が発生したのではないでしょうか、職員の顔にはかなりの疲労があるように見えます。」
ライーオの言う通り、ここ連日様々な処理を行っている職員の多くは目の下にクマを作り、食事もまともに取れていないような者も見て取れる。本来業務以外の事までさせられている為だろうか、休む暇すらないようだ。
そんな中、ゴーリラ達が来たことに気が付いたギルド職員が声を掛けれ来る。この者は先日森の事件現場にも居た職員だ、顔色は悪くないが精神的に疲れが出ているように見て取れる。
「お待ちしてました、ギルドマスターの部屋へご案内します。」
「ああ、忙しくしている所に申し訳ない。・・・しかし、国内では一番忙しいと聞く王都の冒険者ギルドと比べても、ここのギルドはさらに忙しいように見受けれるが、皆休みは取れているのか?」
女王の国でも最も忙しいと言われている冒険者ギルドは、もちろん王都にあるギルドと言われているのだが。今、ゴーリラの目に映る光景は、それ以上に忙しく働いているように見える。
素直な感想を言って疑問をぶつけてみたのだが、職員はそれについては答えてくれない。ただ首を横に振り「ギルドマスターから聞いて下さい」と言われただけだった。
ゴーリラとライーオはそれ以上は喋らず、黙って案内の後に付いて行った。
長い階段を上り、職員に案内されてギルドマスターの部屋に通された彼等は、お客様用のソファーに腰掛け執務で忙しそうにしていたギルドマスターのキリーと対面していた。
「わざわざお越しいただいたのに立て込んでいてお待たせしてしまいました、申し訳ございません。」
笑顔を見せているが、作りものだとすぐに分かる表情で話しかけてくるキリー。ライーオはそんな彼を見て「大丈夫なのか?」と不安を感じてしまう。
そんなライーオの気持ちに気が付いたのか、キリーは苦い顔をしながら語り出した。
「いろいろありましてね、今日丁度今さっきようやく手掛かりを見つけ出したんですよ。相手のしっぽがようやく見え始めたので忙しくなり始めたのです。あ、大規模作戦の方は安心して下さい、多くの冒険者はしっかり確保しております。お恥ずかしい話ですが、一部の物は『孤高の魔女』騒ぎで逃げ出しましたが・・・残っている者でもかなりの人数が居ますから問題ありません。」
キリーの言葉を聞き、ライーオは疑問に思っている事を言葉にする。
「そうなのですか・・・しかし分かりませんね。連続殺人の容疑者の捜査をなぜ冒険者ギルドが担っているのですか?どう考えてもこれは街の兵が調査するべき事案です。しかも、団長が聞いてきた話では既に13人の犠牲が出ています。そのほとんどが冒険者だからと言っても、あなた方が請け負う度合いを越えている。・・・まあ、個人的に、あるいわ冒険者ギルドの矜持でそうしているなら何も言えませんが。本来であれば、ここまで大きくなっている事象をなぜ国に報告していないのかと言うことです。」
ライーオの言葉にキリーは真顔になって黙る。
長い沈黙だ、ゴーリラもライーオも眉を顰め、なぜ何も言わないのかと疑問に思い始めた時、彼は真顔のまま答えた。
「報告は居れましたよ、街にも・・・国にもね。そして、何もしてくれなかった。」
ライーオは流石に驚いた、「バカな!」と叫び立ち上がる程。続けてまくし立てようとした所をゴーリラに止められた。
ゴーリラはキリーの方へ向き直り、彼に向かって頭を下げた。
「申し訳ないキリー殿、知らなかったとは言え貴方にかなりの負担を掛けてしまった。必要であればここの職員の全員に謝罪する。どうか許してほしい。」
突然謝罪してきたゴーリラに対してキリーは驚いてしまった、ライーオはそれどころではない。戦士団のトップである戦士団団長がこうも簡単に頭を下げられては困る。しかもどこに責任があるかも判明していないのに団長自ら謝罪するなどありえない。
「ゴーリラ戦士団長!何をなさっているのですか!まだ何も分かっていないのですよ!こちらに本当に責任があるかどうかも分からないのに!」
ライーオが叫ぶように・・・いや叫んでいるが、未だに頭を上げない団長に向かい強い口調で言葉を続けようとするが、ゴーリラがそれを遮る。
「ライーオ副団長、我々は国を守り民を守るのが使命だ。だが、我々には限界はある。手が届かない所もあるだろう。本来であればそれを補うのが街の兵であり、この街の貴族と領主の責任だ。しかし、このような目の前の事ですら放置している・・・おそらく国への報告も怠っているのだろう。そう言う愚鈍で傲慢な奴等を制裁するのも我々の仕事であり責務だ。・・・責任ならある、十分にな。」
ゴーリラの言葉にライーオは押し黙るが、言いたい事があるのだろう拳を強く握り堪えている。
キリーはその様子をジッと見ていた。今もまだ頭を下げている戦士団団長殿、それを納得していない顔つきで見下ろす副団長殿。とりあえず、この気まずい空気を変えるためキリーは得意の作戦に出ることにする。
「ゴーリラ戦士団長殿、それにライーオ副団長殿も一度冷静になりましょう。そうだ!美味しい紅茶があるんですよ、今準備します。それと謝罪はいりません、これからどうするか考えていきましょう。と言うか、俺的には貴方方に話が出来るってだけでも大助かりなんですから。」
いつもの喋り方よりは丁寧な言葉を選んではいるが、だいぶ気楽な感じに話し始める。喋りながら客人には必ず出す特製の紅茶を準備し始めた。紅茶の香りが上がり始めた頃、ライーオはその香りを敏感に嗅ぎ分ける。
「む!その香りはまさか!!」
「おっ?!まさかご存じで。」
「ああ、この香りは・・・間違いない!『苦いリンゴ』ですね。あ!皆まで言わないでください、ぜひゴーリラ団長にも飲んで頂きたい・・・少しは頭が冷えるでしょう。あ、私には少し渋めに入れてもらえますか?濃厚な甘みが欲しい気分なので。」
キリーの目は爛々と輝きだした、「同志!」と叫びたい気持ちで一杯だった。
意外や意外、まさかライーオも愛用者だったのだ。しかも渋めの好みと来た。ただ空気の変化と普及目的で貴族の人達にも飲んでもらおうと準備したのが、まさかの展開になった。
その後、いつものように反応を楽しむだけの時間になる予定だったのだが、この日は愛好家であるライーオと語り合うひと時となった。楽しそうに語り合う二人の脇では、ゴーリラが密かに苦しんで涙目になっているのだが・・・二人の目には入らなかった。
紅茶のおかげで空気も変わり、特にライーオとキリーの仲が一気に縮まった。『苦いリンゴ』を好きな奴に悪い奴はいないみたいな一般常識ではないが、それに近い何かがお互いにあったのだろう。
そこからは話が早く、詳しい事の流れをキリーは説明した。事件の起こった時期や街の兵に報告した時の状況、領主に報告したことの詳細や国の役人への嘆願上の控えなど、時より資料や自分達で調べ上げたことなども含めながら話した。もちろん、今日の朝受けた魔鉱石の話やその可能性、魔物の大量発生などへのキリー個人の仮説なども含めて、今わかる全てのことを話した。
もともと予定していた大規模作戦の事は既に予定通りに進んでいるので、そちらの事は後回しにして現在の問題となっている事を話し合っていた。
「では、戦士団の方で殺人犯の方を担当してくれると言うことで良いでしょうか?」
キリーは安堵した表情で今までのまとめに入る。今一番大変な所を戦士団が変わってくれると言う結果になりホッとしたようだ。
「ええ、それでかまいません。団長もいいですね?ですが、魔鉱石の術式に関してはミームさんでしたか?彼女に引き続きお願いしたい。お恥ずかしい話ですが、我々は戦闘に関しては得意だが魔法の知識には疎く・・・手を貸してもらわなければなりません。」
ライーオは一度ゴーリラに確認をしてから話を進めている。ほとんどはライーオが話を決めているような状態だが、ゴーリラはライーオを信頼している為任せきっている。・・・自分がこういうのが苦手なので、余計な事をしないようにしているだけなのだが。
「こちらとしてもそのつもりでした、魔法使いや魔術師は一度研究を始めるとなかなか止めようとしませんから、それと実際の現場での捜査ですが・・・そちらは人数が少ないと思うので、こちらが既に動かしている人材はそのまま使ってください。Cランクパーティーの『ハートエッジ』です、彼等は既に俺より多く情報を持ってます。力にはなるはずです・・・報酬は頂きますがね。」
キリーは最後の部分だけは軽く肩をひそめる。ゴーリラは苦笑して「自分が出しますから」と言っていた。その発言にライーオは頭を抱えて唸る、どうもこの人は自分を犠牲にしたがる。良き行動ではあるのだが、戦士団としてのイメージが問われてくるのでもう少し考えて欲しい所だろう。
「はぁー、まぁ・・・報酬については後でお話を。それで今までの事務処理を行っていた引継ぎについてですが、王都の方からも専属の人員を早急に応援に来させます。ここの街の役人に対する監査も同時にさせる予定です、貴方方の資料は証拠になる。お預かりしてもよろしいですか?」
この街の兵と役人、さらには街を管理している上層部自体が信用できないため、急ではあるが王都から専属の者達を呼ぶことにしたキリー。すでに懐から魔道具を取り出してそれに何か書き始めている、現代で言う所の「メール」みたいなものだろうか。短文だが、文字を専用の魔道具で送信できる、受信は出来ないみたいで専用の受け機へ送るだけだ。
送った文章は「緊急事態 監査部の派遣を要請」とだけ送ったみたいだ。送信された瞬間、一瞬魔道具が輝くと文字が消えてなくなった。
「これで魔道人形の特急で来ますので、早ければ明日の夜。遅くても明後日の朝にはここに到着するはずです。・・・女王陛下の事です、もしかしたら高度な転移魔法の使い手で即日に送ってくるかもしれませんが・・・今その方は旅をしているのでありえませんね。とにかく、来るまでの間は、我々戦士団の面々で処理を行います。ギルド内に立ち入ってもよろしいですか?本来であれば、我々が踏み込むことなどほとんどないのですが・・・。」
一瞬ゴーリラが暗い顔をするが、すぐに直す。王城で最も優れているのは何を隠そうクリスティーナ王女以外に居ない。居るはずが無いものを頼るわけにもいかないので、どう頑張っても魔道人形だろう。
そうなると、空いている時間が惜しくなる。本来であれば冒険者ギルドの内部に関わるようなことはしないのだが、現状ここのギルドは半分街の自治を担ってしまっている為、処理がややこしいことになってしまっている。
初めから街の上層部や役人がしっかりと担当していれば踏み込むことは無かったのだが、冒険者ギルドを自分らの良いような駒に利用し、全て押し付けてしまっていたので、引継ぎが完了するまではどうしても入らなければならない。
「構いません、むしろ手間お掛けさせている分、俺等は協力を惜しみませんよ。これで少しでも休める職員が多くなれば、効率も良くなりますからね。・・・本当は俺がもっとしっかりしてれば、こんなことにもならなかった。」
安堵の為か少し本音を漏らしたキリー、苦笑しつつも情けない自分を責めているようだった。ギルドマスターとしての責任と言う重さを今回の件で改めて感じたようだ。
「ここ最近は気の休まる時が無くてな、うまく行かねーし・・・兵は何もしない、領主には言われたい放題・・・貴族に至っては無理難題を押し付けて来やがった!でも、そんな状態でもほかの奴等を不安にさせちゃあ駄目だからな、いろいろ隠すのが大変だった。だが昨日は久々に運が回ってきたと思う事があってな、それからはトントン拍子だ。正直、ここまで上手く行くとは思わなかった。」
キリーはすっかり素に戻っていた。口調はいつも通りで敬語ですらない、むしろ溜まっていた物をただ単に独り言のように言っているだけだ。
「戦士団の方々、感謝する。それと俺からの頼みだ、どうか仕事してる奴等を休ませてやってくれ。俺はいくらでも頑張れるが、あいつらはそうじゃない。ここ数日家族に会えてない奴まで居るんだ、頼む!」
キリーは頭を深く下げ懇願した。どうしようもなかった現状がようやく変えられる、あの女と王女様が来てから大きく事態は動いた。面倒だと思ってた奴等が状況を変えられるくらいの幸運を呼んで来たように思える。
正直、戦士団がここまで手を貸してくれるとは思ってもみなかった。精々話を聞いて調査の手伝いだけ位だと想像していたが、それ以上に事態の全てを肩代わりしてくれた。それが戦士団の仕事だったとしても、何もしてくれなかった奴等ばかり相手にしていたので期待していなかった。
キリーはようやく心から安堵できた。
「我々は当たり前のことをするだけだ、そして約束する。君も含め全員に休みを与える、ゆっくり休んでくれ。そしてもう一つ約束する、この街のクズ共を根絶やしにすることを。」
ゴーリラが強い意志を持ってキリーへと答えた。
その返事を待っていたとばかりに豪快に扉を開き中に入ってきた人物が居た。
「よく言いましたわ!戦士団団長ゴーリラ!そうでなければ女王の国最強の戦士は名乗れません!」
ノックもせずに入ってきたのは冒険者の恰好・・・では無く。
女王の国の王女として、公務の時に着る服を身にまとった クリスティーナ王女だった。しかも一人ではない、御供らしい人をかなりの数引き連れている。
よくよくクリスティーナを見て見ると、小さくだが息を切らして汗をかいている。息切れを隠そうとしているようだ。
それもそのはず、彼女は一度王都へ一人で転移し母であるユスティーナ女王へこの街の現状御報告をしていた。その最中、ライーオから緊急の連絡が入り事態を重く見た女王がクリスティーナに命を出し、自分が出来る最大の人数を連れて転移してきたのだ。
まさにタイミングが良かったとはこの事だろう、これ以上の無い条件が揃って居たのだ。偶然ではあるがそれをやってのけたクリスティーナ王女は、付いて来ていた人から魔力回復薬を貰い一気飲みしている。
「さっ!ライーオ、仕事へ掛かりなさい!この者達の後、私はもう一度戻り残りの者をを連れてまいりますわ!監査官も連れて来ております、そちらには急ぎ資料を渡してください。」
テキパキと指示を出して行くクリスティーナ王女、それを見ていたキリーは「おいおい、これがあの王女様か?」と出会った印象が違いすぎて反応すら出来ないでいる。
ライーオは流石は戦士、一瞬驚いたもののすぐに把握して行動を開始する。王女には「魔力の心配がありますからゆっくりお休みください」と一声かけ来た者達を連れて部屋から出ていく。
「キリー殿、急で申し訳ないが予定が変わった。とりあえず今は休んでいてくれ、あっ、なんならクリスティーナ王女様を見てて欲しい。無理に転移なさるようなら止めてくれ。それから・・・団長?暴走はしないでくださいね。」
そう言い残し足早に出て行った。
キリーは腰掛けていたソファーにより深く身体を沈める。張りつめた糸が切れてしまったようだ。
「参った、何なんだよクリスティーナ王女様・・・お忍びで旅してるんじゃなかったのか?」
「・・・見れいられなかったのですわ、お母様と同じ顔をしたキリー殿が。何かしたかったのです、あの時は何も出来なかった。でも、今は違いますわ。・・・少しはお役に立てたでしょう?」
はにかむ笑顔がやけに眩しい、キリーは立ち上がりクリスの前で紳士の礼を取る。
「お心遣いに感謝します。クリスティーナ王女。」
「まぁ、キリー殿らしくなくて面白いですわ。」
お互い笑いあっていると、その間に立ちはだかる大きな壁が突然現れる。言わずもがなゴーリラだ、彼は面白くない顔をしてクリスティーナの前に立つ。
「・・・退いてくれませんこと?今はキリー殿と話していますの。」
がっつり睨んでくるクリスティーナに怖気づいてしまうゴーリラだが、しかし簡単には引かない。
ゴーリラからしてみれば思い人がこんなタイミングで現れたのだ、普段から心配したり色々思うところもある。しかし、会った時には必ず言おうと決めていたことがある。
「クリス・・・その、すまなかった。君の気持ちを蔑ろにしてしまって・・・。」
ゴーリラはあの時の事も含め謝罪した。許してくれるだろうかと不安になる。
しかしクリスティーナはゴーリラの気持ちなど無視して、今この場の話を進めていく。
「何についての謝罪なのか良く分かりませんわ。それに、この場で言われても何も感じません。今はこの街の現状回復を優先させる時です、良く考えてくださいませ戦士団団長ゴーリラ『殿』」
最後の一言はゴーリラにクリティカルなダメージを与えた。彼は立ち尽くしたまま身体から魂が抜けていき呆然とするのだった。
そんな様子を後ろから見ていたキリーは、なんとも可哀そうと言うか・・・あまりにひどい仕打ちを受けたゴーリラを優しい目で見守っていた。そして思う「復活するのか?」相当のダメージを受けている彼は立ち直れるのか心配になってきた。
「しかし、そこまでなのかい?誠実な男だぜ団長様は・・・。」
キリーはなんとかフォローしようと試みたが。
「・・・最高の場面をぶち壊して、女の努力を無駄にさせましたわ。」
「ゴフ!」と言って団長ゴーリラは床に倒れた。まだまだ根に持っているようだ、キリーもお手上げだと言わんばかりに両手を上げて首を横に振る。キリー的には面白いものが見れているので大変結構なんだが、そんな穏やかな時間は長く続かなかった。
外から誰かが足音を大きく上げながらドカドカと扉を壊さんばかりの勢いで入ってくる。見ればその者は冒険者で、確かボアウルフの依頼を受けていた二つのパーティーのうち片方のリーダーだ。血相を変えて入ってきたことから、前日の事をキリーとクリスティーナは思い出し鼓動が早くなる。
「ギルマス!出た!奴だ!!森の入り口で、後ろから襲ってきやがった!」
唾が飛ぶ勢いで叫ぶリーダー、彼は余程恐ろしい物を見たのか震えが止まっていない。あまりの剣幕に気絶していたゴーリラもいつの間にか復活しており、聞き漏らさないよう話をしっかり聞いている。
「何人やられた・・・。」
キリーは険しい顔のまま落ち着かせるようにゆっくり話しかける、ゆっくり彼に近づき肩に手を乗せ呼吸を整えさせる。
触れて分かったことがある、彼は想像できないほど冷たくなっている、にもかかわらず汗が止めどなくあふれている。きっと仲間が殺される様を目に焼き付かされたんだろう、キリーは表情を硬くし覚悟して聞く。
「はぁ・・・はぁ・・・やられてねー。助けられた、森を飲み込む位の・・・大きな爆炎の魔法を・・・簡単に防ぎやがった・・・。挙句、そんな防御魔法を掛けたまま・・・俺等八人全員を・・・一瞬でここまで転移させやがった・・・。あの女・・・ただもんじゃねー。」
ゴーリラとキリーは想像と違う話を聞かされい理解できないでいた、仲間がなぶり殺しにされたとかそう言う訳では無い。むしろ助けてくれたその女を怖がっているように聞き取れる。
ゴーリラはどういう訳か分からないまま、考えているようだったが。クリスティーナは直ぐに理解した。
「・・・ナナミですわ。」
キリーも合点がいったと顔を上げ、冒険者にもう一度訪ねる。
「おい!その女、ここにお前ら飛ばす前何と言ってた!」
「え・・・それが、驚きのあまり良く聞こえてなくてな、『向こうに着いたら・・・報告』とか。」
実に曖昧な返答だったがキリーは直ぐに理解した。
素早く自分の執務机に移動して魔道具を使い館内全域に声を拡声させる。
「緊急!緊急!大森林山入り口にて『孤高の魔女』出現!現在冒険者が戦闘中!手の空いてるものは全員出ろ!」
そう響き渡ると各階層が慌しく動き始める。
下の方では冒険者達が我先にと支度を済ませ飛び出そうとしていた、職員達も道具やらなんやらをかき集め準備に奔走している。
声を拡声させたキリーも愛用しているハルバードを持ち出し足早に出て行こうとする。
「待たれよ!このままでは統制が取れない!それに、先行し過ぎても取り損なうぞ!」
「悪いがこればかりは冒険者の性分だ、そしてこれ以上ない好機。流れが来てるんだ、止まるわけにはいかねーよ!」
ゴーリラの制止を振り切り、飛び出したキリーだったが。再び館内に大きく響き渡る声で歩みを止める。その声は我先にと準備していた冒険者達の手すらも止めてしまうほどの力があった。
「皆さん!落ち着いて下さいませ!私はクリスティーナ・ベルク、女王の国の第一王女です。」
先ほどの騒ぎはこの一言で嘘のように静かになった。
一部は「本物か?」みたいなことを言っている冒険者も居るが、初日に彼女の姿を看破している者達から睨まれて大人しくなる。むしろ、初日に盛大に騒いだおかげで信じてくれる人が多かったのだ。
「皆さん慌てる必要はございません、私と私の最も信頼している戦士団が今この場に下ります。まずは先行して我々が向かいます。何より、『孤高の魔女』と対峙しているのはおそらく・・・ここに居る誰よりも強いお方ですわ。ですから、皆さんはここで吉報をお待ちになってくださいませ。」
言い終わる頃、冒険者達はにわかに騒ぎ始める。戦士団が居る事に驚く者も居れば、『誰よりも強い』と言う言葉に反応する者。そして、その者が誰の事を指しているのかひっそりと理解する者。
しかし、この宣言のおかげで錯乱した状況は沈静化し、落ち着きを取り戻した。
「・・・すまねーな、頭に血が上り過ぎて余計な事しちまった。」
キリーは己がしたことの失態と反省を込めてクリスに謝罪をする。確かに慌て過ぎて混乱を生むだけの事態にしてしまったのでギルドマスターとしては失策だった。
そんなキリーに対してクリスティーナはさも気にしないと言わんばかりの態度で「一人で抱え込むからですわ」と笑って見せた。その笑顔のままゴーリラに向き共に行動するよう王女として命令する。
「戦士団団長ゴーリラに命じます。私と共に現場に急行しますが・・・その前にお話ししなければならない機密がありますわ。この機密は他言無用です。ライーオには今すぐ全員を集めて騎乗型魔道人形で向かうよう指示してきないませ。」
「はっ!」
ゴーリラは落ち込んでた事が嘘のように行動を始めた。
「・・・また、ナナミに迷惑を掛けてしまいますわね。」
キリーには聞こえない小さなつぶやきでクリスティーナはゴーリラの後を追う。さりげなくキリーはクリスティーナ王女を護衛できる立ち位置に移動する。一人で行動させるわけにはいかないとハルバードを握り前に出る。
「短い時間ですが、お願いしますわね。」
「光栄です。クリスティーナ王女。・・・冒険者に戻ったらこき使ってやるから覚悟しろよ?」
「あらあら、それはそれで面白そうですわね。」
軽口を叩けるまでに回復したキリーと、覚悟の表情をやわらげ一時的に冒険者のクリスに戻ったクリスティーナは笑い合いながら歩き出した。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
なんだか話が進んでないように思えるので不安になります、面白くて長いなら楽しめるし良いのですが・・・それは僕にはまだまだ先の話でしょう、出来るかも怪しいです。面白おかしく書けるようにもなりたいですね。